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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第四百二十九話 発動機

7452年1月29日


「ふーん、どうすっかな……?」


 六月から始まる第二回エムイー訓練参加候補者についてリストをチェックしているのだが……。


 カームやベル、ヒス、ミースといった、昨年参加が見送られた元殺戮者スローターズのメンバーの参加は当然だが、そこにラルファとグィネを追加するかどうかが問題だ。


 今回は元殺戮者スローターズの戦闘奴隷は勿論、トリスを始めとする貴族からも推薦者が多い。

 勿論、リーグル伯爵騎士団としてもさっさと資格を取らせたい者は、多い訳じゃないがいる。


 まず考慮しなくてはならないのは、当然だが、我がリーグル伯爵騎士団に所属している正騎士の中でも若手だろう。


 男女合わせて三人だ。


 この人数は正直言って少ない気もするが、こっちは基本的に本人の志願に加えて騎士団の幹部からの推薦がないと受験資格すらない。


 尤も、最初の体力テストの足切り項目については騎士団内でも公表済みで、一項目でも自信の無い者は最初の志願すらして来ないので少なくなっているという。


 ついでに、有望な若手は昨年の夏に殆ど志願させ、資格を取得させてしまっている、という事情もある。


 今現在、リーグル伯爵騎士団に所属する正騎士の人数は、俺を抜いて二九名。


 そのうち騎士団の幹部が五名(ミヅチは正式には騎士団員ではないのである)、昨年の夏にエムイー資格を取得した者が七名なので、未だ資格を未取得の正騎士は一七名だ。


 ん~、数字で考えると今回の志願者が三名ってのは……全員目出度く資格取得が叶ったのなら、正騎士の半数以上が資格取得者になるのだから結構多いとも言えるのだが……。


 本当は正騎士のうち年嵩の数人を除く全員にさっさとエムイー資格を取得して貰って、他の騎士団に教官とか助教として派遣したいんだよね。


 報告では他の三騎士団も将来のエムイー訓練に向けて、騎士団長自らが主導しての自主訓練なんかを始めているみたいだから、もう暫くしたら「自分とこの騎士団でも訓練やってくれ」って要望が上がって来ると思うんだよ。


 そういう訳で正騎士は三名。


 因みに内訳は転生者であるフィオの他、トリスの奴隷頭であるビルサイン、そして若手騎士では成長著しいドリストンという布陣だ。


 これはこれでもう仕方ない感じだな。


 その他、領内の貴族階級からの推薦者も大きな問題はない感じ。


 ん?

 ゼノムが推薦してきたのはケビンに加えて戦闘奴隷から一人。

 トリスはベルとミース。

 ビンスはヒスの他、チョーゼルという従士長の息子。

 ロリックはサンノとルッツの他に戦闘奴隷のデンダーとカリム。

 カームは自分自身に加えてこちらも戦闘奴隷から一人。

 その他の領主で推薦して来た者がいなかったのは少々残念だが、騎士団以外で一二人もいるんだから文句はない。


 そして、あとは騎士団の従士から。

 俺の奴隷頭であるズールーは当然、マールとリンビーも参加させる。

 ベンとエリーは流石にまだ若いし来年だ。


 ここにラルファとグィネを加えるかどうか……悩む。


 因みに旧煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)の連中は「まずは正騎士になることが第一」とエムイー資格には目もくれていない。


 もしも資格が必要ならば、正騎士になったあとでお館様(ゼノム)が取得しろと命ずる筈だと考えているらしい。


 なお、貸し出しているヘンリーとメックも一時的に召喚して訓練に参加させる。

 それぞれビンスとカームからは毎日休まずに長距離を走り、空き時間を見つけては稽古を続けていると報告を受けているから、訓練に付いてくるくらいは出来るだろう。


 万が一、当初のうちこそ付いて来れずとも、体力錬成期間は伊達じゃないのだ。


 ま、奴らなら心配ないとは思うけどな。


 明後日、月が明けると同時に第二回幹部エムイー訓練の想定訓練が始まる。

 補習という名の第一回幹部エムイー訓練とも言うが、面倒くさいし、第二回でいいよ、もう。




・・・・・・・・・




7452年1月30日


 カンビット王国。

 その西部にある大都市ティヘラの空き地で粗末な天幕を張っている集団があった。


 傭兵団、赤兵隊である。


 この空き地で野営を始めてからもう二か月近くが経過しているが、団長(赤兵隊内では隊長と呼ばれている)であるバスコは動きたくても動けなかった。


 原因は勿論、積雪だ。


 降雪は毎日ある訳では無いが、数日間に亘って降り続く時もあって地面から雪が消える日はなかった。


 人通りの多い大通りなど一時的に雪が消えたように見えたとしても、その実かなりぬかるんだままであり泥と混じったシャーベット状の雪が消えた日はなかった。


「くそっ……あと何週間待てばいいんだよ……」


 暖房すら無い寒くて狭い天幕の中、バスコは小さな机を前に頭を抱えている。


 赤兵隊の全員が三か月は充分に食っていけるくらいの金はまだ残っている。

 勿論、ロンベルト王国に支払うであろう通行税を差し引いてもだ。


 だが、国境を越えたとて、ロンベルト王国内の貴族領を越えるのも無償ではない。


 目指すのはプラスチック製の盾や鎧を製造しているという、ウェブドス侯爵が治めるジンダル半島の奥地。


――そこまで行くのに幾つの領境を越えなければならない?


 それを考えるだけでバスコは胃がキュッと縮むのを自覚する。


――金銭カネを稼がなきゃ……今だって暮らしは楽じゃないし、ギリギリだ。皆の不満も爆発寸前だし……。


 だがこの場所での真冬である。


 カンビット王国は南のデーバス王国とはかなり前から領土を巡って交戦状態にある。

 そのため、もっと南――デーバス王国との交戦地帯に行けば傭兵団としての働き口はあるだろう。


 しかし、現在の状況ではそこまで移動する事すら難しい。

 南へ行けば行くほど道は乾き、移動は楽になるだろうが非戦闘員の全員が馬車に乗れる訳では無いのだ。


 それに、何とか移動できた上に首尾よく傭兵仕事を請け負えたとして、最低でも何か月も拘束される羽目になるのが落ちだ。


――現実的じゃない。だからと言って……。


 冒険者ヴァーサタイラーとして何らかの仕事を請け、日銭を稼ぐというのも……。


――無理とは言わんが、この時期に魔物退治なんかあんのかね?


 荷運びや隊商護衛ならこの時期でもそれなりの量の依頼はある筈だ。

 が、仕事を請けるにしても、やはり赤兵隊は傭兵団だけに荒事を請けたい。


 何せこの街はカンビット王国の西部でも一番の大都市なのだから。


 そういった仕事なら、未だ碌な経験はないものの、聞いた話が本当なら戦闘要員と馬車を使えば請けられなくはないだろう。

 が、最低でも一週間以上に亘って隊を割ることは避けたい。


 少しでも地面の冷たさを天幕内に伝えないよう、地面には多少背の高い“すのこ”を敷いて床板代わりにしているが、それでも「地面に直接天幕を張るよりはマシ」程度だ。


 寝るときはこのすのこの上にペラペラの毛布を敷き、その上で予備の下着まで含めて可能な限りの布類を集めて体に巻き付けた上でガタガタと震えながら縮こまるしか無い。


 辛くてしんどいが、今のバスコに出来る事は一刻も早く天候が回復してくれる事を祈るのみであった。


――何にしても多少は稼いでおかなきゃならん、か。


 そろそろ行政府まで掲示板を見に行かせたタニア達が戻る頃だ。


 と、薄暗い天幕の外から子供たちの声が響いてきた。


「戻ったわ!」


 忠実な副官が浮かべる明るい表情と声音。


 きっと何か短期間で稼げる仕事を見つけて来られたのだろう。


 バスコは「寒いから早く中に入ってくれ」と不満を口にしつつも自然と微笑んだことを自覚した。




・・・・・・・・・




7452年2月10日


 べグリッツ。


 奴隷長屋まで自ら足を運ぶ。

 別に特別な事ではない。


 プレス機や旋盤など、せんだってより俺が重要だと指定していた製品が完成したら連絡を寄越すように言っているのでトールの作業場に顔を出すのは珍しくはないのだ。


 最近――特に動作する焼玉機関の試作機が完成して以降、暇を見てはちょくちょく出向いている感じだしね。


 扉を開けると真っ昼間だというのに部屋は明かりの魔導具で煌々と照らされている。


 全ての窓を閉め切っているから仕方ないんだけどね。


 俺が中に入り、適当な椅子にふんぞり返ったのを確認したトールは焼玉エンジン試作拾……拾何号機の上部を開けると焼玉にガソリンを垂らした。


 トールの弟子(笑)達が上開きの窓を少しだけ開けて空気穴を確保する。


 トールは足を組んだ俺に向かって来ると先に布を巻き付けた棒を差し出して跪いた。


「お願いします」


 俺は布の先に人差し指を近づけ、「ん」と返事をする。


 火魔法を使い、油を染み込ませた布に火を点けた。


「ありがとうございます」


 トールはすぐに焼玉に火を点けた。

 そのまま焼玉の温度が充分に上がるまで暫く待つ。


 焼玉の炎がチロチロとして消えそうになる頃にはもう充分に上昇していると見做して構わない。


「では、始動します」


 その言葉に俺が頷くと、トールはエンジンに繋がったクランクを勢いよく回し始めた。


 ボン!


 始動の最初だけ少し大きな音を響かせる。


 ポンポンポンポン……。


 すぐに少しだけ軽快な音に変わるとエンジンシャフトが回りだす。


 俺が腕組みをしてその様子を眺めていると、トールも俺の側に立って腕組みをし始めた。


 シャフトに接続された弾み車も勢いよく回っている。


「少し閉めろ」


 トールの声に弟子の一人がエンジンに付いている燃料コックを僅かに捻ったみたいだ。


 燃料の供給量を微妙に調整する事で回転数を維持しているのだ。


 焼玉エンジンは焼玉だけでなく気筒シリンダ内部や上下するピストンの温度が安定するまで少しだけ面倒を見てやる必要があり、それは微妙な操作に加えて慣れが物を言うのである。


 排気音や回転音、振動などを見て燃料バルブを調整し、燃料供給量を加減してやらねばならない。


 ここからが問題だ。


 最初に作った単気筒2ストロークの、非常に限定的でそれ以外には碌な機構を持たなかった試作壱号機は燃料バルブがなかったので回転数にばらつきはあったものの特に問題なく動いてくれた。


 試作弐号機も燃料バルブを追加しただけで、こちらも大きな問題はなかった。


 試作機ということもあって小排気量ではあるが、ちょっとした工作機械の動力源としてはこの時点である程度の完成を見たと言ってもいいだろう。


 尤も、吸気温調整が出来ない上に掃気については殆ど気を使っていないので、気筒シリンダ内にはすぐに燃料のススが貯まるからあまり長時間の運転は難しく、そのままでの使用は無理だけどね。

 だけど、基本的な設計については問題無い事を確認するためこの二台は絶対に必要な試作だった。


 次の試作参号機で排気量を増やしただけでなく、掃気方式に俺のよく知る漁船のエンジンで使われていたクランク室与圧型の三孔式横断掃気を、吸気温調整には水滴式を採用した。


 これも問題なく動作した。


 また、一昼夜に亘る長時間運転など耐久テストも行い、この時点で大きな問題が顕在化しないかどうか、そして本当に問題が無いかが確認できた。

 因みに排気量は一〇〇〇ccくらいなので出力は数馬力から良くて一〇馬力くらいではなかろうかと考えている。


 焼玉機関はこれで一応の完成を見たが、まだ大きな課題が残っている。


 燃料供給量(ガソリンエンジンではないので吸入空気量ではない)を調整するスロットルの取り付けと、回転数は多少落ちるがより馬力の出る4ストローク化と二気筒以上の多気筒化だ。


 尤も、焼玉機関は単純化されたディーゼルエンジンとも言えるので、ちょっとした不具合でエンジンが暴走してしまう。

 まぁ不具合とは言っても、構造は単純なので普通の使い方をしている限り不具合を起こす可能性は操作ミスを含めてもまず有り得ない。


 エンジンが過回転となったまま燃料供給を絞っても回転数が落ちないディーゼル暴走からのエンジンブローなんてまず心配いらないのだ。


 従って、漁船の焼玉機関にはデコンプ機構などという上等なものは備わっていなかった。

 ついでに言えば、水中でスクリューを回すだけなのでトランスミッションやギアボックスに相当する機構も持っていなかった。

 変速に使えるものと言えば、当然ながら燃料供給量を調整するスロットル以外はごく単純なクラッチしかなかったのだ。


 港の桟橋に横付けして停船するにはかなり操作に慣れていないと駄目な事は解るよね?


 まぁ、ある程度まで近づいたらクラッチを完全に切って、オールを使えばいいだけなんだけどさ。


 とにかく、船に使う訳でもない上に、それなりの馬力を発揮して貰う必要もある以上、変速機は必須になるだろうし、安全を考えたら調速機ガバナーもあった方がいい。


 ってことで、試作肆号機と伍号機はトランスミッションやガバナーの調整を行っていた。

 それらがまぁまぁ上手く行ったので、試作陸号機でいよいよ二気筒4ストローク化を行ったのだ。


 で、失敗した。


 多気筒自体は大きく部品点数を増やす事になったにも拘わらず、そんなに問題がなかったのではないかと思っている。

 問題は4スト化だ。


 単気筒2スト時ではシリンダーヘッドを斜めにしていたのだが、先に述べたクランク室与圧型三孔式横断掃気と併せると、4ストだと長時間運転で問題が発生しやすくなったからだ。


 シリンダーに三つも孔を開けなくていいという事には程なくして気がついた。

 そして「シリンダーヘッドを斜めにしていることにどんな意味があるんですか?」というトールの質問にはっきりと答えられなかった事から、シリンダーヘッドを水平にしたのが今回の試作拾……何号機だ。


 三〇分経ってもエンジンは特に問題を起こさずに軽快に運転を続けている。


 これは……良いんじゃねぇの?


 いやぁ~、こりゃ機関車に自動車が作れちゃうかな?


「追加の燃料は要るか?」


 俺の言葉にトールはこちらを振り向きもせずにエンジンを注視したまま「お願いします」と答えた。


 俺の知っている焼玉機関の燃料は、所謂C重油って奴で、わかりやすく言うと石油からガソリンや軽油を取った後の絞りカスみたいなもんだ。

 船舶用のディーゼルエンジン以外では粘度が高すぎて燃料ポンプが詰まって使えない奴ね。


 絞りカスを有効に使える以上、ガソリンエンジンの開発はもっと先になる気がするよ。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 馬車鉄道を機関車にバージョンアップもいいけど戦場バイクとか浪漫やな、まぁ供給が少なすぎて大型機での効率運用しか考えられないけれども。 実はアル以外だとトールが一番前世知識を利用した転生者っぽ…
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