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クリスマスに欲しいもの(&頂きものイラスト)

 世界が凍てつく真冬でも、竜の岩屋はほんのりと暖かい。

 とはいえ本来なら冬眠してしまう寒さなので、背赤は常に岩屋の奥、ドラゴンの身体のそばに居所を定めていた。外からの冷気が入らず、地脈の恩恵を受けやすい場所に。


「外は暗いですねぇ」


 青紫の鱗が帯びる仄かな光に照らされながら、彼女はなにげなくつぶやいた。


《今の時期は、一年で最も夜が長くなるからな》

「そうなんですか! 言われてみれば、季節で昼と夜の長さが違いましたね。冬が一番暗いんですね~」


 ほうほう、と面白そうに背赤はうなずく。世界の仕組みに興味を抱けるのも、知力が増したおかげだろう。ドラゴンはそれを見下ろし、外の暗闇に目をやってから、ふと無意識に問いかけた。


《背赤よ。もし我が、なんでもひとつ望みのものをやろう、と言うたら、何を望む?》

「ふぇッ!?」


 思いがけない質問に、背赤が頓狂な声を上げる。それでドラゴンも唐突すぎたと自覚し、取り繕うように補足してやった。


《なに、たわいもないことだが。ニンゲンどもはこの時期、共に暮らす者に対して贈り物をするらしい。ゆえにちとそなたにも尋ねてみたくなったのだ》

「お、贈り物!? そそそそそんな勿体ない、ヌシ様から何か頂くなんて畏れ多いです!! ここに住まわせて頂いているだけでもう身に余る幸せです!!」


 背赤は大慌てで言って、いつものごとく大仰かつ真剣に伏し拝む。


《そう大袈裟に取るな。ほんの戯れだ、申してみよ。欲しいものはないのか?》

「……欲しいもの、ですか」


 岩屋の主に促され、背赤はうーんと腕組みし、首を捻った。悩みはじめてじきに目がうっとり細められ、口元が緩んできた。ヨダレをこぼしそうになって、慌てて口を拭って言うことには。


「やっぱり、丸々太って汁気たっぷりのイワトカゲがいいですねぇ!!」

《…………》


 おのれを撃沈してくれた代物の後味を思い出し、ドラゴンは瞑目して耐える。それに気付かず背赤は夢見る口調で続けた。


「でも今は寒いから、野ネズミのほうがあったかくて美味しいかなぁ……あっ、そうだ! ヌシ様、あれ美味しかったですよねアレ! ヤマツツジの花蜜!」


 途中で不意に目を輝かせ、背赤は満面の笑顔でドラゴンを振り仰ぐ。短い夏の間に、ふたり共に美味しく食べられるものはないかと探し回ったことを思い出したらしい。もはや頭の中はごちそうの夢でいっぱいだ。

 やれやれ、とドラゴンは苦笑した。


《そうであったな。さすがにあれは、今の時季には手に入らぬが》

「また夏になったら探しに行きましょうね!」


 わーい、と背赤は万歳してから、はたと当初の質問を思い出して小首を傾げた。


「わたしはともかく、ヌシ様は何か欲しいものないんですか? あっ、いえあの、わたしごときが差し上げられるものなんて、取るに足らないものばかりですけど!!」


 健気な、せめてわずかなりとも報いたいとの願いを込めた問いかけ。

 ドラゴンは不覚にも心の痛みをおぼえ、ごまかすようにほほえんだ。


《そなたの約束で充分だ》

「……?」


 なぜか切なく響く彼の声に、背赤は気づかわしげな顔をする。だが、


《夏になったら、また共に花を探そう》


 そう言われたらもう、とびきりの笑顔でうなずくしかなかった。


「はいっ!! 楽しみです!! えへへ、ヌシ様も花蜜がお好きなんですね~嬉しいなぁ、待ち遠しいです」


 ぴょんぴょんそこらを跳ねまわって幸せを振り撒く彼女に、ドラゴンも目を細める。

 ――夏になったら。あと幾度、共に夏を過ごせるだろうか。

 などとついしんみりした矢先、背赤がその炎の色をこちらに向けた状態でふと動きを止めた。


「……やっぱりイワトカゲも食べたいなぁ」


 ぽそり、とつぶやいたのは、岩屋の主の耳には届かせまいとしたのだろう。あいにく、この小さな生き物に対して知覚を総動員しているドラゴンは、微かな声をも聞き逃さなかった。

 ふっと吐息を漏らし、もう随分慣れた手順をたどって小さな分身を創りだす。気配の変化に驚いた背赤が振り返ると、そこには、真冬の高山をものともしない堂々たる体躯の山岳狼がいた。


「ヌシ様ー!? どうしちゃったんですか!! あっまさか!!」

《麓へ下りて狩ってきてやるゆえ、しばし待っておれ》

「うわー!! やめてください今のは独り言です! わたしなんかの為にそこまでして頂いたら罰が当たります!! っていうかそもそもヌシ様、狩りなんてされたことないんでしょう!? 凍えちゃいます、おうちでぬくぬくしてましょうよ!!」


 引き留める背赤に、ドラゴンは少々かちんときた。むろん彼女が純然たる誠意で心配し、恐縮しているのは知っている。だが、こんな中低位の生き物から、無理するな、とばかりの言葉を投げられるなど、最上位のプライドが許さない。


《凍えなどせぬ、そなたこそ追って来るでないぞ。出口のそばで帰りを待つのもいかん。暖かい場所でおとなしゅう待っておれ》

「でもヌシ様! あぁっ……そもそも今、夜じゃないですかー!!!」




 背赤の叫びを振り切って闇の中に飛び出していった狼が、貧相なイワトカゲをくわえて戻ってきたのは、翌々日のこと。

 体中あちこちに雪玉をくっつけていたが、背赤は構わず抱き着いて無事を喜び、獲物の質については何も言わず、ただただ感謝したのだった。



(終)


========



この下には頂きものイラストを掲載しております。

大変可愛らしい背赤の絵ですが、苦手な方はご注意下さい。


ぽこにゃさんから頂きました!

活動報告で紹介させて頂きましたが、記事が流れ去っていくのでこちらにも。



挿絵(By みてみん)


これは可愛い……大人になる前のころころした姿ですね! もふもふ撫でたい!

改めて、ありがとうございました!



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