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怪異キーパーA.E.M.財団   作者: highbolt
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FOAD-1762:使用龍グウ #1

pixiv版

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8209878

 人間たちがガヤガヤと通りゆく商店街。ここにいると昔よく通った市場を思い出す。できるだけ人間とは関わらないほうが賢明だったのだが、好奇心に負けて市場に潜り込み、多くの人間たちが行き交う様を見て楽しんでいた。一人ひとりそれぞれが違う場所から来て、違う目的を持って、各々の帰るべき場所へと帰っていく。適当に目星をつけた人間につきまとって、その人間が市場で何をするのかをじっくり観察したこともあった。今思えば、相当危険なことをしていたと思う。

 私は主人の食事の準備のために必要な食材を買いに来ている。私が料理をするなど、少し前ならば考えもしなかったしその必要も無いと思っていたが、やってみると案外楽しいものだ。材料の分量、焼き加減、食べ合わせなどを考え、調整していく。はじめは勝手が分からず失敗ばかりで主人をよく困らせたものだが、今ではなかなか良いものが作れるようになったと自分でも思う。そういえば主人からあまり私の料理の感想を聞いたことが無かったな。私はよく出来ていると思っているのだが、実際のところはどうなのだろうか。今度主人に聞いてみよう。

 「はいいらっしゃい! 今日はどれにする?」

 肉屋の店主の威勢のいい声が響く。お世辞にも主人の稼ぎは良いとは言えず、不自由なく暮らすことは出来るがあまり贅沢もできない。前に主人を喜ばせようと高級な食材を買って怒られたことがあった。上達した料理の腕を振るい主人の勤労を労おうと思ったのだが、主人の財布を圧迫して却って負担をかけてしまった。その時は給料日も近く、あまり貯蓄もなく、買う量も抑えられたから良かったものの、もし給料日すぐにやってしまっていたら1ヶ月に必要なお金を使い切っていたことだろう。当時の私は金銭感覚に乏しく、主人の稼ぎについてもよくわからなかったため、下手したら主人を餓死させていたかもしれない……そう思うとゾッとする。

 「それじゃあ……これと、これをお願いします。あ、あとこれも」

 少ない費用でどれだけ良いものが作れるかを必死に考えながら注文をする。前に比べればよく出来るようになったものだと自分でも感心する。

 「あいよ、おまたせ!」

 注文した肉を店主から受け取り、私は早速次に買う食材のことを考え始める。

 「嬢ちゃん、最近なんだか明るくなったねえ」

 不意に、肉屋の店主が話しかけてくる。

 「そうですか? 私は……以前とあまり変わらないと思いますが」

 「いやあ、初めて会った時に比べたらだいぶ明るくなったよ。前はなんというか、やさぐれているような雰囲気だったけどねえ。やっぱり、旦那さんとのおアツい共同生活のおかげかい」

 な、何を言っているのだこのオヤジは!私にとって主人は忠を尽くすべき存在であって、決してそのような関係など築くことは出来ないのだ!

 「ですから……私は主人の使用人であって、夫婦などではありません!」


 買い物を終え帰宅する。夕食までにはまだ時間があるが、のんびりするわけにはいかない。その間にやっておくべきことはまだあるため、これからの段取りを考えながら玄関の戸を開ける。

 すると、そこには首輪をした三毛猫が座っていた。

 驚いた。何だこの猫は。私の主人の家には猫はいない……そもそもここは動物を飼ってはいけない取り決めになっているはずだ。もしかして野良猫が偶然入り込んでしまったのだろうか?いや、それは考えられない。ここは集合住宅だ。その1階ならその可能性もあり得ただろうがここは高さのある部屋だ。それに首輪もしているから野良猫ということもないだろう。それならば迷い猫だろうか?ここの住民の誰かが隠れて飼っていたのだろうか?

 私がこの猫の出処について思考を巡らせていると、猫は私の足元へてくてくと近寄り、私の足に頬ずりをした。その愛くるしい行為に私は思わず警戒を解き、猫の頬を撫でる。猫は喉をぐるぐると鳴らしながら私の手へと顔をすり寄せてくる。しばらくすると、満足したのか私から離れ、にゃあと嬉しそうな声で鳴き、家の奥へと走っていった。

 この猫が何者なのかは分からないが、猫の愛くるしい姿に心を惹かれた私はそんなことを考える気もなくなっていた。もしこの猫がこのままここにいてくれるのなら、隠れて飼うことにしよう。しかし主人は許してくれるだろうか?いや、あの姿を見れば主人だってきっと気に入ってくれるだろう。

 「ただいまー」

 男の声が玄関に響く。私の主人の声だ。

 「おかえりなさい、聡さん。どうしたんですか、まだ帰ってくるような時間じゃないですけど」

 いつもなら帰ってくるような時間ではないはずの主人の帰宅に私は違和感を感じる。

 「それがさあ、課長に今日はもう帰れって言われて……」

 「もしかして、具合でも悪いのですが?それならば大変です!今すぐ病院に……」

 「元気だよ。特に具合も悪くないし」

 「それならまさか、リストラに……」

 「うーん、そういうわけでもないみたい。とにかく、家に帰ればわかるって言われて……」

 主人はいまいち何が起きているのかわからない様子だった。考えてみれば、会社での信頼も厚い主人がリストラされるなど考えにくい事だ。以前、主人の会社にこっそり忍び込んだことがある。そこには他の人間たちから頼りにされている主人がいて、使用人として誇らしく思ったと同時に、多くの人間が活動する世界のパーツの一部として働いているのを見て寂しさを感じたものだ。

 私は主人の荷物を持ちリビングへと向かう。

 「そういえば、この家に猫が入り込んでいましたよ」

 「猫?」

 「はい。私が変えると玄関に座っていて、その後リビングに向かって走っていきました」

 リビングに着くと、テーブルの上に座り込んで私達を見つめる先程の三毛猫がいた。

 「本当だ、猫だ」

 綺麗な姿勢で座り込んでいる猫を見つめ主人が呟く。

 「あら、二人とも揃ったのね」

 突然、聞いたことのない声が響き渡る。いや……私はこの声に聞き覚えがある。その声は、先程私ににゃあと鳴いたあの……。

 「それじゃあよろしいかしら? アタシはA.E.M.財団のミア。『FOAD-1762:仕様龍グウ』、少しお時間を頂いてもいいかしら?」

 猫が喋るという異常事態に驚く私達の事を特に気にもせずその猫は話はじめる。そして、私はこれまでの平穏な生活が一変してしまうような強い予感に襲われた。

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