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彼氏が歩けば職質に当たる  作者: 紅井こい
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第一話 私の彼氏は極悪面!?

 私の彼氏は、犯罪者顔だ。

 彼女である自分が言うのもなんだけど、とにかく人相が悪い。



 眼光鋭い細い切れ長の目はいつだって何か獲物を狙っていそうだし、ひょろりとしている身体は電信柱の陰によく似合っている。

 好んで着る黒い服は闇夜に紛れそうだし、夜中にふいに彼の顔を見ると思わず叫びたくなる。

 実際、彼は深夜に出かけることが度々ある。

 さらにボソボソと小さな声は何を言っているのか聞き取りにくいし、視力が悪いため、人と話すときにただでさえ細い目をさらに細めるクセがある。


 とにかく見た目は怖い。


 そんな彼氏だけど、本当はただ目の細い、軟弱で気弱な、目立つことが苦手という理由で黒い服を着ているだけの善良な一市民だということは私しか知らない。


 税金だってちゃんと納めているし、交通法規だって守る。


 道を歩いている猫を見かけた日には、「にゃーにゃー(おいで……)」と鳴いて会話を試みたりなんかもする(そして脱兎のごとく逃げられる。猫なのに)。


 本当に、どこでにもいるただのにいちゃんなのだ。



 そんな猫好きな彼氏から今日も、こんな電話がかかってきた。



「今、ショクシツをうけてるんだけど……」



 ショクシツ……耳慣れない言葉とお思いの方もいるだろう。

 決して職員室の略ではない。


 ショクシツ……職質である。テレビのワイドショーやニュースでは時々耳にするアレだ。耳にはするけれど、それが何であるのかすぐにピンとくる人は少ないと思う。

 かくいう私もこの彼氏と付き合うまではそれがどんなものなのかちっとも分かっていなかった。



 職質――職務質問の略。日本の警察官の職務上、犯罪を犯しうる可能性が相当にある者に対して、呼び止めるなどして質問を行う、必要最小限に用いられる行為である。 第二次世界大戦前の日本では不審尋問といわれた。



 確かに時々、道ばたで警察官から話を聞かれている人を見ることもあったけれど、女性が職質をうけることはほとんどなく、どんなものかよくは分かっていなかった。

 何だか警察官がたくさん集まっているけど、あの人何かやったのかなあ? 何かの事件の犯人? 大変そうだなあ……くらいにしか思っていなかった。

 男の人も、普通に生活している限りはまず受けることはないだろう。

 遭遇率としては、京都市内で四つ葉タクシーに遭遇するくらいの確率のはずだ。



 まあつまり、善良な一市民には縁もゆかりもないレアイベントである。



 ……本来、ならば。



 ゆえに彼氏から職質を受けているという連絡がくれば、

「え、大丈夫!? どうした、何があったの!?」

 普通の彼女ならこういう反応をするのが自然だろう。

 だけど私は、携帯電話を握りしめて――即座にこう返した。



「またか!!」


次回:職質にひっかかった彼氏の戦いが始まる!

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