FOAD-1762:使用龍グウ #3
#2を大幅に改稿しました
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「そう、なら必要な処置を取らなくちゃね」
この世界に残るという私の意志を聞いた猫はそう呟く。必要な処置とは一体何なのだろうか。
「力ずくで連れ出そうとしても無駄です。私は絶対に元の世界へは帰りません」
「あらあら、アタシはアナタをいじめに来たんじゃないわ。アナタが帰らないというなら、少しお話をするだけよ」
猫に実力行使をする意志は無いようだ。もし魔法を使うような派手な闘いをしなければならなかったら、私は少なくともこの街にいることはできなかっただろう。
「それで、話というのは?」
未だ不安が拭いきれない私の代わりに主人が尋ねる。
「そうね、今日は『FOAD-1762』……あー、この呼び方あまり好きじゃないのよねえ。グウちゃんだったかしら?アナタの処遇についてのお話しに来たんだけれど、その前にアタシ達財団についてお話したほうがいいかしら?」
私の事を馴れ馴れしくちゃん付けで呼んだ猫は自分が所属する財団について話し始める。
「アタシ達A.E.M.財団はFallen Object from Another Dimension――つまり、あなたのようなこの次元には本来存在するはずのない異常存在を管理するのが目的なの」
「異常存在の管理?」
主人が尋ねる。
「そうよ。異常存在――アタシ達はFOADって呼んでるけど。具体的にはFOADの探知と、発見したFOADをお家に帰したり、アタシ達の所に来てもらったり、終了したりしているわ。場合によっては他の措置をとることもあるけどね」
終了という言葉が具体的に何を指すのかは理解できなかったが、なんとなくどういう意味かは察することが出来た。
「それで……あなたの提案を断った私を終了するつもりなのですか?」
「まさか。あなたはFOADの中でもとっても安全な部類なのよ。とーっても、ね。FOADは大抵ろくでもないものばかりだからねえ。だからグウちゃん、あなたはこれまで通り過ごしてくれればいいわ」
その言葉を聞いて私は安堵した。もし送還や終了、或いは別の措置を取られていたら私は今の居場所を失う事になっていたかもしれないが、どうやらそれは回避されたみたいだ。
「ふふ、その様子だとよっぽどよくないことを考えてたみたいね」
緊張から開放された私の様子を見て猫がからかう。
「うるさいですね。でも、管理すると言うからにはただ今まで通り過ごせばいいという訳にはいかないのでしょう?」
「そうね、この次元の人類史に影響が出るようなことさえしなければいいわ。それさえ守ってくれれば後は好きにしてちょうだい。何も難しいことはないでしょう?アナタ達なら今までと同じように生活していればいいだけのことよ」
「それって、どういうことですか?」
「具体的には人類史に残るような殺人や破壊行為は勿論、この次元に存在しない技術の伝承やミーム汚染の禁止ってところかしらね。要はあなたが一人の人間と仮定した時に明らかに人間の能力を超える範囲での影響を与えることは全て禁止ってことね」
要するに、私にドラゴンとしてではなく、一人の人間として振る舞えということだ。それならば何の問題もない。私はこの世界で正体がバレる事の意味を知ってから必死に人間として振る舞ってきた。それをこれからも続ければいいだけの話ということだ。これまで考えてきたことは杞憂に過ぎなかったようだ。
「それと、これは聡ちゃんにも守ってもらうわよ」
「ええ、俺も?」
「なぜ聡さんも従う必要があるのですか?」
「聡ちゃん、あなたはInfluenced Objectに指定されてるわ。これはFOADの存在を認知、または能力の影響を受けている通常存在の事で、FOADと同じようにアタシ達の管理対象なのよ。確かに聡ちゃんに誰かを殺したりすることは出来ないかもしれないけど、グウちゃんに命令して誰かを殺させたり、グウちゃんから教わった事をこの次元に普及させるなんてことは不可能じゃないでしょう?」
「俺はそんなことしないよ」
「アタシもそう思うけどね。でも必ず伝える決まりになってるから一応、ね」