表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

898/931

第四百九十五話 謎の襲撃者 14

7452年8月16日


 レーンティア・ゲグラン准爵について、捕虜にしたクソガキ共を尋問して判った事はそう多くなかった。


 一つは、俺のように別の世界から生まれ変わったなどというアホみたいな事は言っていないこと。

 しかし、これについては言う必要がないから言っていないだけのような気もする。

 俺にしてみれば正直どうでもいい。


 一つは、奴隷たちには優しく接しながらも、時に厳しく叱ることもあった。

 それもこれも、奴隷たちの身を思っての事であると理解されており、心の底から彼女を敬慕、と言うよりは尊崇する者が多い。


 何しろ、手に職をつけてくれたのだ。

 しかも非常に貴重な職だ。


 習い始めはともかく、今では立派に魔術師として食っていける領域に近く、それは奴隷だとかそうでないか以前の問題である。


 ここまで判明した時点で確認する、しなければならない事は一つだけだ。


 だが、どうにもこの場ではやり難い。


 バースもそうだが、ベンディッツを始めとする赤兵隊の面々には今の時点で聞かせたくない話になるからだ。


 しょうがないのでそれぞれがゲグラン准爵に購入された時期や経緯などを訊いて誤魔化すことにした。


 チラっとミヅチたちの方を見ると、彼女らは三人でケルザスロンを取り囲んでなにやら尋問している真っ最中なので時間稼ぎが必要だったのだ。

 尤も、全員から言質を取るつもりなんかないので一番物を知ってそうな奴を選別すると思えばどうと言う事もない。


 ガキ共の中でゲグラン准爵の奴隷として一番古株なのは、ケルザスロンから一番魔術が得意だと聞いていたジョルジュ・ジューダンという一六歳の狼人族ウルフワーの小僧だった。


 尤も、本当に一番の古株だった奴は風魔法が使えなかったためか、窒息死して喉を掻き毟り苦しんだ表情を張り付かせたまま転がっている普人族ヒュームの女の子だ。

 死人から話を聞けはしないので邪魔にならない隅の方に転がしてある。


「おい、一人づつ尋問したい。まずそいつをあの辺りまで連れて行け」


 俺はジョルジュを指し示しながら赤兵隊の若い奴に命じた。

 赤兵隊員から二人が走ってきてジョルジュを両脇から引き起こし、両足首が縛られているので俺が指定した場所に引き摺って行く。


「私が見ているから戻っていいぞ。あ、後でまた別の奴を指定するからその時も頼むな」


 赤兵隊員に言うと再び正座をさせられ両手を頭の後ろで組まされたジョルジュの前にしゃがんだ。

 しゃがんだとはいえ、相撲や剣道で言う蹲踞そんきょの姿勢なので相手の動きに対して充分に素早く反応することは可能だ。


「お前、なんだその目つきは?」


 そう言うが早いかノーモーションで鼻先にパンチを叩き込む。


「ぶがっ!」


 鼻血が噴き出るが大して強く殴ってもいないしその程度だ。

 勿論、体が倒れるほどの威力でもない。


 クソ生意気そうな目つきが気に入らなかったので軽く撫でてやっただけだ。


「おい、実力が足りないから捕虜になってるくせに睨むんじゃねぇよ」


 またビンタをしてやる。


「ん? まだそんな目つきで俺を見るのか?」


 今度はビビらせる意味も込めて額からフレイムアローをミサイル付きで発射し、これ見よがしにくるりと一回転させてジョルジュの右前腕を貫いた。


「うがぁっ!?」


 驚き、怒り、痛み、すべてが綯い交ぜになった顔と声でジョルジュは目を見開いて自分の怪我と俺の顔とで視線を動かす。

 腕を貫いた炎の矢は少しだけ周囲の肉を炙ると、音もなくすぅっと消えた。


「今ので判った通り俺はお前なんぞとは比較にならん程、魔術師として力は隔絶している。それを理解したうえで反抗するなら止めないから幾らでもしてみろ。だが、その時点でお前がレーンティア様のお役に立てる機会は永遠になくなるだろうがな」


 小馬鹿にしたように言うとジョルジュは情けなさそうな、悔しそうな顔をして俯いた。

 しっかりと自分の立場を理解したのかどうかまでは解らないが、少なくとも表面上はそう見えるのでこれ以上痛めつけるようなことはしないでおいてやる。


「ところでお前、ペネトレイターの魔術を使えるんだってな?」


 大きく広げた両膝に両手を乗せて尋ねる。


「……使えるが、それがどうしたよ?」


 憎々しげな顔でジョルジュが答えた。


「あ?」


 また鼻先にパンチを見舞う。


「何だお前、まだ立場を解って無いようだな?」


 連続して今度はストーンアローミサイルで左腕の前腕を貫く。


「あっ、ぐあっ!」


 苦痛に歪む顔を観察しながらゆっくりと立ち上がり、腹に蹴りを入れた。


「突っ張るのもいいが、相手を選べ。もう二度は言わん。俺に返事をする時はまず“はい(ゼー)”か“いいえ(ナン)”で答えろ」


 そう言うと薄黄色い胃液を吐いているジョルジュの髪の毛を掴んで引き起こす。


「おい、分かったら返事をしろ」

「じぇ、はい(ゼー)……」


 ジョルジュの頭を胃液で汚れた地面に乱暴に叩きつけると掴んでいた髪を離す。


 鼻血と涙、涎と胃液で酷い状態の顔のまま、ジョルジュはゆっくりと上体を起こした。


「で、ペネトレイターの魔術は他に誰が使える?」


 再び正面に回り、酷い顔には反応せずに続けて尋ねる。


「はい……ゲオルクとホルヘ……ジョルジョ、イェーオリです」


 ここで嘘を交える意味はないと考えるくらいは出来るのか、ジョルジュは正直に答えた。


「そうか。あと、ペネトレイターも含めてお前らに魔術を仕込んだのはレーンティア様だな?」

「……はい」


 この質問はレーンティア様とやらの他に有力な魔術師がいないかどうかの確認だ。

 ケルザスロンは技能のレベルも高いし多くの魔力量(MP)を保有してはいるが、水と火魔法しか持っていないからな。


 嘘は吐いていないので最後に一つ確認したら“今は”許してやろう。


「お前、もっと子どもの頃に何回も魔力が空になるまで使わされているな? それを指示したのは誰だ?」

「レーンティア様です」


 これはある意味で想像通りだが想像から外れてもいる。

 俺は、幼少時の魔力切れによるMP増大法についてレーンティア様に吹き込んだ奴がケルザスロンではないかと考えたのだ。


 ちらりとケルザスロンの方を窺うと彼女はまだミヅチたちに囲まれて尋問を受けている。


 ま、いいか。


「おーい、誰か適当な奴と交換してくれ!」


 少し離れたところに八人のガキを並べているバースたちに声を掛けた。




・・・・・・・・・




 ガキ共を締め上げてもそれ以上レーンティア・ゲグラン准爵に対する新たな情報は得られなかった。

 元々こいつらは揃って二年近くも前にダート平原に放り込まれていたというから、最近では滅多に会う機会が無かったという事もある。


 因みにダート平原に放り込まれた理由は「将来レーンティア様の警護要員となるための修行」だとの事だった。


 理由自体は笑っちゃうが、何とも腑に落ちない。


 その上、彼らのように小集団を組ませてダート平原に駐屯させていた奴らもいるという。

 所属は全員白鳳騎士団で、部隊は独立警備小隊だそうだ。


 こいつらは第四独立警備小隊。


 そして、以前タンクール村周辺で戦ってぶっ殺したのが確か第三独立警備小隊だった。

 短時間ではあるがクローの【誘惑セデュース】に囚われて、吐かせた後で信頼するクローに刺殺された女(名前なんかもう忘れたが、その時の顔は一生忘れられないだろう)が思い出される。


 第三と第四があるのだから第一と第二があるのかと聞いたら、そうではなく、第五と第六があるらしい。

 そのうちのどっちかは以前見逃してやったガキが所属していた部隊なのではないかとも思う。

 なお、第一と第二はレーンティア様とは全く関係ない本物(笑)の独立警備小隊で、騎士団の幹部に対する護衛部隊だと言う。


 ひょっとして、ひょっとしてだが、レーンティア様は肉体レベルの存在に気が付いているのかもしれない。

 その肉体レベルの上昇を狙ってダート平原の魔物モンスターを狩らせていた?


 考え過ぎかもしれないが、その可能性を否定する材料もない。


 ま、そのあたりの材料を持っているとしたら、下っ端のこいつらガキ共ではなくケルザスロンしかいないだろう。




・・・・・・・・・




 ガキ共はバースと赤兵隊に任せ、俺は再びケルザスロンのところに戻った。


 ケルザスロンは同郷の闇精人族ダークエルフたちに囲まれ、過去に犯した殺人について詰問されていたようだ。

 そりゃまぁ、俺的に罪は償っているとは言え、元々大して多くもない同族を殺したんだし、事情や動機についてなんか聞きたくなる気持ちも解らんでもない。


「私は興味ないから別にどうでもいいんだけどね」


 ミヅチは彼女が犯したという殺人については本当に興味が無いようで、俺が近付いて来たのを認めるとすぐに俺の隣にやって来た。

 そして、


「痴情のもつれが原因だったみたいだけど、どうも殺された方が一方的に彼女に迫っていたみたい。裁きの場でもそう主張したらしいんだけど、殺したのはやり過ぎだって取り合ってもらえなかったんだって。当時被害者は結婚していて子供もいたらしいわ」


 と言って肩を竦めた。


「ふーん。彼女には気の毒かもしれないけど、そっちは俺も興味ないな。だけど、今から訊く事はお前も興味があると思うぞ」


 そう言うとまだ何か訊いている護衛たちに断って彼女の正面にしゃがんだ。


「さて、待たせたな。じゃあお前のご主人様、レーンティア・ゲグランについてもう少し聞かせて貰おうか……」


 ケルザスロンは少し不満そうな顔で俺を見た。


「レーン様をお呼びするなら敬称くらいは付けてくれないか?」

「ああ、そうだったな。悪かった。以降、彼女を呼ぶ時には敬称を付けることを約束しよう」


 面倒くさいが、情報は出来るだけスムーズに引き出したい。


「今まで通り正直に喋るなら手荒な真似はしない……まず最初に確認だ。あいつらみたいなガキに魔術を仕込んだのはお前か?」

「違う。最初に仕込んだのはレーン様だ。私が買われた時にはああいうのが既に何人も居て、私もその手伝いでそいつらに多少魔術を教えてやった程度だ」


 嘘ではない。


「そうか。では次の質問だ。お前らはダート平原で何をしている? 白鳳騎士団とは別に、そもそもレーンティア様がお前らに命じていることを話せ」

「魔術や戦闘技術の研鑽だ」


 これも嘘じゃない。

 って事はやはり?


「……魔石のノルマはあるのか?」

「ノルマ?」


 おっと、ノルマはロシア語だったか。


「一週間や一月など、一定期間のうちにこれだけ魔石を取ってこいというような規定された作業量のことだ」

「そういうのはない。勿論、魔石を得るような事があれば全てご主人様に差し出すが」


 ふーん、魔石のノルマ無しとは、こりゃたまげたね。

 それとも、いちいちノルマなんぞ設定しなくてもちゃんと魔物を殺しまくっていて、それで充分に満足していたという事だろうか?


「じゃあ次だ。ああいったガキ共に対し……」


 レーンティア様が奴隷たちから高い忠誠を受けている件について色々と訊ねた。

 特に普通は有り得ない、魔術を仕込む事についてだ。


 基本的に全ての奴隷は労働力である。

 勿論、人によって向き不向きはあるが、何らかの生産活動に寄与する事を期待して購入されているのが一般的な見解だろう。


 それは農業や漁業に代表される一次産業でもいいし、場合によっては一次産業から得られた品物を加工する二次産業でもいい。

 場合によっては商業や飲食サービスなど三次産業でも使えると思うし、現代の地球では情報通信や医療サービスなど第四次産業とでも言うべき分野でも実質的な奴隷はいる。

 俺の戦闘奴隷なんかは軍への所属はともかく、魔石の生産という一次産業に従事させていると言えなくもないし、ソーセージ工場なんかで働かせている奴隷たちはモロに二次産業だ。

 そして、ラーメン屋は三次産業に当たる。


 しかしながら、レーンティア様がやっているのはそのどれにも当て嵌まらない。

 強いて言うなら戦闘奴隷なので一次産業と言えなくもないだろうが、冒険者ではなく軍隊である騎士団に所属させている割には軍から通常の部隊同様の軍事行動は命じられてはおらず、不定期かつ突発的に軍事行動を補佐するような命令がある程度で普段は碌に働いていない。


 その時点で俺の中では違和感バリバリである。


 軍に所属させているのも、将来的に軍人として働かせたいという考えがあるなら理解はするが、それなら通常の命令系統に組み込まずにわざわざ独立部隊まで編成して好きにやらせているというところが理解できない。


 あと、奴隷が己の主人に対して忠誠心を持つのは当然で理解できるが、その持ちようが理解不能だ。

 あれはズールーをも上回る程の忠誠心で、忠誠と言うよりは尊崇とか崇拝、心酔と表現する方がしっくりくる。

 正に宗教にどっぷりと嵌まっている信者が神に対して抱く気持ちに近い崇められようだ。


 ズールーなんか、俺が用を言い付けようとしても、女との約束があれば残念そうな顔をする程度の気持ちしか持ってねぇし。

 いや、まぁ、それでも奴隷として得難い存在であることは確かなので可愛いんだけどな。


 確かにレーンティア様はお優しく、慈悲深いのだろうが、それにしても、だ。


 奴隷たちの将来の事まで心配して魔法、魔術という中々に得難い技術スキルを身に付けさせ、ある程度の教育まで施す、というのは……。


 本当にお優しく、慈悲深いのであれば奴隷という立場から解放し、自分の養子にでもしてやるか、それが無理ならミヅチみたいに孤児院でも設立してそういう場で行うべきだろう。


 何にしても奴隷のまま、というのが本当に解せない。

 加えて言うなら、それで仕込んでいるのは戦闘奴隷としての教育である。


 俺みたいに将来的に打つ何等かの布石として考えているとしか思えない。

 それにしては数も大した事なさそうってのがねぇ……。


 そういう俺にしたって、あのガキ共みたいにただ遊ばせておくなんて事はしていない。

 孤児院を設立したミヅチだって、教育と言うよりは乳幼児のうちに簡単に死んでしまわないように生活の場を与える、という意味の方が強いし、共同で幼児の面倒を見る託児所としての意味も大きい。


 が、これもケルザスロンに言わせるとジーンという最年長の戦闘奴隷自身がゲグラン准爵に心酔し、他の者に対してもそう思うように仕向けていた部分も大きいという。


 何しろ、ゲグラン准爵は魔法が使えない奴隷に魔法を仕込んで育てるという、表向きかなり変わった趣味を持つ人物だ。


 その部分だけ捉えると魔法を仕込む事で安価に購入した奴隷の価値を高めて転売し、大きな利鞘を稼ぐ、というように捉えることも出来るが、ケルザスロンが買われてからの一〇年間で他に売られた者は一人もいない事からそれは否定されている。


 また、ライル王国同様に幼少時から魔力切れを経験させる事で魔力が伸びるという事にはケルザスロンを購入するよりも前に気付いていたフシがある。


 流石にここまで突っ込んだ内容を訊いているのをミヅチの護衛たちに知られるのは憚られるからこの場で確認はしていない。

 今のところ殺すつもりはないから今後幾らでも確認は可能だ。


 じゃあ、そろそろいい時間だし、捕虜にした“戦利品”でも持って帰るとしますかね。


 ところでこいつらも、ロンスライルの奴隷商会に頼めば再教育して貰えんのかね?

 あ、いや、"サモリ”って所を調査させなきゃなんないんだっけ。


 弱そうな奴を二人ばかし選んでやんなきゃな。


 

■コミカライズの連載が始まっています。

 昨年の11/14(木)よりWebコミックサイト「チャンピオンクロス」で掲載が始まっており、現在第五話まで公開されていますので、是非ともお気に入り登録やいいねをお願いします。

 私も含め、本作に携わって頂いておられる全員のモチベーションアップになるかと存じます。


■本作をカクヨムでも連載し始めました(当面は毎日連載です)。

 「小説家になろう」版とは少し異なっていますので是非お読み頂けますと幸いです。

 ついでに評価やご感想も頂けますと嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アルが昔に言ってた現状の奴隷制は人を雇うのと対して変わらないし オース一般で見ても資産として無体働くと減価償却出来ない大切な人材 それを死地である軍務やダート平原でレベル上げを命じ道具の様に扱う様が認…
いつも楽しく読ませていただいています。 他国の侯爵相手に自分たちから仕掛けて捕まっておきながら、 爵位も持たない男爵の娘に敬称を付けろと捕虜の奴隷が言い出すのも、 それを聞き入れて侯爵が準貴族風情に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ