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怪異キーパーA.E.M.財団   作者: highbolt
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FOAD-1762:使用龍グウ #2

大幅改稿しました(2017/7/11)

pixiv版

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8220644

私の名はグウ・グリューンドラッヘ。こことは「別の場所」にいたドラゴンだ。別の場所――それは、この世界で語られるおとぎ話のような場所で、科学ではなく魔法によって築き上げられた文明が支配する場所だった。科学という概念が決して存在しなかったわけではないのだが、文明の根幹に魔法は世界の真理として居座り続けた。初めてこの世界にあるおとぎ話を耳にした時は、人間の想像力の豊かさに驚いたものだ。もっとも、実態はおとぎ話のそれとはかけ離れていて、魔法を扱うには高い教養と高度な技術、それとある程度の先天的な素質が必要で、「ちちんぷいぷい」と唱えても不思議な現象を起こすことなど出来ないのだが。

 ドラゴン――又は龍と呼ばれる「別の場所」に存在した四肢と独立した一対の翼と高度な思考能力を持つ生物の総称で、人間とともに共に文明を築き上げた種族の一つだった。かつては人間と友好的な関係を築き、互いの足りない部分を補いながら助け合って生きてきた。しかし、ある時を境にドラゴンと人間の仲は急激に悪くなり、やがて戦争となった。ついこの間まで友達だった間柄で、私達は殺し合いをしなければならなくなった。

 その原因を最後まで私が理解することはなかった。

 私は人間が好きだった。日頃から人間に変身して彼らの生活圏に潜り込み、人間達が生活する様を観察して楽しんでいたが、お互いに刃を喉元に突き立てているような関係になっても私はよく人間の生活圏に足を運んだものだ。そこで見た平穏な日々を過ごす彼らの様子は我々が敵対関係にあるということを忘れさせるには十分なほど平和なものだった。それで油断してしまったのか、私は変身魔法の一部を解き、ドラゴンとしての特徴を露わにしてしまった。どこかで人間達は私を見逃してくれるだろう……という淡い期待を抱いていたが、彼らが突き立てた刃を下ろすことは決して無かった。

 私の正体を知った人間達は問答無用で私を殺そうとしてきた。攻撃する意思がないことを示しても無駄だった。つい数秒前まで、誰かを殺すことなど一切考えてなかった人間達が襲ってくるのという事が私には理解できなかった。しかし、今にして思えば当然の事だろう。私はドラゴンであり、人間の敵であり、自分たちを殺そうとしている存在であり、仲間たちの敵である存在を見逃すことなど誰ができようか。

 傷を負いながら必死に逃げた。空を飛びながら逃げる私に人間達は的確に損傷を与えてきた。地上の生物が空を飛び回る生物に攻撃することは非常に困難なはずだ――たとえ私の体が他の生物たちと比べて大きいということを考慮しても。しかし、人間達は器用な手先から作り出した道具を用いてその問題をいともたやすく解消していた。私を瀕死に追い込むほどの傷を与える道具を創り出す人間の想像力は目をみはるものがあり、それは己の身体一つでは何も出来ない彼らが私達と対等な存在でいられることを可能にするほどだった。

 私は逃げて逃げて逃げ続けた。人間達に反撃することもせず、ただひたすら。ドラゴンを殺そうと追ってくる人間達を殺すくらい私にとっては容易いことだっただろう。しかし、私には彼らを殺す事は出来なかった。今人間達を殺してしまえば、互いに手を取り合って生きてきたあの時代に二度と我戻ることが出来ないと感じたからだ。その時は逃げるのに必死で、そこまで深く考えてたわけではないけれど。

 私はいつの間にかこの世界に来ていた。いつ、どうやって来たのかは覚えていない。逃げるのに必死で世界の壁をいつ超えたのかに気づかなかっただけなのか、世界の壁を超えた時の記憶を何処かに忘れてきてしまったのか、ということもわからない。ただ一つはっきりしているのは、逃げ延びたときには既に世界の壁を超えていたということだけだった。もっとも、それを理解するのはもう少し後のことなのだが。

 私は大きな身体を隠せそうな場所を探し、そこに傷だらけの身を隠した。いつ人間達に見つかるかわからない恐怖を抱きながら。

 傷が癒えた頃、私は食料を探しに人間の生活区域に行くために人間の姿へと変身する。しかし、その瞬間を運悪く――いや、運良くと言ったほうが良いだろうか――人間に見つかってしまった。その人間が、今の私の主人となる人間だった。


 『仕様龍グウ』、この猫は確かにそう言った。私の事を龍と呼称した上に名前まで知っている。つまり、この猫は私の正体を知っているということだ。それならば今すぐ殺すべきか?いや、無駄だろう。この猫は自分が財団に属していると言っていた。それならば私の正体はおそらくその財団に知られている事になる。もう既に私の正体は誰かに知られてしまったということだ。

 私が手に入れた安住、今まさにそれが脅かされようとしている。この財団の目的は?私をどうするつもりだ?私の正体を公表するつもりなのか?私はスコールの如く突然降り注いできた恐怖に押しつぶされそうになる。

 私はこの世界では「あり得ない存在」なのだ。この世界にはドラゴンはおろか、人間以外の知的生命体や魔法などといった不思議な力も存在しない。そしてこの世界の人間は他の生物に対する警戒心が異常に強い。山から降りてきた猿や熊などの野生生物が現れただけで大騒ぎになるこの世界で「あり得ない存在」であるドラゴンが存在するということが知れ渡ったらどうなるか――想像するのはそう難しいことではないだろう。

 「あらあら、そんなに怖がらなくていいわよ、『FOAD-1762』。アタシはアナタをいじめに来たんじゃないわよ」

 私の恐怖を感じ取った猫は私の恐怖を和らげよう呼びかける。しかし、あまり効果はなかった。当人に自覚はないらしいが、この状況は私にとって苦痛でしかない。まさに、被害者がいじめと感じたらいじめだ、と言う言葉を体現したような状態だ。しかし、まずは状況を理解しなくては。

 「それで、私たちに何の用ですか」

 「そうねえ、『FOAD-1762』。アナタ、お家に帰るつもりはないかしら?」

 「何を言っているんですか。私の家は、ここですよ」

 「そういうことじゃなくて、こことは別の軸、アナタが生まれた次元に帰るつもりはない?」

 元の世界に帰る……それはもう不可能なことだと思っていた。この世界は私が生まれた場所とは遠く離れた場所であり、そこへ繋がる道も存在しない。それに私には世界をまたぐ魔法は使えない。異世界と言うものの存在は噂として知っていた程度で、実際にそこに身を落とすまではその存在自体を疑っていた程だ。

 そして今、突如私の前に私の故郷へと続くかもしれない道標が転がってきた。普通なら、私は喜んでこの猫に協力を要請していたことだろう。しかし、私はもう人間とドラゴンがお互いに殺し合う場所となってしまったあの場所へと戻ることは出来ない。そして……。

 「私の故郷はなくなりました。だから、帰る場所などありません。……今はここが私の家です」


 

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