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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第三百二十八話 デーバス王国の軍隊事情 2

7451年8月15日


 デーバス王国ストールズ公爵領、ヘレス。

 七〇〇〇もの人口を抱えるこの街は、公爵領の西部でも最重要と言っても過言ではない要衝である。


 そのヘレスの街の西から北、北東にかけて、街から三〇㎞と離れていないあたりに引かれているのが暫定的な領境兼国境線だ。


 街から国境線までの間には小さな村がいくつか点在しているが、その何れもがキンルゥ山脈から流れる川沿いの比較的水の便の良い場所に拓かれている。

 尤も、元々の土壌のせいなのかなんなのか、ダート平原内に拓かれている土地よりも面積あたりの収穫量は低いため、どの村々もあまり大きくは発展していない。

 だが、ストールズ公爵領、ひいてはデーバス王国にとってはどの村も重要な生産拠点である。


 ダート平原よりも収量の低い村でも大切なのであるからして、ダート平原内の村がもっと大切なのは言うまでもない。


 城が築かれたミューゼも、つい数年前まではデーバス王国に属していたために毎年それなりの税を収めていたのだ。

 そして、ミューゼ城が出来てしまったがためにラスター連峰以北に取り残されてしまっている、フィヌト村を始めとする十ケ村は、デーバス王国――そのあたりを分割して領有するストールズ公爵とガルドゥール伯爵にとっては非常に重要な土地と言えた。


 特にガルドゥール伯爵家にとっては、そこにある六ケ村だけで領内の穀物生産量の三割以上の収穫量を誇るだけに、絶対に手放せない土地でもある。

 ラスター連峰が横たわっているために他領を経由しないと連絡も難しい不便な領土だが、支配下から外れてしまえば領内へ供給する食料的にも経済的にも困窮することは明白なのだ。


 なお、ガルドゥール伯爵家は七〇年ほど前にストールズ公爵家から分家独立した新興の伯爵家であり、公爵家の遠縁に当たるため、白凰騎士団長であるシキラック・ストールズ伯爵もそれなり以上の力を入れざるを得ない。


――ミューゼに城が築かれていた時にはどうなる事かと思ったが、あそこに一〇〇〇人も居ない事が判明した以上、フィヌト以西との連絡線の確保だけは出来そうだ。


 そもそも、一二〇〇〇名もの軍を率いてここまでやってきた理由の第一は連絡線の確保である。


 無論、ミューゼやその近隣のロンベルト配下の村に対する攻撃も重要な出兵の目的ではあるが、連絡線の確保よりは一段劣る。


 だいたい、防御兵力が高々数百程度と見積もられようが、高く頑丈な城壁を備えているミューゼを攻撃するとなると、こちらの損害はどんなに贔屓目に見ても一〇〇〇で済めば御の字、常識的に考えるなら一五〇〇。

 多少悲観して考えるなら二五〇〇は覚悟する必要がある。


 そして、それだけの犠牲を払って陥落させたとしても、ミューゼ村の住人や物資はこちらが周りを囲むよりも先に避難されてしまう。


 囲んだところで全周で一〇㎞もあろうかと言われるミューゼを一二〇〇〇人で囲んでもその厚さは人一人分がやっとだろうし、その程度の囲みなど簡単に破られてしまうだろうから意味はない。

 単に兵力を薄く分散配置させる以上の意味もない。


 一箇所に固めた上で複数の梯子などを使って、多少の被害など物ともせずに力押しで兵を壁上に登らせる攻撃をした方がずっとマシだ。

 そして、数百程度の防衛兵力しか居ないなら陥落させる事自体は可能だと思われる。


 純軍事的に見れば一五〇〇から二五〇〇の犠牲で強大な城一つを占拠出来るのなら大勝利とも言えるだろう。

 が、デーバス王国においてはそうも行かない。


 多大な犠牲を払った上、略奪すら出来ずに兵の不満は急上昇するであろう。


 加えて、相手は長くても二~三ヶ月であれだけ強大な城を築ける力を持っている。


――占拠したところで近隣にまた別の城を築かれるのが落ちだ。そして……。


 もしもそうなれば、伯爵とて当然ただ黙って城の建設を見守るつもりはない。

 あの手この手で邪魔をするつもりだ。

 しかし、ロンベルトも馬鹿ではないのだから建設中の城には大兵力の守備隊を送るはずだ。


 こちらに奪われたミューゼの奪還も考えるなら、守備隊だけでなくもっと多くの兵を集める可能性も高い。


 そこに著しく士気の落ちた軍を当てても勝てる見込みは薄い。

 しかし、ミューゼに引き籠もって守りに徹しているだけだと、本来の目的であるフィヌト以西との連絡線の確保すらおぼつかなくなってしまう。


 それでは本末転倒だ。


 従って、ロンベルトが城の建設を始めるのであればそれを阻む必要があるのは絶対である。


 当然、こちらも兵力の拡充は必須だ。


 失った兵力の補充に加えて後詰めを送るよう、ランドグリーズに要請もする。

 巨大な城を陥したとなれば、王家を始めとする三公爵家も喜んで援軍を組織してくれるだろう。


 だが、連携訓練もしていないような部隊が補充されて来ても碌な作戦は立てられない。

 真正面から力押しするか、せいぜい出来ても兵力を二分割し、挟み撃ちを狙うくらいが関の山だ。


 挟み撃ちしたところで、相手はそもそも防御力の高い城なのだからそれにどれだけの意味があるかは……相手の防衛兵力を分散させられる以上の効果はない。


 そもそも、兵を送る間、ロンベルト側も何もしないはずもなく、防御施設となる城壁を張り巡らせる事を優先するだろう。


 長く見ても、僅か三カ月という短期間で高さ一〇mもの城壁を全長数㎞にわたって建造出来る動員力があるロンベルト王国。

 順当なところで考えれば、たった九日で高さ一mの城壁で囲まれた土地を作り出せるという事と同義だ。


 高さ一mなら乗り越えられなくはない。

 攻略するにあたっても、兵力の配置や作戦如何でまだ何とかすることも出来るだろう。


 だが、二mでは?

 人の背よりも高くなってしまえばどうか?


 いや、ミューゼ村を耕作地ごと全体を覆う――直径二~三㎞にはなるであろう――という、バカみたいに広い範囲ではなく、城塞としてもっと常識的な狭い範囲なら?


 細かい計算などする必要すらない。

 直感でわかる。


 高さ二m以上の城壁などあっという間に築ける……。


――国力の違い、と言ってしまえばそれまでなのだろうが……。しかし、あれだけの高さの城壁だ。材料となる石材はどこから運んで来た?


 ちょっと想像しただけで、それが途轍もない労力と金銭を消費したであろう事に思い至る。


 如何な大国、ロンベルト王国とて、そう簡単に成し遂げられる事ではない。

 石材を集めるだけで一体何年の年月を、そして幾らの金を費やした……?


 まさか、噂されているように魔術師が建設した?


 そういえば、タンクールやデナン、キンケードも数日で高い土壁に覆われたと……。

 その三ケ村は宮廷魔術師クラスの実力者を三〇名程度投入すれば数日で建設可能と見積もられている。


 デーバス王国としては途轍もない人材の無駄遣いだといういう意見があったものの、ロンベルト王国は過去にも“黒の魔女”と呼ばれる宮廷魔術師クラスの魔術師をダート平原の戦場に投入した実績を持っている。


 宮廷魔術師クラスと評されるだけあって、かの魔女の魔術の技倆は非常に高い。

 デーバス側の防衛戦においても、防衛する村の耕作地内で簡単に橋頭堡となる施設を築かれてしまう程だったし、平均的な馬防柵程度なら一撃で大穴を開けられるような、桁外れに高い威力の攻撃魔術すら放って来た。


 タンクール、デナン、キンケードの三ケ村が電撃的に陥とされて以降、王宮や騎士団内では、ロンベルト王国はその頃からこの時を見越しており、何らかの実験をしていたのではないか、という意見すらあった。

 当然ながらそれを支持する者もそれなりにいて、ロンベルトが得たものを考えるとその作戦はこちらも採り得る方法だとランドグリーズでは実現に向けて研究も始まっている。


 しかし……。


 馬鹿な!


 ミューゼの壁は、土ならばともかく、石なのだ。


 伯爵とて魔法は人並みに使える。

 全くの素人どころか実戦で攻撃魔術を使って敵を仕留めた事もある程度には、魔法についての知識も備えているし、修行もしてきた。


 だからこそ、それだけは絶対に無理だと断言できる。


 元素魔法の単独使用で元素を出す程度なら誰でも出来るが、ただ地魔法を使っても出せるのは微妙に水分を含んでいるただの土塊つちくれだ。

 勿論、出そうと思えば石だって出せるが、魔力の使用効率は極端に落ち込むのだ。


 ましてや建造物を構成できるような石材として出すには、整形にも魔力を取られてしまう。

 そうなると、一人の魔術師が出せる量などたかが知れていると言わざるを得ない。


 城壁には各所に見張り塔も建てられているし、その内部には兵員も詰められると報告を受けている。

 そんな複雑な構造物を石で建設するなど、最低でも宮廷魔術師クラスの実力者を百人単位で投入しない限りはあり得ない。


 そして、宮廷魔術師はロンベルト王国でも三〇名程度しか居ない。

 実力のある市井の魔術師――冒険者や引退した宮廷魔術師など――を集めるにしても相当に頑張って集めて一〇〇名に届くかどうか、と言ったところだろう。


 よしんばそれが叶ったところで内部に入れるような複雑な構造の塔を建造させる?

 ミューゼの城壁に築かれている塔の数は一つや二つではない。


 魔法で出した石材の整形一つとってもそれなりの修練が必要になる筈だ。


――現実的ではない。


 伯爵も魔法の特殊技能のレベルが上がれば、単純なレベル数値以上に出せる元素量が増加していく事は理解している。

 だが、過去に存在したデーバス王国の宮廷魔術師が現役時代に達した最高は、元素魔法の技能レベル七である。


 記録では高さ五m、厚み二mにも及ぶ土壁を一〇〇mに亘って出せたと言うが、頑丈な硬い石で同様の壁を作るとなると、百分の一、僅か一m程度しか出せないのだ。

 それでは壁ではなく柱と言うべきであろう。


 それ以上の高さ、厚みで何㎞にも及ぶ石壁を作るなど技能レベルの高い魔術師が百人程度いたところでたったの三ヶ月では無理だと言わざるを得ない。


――だとすると、ミューゼに築かれた城は……。


 普通に建造された可能性が高い。

 石材間の隙間調整などで本当に高技能持ちの魔術師が動員された可能性はあるだろうが、メインではあるまい。


 ならば、あの規模の城はロンベルト王国とは言えそう簡単に築けない……。


――いや、しかし、ギマリにも石造りの城が築かれたと……。


 ミューゼに遅れること僅かでギマリ村が攻撃を受け、住民や守備隊は全員が退去させられた。

 その際も粘板岩のような石で一気に村を囲まれたとの報告があった。


 ダート平原の中央近くにあるギマリ村がロンベルトに占領され、城を築かれてしまったために、ラスター連峰以北の西側に蓋をするような形で塞がれてしまったのだ。


 そのお陰でラスター連峰以北のフィヌト村を始めとする十ケ村は取り残されてしまった。


――現実逃避をするものではない……か。そもそも城は動けん。こちらは連絡路となる街道を確保すればいいのだ。


 フィヌト村へと伸びる街道を確保するとなると、それなりに危険もある。

 特にダート平原内に入ってしまえばロンベルトの軍だけでなく、魔物の襲撃にも気を配る必要が出てくる。


 それは、折角封鎖した街道を取り戻しに来るであろうロンベルトも一緒だ。


 だが、こちらは街道沿いに移動し、展開し、場合によっては河川傍の水飲み場などの広場に駐屯が可能であることに対し、ロンベルト側は道とは名ばかりの獣道を使って街道までやって来ねばならず、兵を固めて展開出来る場所もそうそうないだろう。


 村などの略奪は無理だが、返り討ちにしたロンベルト兵が装備している武具などを奪ったり、捕虜を得たりする可能性もある。

 それを考慮すればこちらの士気を保つことは出来るだろう。


 そして、単純に細長い街道を防衛するだけなら部隊の展開も必要ないから展開訓練も必要はない。

 どこかが攻撃されたとしても、近所の部隊が街道上で駆けつけるだけなので他部隊との連携もあまり考慮する必要もない。


――心配なのは、ギマリに城を築いたという魔術師がこちらに捕捉され難い少人数で街道まで浸透して来て、街道上に防御拠点となる砦を築かれる事だが……。


 その時はその時。

 断腸の思いで撤退するか、ある程度の被害覚悟で砦に突撃して奪い、逆にこちらの防衛拠点として活用してやればいい。


 伯爵は決心した。


「明日の朝には全軍でフィヌトまでの街道確保に打って出る。今までさんざん飲み食いさせてきたのだ。兵共には酒を断たせておけ」


 その他、改めてミューゼへの監視に人を割くように指示を行うと、主だった部下を集合させた。


 封鎖された街道奪取に対する作戦確認のためだったが、これだけの兵力となると街道を外れてしまえばそもそも移動自体が難しい。


 斥候によって確認されている封鎖地点の攻略毎に先鋒となる部隊の配置順を決める程度以上のことは出来ない。


――狭い街道で大兵力の展開こそ難しいが、封鎖箇所にはせいぜい一〇人程度しか張り付けていないと聞く。


 ロンベルト側もこちらの移動を察し、封鎖地点の防衛のためにそれなりの兵力を増員する可能性もある。

 連絡線の遮断が彼らの目的なのだろうから、事によったら守りやすい一箇所のみに防衛兵力を集中させる事もあるだろう。


 しかし……。


――守りやすかろうが、封鎖地点の防衛に回せる兵力などたかが知れている。こちらの兵力は多い。次から次へと投入される攻撃に晒され続けていつまでも保てるものか。


 そこまで考えたところで部下たちが入室してきた。


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レベルが上がっても石造りの城は無理って言われてますけどそこら辺どうなんですか?
[良い点] 攻める側が砦に少数だと判断した割に消極的なのは指揮官の性格かなと思いました。
[一言] 面白い
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