第五百ニ十七話 物見遊山(偵察) 21
7452年9月24日
『俺の【変身】は、変身した相手の【技能】も使えるようになるんだ……』
アレキサンダーの言葉にミヅチは落胆した。
落胆せざるを得ない。
なぜなら、誰かの技や特技を真似するなど姑息過ぎて正義のヒーローのやる事ではないからだ。
そして、【変身】とは、誰か別人になりすます事ではなく、誰でもない“正義の超人”に変わらなければならない。
そうでなければそれはヒーローの偽物なのだ。
例えば色違いのマフラーをした混成昆虫のように。
正確には偽物とは言えないのだが、ここではそれは惜く。
何にしても、ミヅチは少し安心した。
――良かった、コイツラが悪者だった。
己や配偶者の立ち位置を確認出来たのは偶然だが、(ミヅチの脳内での)事実は事実である。
『……ふぅん。嘘ではないみたいね。使えるようになる【技能】は【固有技能】だけ?』
左肩の上から照らす懐中電灯の明かりでアレキサンダーにはミヅチの表情を窺う事は出来なかったが、きっと能面のような無表情だろうと思える声音であった。
『いや、【変身】中なら相手の【固有技能】の他に【魔法】を含めた【特殊技能】も使えるようになる、けど……うっ』
足の痛みに顔を顰めるアレキサンダーだが、ミヅチは特に急かさなかった。
急かしたところであまり変わらないし、意味はないからだ。
『……俺が元々持ってる、例えば魔法の【特殊技能】なら自分のレベルまでしか使えない。相手が魔法の【特殊技能】を何レベルで持っているか、持っていないかは関係なく自分のレベルまでだ。それから……』
アレキサンダーは今度は一呼吸置いただけで続きを口にする。
『俺が持っていない【技能】……【魔法】でも【固有技能】でも種族の【特殊技能】でも全部同じだが、俺が持っていないものはレベル一でならば使えるようになる。あと、変身した相手の体力を変身前の俺が上回っていたとしても、相手の体力を超えるような運動は出来ない。俺より槍や剣が上手く使える相手に変身しても白兵戦技は俺のままだ』
俄には信じ難い内容ながら、アレキサンダーの呼気はミヅチの目に反応しなかった。
ツッコミどころは残っているが、その指摘は後回しでもいいだろう。
『そ。じゃあ、話は次ね。他に知っている転生者の名前と人種、性別その【固有技能】、保持している【特殊技能】を話して。レベル付きでね。あ、当然【固有技能】についてはその効果についても知っている限り話しなさい。まずは貴方達二人を含めた人数からね』
まずは大事なところからだ。
『……一〇人だ』
答えを聞いたミヅチは右足を踏み鳴らした。
「うおあっ!?」
蠍に手の平を刺されたヘクサーが悲鳴を上げる。
『嘘は良くないわ。数が数えられないなら、まずは一人づつ名前を挙げていって。あと、【固有技能】や魔法のレベルなんかもね』
『わかった。数え間違いをしていたかも知れない。まずは彼、ヘクサー・バーンズ。見ての通りヒューム、男だ。【固有技能】は【技能無効化】。レベルはマックスで……』
ここまで言った時、アレキサンダーは唐突に先程の自分の【変身】を話した時にレベルについて触れていなかった事を思い出すが、何も言われていなかったので今は無視する事にした。
『……が持っている【魔法】の【特殊技能】でレベルは全部四だ』
先程本人に語らせた内容と語り口や順序が少し異なるだけで同じ内容だ。
【次は俺、アーニク・ストライフ。俺も見ての通りのヒュームで男だ』
そこまでアレキサンダーが話した時、再びミヅチが右足を踏み鳴らした。
『痛っっつ!!』
またもやヘクサーが悲鳴を上げた。
しかし、アレキサンダーも少し意外そうな顔で驚いている。
自分の意志でミヅチを謀ろうとした訳でもないので、これはミヅチが変身前のアレキサンダーの種族を知らなかった為に、念の為の罰だったのだろう。
『あんたね。どうせ今も誰かに【変身】してるんでしょ? まぁいいわ。次は今の変身相手にしてちょうだい。あんた自身の説明はその次でいいわ』
『この体は……アレキサンダー・ベルグリッド。ヒュームで男性……』
この時点でミヅチは予想外も良い所の答えに目を剥いたが、懐中電灯のお陰でその表情は見られずに済んだ。
『……【固有技能】は【超能力】、内容はレベル〇で【感知】、レベル一で【次元移動】だ。あと、何レベルからかは分からんが【飛行】と【防御殻】、【放火】、【幻影】……それから【念動力】、あと【精神刺傷】なんてのも聞いたことがある。あとは……忘れたか教えてもらってない』
『そう。それぞれの内容を教えて』
『【感知】は魔法的なものや、自分に対する悪意や害意のようなものまで感知出来る。目に見えていなくても位置や方向がわかるが、範囲は大した事ない。半径五mってところだろう。勿論使っている間だけだ。一回で大体一〇分くらい効果はあるが、少しずつ効果時間が伸びている気がしないでもない……』
ここまで聞いたミヅチは「肉体レベルが関係あるのかも知れない」と思ったが黙っていた。
『……【次元移動】はさっき散々使ったあれだ。大体一〇m以内なら自分の見たことのある場所か視界内であればどこにでも一瞬で移動できる。【飛行】はこれもだいたい一〇分くらいの間、好きなように空中を飛び回れる。俺が見て、聞いた話だと高度の上限は不明だが、速度はかなり速い。普通に攻撃魔術を放つくらいの速度は出せるみたいだ……』
距離や持続時間は肉体レベルに依存する可能性はある。
が、それを確認する素振りすら見せてはだめだろう。
『……【防御殻】は弓矢や刀槍などの攻撃や魔法に対しても無敵の球体を作り出せる。これも時間は大して長くはないらしいが正確には分からない。一度しか見たことはないがその時は最低でも五分以上は持っていたと思う。【放火】は好きなものを、これは生き物でもそうでなくても、という意味だが、火達磨に出来る。効果は暫く持つのか、一瞬で火達磨にされるからよくわからない。距離は……結構遠くまで届く。最低でも三〇~四〇mくらい離れていても火を点けられる。【幻影】は空中や壁なんかを好きな風景で覆えるようなもの、らしい。直接見たことはないから良くは知らないんだ……』
聞けば聞くほど大した【固有技能】である。
『……【念動力】はよくある感じの奴で、あまり遠くない……大体四〇~五〇mくらいまでの物なら何でも自在に動かせる。速さもかなりの速度が出せる。動かせる物は、結構重くても大丈夫みたいで、牛や、バカでかい材木を動かしているのを見たことがある。あと、水中でもほとんど抵抗はないらしい。それから、【精神刺傷】は相手のトラウマをえぐれるらしいという事くらいしかわからん。俺が知っているのは以上だ。あ、【念動力】とか【次元移動】って名前は本人がそういう能力だという事を言ったことで適当に名付けられたものだ。そういう意味では俺の【変身】とかあいつの【技能無効化】みたいに、ある意味で正式なものじゃない』
一つの【固有技能】なのにこんなに多種の能力がてんこ盛りなど許されるのだろうか?
まぁ、【超能力】であるからにはそういうものだと考えるしかないであろう。
『あと、【魔法】の特殊技能だったな……「ステータスオープン」……【地魔法】がレベル二、【火魔法】がレベル二、【無魔法】がレベル三だ』
魔法の方は本当に大した事はないようだが、デーバスの王太子がとんでもない能力を持つ転生者である事が判っただけでも大金星である。
何しろ、つい先程まではデーバスの転生者達の親玉はストールズという公爵家の公子であり、自身が伯爵でもある上級貴族だとばかり思っていたのに、更にそれを上回る立場の者がいたのだから。
『じゃあ、少し戻ってあんたの【変身】のレベルと能力について、それから持っているなら【魔法】の【特殊技能】について話しなさい』
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