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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第五百ニ十一話 物見遊山(偵察) 15

7452年9月24日


「ミヅ……」


 追撃を命じようとミヅチに声を掛ける前から彼女はラーメン屋の入口の上に掛かっている日除け(オーニング)に飛び付いていた。


 ならば俺も後は構わずに追うべきだろう。


 背中に風魔法を使用して路地に飛び込み、まだ弾かれている最中さなかに少し前の足元にも風魔法を使う。

 その風魔法が爆発的な効果を発揮するのと同時に俺の体は空中に浮き上がる。


 前進速度は多少落ちはするものの、狙い通り一発で俺の高度は屋根を通り過ぎ、視界は何倍にも広がった。


 デバッケンの街はそれなりの歴史を誇る古い街だが、バルドゥックのように市街の面積に苦慮はしていない。


 その御蔭で以前のべグリッツのように三階建て以上の建物は殆どなく、大抵の建物は平屋か二階建てがせいぜいだ。


 だからこそ逃亡者たちを見失いはしない!


 僅かな間に奴らはかなりの距離を行っていた。


 目測だが、五〇~六〇mは離れている。


 だが、その程度は予め織り込み済みだ。


 もう一度背中に風魔ほ……。


――なっ!?


 風魔法が使えない!?


 俺の足元には建物の屋根はない。

 数m下に未舗装のみちがあるだけだ!


 勿論最初に使った風魔法の慣性はまだ残ってはいるが、それももうかなり小さくなっている。


 数十mも先の屋根の上でこちらを見ていた男の口元が上がり、嘲笑わらわれた気がした。


――くそっ!


 このままだと相当上手に着地したとしても足の骨折は避けられまい。


 五点接地なんて訓練どころか、見様見真似の手本すら現実には見た事もないしな。


 だが、接地の際に体を捻りながら足からすね、腿、尻、背中と順番に地面に付けていく事だけは知っている。


 当然、訓練もした事がない身でまともに成功させる自信など全く無いが、無策のまま地面に叩きつけられるよりはマシだろう。


 って、もう地面だよ!


 足を着き、がっ! ぐえっ! ごっ!


 地面の上を転がっていく。


 咄嗟に頭の後ろで手を組んで、両肘を前に出すように頭部だけは保護するが……。


 ぶっちゃけ少し地面でバウンドした感じもある。


 痛い痛い痛い!

 体中が痛い。


 何とか頭部だけは庇えたのは僥倖だろう。


 あー。

 これ、右脚が折れたな。


 【鑑定】……は出来ない。

 こちらの能力を封じられるのであれば俺だってそうするだろう。


 あいつら、こういう状況を想定してかなりの訓練を積んでいたんだろうな。


 それはそうと、痛い。

 魔術で治癒させたいところだが、発動しない(実は着地とほぼ同時にやってる)。


 と、屋根の上を走るミヅチの姿がちらりと目に映った。


 多分、蹴上がりの要領で屋根に登っていたんだろうから、当然ながら俺より遅い速度だが、それでも常識では考えられないような速さだ。


 あいつなら【能力封じ(スキル・インヒビット)】に対する最大の対抗馬と言えるのかもしれない。

 表通りほど道幅のない裏通りや路地程度なら飛び越えながら追撃できるだろうしな。


 しかし、くそっ!


 骨折は右脚だけじゃなく、左腕の尺骨も折れてるみたいだし、鎧も着ていなかったから体中が擦り傷だらけだ。

 立ち上がるのはともかく、体を動かそうとしただけで胸部に激痛も走る。

 こりゃ肋骨も何本かイかれたか。


「「アルさん!」」

「「アル!」」

「「閣下!」」


 何人もの声がする。

 あまり長い間、みっともない姿を晒す訳にはいかないだろう。


 ここで使うしかないか。


 【屠竜ドラゴン・スレイヤー】の回復の力を。


 って、落ちる時に頭を庇ってどっかやっちまったよ。


 あ、道に刺さってる。


 早く誰か持ってきて。




・・・・・・・・・




「く、くそ!」


 ちらりと後ろを振り返るとヘクサーは毒づいた。


――振り切れない、だと!?


 つい今しがた、一人が風魔法――と言うより【特殊技能】を使ったことを感知したことで、それを兄に伝えた上、タイミングを合わせて【技能無効化スキル・インヴァリデーション】を使用して見事に墜落させてやったばかりだ。

 そいつは運が良くても大怪我だろうし、運が悪ければ頚椎や頭骨骨折で死んでいてもおかしくはない。


 それとは別に、どうやったのはか知らないが、追撃してくる者は考えられないほど素早く屋根に登ってきたばかりか、足場の良くない屋根の上でもバランスを崩すことなく駆けてくる。


 それはすなわち、追撃者は何らの【能力】を使用する事なく、あれだけの力を発揮出来るのか、それとも生まれ変わりではなく、生粋のオース人なのかだが、今はそのような事は些事である。


 どちらだとしても道で屋根が途切れていても、躊躇なくそれを飛び越えながら駆け寄ってくるその速度は、全力で兄にフェイズ・シフトを使って貰わねば振り切ることは出来ないだろう。


『兄貴!』

『おう!』


 とにかく【技能無効化スキル・インヴァリデーション】が通じないのであれば一目散にこの場を逃れる以外にない。


 ヘクサーが【技能無効化スキル・インヴァリデーション】を切った直後にまた兄がフェイズ・シフトを使用する。

 先に見えていた一街区(ブロック)先の建物の屋根に一瞬で移動した。


 追撃者との距離はその分広がる。


 だが、追撃者は些かも速度を落とすことなく屋根の上を駆けてくる。


 驚異的なボディ・バランスだが、所詮は二本の足で駆けるのみだ。


 再度兄がフェイズ・シフトを使用するとあっという間に追撃者との距離には一〇mが加算される。


――これは逃げ切れそう……。


 ヘクサーがそう考えた時、兄が口を開く。


『大した奴だな。指輪を使うぞ!』

『ああ』


 ヘクサーは返事をするが“どの”指輪を使うのかを理解しているのだろうか?

 尤も、彼らが持っている魔法の品(マジック・アイテム)など数える程しか無いので“指輪”で充分に伝わっていた。


「バゾル……」


 そうコマンドワードを唱えながら兄はまた能力を使用したのだろう。

 フェイズ・シフトの効果でヘクサーの目に映る光景は一瞬で変わる。


「クイン……」


 また別の建物の屋根に移動した。


「デゾット」


 兄が唱えたコマンドワードによって彼ら二人の姿がブレたように多重化した!

 指輪の力は集団鏡像マス・ミラー・イメージだったのだろう。




・・・・・・・・




「くっ!?」


 屋根の上を駆けながらミヅチは歯噛みした。


 追っていた二人は何度もテレポートしながら遠ざかっていく。

 稀にこちらの方を振り返って追撃者である自分の位置を確認しているようだが、自身が幾ら早く走ってもその距離はどんどんと開くばかりだった。


 おそらくは、そういう魔術か【固有技能】なのだろう。

 だが、魔法の品(マジック・アイテム)の能力を使っている可能性も否めない。

 

「ケル・アイク・フォージン・ガ・レング!」


 平坦な屋上を走った際に呪文を唱えてみたが、放たれた石の矢(ストーン・アロー)は直後にテレポートされた事で命中角から外されてしまい、虚しく宙を飛んだだけで掻き消えてしまった。

 そのテレポートがこちらの魔術を認められたことで使われたのかは不明だが、ミサイルでも付けない限りはどうやっても命中は覚束なそうな事だけは理解できた。


――アル(あの人)は?


 魔術を無効化された事で無様に路に落ちていった配偶者は心配だが、死ぬ事だけはあるまいと気を奮い立たせる。

 少なくとも今、彼らの逃走先を見逃すことは出来ない。


 何しろ、交戦国に対してアルを含む大部分の転生者の顔が割れてしまった(流石に全て覚えられてしまったという訳ではないだろうが、何人かの顔は覚えられてしまった可能性は否めない)うえ、秘密兵器とでも言うべき銃の存在について感づかれてしまった可能性が高いのだ。


 そして……。


「なっ!?」


 二人の姿が何重かにブレたかと思ったら、それはテレポートをされる度にどんどんと拡がっていった。


 ミヅチの眼の前で分身の術を使われてしまった。

 恐るべき集中時間の短さと言えるだろう。


 アルのように走りながらなど何か別の行動を取りながら魔術を使える訳ではないのだろうが、恐るべき集中時間の短さである。


――ひょっとしてあれこそが魔法の品(マジック・アイテム)


 ミヅチの予想は完全に的を射たものだが、だからといって何か事態が好転する訳ではない。


 とにかく、今は一瞬でも分身の元となった二人から目を離すことは出来ない。

 少しでも目を切ってしまったらどれが本物なのか見失っても何の不思議もないのだから。




・・・・・・・・・




『くそ、やべーな』


 何度も転移を繰り返した事で、二人はもうとっくに商業地区から住宅地へと移動していた。

 追撃者であるミヅチとの距離は一〇〇m近くになっており、既にかなりの距離を稼いでいた。


 しかし、あの速度が続けられるのならここまで二〇秒もしないうちに辿り着かれてしまうだろう。


 二人共白兵戦にはそれなりの自信は持っていたが、不安定な屋根の上であれだけ俊敏に移動可能な相手は白兵戦技もそれなりであろうと思われる。


『例の巻物スクロールを使え!』


 兄の言葉にヘクサーはまだ手放していなかったサドルバッグの隠しポケットに手を突っ込むと一葉の紙を取り出した。


 その間に兄は最後のテレポートを行う。

 目標は住宅地の端に建ち、戸が開け放たれたままの物置小屋だ。

 普段は農機具か何かをしまっておく建物だろうか。


 戸が開いているままであるとは言え、少し奥に入ってしまえば簡単には見つからないだろう。

 だが、その簡単に発見されない数十秒が貴重なのだ。




・・・・・・・・・




 ミヅチの見ている先で、本物と思しき二人組が姿を消した。


――またテレポートか。


 次に現れるのは更に先の屋根か、こちらが追撃し難そうな屋根の建物か。


 屋根の上を飛ぶような速度で駆けながらミヅチは姿を消した二人組を見逃すまいと集中した。


 しかし、今まで一瞬で別地点に姿を現し続けていた二人組は、ミヅチが二歩も駆けているのに姿を表さない。


――ちっ、下に降りられたか!


 瞬間的に転移先を悟るミヅチだが、今地上に降りても見失うだけだ。


 少なくとも最後に彼らが見えた場所まではこのまま進むしか無いだろう。




・・・・・・・・・




「ゲッツ・バイン・クンマス・ラーゲルト・バフイ・カーズ・エキグルス・サイズ・カ・バーベヘッシ・コールゲ・アーザシ……」


 ヘクサーが目の前に広げた一葉の紙に書かれている呪文を唱えてく度に紙の文字は青い炎とともに消えていく。


 

■コミカライズの連載が始まっています。

 現在、Webコミックサイト「チャンピオンクロス」で第一〇話②まで公開されています(毎月第二木曜日に更新です)ので、是非ともお気に入り登録やいいねをお願いします。

 私も含め、本作に携わって頂いておられる全員のモチベーションアップになるかと存じます。


■本作をカクヨムでも連載し始めました(当面は毎日連載です)。

 「小説家になろう」版とは少し異なっていますので是非お読み頂けますと幸いです。

 ついでに評価やご感想も頂けますと嬉しいです。


■また、コミックス1巻の販売が始まっております。

 全国の書店や大手通販サイトでお取り扱いされておりますので、この機会にご購入いただけますと関係者一同凄く温かい気持ちになれますのでどうかご購入の程、宜しくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
スキル無効を使うと事前にわかっている上で、周りを何重にも囲っているのに、 逃げられるとかありえないと思うが。。。 逃げられる設定なら、周りを何重にも囲う設定とか屋根にも見張りを配置してる設定とかは不要…
…また取り逃がすの? 状況が毎度違えど今回これだけ囲ってるのに3度目は流石にもやるな 上手くいっても兄弟どちらかに逃げられて情報持ってかれんだろうなあ
マニュアルに「一番最初に意識を奪うか、難しいなら足を狙え」と追記されそう ここでの取り逃しは結構痛い失点だよなぁ それとも、ここから取り返せるかな? 銃は技能無効関係無いから、射程外から狙撃すればい…
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