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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第四百九十四話 謎の襲撃者 13

7452年8月16日


 ふん縛った一〇人の奴隷たちからリーダーらしい闇精人族ダークエルフを離し、残った九人は横一列に並べさせ、両足を縛って正座させたうえで両手は頭の後ろで組ませている。


 そちらの監視はベンディッツ以下の赤兵隊とベンとエリーに任せ、俺、ミヅチ、その護衛二人にバースはリーダーであろうケルザスロンという名のダークエルフを囲んでいる。


「うがっ!」

「動くなっつったろうが!」


 エリーが女の奴隷に蹴りでもくれてやったのか、叫び声が上がった。

 まぁ、地面の上に正座は、正座に慣れている奴でも辛いからね。


 俺はそちらの方には目もくれずに、眼の前で正座をさせられているケルザスロンの前にしゃがむ。


「さて、お前。ケルザスロンといったな。お前たちが白凰騎士団の第四独立警備小隊としてデーバス王国軍に所属している事はもうわかってる。命じられた任務内容を教えてもらおうか」


 そう言って、じっとケルザスロンの目を覗き込んだ。

 その瞳は、ミヅチと同様に少し歪んだアーモンド形をしていて、色は紫色だ。

 ラベンダー色とでも表現するのがぴったりだろう。


 ケルザスロンは表情を一切動かすことなくじっと俺を見返したまま口は開かなかった。


 彼女は俺の目から見てもすごい美人だが、にらめっこをしたい訳じゃない。


 ケルザスロンの右後ろに立ったまま抜き身の剣を手にしているバースをちらりと見上げる。


 バースは軽く頷くとガキ共の方へ歩き去った。


 ?


 俺は後ろからケルザスロンの脇腹でも蹴りつけろ、という意味で見たんだが。


 まぁいい。


「これは何だ?」


 身ぐるみ剥いだ時に何人かから回収した物のうちから数枚の羊皮紙を見せつけるようにして尋ねた。

 羊皮紙にはデナンかキンケードを覆う土壁が描かれている。


 似たような構図を描いたイラストが数枚あるが、これらは全てデナンを描いたものだろう。

 出入り口の方角的に。


「……」


 だんまりか。


 ミヅチを見上げると、彼女はすかさずケルザスロンの脇腹に爪先をめり込ませた。

 ボキッという骨が折れる音がする。


 身軽さを身上とするミヅチは、俺のそれとは異なり、半長靴の甲や靴先には金属製のプレートは付けていない。

 但し、踏まれる事を警戒して靴先はエボナイトで固めている。


「ぐっ……」


 肋骨を折られたケルザスロンは顔を顰めて痛みに耐えていた。


 こいつも今までの奴ら同様にレーンティア様への忠誠心は高いだろうと踏んでいたが、国に対してのそれはどうなんだろうな?


「言え」


 ゆっくりと姿勢を戻すケルザスロンを見て冷淡に尋ねる。


 これで言わなければもっと……。


「そうだ。キンケードとデナン、タンクールを探り、偵察をしろと……」


 ほう。


「それはいつの事だ?」


 発令……受令した時期によって判る事もある。


「先月の二六日」


 三週間ちょい前か。

 発令されたのは更にその二~三週間前ってところかね。

 少なくとも六月って事はあるまい。


 だとすると……ふーん。そんなもんか。


「報告の期限は?」


 あまり期待しないで尋ねた。


「特に定められてはいない」


 こちらへ攻撃する計画がないのならば、まぁそうだろうな。

 因みにここまでケルザスロンは嘘は、少なくともこちらを騙そうという意図での発言はない。


「報告の方法は?」


 これは大きく分けて三通りが考えられる。


「不定期に来る連絡員に対して書面と口頭による報告だ」


 一番厄介な奴だが、場合によっては二番目に長い間誤魔化しやすい報告方法だ。


 尤も、誤魔化す意味を見いだせないので別にどうでもいいが。


「命令の発令者は誰だ?」

「白凰騎士団の団長名だった」

「お前らの他に同様の命令を受けた者は居るか?」

「わからない」

「そうか」


 そう言って俺がよっこらしょと立ち上がるのを見て、ケルザスロンは一瞬だけ怯えるような、痛みを予想するような表情を見せたが、俺が特に何もせずにミヅチに顎をしゃくって少し後ろに移動すると僅かに意外そうな顔をした。


 ありゃきっと、俺に蹴りでも入れられるのかと思ってたんだろうな。


『今んとこ嘘は言ってないな』

『そう……』


 そんな彼女を横目にミヅチと小声の日本語で話をする。


『後はお前が聞くか?』

『ん~、私は別にいいかな? あんまり興味ないし』


 これはケルザスロンが過去に犯した殺人には興味がないという事だろう。

 まぁ、俺もそんな事に興味はないんだけどね。


『じゃあ、絶対に確認しなければならない事は聞いたし、後は……』

『そうね』


 ゲグランの情報について聞けるだけは聞いておく。

 当然このケルザスロンだけでなくガキ共全員に確認はするけど。


 俺たちはもう一度ケルザスロンのところに戻り、再び彼女の目の前にしゃがんだ。

 勿論、嘘看破ディテクト・ライは掛け直している。


「さて、じゃあ少し話題を変えようか」

「……」


 ケルザスロンは特に様子を変えることなく俺を見返した。


「お前たちの御主人様の事だ。確か、レーンティア・ゲグラン准爵だったよな。宮廷魔導師コート・ウィザードの」


 ゲグラン准爵の名を出すと、明らかに表情が変わった。

 目には用心深そうな光が灯る。


「レーンティア様は今二四歳、女性で黒髪、目の色も黒い。合っているな?」

「……」


 ケルザスロンはゆっくりと頷いて答えにした。


 なんかムカついたのでその横面にビンタをくれてやり、「返事はしっかりとしろ」と教え含めるように言ってやる。


「……はい」


 それでいい。


「レーンティア様の誕生日は?」

「……知らない」


 お? 嘘だ。

 誕生日なんか隠したってあまり意味は……ひょっとしてこいつ、転生者が全員同じ誕生日だと知っている?

 いや、流石にそれは……。


「嘘をくな」


 俺が嘘だと断定した瞬間にミヅチの護衛の一人がケルザスロンの横腹に蹴りをお見舞いした。

 先ほどミヅチに肋骨を折られているので、それはまぁ、むちゃくちゃ痛いだろう。


「はっ……ぎっ……二月一四日だ……」


 勿論、彼女の吐く息は嘘看破ディテクト・ライに反応しない。


「そうか。本当の事を言えば手荒な真似はしない。わかったな?」

「……わかった」


 ケルザスロンが頷いたのを確認し、再び口を開く。


貫通体ペネトレーターという魔術を知っているな?」

「!?……知っている」


 何故それを? とでも言うかのように大きく目を見開いたケルザスロンだが、あっさりと吐いた。

 ふーむ。

 こいつ自身はレーンティア様への忠誠心はそれ程でもないみたいだ。


「お前も使えるか?」

「使えない」


 嘘は言わない?


 てっきり使えると嘘を言うかと思っていた。

 こちらを惑わすために。


 こいつの魔法の特殊技能のレベルは軒並み五とかなり高い。

 やはり、全元素が必要な魔術だったか。

 以前、クローが虜にした女から聞き出した時にも全元素が必要だと聞いてはいたが、正しかったようだ。


 あの時は嘘看破ディテクト・ライは使っていなかった(正確にはクローの虜になっていた事で効果時間が切れても再度使う必要を認めていなかった)けれど、やはりクローの【誘惑セデュース】の効き目は凄いな。


 あ、いや、使えるのを使えないと言い張るのは簡単だし見抜くのは困難だが、使えない魔術を使えると言っても嘘だと簡単にバレるか。


「あの中に使える奴はいるか?」

「ゲオルクとジョルジュ、イェーオリ、ジョルジョ、ホルヘが使える筈だ」


 ふーん、って結局全員ジョージやんけ。

 いや、ラグダリオス語(コモン・ランゲージ)って妙なところが日本語に似ているし、ジョージもゲオルクも別の名として認識される。

 そのあたり、言語が変わると名前の発音も変わることの多い地球の西欧系の大半の言語みたいに人を舐めてはいない。


 そういう意味では東洋系の言語には好感が持てる。

 これは別に俺の母語が日本語だからという訳ではない。


 俺の名はアレインであって、アランでもアリーヌでもないのだ。スペルも違うし。

 川崎の発音はカワサキであり、カウェサキではない。

 同じく武雄の発音はタケオであり、タケーオではない。

 ドイツの有名な伯爵にツェッペリンという家名がある。

 ツェッペリン伯はツェッペリン伯で、ゼペリンではないのだ。

 言語が変わっても固有名詞の発音くらいは元の発音を使えや、クソが。


 とは言え、名前ってのはその土地に根ざした物も多い。

 当然ながらその土地々々で同じ意味でも発音は変わ……それはそれでラグダリオス語(コモン・ランゲージ)も何とも変だ。

 ラグダリオス語(コモン・ランゲージ)は、俺の感覚では文法はほぼ日本語だが、言葉に残されている(?)日本語の割合はかなり低く、一割もないだろう。

 英語の割合は結構高くて三~四割くらい(ごく一部の名詞や形容詞には英語以外の地球の言葉――フランス語やドイツ語など――も残されている)はある感じだが、残りの五割以上は全く異なる言葉になっている。

 少なくとも俺には近しい地球の言葉の推測も出来ない、完全に未知の言語だった。


 まぁ、そんな事は置いておいて、あの中に五人もペネトレーターが使える奴がいるとは驚きだ。


 いや、確かに【鑑定】では全元素魔法の特殊技能を持っていた奴が五人いた。

 その五人かまでは覚えていないけど。


「その五人の中で一番魔術が得意な奴は誰だ?」

「ジョルジュだ」

「どこだ?」

「右から三人目だ」


【ジョルジュ・ジューダン/10/10/7444 ジョルジュ・ジューダン/4/6/7443 】

【男性/18/6/7436・狼人族・ゲグラン家所有奴隷】

【状態:挫傷】

【年齢:16歳】

【レベル:10】

【HP:67(72) MP:129(129)】

【筋力:12】

【俊敏:14】

【器用:8】

【耐久:11】

【特殊技能:地魔法(Lv.3)】

【特殊技能:水魔法(Lv.4)】

【特殊技能:火魔法(Lv.3)】

【特殊技能:風魔法(Lv.3)】

【特殊技能:無魔法(Lv.4)】

【経験:136418(150000)】

 

 ふーん。

 やはり全元素持ちか。


 まぁいい。


 もうこいつに用はない、と言いたいがそうもいかん。


「お前、ケルザスロン。お前はもう我々ロンベルト王国の捕虜だ」

「……ああ」


 結構あっさりと認めるんだな。


「以降、私に忠誠を尽くし、私の意に従うことを誓うなら命は助けてやるが、どうす……」

「「閣下!」」


 ミヅチの護衛たちが口を揃えて警告するかのように言う。


「彼女は君たちと同郷だろう? 無闇に殺す必要もないんじゃないか?」

「それはそうかも知れませんが、でしたらどこかへ売り払えば宜しいのではありませんか?」

「マリーナの言う通りです。確かに彼女は我々と同じくライルの民の出なのでしょうが……」

「わかったわかった。ならば君たちで尋問を続けてくれ。彼女にだって言い分はあるだろうし、それを聞いてから判断しても遅くはないからな」


 続けてミヅチの護衛隊長のマリーナ・カルサスロスさんに、


「とりあえず確認しなければならない事は確認し終わった。後はミヅチと一緒に何でも訊いてくれ。ただ、まだ殺さないでくれよ」


 と言ってガキ共の方へ向かった。

 護衛たちはミヅチから離れないし、嘘看破ディテクト・ライも必要だろうからミヅチにはそのまま残ってもらう。




・・・・・・・・・




「どうだ? 何か吐いたか?」


 腕を組んで配下の仕事を眺めていたベンディッツや、未だに抜き身の長剣ロングソードをぶら下げたままのバースに話しかける。


「国から受けた命令内容などは聞き取りを済ませました」


 内容を確認してみるとケルザスロンから聞いた内容とほぼ同じだった。

 騎士団とか国に対する忠誠心は低い、と言うか、当たり前のそれしか持っていないようだな。


「他には何を尋ねている?」

「何故、こんな子供がデーバスで最高と言われている白鳳騎士団に所属してるのかが疑問ですが、とりあえずその確認は後回しにして得た情報の確認をしているところです」


 ベンディッツは眉間にシワを寄せて言うが、こんな子供ばかりの部隊が白鳳騎士団所属だと信じられないのも無理はないだろう。


「で? どうなんだ?」

「デナンについてはかなり詳細に調べていたみたいです。閣下からお聞きしていた内容とあまり大きな齟齬はありませんでした。尤も、デナンの守備隊が五〇名程度だとは調べきれてはいないみたいですが……また、調査した情報については奴らが根拠地にしている“サモリ”というところに不定期に白鳳騎士団の連絡員が来ることになっているらしく、今回調査した内容はまだ報告されていないようです」


 サモリ?


「その“サモリ”って場所は……?」

「ここから二~三時間くらい南東に向かった場所にある廃村らしいです」

「ふーん。聞いた事ないな」


 まぁ、その場所も調査すれば(させれば)かなりの事が判るだろう。


「なんでもかなり昔に放棄された開発村だとかで、デーバスでも殆ど知られていないみたいです」

「へぇ」


 何らかの理由で開発途中で放棄されたのかな?


 こっち(ロンベルト)側にも中部ダート(ドレスラー伯爵領)にウェインと呼ばれていた廃村がある。


 何十年も前、拓き始めたばかりの頃にオークだかなんだかの群れに入植者たちが全滅させられ、その後も入植してすぐに何度も全滅の憂き目に遭っている。

 最後に入植した時には一年以上持ったらしいが、結局全滅させられ、放棄されている。

 今から……二〇年ちょっと前の事らしい。


 結局、他の場所と比較して魔物に好かれるような危険な場所だった、という事でその跡地には井戸の残骸が残されているだけだという。

 そんな歴史のはざまに忘れ去られた場所なんて、ダート平原には幾つもあるのだろう。


「場所を確認するため、後で調査に行ってくれ。ああ、道案内は奴らの中から弱そうなのが二人くらい居ればいいだろう」

「わかりました」


 じゃあ、レーンティア様の事でも訊くとしますかね。


 

■コミカライズの連載が始まっています。

 昨年の11/14(木)よりWebコミックサイト「チャンピオンクロス」で掲載が始まっており、現在第五話まで公開されていますので、是非ともお気に入り登録やいいねをお願いします。

 私も含め、本作に携わって頂いておられる全員のモチベーションアップになるかと存じます。


■本作をカクヨムでも連載し始めました(当面は毎日連載です)。

 「小説家になろう」版とは少し異なっていますので是非お読み頂けますと幸いです。

 ついでに評価やご感想も頂けますと嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
ベトナム戦争時には拘束した捕虜を数名ヘリコプターに乗せ、飛行している時に尋問をしたとか。 全員ダンマリなら誰か一人を蹴落とせば、あとは聞いてもいないことまで話し出したらしいですけど本当かいな?
なろうコミカライズに良いイメージはあまり無いですが、作者さんがそうおっしゃるなら応援します。長い話ですが頑張って下さい。
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