第五百三十話 物見遊山(偵察) 24
7452年9月24日
『スクロール?』
ヘクサーは訝しげな表情で言った。
『日本語に直訳すれば巻物という意味ね。あの掛け軸とか昔の武将の手紙みたいなくるくる巻いてある長い紙』
『ああ、そうか。それは魔法の一葉だ……』
ヘクサーはミヅチが拾い上げた一枚の白紙に注目しながら答える。
『……巻物状ってのは全く無い訳じゃないが、書いてある文字が大き過ぎて使い難くくて人気はないな』
書かれている呪文の詠唱中に、巻物を広げていく必要があるか、予め伸ばした巻物をずらしながら詠唱していく必要があるため、人気がないのだろうか?
――なるほど。これが話に聞く魔法の巻物か。
『これ以外に魔法の一葉は持っているの?』
『ある……致命傷治癒と金縛りの二つだ』
『ふーん。どこにあるの?』
『右側のサドルバッグの左側のラチにある隠しポケットだ』
その言葉にミヅチは先程空にしたサドルバッグを拾い上げると、言われた場所の隠しポケットを探った。
魔法の一葉はすぐに見つけられたが、致命傷治癒の魔法の一葉は、金縛りのそれと比較してかなり小さな文字で呪文が書かれていた。
紙自体の大きさもだいぶ違い、先程までミヅチが手にしていた白紙の元魔法の一葉のように横幅と比較すると縦方向は長目の紙が使用されている。
――当然書かれている魔術によって呪文の長さも違うでしょうから仕方がないのかもしれないけど、致命傷治癒の方は金縛りよりもかなりフォント……字の大きさが細かいわね。転移の方もそうだったのかな?
致命傷治癒の魔法の一葉に書かれている文字の大きさは、人間が手で書ける限界、とまでは行かないがかなり小さな文字でびっしりと書かれている。
それに対して、金縛りの方は紙自体の縦の長さが短い上に文字の大きさも何倍、というレベルで大きく書かれていて、更に余白もある。
何にしても魔法の巻物の現物が入手出来たのは大きい。
双方とも転移に使用された白紙とは異なり、アコーディオンのように何重にも細く折りたたまれている。
これは保管する隠しポケット自体が異なっていたのであろう。
『このバッグ、他に隠しポケットはない?』
『ない』
嘘は言っていない。
が、時間的にもそろそろであるので念の為が必要だろう。
『そ』
――さて。
時間に余裕がない訳ではないが、ここに長居をしても仕方がない。
あと幾つか質問をし、同様に幾つかの確認をしたら速やかに逐電すべきだろう。
――……んっ。
右足首に両手を当て続ける二人を見下ろしながら、ミヅチは嘘看破の延長を行った。
『二人ともまだ他に隠し持っている物はない?』
『ない』
『ない』
嘘は言っていない。
『じゃあ次ね』
冷たく言い放つその言葉に、二人は思わずミヅチを見上げるがその顔には揃って「まだ続くのか」と絶望に近い表情が浮かんでいた。
だが、尋問の際には相手に正常な思考をさせないよう、体力を浪費させ精神に大きなプレッシャーを与える方が隠し事は少なくなる事は各種統計でも明らかになっている。
『まずはデーバス王国軍の情報からね。兵力や練度、装備の状況を教えて頂戴』
『な、なんでそんな事を……?』
『忘れているかもしれないから教えてあげるけど、今はロンベルトはそっちと戦争中なのよ。その戦争に勝たなきゃいけないし、将来的にもっと奥地まで侵略するために決まってるじゃないの。あ、今のところ滅ぼすまでやるつもりはないから安心して』
その返事に二人は「相手国を滅ぼすって、この女、頭わいてんじゃねぇか?」とツッコミそうになってしまったが何も言えなかった。
勿論、ミヅチは“デーバス王国の住民を滅ぼす”――則ち“殲滅戦を行う”という意味ではなく“デーバスの王族と靡かない上級貴族は全滅させる”という、所謂“国を滅ぼす”という意味で発言している。
『兵力数は常設軍である四騎士団を全部合わせてざっくり四〇〇〇~五〇〇〇ってとこだ。おっと、これは騎士団に正式に所属している騎士と従士の数だ。ご存知だろうが歩兵は殆どが徴兵なんで、数は上下の幅が大きすぎる。平時で騎士団員の五~六倍、戦時だと三〇倍以上になってもおかしくないが、全部の戦線が戦時というのは稀だし、全部の戦線が平時なんてもっと少ない。実際のところは誰にもわからないが、感覚的に言ってあんたらがせめて来る前迄は大体一〇倍前後くらいじゃないかと思う』
この情報は予め調査していた内容と大きく変わらない。
ミヅチは無言で次を促した。
『練度は……まぁ、お察しの通りいろいろ、ピンからキリまで玉石混交だ。大体において、白鳳騎士団、黒狼騎士団、青虎騎士団、緑竜騎士団の順に練度は落ちていくと思ってくれていいが、例外は幾らでもある。緑竜騎士団にだって実力者はいるし、白鳳騎士団にも実力が低い部隊はある』
これも調査内容とは一致している。
それに、ここでどの部隊がどの程度の練度なのか尋ねたとしても、その基準など個人でまちまちだろうし、全く当てにはならない。
僅かに、最精鋭だとされている部隊などは誰に聞いてもほぼ同じ答えが帰って来るだろうが、それだけだ。
『そ。あとは?』
デーバス王国の常設戦力は四騎士団の他にもう一つ、組織がある。
ロンベルト側の予想が正しいのであれば、この二人もその組織と何らかの関係があって然るべきであった。
『あと?』
アーニクとヘクサーは少し不思議そうな顔をした。
『まだあるでしょ?』
ミヅチの言葉に二人ははっとしたような表情になる。
『親衛隊……王族親衛隊というのが今言った四騎士団とは別にある。制度上は四騎士団と同格の軍事組織だが、組織としては一番小さいから戦力としては……』
『……』
二人を見つめるミヅチの目が鋭く光る。
『……大した事ないが、それでもデーバスの転生者の大部分が属している組織だ。まともに当たったとしてもどの騎士団にも引けは取らないと思う』
かなり苦しい繋ぎ方だが、手首や足首を落とされる前に誤魔化せた事にアーニクとヘクサーは安堵した。
『大部分、というのは、親衛隊ではなく、他の騎士団に所属している者もいるからだ。だが……』
『……兄貴、もう俺達はロンベルト側に寝返ったんだ。隠し事はやめよう』
『う……それもそうか……』
二人の言葉にミヅチは鋭く見つめたまま、その表情には少しも緩んだところはない。
――私、寝返りを認めるなんて一言も……勝手に喋ってくれそうだし別にいいか。
『親衛隊が他の騎士団と渡り合えるという理由は……勿論、転生者が持つ【固有技能】や魔法の【特殊技能】も大きな要因としてあるが、重要なのは火薬を作ったからだ』
アーニクが言う言葉にはさしものミヅチも目を丸くした。
『ふーん、火薬、ねぇ』
『黒色火薬って奴で、地球でもまだ現役で軍隊で使われてるって聞いた。デーバスを裏切ると決めたからには隠すつもりはない。もう既に鉄砲の量産化に成功していて、月産二〇丁ペースで生産している』
その数を聞いてミヅチは絶句した。
しかしながら、好奇心からは少し遠い興味の心ももたげてくる。
――黒色火薬を使う鉄砲ね……流石にオートはあれだし、リボルバーくらいかな?
『鉄砲って、銃でしょ? 作れるの、いや、量産化!?』
ミヅチの表情と声色を聞いて、二人はついに“この危ない女から一本取ってやった”と変な満足を感じた。
『火縄銃だけど、相当威力がある。これを装備した部隊は大規模な魔術による先制攻撃でも喰らわない限りは無敵と言ってもいい』
ヘクサーはどこか自慢気に言うが、ミヅチとしては……。
――火縄銃か。先込め滑腔どころか燧石以下じゃない。焦って損した。
だが、その数は文字通りの脅威である。
それこそ、戦国時代のように大量に並べられて釣瓶撃ちをされたら如何なアルが率いる軍とは言え苦戦は必至だろう。
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