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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第五百十八話 物見遊山(偵察) 12

7452年9月24日


 ここがあのラーメン屋の真裏に当たる位置の筈だ。


 男はフードに顔を隠して少し俯き加減で裏通りを歩く。


 ラーメン屋の真裏では小規模な木工屋が営業していた。


 店先を覗くと品揃えはランドグリーズにある普通の木工屋とあまり変わらないようだ。


――工房は奥……建物の両脇は隣の建物とほぼ引っ付いていてラーメン屋に裏口があったとしても逃げるのは容易ではない、か。道理でこちら側の監視はゆるい訳だな。


 確かにこちらの裏道には監視はほぼいない。

 尤も、ほぼいないだけで全くいない訳ではないので、ラーメン屋に裏口があったとして、そして、この木工屋の裏口から侵入出来たとしても、監視の目を誤魔化すのは困難だろう。


――とにかく、抜け道を探しておかなにゃあな。


 男は木工屋を出ると少し歩いて更に奥の裏道へと続く路地に入った。


 そこにはやはり騎士団に所属しているであろう監視がいた。


――こんな路地に三人も……この路地は使えんな……。


「すみません」


 監視らしい者達に断って彼らの脇をすり抜けるように路地を越え、更に奥の裏道に出る。


 予想していた通り、この裏道にも監視の目は張り巡らされており、しかも今まさに増員しているところでもあったらしい。


 丁度今抜けてきた路地のすぐそばに四人もの騎士団員がたむろし始めたところだった。


――相変わらず俺は注目されてはいないようで、これは助かったな。


 そんな事を考えながら商店街の外れまで来てしまった。


 ここから先はこのデバッケンに在住する平民や奴隷が住む家や宿などがひしめいている住宅地だ。


 流石に道行く人が監視なのか、単なる通行人なのかについては一概に判断は出来ない。


 しかしながら、男の目にはかなりまばらになってはいるものの、騎士団に所属しているらしい歩き方をしている者も映っている。


 ひょっとしたら騎士団を退役した者かも知れないが、ロンベルト王国では徴兵は殆ど行われておらず、騎士団員のほぼ全てが志願者であると聞いている。

 徴兵が主体のデーバスとは異なり、任期が明けた“騎士団の従士出身者”という存在の数は非常に少ないと耳にしていたし、今までに通ってきた街や村でもそう思えた。


――しかし、この短時間でこれだけ広範に監視を展開させられるとは……やはり練度は王国デーバスとは雲泥の差のようだな……。


 ついでとばかりに、市街地の方も覗いてみる事にした。


 予想した通り、商業地区と同様に三~五軒の建物が二列に並んで一組で一つの街区を構成しているようだ。

 街区の長辺が少し広い通りになっており、狭い方が路地である。


 ラーメン屋は三軒並びの真ん中にあり、その並びの後方に少し小さな建物が四軒並んで構成されている。

 さっきの木工屋はその四軒並びの一つだ。


 立地からしてラーメン屋への出入りは表の出入り口を使うのが普通で、裏口はあったとしてももう既に固められている可能性も高い。

 見た感じ、両隣の建物との隙間も狭く、人一人が体を横にしたなら通れるか、という狭さなので仮にラーメン屋の建物の横に出入ではいり出来る戸などがあったところで換気くらいしか役目はないだろう。


――だけど、この監視網じゃあ地上にいる限りどうやっても捕まっちまいそうだ。流石は練度の高さが売りのロンベルト、と言ったところか。ふん……念の為と思ってやはりこいつに変身しておいて正解だったようだな。


 男は僅かに口の端を上げて嗤った。


 慎重な性格なのか、そっと辺りを見回して監視の目が無い場所に行き着くと肩に掛けた雑嚢を降ろす。


 雑嚢の口を開くと、その中から絶対に持ち帰りたいものをより分けて雑嚢に入っていた小型の背嚢に移し替えた。

 因みに、移し替えた物はラムヨークの街で購入した五足のサンダルと、先ほど雑貨屋であがなったばかりのゴム製の小丼こどんぶりだ。

 なお、財布は幅広のベルトに固定されている分厚い革製の小箱に丸めたハンカチと一緒に高額貨幣を収め、パンツの腿部分には小袋に入れた少額貨幣を収めている。


 雑嚢に入っているのは下着や着替え程度であり、彼の身元を探れるような物は何一つない。


 特徴的なのは、少し大ぶりな獅人族ライオス虎人族タイガーマンの衣服のようなものから、小柄な山人族ドワーフ矮人族ノームが着るようなサイズまでごちゃまぜなところだろうか。

 また、衣類は清潔そうなものから不潔そうな物までそれなりの数が薄手の袋に仕分けされて取り揃えてあるので、それが一つの雑嚢に詰まっているのは少しばかり不自然に思える。 


 ひょっとしたら古着屋という可能性も否めないが、それにしては雑嚢ひとつ分に収まる程度の在庫というのも少な過ぎる。

 尤も、古着だろうが衣類はそれなりの値がするので一財産と言えなくもないが、流石にこの量の、しかも古着ばかりだと金朱二個(五〇万Z)になるかどうかも怪しいところだ。


 その雑嚢を再び肩に掛けると男は別の道を使ってラーメン屋の方へ足を向けた。


――それにしても、監視は増員されているらしいが大きな動きはない、か。一体何を話しているんだか……。




・・・・・・・・・




 バーリ駅を越え、一〇㎞だけ線路のない森の中を東に突っ切ってショートカットしたためか、結構短時間でダート中央線の線路に行き着いた。


 線路上を東に一〇分程も飛ばしたところでランセル伯爵領(中部ダート地方)の首都バライズの郊外に広がる耕作地が見えた。


「頑張れ! あと半分だ!」


 あとはこの線路上をひたすら東に進めばデバッケン駅に到着出来るだろう。


「うひぇ~」

「まだ半分かよ」

「疲れたぁ~」


 ようやっと半分と聞いて皆は口々に軽口や不満を言い立てるが、そんな事を言える余裕が残っているという証左でもある。


 それを伝える為の軽口なので俺としては丁寧に無視するだけだ。


 だが、まぁよくも脱落もせずに付いて来れているものだ。

 普段からきちんと体力の錬成には手を抜いていない証拠でもある。


 これは単純に嬉しいものだね。




・・・・・・・・・




「げっぷ……」


 サージは口を押さえながら大きなゲップをした。


 チャーシューや餃子をつつきながら飲む酒は、ターゲットになかなか気に入って貰えたようで会話は弾んでいる。


『いやぁ、あの芸人は私もファンなもので。語り口が結構好きなんですよ……』


 話題は前世に放送されていた愚にもつかないテレビ番組や、


『この店って先払いじゃないんですね……ああ、バストラルさんだからですか』


 ラーメン屋の話、


『針や麻布ラミーはあまり嵩張らない割には結構売りやすくていっすよねぇ……』


 商売の話、


『へぇ、このワインはデボイン産なんですか。純粋な赤ワインはなかなか珍しいっすねぇ』


 酒の話、


『これ、煎り酒って言いましたっけ? 仕入れらんないすか? あ、やっぱ無理っすか。そうっすよねぇ……ところで味噌ってないもんですかねぇ……俺ぁ味噌汁が飲みたくて、豆腐とネギのやつ』


 醤油など調味料の話、


『最近は結構いい天気が続いて助かりますよね」


 天気の話。そして、


『やっぱどこも軍馬には苦労してんすね……私もザンゴで馬ぁ売らないかって言われて断るのに往生しましたよぉ。いや、流石に私の馬は軍馬としては役に立たないでしょうし、結局荷運びなどの雑役馬になっちまうのがオチでしょうからねぇ……』


 軍事関係の話に移っていった。


 サージももう既にそこそこに酔いが回って来ているが、酔いつぶれるにはまだかかる。

 それはヘクサーと名乗った男も同じようで、互いにワインにはちまちまとしか口を付けていない。


 木製のカップ(流石に四号店にまでガラスのグラスは間に合っていない)になみなみと注がれているので、二人共まだ二杯目で粘っている。


『そう言えば、バストラルさんは元素魔法を四種ともご使用になれるなんて、羨ましいですね』


 ヘクサーの顔には心の底から羨ましそうな表情が浮かんでいる。


『バーンズさんだって複数の元素魔法を学んでいらっしゃるじゃありませんか。四種とも習得済みとは言え、私などレベルは〇か一ばかりですからね』


 サージもごく自然な声で返す。


『まぁ、魔法なんてそう役に立つものじゃありませんからね。私なんか、生まれ変わって魔法が存在することを知った時にはそりゃあ憧れたもんでしたが……』

『確かに。地味~な修行なんかかったるくてやってらんなかったです』

『ははは。ですよね。私も師匠になった人がものぐさだったのか、あまり高度な魔術をご存じなかったようで、こりゃ大して役に立たないなとすぐに投げ出しちまいして。それでも〇レベルのままってこたぁありませんけど』

『ふふふ。私もその口ですよ。ド派手な攻撃魔術とか……ファイアーボールとか聞いたのもつい数年前でして……そん時に少しだけ修行をやってみましたけど、それでも面倒くさくてすぐに、ね』


 ヘクサーはその言葉を聞いてもニコニコしながら煮卵を頬張るだけだった。

 サージとしては、ネルからデーバスの親衛隊に所属するらしい間者だと聞いていたために心中では意外さを禁じ得なかったが、相変わらずポーカーフェイスを崩すことはない。


『ところで、このラーメン屋は大したもんですね。グリード侯爵も我々と同じ生まれ変わりなんですか?』


 サージは“そら来た”と思って微笑む。


『ええ。そうでなければラーメン屋なんかに貴族が出資する訳はありませんからね……』


 口元を隠すようにワインのカップに傾ける。


『やっぱりねぇ。バストラルさんはグリード侯爵とは長いんですか?』

『ええ、それなりに』


 ヘクサーは純粋に興味がありそうな顔で聞いてくる。

 勿論、純粋な興味も無いではないが、会話を広げる為の撒き餌の一つだ。


『いつ頃お知り合いに?』

『もう七~八年になりますかね……』


 サージも薄っすらとした微笑みを些かも崩す事なく自然に返答した。


『私もお会いできますかね?』

『私からお願いすれば多分。閣下も転生者にはお会いしたいと仰られるでしょうし……』

『てんせいしゃ?』

『ああ、例の件で生まれ変わってきた元日本人を我々は転生者と呼んでいるんですよ』

『へぇ』

『そうそう。グリード閣下との面談をご希望なら数日で会えると思いますよ』

『ええっ? 本当ですか?』


 驚きのあまり目を見開いてヘクサーが言う。

 上級貴族への目通りなど、ロンベルト王国でもそう簡単に出来る事ではないので全く不自然ではないが、転生者と会うという理由なら理解できる。


『でも、べグリッツ……閣下のおわす侯爵領の首都まで行って頂く必要はあると思いますが』

『ああ、それはそうですよね……』




・・・・・・・・・




 少し前に先頭(風よけ)を代わったクローが無言で右手を立てる。


 その手はピースサインのように指が二本立てられており、直後にチョップでもするように右と左に振り下ろす。


 遠くに馬車鉄道の車輌が見えたのだろう。

 線路の左右に分かれて避けろという合図だ。


 線路を外れてしまうので路面状態はかなり悪くなってしまう。

 そのためそよ風の蹄鉄ブリーズ・ホースシューを履かせている乗騎には問題がなくとも、騎乗している騎手には更に大きく揺れることになるので大問題だ。


 できればギリギリまで避けたくはないが、安全のために今から避けておかなくてはならない。


 俺も右手を上げ、指を三本立てるとすぐに人差し指を一本だけ立てて左側にチョップをするように振り下ろす。


 そして手綱を操ってウラヌスを線路の左側に退避させる。

 勿論、速度は落とさない。


 これで俺よりも後ろに続く皆は一頭づつ空けて三騎で二列になり、線路の左右に分かれてくれるだろう。


 左側に退避すると遙か先の方で、俺達の駆る軍馬と比較してのろのろと走る馬車鉄道が見えた。


 あっという間に追いつくと、最後尾の鉄道護衛官が敬礼を送ってくる。

 あいつは……黒女神デウーザ・ネーグラの戦闘奴隷か。

 真面目に勤めてるんだな。


 だけど、答礼するのにも体力を消費するので正直なところ多少不真面目にしていて欲しかった……。




・・・・・・・・・




――あれは……!?


 ラーメン屋から数十m離れた路地に入ろうとするネルを見掛けたことで男は驚愕し、すぐに顔を下ろした。


――あいつ、まだ店に入ってなかったのか。


 駅で見失ってから今までその姿を確認出来なかった事もあり、ネルについてはもうとっくにラーメン屋に入っているものだとばかり考えていた。

 彼自身はとっくにロンベルトの生まれ変わりは複数であることに気付いていたものの、それを誰かに気取られることなく弟に伝える手段がなかった。


 また、過去にネルの顔を見た訳でもなかったので、こちらがデーバスの出身、まして親衛隊の所属である事が漏れているとは夢にも考えていない。


――くそ、店の外に生まれ変わりがいたんじゃ見咎められるかも知れんな。あの飯屋で待機は危険すぎる。どうする?


 こうなったらいっそラーメン屋に入ってしまうのも一つの手に思えるが、粘れても小一時間がとこだろう。


 麺屋グリード四号店はメニューを外に貼り出していない(オースの飲食店でメニューを外に貼り出している店などゼロと言っても良いが)ので酒を提供する店だとは思ってもいない。


 せいぜい、安物のビール(エール)があれば良い方だという程度の想像だ。


 尤も、その安物のビール(エール)で長っ尻を決め込む者だって少なくはないので、最後の手段としてそれも頭の隅には残しておく。


 

■コミカライズの連載が始まっています。

 現在、Webコミックサイト「チャンピオンクロス」で第一〇話②まで公開されています(毎月第二木曜日に更新です)ので、是非ともお気に入り登録やいいねをお願いします。

 私も含め、本作に携わって頂いておられる全員のモチベーションアップになるかと存じます。


■本作をカクヨムでも連載し始めました(当面は毎日連載です)。

 「小説家になろう」版とは少し異なっていますので是非お読み頂けますと幸いです。

 ついでに評価やご感想も頂けますと嬉しいです。


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 全国の書店や大手通販サイトでお取り扱いされておりますので、この機会にご購入いただけますと関係者一同凄く温かい気持ちになれますのでどうかご購入の程、宜しくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
やはり変身能力はアルの鑑定に次ぐ位の破格さがあるね 万能ではないけれども使える場面の多さと威力は便利よね
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