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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第五百三十七話 物見遊山(偵察) 31

7452年9月24日


 ミュールは親衛隊の一個小隊を率いて王都ランドグリーズの一角にある、ある治療院に踏み込んだ。

 この治療院の規模は小さいものの、ランドグリーズに住む闇精人族ダークエルフの互助会や元締めとでも言うべき存在なのだ。


 グリード侯爵の妻が逃げ込んで匿って貰っているという可能性はそう高くはないだろうが、無視は出来ない。


「こんな時間に一体何だね?」


 この治療院を営んでいるダークエルフの老婆が戸口で言った。


「失礼、マダム。人を探しておりましてね」


 口調だけは丁寧に言うミュールだが、その右手は左腰の長剣ロングソードの柄を掴んでいる。

 今、この瞬間に引き抜かれてもおかしくはない。


 その様子を目にしていながら、老婆の態度は落ち着き払っている。


――肚が据わっているな。


 ミュールは少し感心しながらも任務は遂行されなければならないのでここで引く訳には行かない。


「……名前は?」

「これは失礼。ミューネイル・サグアル白凰騎士団十人長です」

「違うよ。探している奴の方だ」

「重ね重ね失礼。グリード。ミゼリット・グリードというダークエルフの女性です」

「知らないね、そんな名は」


 にべもなく答えながらも老婆の目が僅かに泳ぐ。

 それを見逃すミュールではない。


「本当にご存知ない?」


 鋭い目で老婆を睨みつけながらミュールは尋ねた。


「本当さ」

「なるほど。ああそうだ、私としたことが言い間違えたようです。ミヅェーリット・グリード。グリード侯爵家の第一夫人で、年齢は二四歳です。こちらの世話になってはいませんか?」


 今度こそ老婆の表情が見間違えようのない程に大きく動いた。


 これは、大当たりか!?


 ミュールだけではなく、彼に従っている親衛隊員もそう思ってしまったのも無理はないだろう。


 しかし、老婆は怯えや気後れ、萎縮などといった表情からは程遠い、ふてぶてしいまでの態度を取ったのだ。


「なるほど、ミヅェーリット・グリード侯爵夫人ね……」


 呟くように言うと老婆はにんまりとした、人好きのする笑顔を浮かべて続けた。


「……そのような名のお方はここには居りませんが」


 喋り方も今までのデュロウ語(ディロウリッシュ)のイントネーションが混じるぞんざいな物からかなり丁寧なラグダリオス語(コモン・ランゲージ)になっている。

 尤も、ミュールとしてはデーバス王国において一般的な“貴族優位”の価値観によって言葉を変えたのだろうと思われた。

 そういう者は少なくないばかりか、多数派を占めている土地なのだ。


「お疑いであるなら、中をお検めになりますか?」


 これは渡りに船と言えなくもないが、本当に匿っているのなら言える言葉ではないだろう。

 今は一刻を争うところなのだ。


 しかし、念の為にも屋内の捜索は行っておくべきであろう。


「そうですか。ご協力ありがとうございます、マダム。おい、五人捜索に残せ。後は行くぞ」


 そう言って踵を返すミュールの背に老婆は言葉の爆弾を投げつける。


「ご存知ないようなので申し上げておきますが、皆様がお探しのミヅェーリット・グリード侯爵夫人が、ロンベルト王国のグリード侯爵の奥方様と同一人物であるならば、その身の逮捕や拘束は我がライル王国に敵対する行為になると申し上げざるを得ません。それでも捜索をお続けになるので?」


 その言葉にミュールは思わず振り返ってしまう。


 一般的にライル王国は人口四〇〇〇人にも満たない、取るに足らない小国だと見做されている。

 魔術の技術は多少高いのでそれを利用した秘薬などを生産している他、ダークエルフ単一民族で国家が構成されているのが特色と言えば特色で、その程度の小国だと見る向きが多い。


 が、ミュールはサグアル家――“赤”と呼ばれるデーバス王国の暗部を司る諜報に特化した一族の出身であり、跡取り息子なのだ。

 ライル王国の裏の顔については三公爵家の当主並みかそれに勝る知識があった。


「それはどういうことですか? 一体彼女が貴国の何だと仰るんです?」


 ライル王国は暗殺を請け負うという裏の顔を持っているが、実行するのは一位戦士階級と呼ばれるごく少数しかいない上澄みの戦士階級であり、それを管轄しているのは戦士総監という役職に就いている元老――大臣である。


 現在の戦士総監は当然、各総監職に就いている元老の名も全員(そら)んじているミュールだが、彼の記憶には過去から現在に至るまで「ミヅェーリット」などという名の元老はいなかったし、その他の重要人物と目される“戦士長”や、行商を行っている“獲得階級”の中でも主要なリストに載っていない。


 そもそも、そういった重要人物がライル王国の外で暮らす事などまずない。

 僅かに引退した元一位戦士長で、現在はデーバス王国にて外商長の地位にあるミリアム・ロリバスラルが確認されているのみである。


 この老婆はライル王国の重要人物であった人間であり、例外中の例外とも言えた。

 だが、現在ではライル王国本国との連絡を司るだけの老婆に過ぎない。


「それは何とも。しかしながら、警告はしました。故意に彼女の行動を阻害したり、その意志を尊重出来ない存在は全て我が国の敵となりますので、その際にはお覚悟を。赤の坊っちゃん」


 名乗ったから? いや、最初からか?

 既に正体が割れている。


「いや、我々は別に……保護しようとしているだけですよ」


 内心で冷や汗を大量に流しながら、ミュールは答えた。


――これは、まずいぞ。手遅れになる前に皆に伝えなければ……!


 ミュールの脳裏には、過去に「ライルの暗殺者の仕業」とされた(勿論証拠はないのでそう言われているだけである)数々の事件がよぎっている。


 中にはとても人の手による暗殺であったとは思えないほどの事件もある。


――暗殺っぽい事件ならまだ捜査記録がある分だけマシだ。だが、ひょっとして……単純な事故や事件性のない病死なんかも……?


 気が付けば背中はぐっしょりと湿っていた。




・・・・・・・・・




「そうですか、ご協力ありがとうございます」


 親衛隊員のザンバ・ボークスはそう言って馬具屋を後にした。

 馬具屋によると今日どころか今週の売上はゼロ(珍しくない)であり、今日一日は冷やかしすら店には寄らなかったという。


 完全な空振りだが、足取りを追うとはこういう事だ。


 ここからは少し遠いが王都にはもう何軒か馬具屋はある。

 その全てを当たる必要があるため、彼は配下の親衛隊員を数人ずつで組分けし、手分けして調査を行っていた。


 彼が担当するエリアに馬具屋はこの一軒しかないが、宿はそれなりに数が多い。


 宿も一軒一軒全て総当りで情報収集に務めなければならないが、冷静に考えるともうとっくにランドグリーズを離れているかも知れない。


 もしそうなら今やっている行為は一体何のためなんだろうか?


 彼としては馬を操り、目標ターゲットを見逃さない為に目を皿のようにして街道を飛ばす方が性に合っていると思っている。


 だが、親衛隊が持つ馬の数は限られているし、この任務だって地味ではあるものの重要なものだ。


 長年ストールズ公爵騎士団で鍛えられた彼には自制心という、非常に重要且つ軍人として必須の心が涵養かんようされていた。




・・・・・・・・・




「貴様、それは本当なんだな!?」

「ひゃ、ひゃい。た、確かに闇精人族デュロウの若い女したっす……」


 簡易食堂ダイナーで駄弁っていたゴロツキに混じっていた精人族エルフの男を締め上げたヴァルは重要な情報を掴んでいた。


 少し前、日が落ちる頃にこの店で食事をした一人者ひとりもののダークエルフの若い女がいたという。


 エルフの男はナンパ目的で声を掛けたものの、刃物で脅されたために引き下がらざるを得なかった。


「その女の行き先は? 名前は聞いたか? 他に特徴はあったか?」

「し、知らんす……そういうの聞く前に逃げられたんで……あ、でもこっちの頬に傷があったかも」


 エルフはそう言って左の頬を指さした。


 特徴は一致している。


「どっちに逃げた?」


 店を出たダークエルフの女は更に追いかけようとしたゴロツキを撒くためか、夕暮れ時の通りを走って逃げてしまった。


 彼女が消えた方の通りを指差して「あっちに行ったっす」と答える。


 ダイナーを出たヴァルは指揮する小隊員達を二人一組で周囲の聞き込みに当たらせる事にした。


 三〇分後に再びここに戻り、報告する事を命じる。

 勿論、有力な証言が得られた場合にはすぐに戻れとも命じていた。


 部下の一人を親衛隊の詰め所に向かわせながら、ヴァルは道の端に転がっていた木箱に腰を下ろした。


 自分が一番、目標ターゲットに近づいているかも知れないという思いは、ヴァルの気持ちを高揚させている。


 上級親衛隊員の報酬は農奴出身であるヴァルにしてみれば望外の高禄だが、手柄を立てれば更なる増額すら見込める。


――ふふふ。ここ数年、俺もツキまくってるな……。


 親衛隊に所属した当時は転生者どころか他の親衛隊員から見てもお荷物以外の何物でもなかった彼だが、家族のためにと毎日毎日踏ん張っていたばかりか、明らかに一般の親衛隊員よりも戦闘者としての伸びが良い彼はあっという間に頭角を現し始めた。


 当然、何年も前から騎士団に所属していたツェットやミュールに敵う程ではないが、それでも目に見える程の成長は多少なりとも自信に繋がっていたのだ。




・・・・・・・・・




 一方、ランドグリーズから北に伸びる街道の上。


 ミヅチは空に瞬く星明かりを頼りに急ぎ足で移動していた。


 北の夜空は曇り始めたのか段々と星が見えなくなってきている。


 そうなると明かりのない夜では【赤外線視力インフラヴィジョン】のみが頼りとなる。


 彼女の肉体レベルは現在二五とかなり高く、【赤外線視力インフラヴィジョン】で七五mもの距離を見通す事が叶う。


 このあたりは魔物よりも人間の盗賊や野盗の方がずっと危険な存在だ。

 しかし、一部の魔物とは異なり人間は恒温動物であり、体温は確実に気温を上回っている。


 である以上、彼女の方が先に気が付くことが出来る。


 ミヅチとしては追跡者という存在を軽んじるつもりはないが、今の彼女に追いつくには必ず馬を使用しなければならない。

 そして、この暗さで馬に騎乗するなら必ずランプやランタンなどで明かりを確保しないと、たとえ平坦な一本道だとしても馬は移動できない。


 それなりに距離を稼ぎ、曇り空に覆われる前にはランドグリーズの耕作地帯を抜けられる。


 明かりのない暗闇、まして森や林という自然に囲まれた場所でダークエルフの一位戦士に敵う者など居はしない。


「もう少し進んだら一休みしようか」


 ぼそりと独り言ちながら、ミヅチは歩く速度を少し速めた。


 


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― 新着の感想 ―
聞き込みをしてしまった段階で証拠の有無は関係なしに報復されますな。
そうかダークエルフ側の報復もあるのか 完全に詰んでるw
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