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旗揚げ戦カード発表

 この数か月間、村中は参加選手の交渉に奔走していた。フリーランスの総合格闘家はもちろんのこと、アマレスや柔道、キックボクシングからの転向組、同業の他団体、果てはロビンソンの人脈をたどって北中米にも選手を求めた。

 そして、売りの一つである「無差別級の戦い」を体現するために、うってつけの選手の獲得に成功したのである。

「ほ、本当に参戦してくれるのか!?」

 村中代表は、興奮気味に尋ねる。対面に座る選手は女性とは思えない巨体で、いかにもレスラーと言う感じの体格である。そして、その女性、武藤千恵は口を開いた。

「話を聞いていたら、私がやりたいと思っていた戦いは、むしろそちらであると感じました。プロレスじゃあ私の気持ちは満たせません。ぜひ、お願いします!」

 そして二人は固く握手を交わした。


 武藤は柔道五段の実力者で、高校・大学と古川と同じ学校に通い同じ柔道部として汗を流した中でもある。階級の違いで対戦することはなかったが、オリンピックの無差別級代表争いで名を残していた。卒業後はプロレスラーとなり、インディー団体「ウーマン・プロレスリング・アマゾネス」に所属。複数のインディー団体が集まって開催された「100万円トーナメント」を新人ながらいきなり連覇して頭角を現し、柔道仕込みの怪力を駆使した投げ技でメジャー団体にも賛成するなどの人気選手だった。

 だが、場外乱闘や凶器攻撃などのプロレス的な試合展開、エンターテインメントとしての側面になじみ切れず、あくまで身一つでの勝負にこだわる武藤の姿勢は次第に敬遠されるようになる。そしてある団体での興行後、プロレス媒体の取材で「リングだけで勝負できないプロレスなんかやってらんない」と発言したとしてバッシングを浴びる。実際は「『プロレスらしい展開』に対して悩んでいる」とこぼしただけだがそれが過剰に脚色され、さらに普段の姿勢もあって、武藤だけでなくアマゾネス自体が業界から干される憂き目にあった。

 この仕打ちにより、武藤ら三人を残してレスラーたちが退団しただけでなく、フロントら経営陣も責任を丸投げする格好で離脱。資金力のないアマゾネスは危急存亡に瀕したが、そこに唯一戦いの場を提供したのがセミスキラだった。

「とはいっても、ウチはプロレス団体じゃない。参戦すれば、それこそプロレスとは絶縁になる可能性はある。それでもいいんだな?」

「それはこちらのセリフですよ。総合のリングにプロレスラーを上げることは、間違いなく叩かれるんじゃないですか?こうなれば一蓮托生ですよ」

 念を押すように尋ねた村中に対して、武藤は苦笑しながら問い返す。村中も吹きだした。

「『イロモノ』扱いはむしろ望むところだったな。では、改めて頼むぜ」


 旗揚げ予定のイベント『セミスキラ』。その由来はアメコミのヒロイン、ワンダーウーマンの故郷である。柔よく剛を制し、剛よく柔を断つのが無差別級の戦いである。腕に覚えのある女傑たちが戦う場としてピッタリであると名付けられたのである。


 そして、その旗揚げ戦一か月前。

 和歌山市内のチームKUNOICHI練習場にて、「セミスキラ」の旗揚げ告知とその対戦カード発表の記者会見が行われた。出席したのは村中代表と、チームKUNOICHIの山崎佑香、飯塚かすみ両選手。そして二人と対戦する選手が二人出席した。


 冒頭で発起人である村中代表があいさつした。


「え~と今日はお集まりいただき、ありがとうございます。まあ、旗揚げ決めといていうことじゃないですけど、間違いなくウチは『色物』です。現代的な総合でなければ、プロレスでもない。むしろ異種格闘技って言った方がいいんでしょうね。でも、これもまた総合と言うのが俺の考えであって。『いつもパンだから、たまにはご飯食べるか』そういう感覚で見てもらえればと思います。あと、戦う選手はみんなマジでやってますから、その辺は誤解のないように、お願いします。誤解のないようにね!・・・・大切なんで二回言っときました」

 最後のコメントに、マスコミからは苦笑が漏れた。空気が少し和んだところで、対戦カードの発表に移る。

「え~今回の会見で出席してくれた4人は、メインとセミを戦う選手です。セミは・・・チームKUNOICHIの飯塚かすみと、関西を代表する総合格闘技道場、小山田シュートジムの小山田弥生おやまだ・やよい選手。これが第5試合です」

 村中が読み上げた瞬間、かすみは眉間にしわを寄せて憮然とした表情を浮かべる。対戦相手は、インターハイのアマレス女王とあって不足はなかったが、メインイベンターでないことへの不満を薄めるまでには至らなかった。

「あの飯塚選手の娘さんとやれるって言うこともそうですけど、キックボクシングの実力者でもあるので、非常に、楽しみです」

 小山田が殊勝なコメントを発した後に、その不満を爆発させるように、かすみは立ち上がって村中をにらみながら言い放った。

「え~。小山田さんには悪いんですけど。私にメインイベンターを任せなかった代表に恥かかせるための媒介になってもらいます・・・フン」

 会場の空気が一転して不穏なものになる。だが、村中代表はむしろ満足げだった。

(いいねえ。この雰囲気。かすみもだいぶプロらしくなってきたぜ)

 そして、村中代表はメインイベントのカードを発表する。

「で~メインイベントは、ウチの山崎佑香と、このほど女子プロレス団体・アマゾネスの武藤千恵選手とやります。こっちは完全に異種色強いんですけど、ウチの売りである『無差別級の戦い』。それを体現できるカードだったのでメインにしました。また、アマゾネスさんとは業務提携し、今後もセミスキラに継続的に参戦していただけることとなりました。つきましては、旗揚げ戦においても、選手を数名参戦するという事です」

 まずは武藤からあいさつ。

「まさか、こんな太った自分が・・・総合とは言い切れないかもしれませんけど、そういう舞台で戦える日が来るとは思っていませんでした。見た目通りパワーはありますし、通常の総合で見られないようなパワー殺法で旗揚げ戦を飾りたいと思います」

 そして佑香がマイクをとる。

「いや~。なんというか、怪獣と戦うウルトラマンみたいな気分ですね!」

 何とも子供っぽい発言。会場には笑いが起きた。

「正直、メインだとか体重差だとか、一切関係なしに純粋に『楽しみ』なだけです。まあ、かすみちゃんにああ言われたんで、メインらしい試合をしたいと思います!」


 そして、対戦カードと基本的なルールの説明もあった。





 そして、旗揚げ戦の対戦カード全6試合が、以下のように発表された。(左が赤コーナー)


第1試合

松下千夏(チームKUNOICHI)165㎝52.5㎏VS山本明菜(所属なし)160㎝72㎏

第2試合

柴田亜矢子(女子プロレス・アマゾネス)159㎝58㎏VS緒方友紀(GMA倶楽部・堺)159㎝49㎏

第3試合

本間ナオミ(女子プロレス・アマゾネス)181㎝64㎏VS西山春菜(所属なし)170㎝56㎏

第4試合

古川美保(チームKUNOICHI)164㎝51.5㎏VS片桐明日香(GMA倶楽部・堺)160㎝50㎏

第5試合・セミファイナル

飯塚かすみ(チームKUNOICHI)160㎝48㎏VS小山田弥生(小山田シュートジム)163㎝52㎏

第6試合・メインイベント

山﨑優華(チームKUNOICHI)172㎝63㎏VS武藤千恵(女子プロレス・アマゾネス)165㎝90㎏


 

セミスキラ・オフィシャルルール概要

服飾規定

・二―パッド、キックレガースを必ず着用。

・オープンフィンガーグローブは、対戦相手及び運営委員会の許可があればつけなくてもよい。ただし、素手の場合は拳での打撃を全面禁止とする(要はパンチ不可。ボディーブローも反則扱い)。

・ヒジ打ちはパッド着用時のみ可。

・道着着用での参戦可能。その場合は襟や帯をつかんでの投げ技は有効とする。


試合形式

・原則15分1本勝負、延長戦はしない

・時間内での勝敗は打撃でのダウンによるカウントアウト及びテクニカルノックアウト、絞め技、関節技によるタップアウト、5ロストポイントによるポイントアウトで決着する。

・タップアウトに値するサブミッション攻撃を受けているときに、ボトムロープを掴むことでブレイクすることができる。これを「エスケープ」と称し、1回につきポイント1点喪失。合計5ロストポイントで敗北。

・1ロストポイント=1ダウン、1エスケープ

・ダウンした際、テンカウント以内にスタンド(立っている)状態でファイティングポーズをとることができ、レフェリーが判断すれば試合続行とする。

・時間切れの場合、ポイント差で勝敗を決める。同点の場合は審議委員判定で決着する。


反則

・サミング(目への攻撃)、急所攻撃、頭突き、ひっかき、噛み付き、髪を掴む、凶器攻撃、ダウンカウント中の攻撃、素手の拳の打撃、パッド非着用のヒジ打ち・膝蹴り、ロープの反動を利用した攻撃、コーナーポストを利用した攻撃、グラウンド(寝ている)状態の相手へのヒジ打ち、膝蹴り、後頭部へのパンチ攻撃、その他レフェリーが悪質と判断した行為。

・以上の行為のいずれかをした場合、故意・偶発問わずイエローカード提示(1ロストポイント)

・以上の行為のうち、明らかに悪意を持って行っているとレフェリーが判断した場合はレッドカード例示(3ロストポイント)

・プロレス的な場外乱闘、凶器攻撃、控室襲撃が確認された場合は無効試合とする。


 そして、その日を迎えたのであった。


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