第三百九話 隣国の転生者達 2
7451年5月15日
その後、リヤカーについてはマリーとジンジャーは街中で使われている物を見てみたそうだ。
だが、軸受部と車軸についてそれなりに頑張って作った鋳鉄や青銅が使われているだけで、お世辞にも出来が良いと言える物ではなかったという。
要するに金属製の輪に金属棒を通しているだけというお粗末さだ。
玉軸受や回転軸受みたいな、点や線接触で済ませられるまともな軸受が作れないために、摩擦であっという間に車軸や軸受が磨り減ってしまうという不出来な物だった。
勿論、潤滑剤として動物の脂(植物性の油ではないのは粘度が低い物が多いことが理由のようだ。油や脂はそれなりに高価だしね)を塗りたくる者も多いそうだが、高が知れている。
何もしないよりはずっといいが、所詮は面接触の軸受しか作れない悲しさだな。
笑えたのは、軸受の設計だそうだ。
軸受は半円に凹ませた上下二つの部品で車軸を挟み込むようにして作られていた。
これは当然といえば当然なので、ここまでは問題ない。
問題は上側の部品である。
普通は多少(数㎝程度か?)の幅で厚さも数㎜から一㎝程度の金属板を半円状に加工して作る。
加工やその手間、使用する金属量を考えればこのあたりが妥当だろう。
しかし、デーバスの奴らは違った。
あまりに軸受が磨り減る事に対応するためか、上側の部品は下部に半円の切り込みを入れた鋳鉄の板だったというのだ。
要は「削れてしまうならそれを見込んで沢山削れても使えるように最初から軸受の上部を厚く取っておこう」ということである。
そのため、年単位で持つ軸受を作れたというが……。
最初から左右にかかる荷重を考慮して荷物を置くなんてする奴はいない。
そのせいで左右均等に削れる訳もなし、微妙に傾いたりする程度はまだマシな方で、あまりに削れてしまって荷台から地面まで数㎝なんてリヤカーがゴロゴロしていたそうだ。
それでもきちんと左右の車輪の車軸が独立しているため、単なる大八車よりは余程出来の良い荷車になってはいた。
尤も、独立型の車軸のおかげで車軸自体は極端に短くなっており、工作精度不足も相まってシャコタンにした自動車みたいにハの字型になってしまっている物しか見られなかったという。
原因の大部分は材料が鋳鉄や青銅だからだろうけどな。
鋼が作れないなら難しいだろうよ。
因みにマリーたちが使用者にインタビューしたところによると、乗り心地は大八車と大差なく、車軸の独立という折角のアイデアも馬車への導入は見送られているらしい。
ま、馬車はゆったりとカーブする程度だろうし、急旋回が必要になったとしても馬の力で片側の車輪を無理やり引き摺りながら強引に曲がるのが当たり前なのだ。
金属製の軸受に木製の車軸の方が油脂も少しづつ補給される分、マシなのだろう。
クルミとかブナとか、乾燥させてもじわじわと自前で油脂を滲み出し続けるし、多少摩耗しても木材は金属よりは弾力もあるから専用のショックアブソーバー機構が無いなら金属製の車軸よりは乗り心地は僅かながらマシだと思う。
車軸と軸受のどちらかが木製なら、金属同士がこすれる時に出る嫌な音もないし。
何にしても、デーバスの転生者たちもそれなりに役立つものを作るなどして頑張っているらしいことは良く分かった……。
リヤカーとしての性能や耐久性は俺たちの知るそれよりもずっと劣っているかも知れないが、大八車や普通の馬車よりも優れている部分が多いこともまた事実なのだ。
今よりも便利ならそれで良し、とも言えるだろう。
事実、このリヤカーは製造以来ほんの数年で爆発的に広まったそうだし。
軸受が碌なもんじゃないから引く力などは今迄にもあった金属製の軸受と車軸を備えた大八車とそう変わりはない。
だが、カーブさせる際の楽さは比較するのも烏滸がましい程に開きがある。
車輪自体、カーブの度に結構磨り減るからね。
江戸時代の初期やバルドゥックでよく使われていた木製車輪の大八車なんて、空荷でも直角にカーブさせるだけで車輪はミリ単位で磨り減ったと言うし。
それに、カーブがきついから人力で引く大八車や荷車は車幅を大きく取れず、そこが大きな弱点だった。
それを解消出来ただけでも充分に花マルに値するだろう。
「そういえば、団長の作った馬車は全部の車輪が独立していたわよね……」
バルドゥックからべグリッツへと引っ越しをする際に、ゴムタイヤにショックアブソーバー、それにボールベアリングまで備えた大型の馬車を何輌か作っている。
その事を言っているのだろう。
「ああ。だけど、あれは今の所俺しか作れないからなぁ。それにボールベアリングやショックアブソーバーはともかく、車輪の独立ですら公にはしていないからな。多くの人の役に立てる物を作って設計を公開している彼らとは比べ物にはならないよ」
俺は、自分や領地の利益のために設計や構造を公開していない。
少しでも金を得る為には仕方がない事だとは思うが……苦笑いしか浮かばないよ。
「そう卑下したものでもないとは思うけどね。あの人達には国内でもすごく高位の人がいたからお金を稼がなきゃなんて考えもしていない可能性もあるしね……」
・・・・・・・・・
ナバスカスとカリフロリスの二人と会った更に二日後。
マリーは四人もの元日本人たちと話す機会を得た。
「こちらがセンレイド・ストールズ伯爵閣下です。そしてこちらが我が国が誇る白鳳騎士団の五百人長の要職にある、ズヘンティス・ヘリオサイド准爵閣下です」
セル(ストールズ)は正式な伯爵位を持っているだけでなく非常に有力な公爵家の嫡男で、将来はその公爵位を継ぐ立場にあるという。
また、王族親衛隊長として、小規模ながら白鳳、青虎、緑竜、黒狼の各騎士団とは独立した軍組織を束ねている。
ツェット(ヘリオサイド)はデーバス王国の精鋭、白鳳騎士団に所属し、下位の将軍職にも匹敵すると言われる五百人長という階級を得ているデーバス王国軍の俊英だ。
この若さで大貴族出身でもない、一介の下級貴族出身者がここまでの階級に達した前例は殆どないという。
マリー達はお互いに挨拶とステータスの確認をして、個室の椅子に腰を下ろした。
今回の面談は投宿している宿のロビーではなく、デーバス側が用意したレストランの一室で行われている。
面談にあたり、ヴァル(ナバスカス)から「大貴族や軍の要職にある者がそちらの宿に出向くと話題になってしまう」との連絡があり、マリーとジンジャーは仕方なく出向かざるを得なかったのだ。
勿論、入店する時刻はそれぞれ入念にズラされており、マリー達の方はともかく、万が一セルやツェットに注目している者が居たとしても示し合わせての会合と思われにくいよう、慎重な配慮がなされている。
席に座りながら、ヘリオサイド准爵はストールズ伯爵に向けて頷くことで確認を取ったようだ。
はじめに話す内容については予め許可を得ていたように見える。
「いきなりで申し訳ないが、まず、確認させて頂きたい事があります」
ジンジャーについての報告はこの時までに既に行われていたようで、最初からラグダリオス語で話し始めた。
「『日本』での私の名は『ヌマオカセイゴ』と言いました。サラリーマンでした。そして、あの事故の時、私は一人の部下と一緒でした……」
その言葉にマリーは少し面食らう。
ヴァルもアル子(カリフロリス)も、当然マリーも日本で生きていた頃の名前は言っていなかったからだ。
「……部下の名は『ネモト』です。残念ながら下の名は忘れてしまいましたが……。貴国に、元の名を『ネモト』という“生まれ変わり”はいませんか?」
その言葉を聞いて、マリーは少し安心する。
と同時に転生者達の顔を思い浮かべる。
が、自分とクロー、そしてアルの以前の名だけはかろうじて思い出せたが、それ以外はさっぱりだった。
「お役に立てず申し訳ありませんが、心当たりは……あ、その『ネモト』さんというのは男性ですか?」
「あ、そうです。男性です」
「そうですか……すみませんが私の知る限り、元の名を『ネモト』という方は存じません」
マリーの答えにツェットは少し寂しそうな顔をする。
「いえ、お気になさらず。万が一ご存知でしたら、という一縷の望みに賭けただけの話ですので……」
そして残念そうな顔をしながら言った。
その時、マリーにはある考えが閃いていた。
「今、『ネモト』さんという方についてお伺いしたので思い出したのですが、貴国に事故当時『大学生』だった方はいらっしゃいますか? 以前の名は不明で女性という事しかわからないのですが……」
ベルがデーバス王国出身であることを思い出したのだ。
彼女からは「転生した事自体、誰にも話していない」とは聞いていたが、一種のカマかけである。
「『大学生』ですか……私は存じません」
ツェットが申し訳無さそうに答える。
他の三人も黙ったままだ……。
が。
「すみません。私も『大学生』だったという人は知りません」
アル子が申し訳無さそうに言った。
セルやツェット、ヴァルは一瞬だけ心配そうな顔になったが、後半を聞いて表情を消す。
「ですが、えーっと子供だったという人は知っています。元の名を……何と言ったっけな……」
右手の人差指を下唇に当てながら目線は斜め上を向けるその仕草は、アル子の容姿に可愛らしさを追加している。
「ごめんなさい、前の名前は思い出せませんが、女性です」
勿論、アル子にそのような知り合いなどいない。
デーバスの男性陣はかろうじて表情を動かさなかったが、全員が内心でアル子に感心していた。
単に子供と言うだけならそれなりの年齢層が考えられるし、バスの乗客だったというミュール(運転手だったとは明かしていない)からも高校生くらいの子供が男女とも複数人乗っていた筈だと聞いていたからだ。
性別についても男性と言うよりは女性と言って正解だ。
デーバス王国に日本で高校生や中学生、またはそれ以下の年齢の男性が確認されていない以上、危険な橋は渡れない。
何よりアル子自身が女子高生だったのだから、まるきり嘘とまでは言えない。
そして当然、マリーにも心当たりはあった。
彼女の夫であるクローは高校生だったし、ラルやグィネも高校生だったと聞いていたからだ。
加えて彼らからはそれぞれ友人と一緒にバスに乗っていたとも聞いている。
「子供……ですか。お幾つくらいだったの?」
眉一筋すら動かさず、マリーが尋ねた。
「さぁ、そこまでは。単に子供だったとしか。私達としては今が大切だと考えていますので、あまり昔の事を詮索しませんでしたし……」
「なるほど。確かに以前の事は生まれ変わった以上、現在には関係ありませんね」
にっこり笑って感心したように言いながらもマリーは心の中で肩を竦めている。
以前の年齢や職業などはオースに生まれ変わった者にとって結構重要な要素になるからだ。
つい先日も、彼らはリヤカーを作ったものの大した出来ではないことが判明している。
金属に限らず、工作に長けた者が居ればもっとずっとマシな物が作れた筈だ。
と、その時、レストランの個室がノックされた。
料理が運ばれてきたらしい。
運ばれてきたのは大き目の鍋であり、一緒に底の深い小型のボウルも人数分運ばれている。
陶磁器らしいお椀型のボウルにはしっかりと高台も見て取れる。
「それは……?」
懐かしい食器の形にマリーの表情が変わる。
テーブルの中央に置かれた鍋の蓋がアル子によって取り除かれた。
「……これは!」
勝手にコース料理かと思っていたマリーは絶句する。
鍋の中身は薄茶色をして、独特の芳香を放つスープだったのだ。
「ええ。『お味噌汁』です。つい先日、やっと満足の行く『味噌』が作れたんで、早速作らせてみたんですよ。海藻からですが、ちゃんと出汁も取っていますし、美味しいですよ。『豆腐』は無いですけど」
にこにこと笑いながらセルが言った。
「これがミソなの?」
以前より味噌という調味料について聞き及んでいたジンジャーが目を輝かせて言った。
「そう。ミソシル。ミソで味を整えたスープよ……」
毒味のつもりなのか、アル子はまず味噌汁をセルに渡した。
見たところ何か根菜のようなものと海藻らしきものが具になっているようだった。
セルは「お先に失礼しますね……ふっ、旨いなぁ……」と破顔する。
それを確認し、アル子がすぐにマリーとジンジャーの分の味噌汁をよそってくれた。
いつも以上に鼻の穴を広げて懐かしい味噌の香りを胸一杯にかぎながら、マリーは早く口をつけたくて仕方がない。
・・・・・・・・・
「おい、『味噌』、『味噌汁』だと!?」
予想外の情報につい口を挟んでしまう。
「うん。そう。結構美味しかったわ。ですよね?」
「ええ。私もあの味は好きね」
マリーとジンジャーは俺程には興奮していない様子だ。
まぁ、実際に食ったならそうだろう。
俺はかねてより米と醤油を産する土地があるなら、幾ら払っても生産農家や製造者を招きたいと思っていた。
米農家が農奴や、醤油職人が奴隷なら白金貨を積んででも買い取る気持ちがある。
ちっとも惜しくない。
万が一、それが断られるのであれば侵略だ。
力ずくでも奪い取るだけだ。
そうだ。味噌も米と醤油と同列だろう。
ふん。ミマイルの件は置いておいても、これでデーバス侵略は改めて最重要事項だと認識をし直す。
宣戦布告をした以上、交渉して云々はない。
絶対に勝たねばならない理由が増えただけだ。
何しろ、味噌が出来ているなら醤油も……たまり醤油なら一年や二年程度もあればすぐにでも作れる筈だ。
「すまん。続けてくれ……」
・・・・・・・・・
豚肉や魚の切り身の味噌漬け焼き、卵黄の味噌漬け、味噌を塗って焼いたチーズ、味噌をベースにしたドレッシングを掛けたサラダ、味噌煮込みうどんなど、味噌を使った各種の料理を堪能しながら、転生者達は会話を続ける。
「それで、グリードさんはどういう世を目指しているのですか?」
ボリボリと豪快にもろきゅうを齧りながらセルが尋ねる。
「どういう、とは? どういうことですか?」
真鯵のなめろうをつつきながら、マリーははぐらかすように答えた。
「政治形態や……奴隷制についてです」
もろきゅうを飲み込んでセルが言う。
「今のところは大きく変える余裕がないとは聞いていますね。それについては私も同感です」
携帯してきた煎り酒が入った小瓶を取り出すタイミングを失ったまま、マリーが無難な内容で返答する。
「私、奴隷制だけは絶対になんとかすべきだと思っているんです」
根菜をスティック状にした物を摘んで、マヨネーズと味噌を和えたディップに浸けながらアル子が口を挟む。
「ああ、奴隷なんて非人道的なものは良くないよな、でも……」
ヴァルもバターと混ぜた味噌を塗ったトーストを齧って言った。
エールのジョッキを持ちながら、ツェットも苦笑いを浮かべて頷いている。
「……急には変えられない」
「それは私も解ってるよ。将来の、目指すべき社会体制の話をしているんじゃない」
アル子は少し膨れたように答えた。
「五年か十年かしらないけど、どれだけ時間を掛けてでも身分なんかなくなって、みんなが笑えるような国にできたらいいねって、思ってるんです。私達はそのためにデーバスに生まれ変わったんだって……」
「ああ、そうだな。おいアル子、俺にもエールを頼んでくれ」
「はいはい」
「はいは一回でいいんだよ。いつも言ってるだろ?」
「はいはい」
「ちぇっ」
アル子が個室を出ていくのを尻目に、セルは再びマリーを見る。
「理想は大切ですよね」
目を細めながらマリーが追従のようなことを言った。
マリーも以前はロンベルト王国の身分制度には納得がいっていなかったのだ。
その頃に彼らと会っていたのなら、一も二もなく飛びついていただろう。
なお、似たような話自体はマリーもだいぶ前からクローやアルを交えて何度も話している。
そして、数十年程度ではどうしようもないとの結論に達していた。
感情論にかなり希望的な観測を上乗せしたところで、どうシミュレーションしても不都合しか浮かばなかったからだ。
ロンベルト王国や、今後独立した場合のアルの領土で身分制の改革を行っても不幸な未来しか考えられなかった。
少なくとも、現時点で民主制や共和制のような政治形態を取る国家など誰一人として耳にしていない。
そのような状況で身分制度を無くすなど国家の自殺に近い。
他国と比較して隔絶した国力と強力な軍隊でもあればまた話は別だが、そんなのは夢物語だ。
他国に侵略の口実を与えるだけで終わる。
「そうですね。私も身分制度や奴隷制には反対です。一刻も早く何とかすべきだと考えてはいますが、彼女のように五年や十年では難しいとは思っています。でも……何十年掛かってもそういった非人間的な制度は廃止すべきです。私達が生きている間になし得たらいい、それを目標に今は多少の事には目を瞑るしかないと思っています……まぁ、これを言うと彼女の機嫌を損ねるのであれですけどね」
セルは微笑みながら話し続け、ツェットもゆっくりと頷いている。
対してマリーの方は「何十年程度じゃどうしようもないでしょ」と考えており、ジンジャーは単に胡散臭いと思っていた。
当然そのような態度はおくびにも出さない。
「民衆の意識改革には教育も大切です。二年以内には『学校』も作るつもりなんですよ」
セルの言葉が切れたのを見図らったのか、ヴァルも話に参加してきた。
「『学校』ですか……」
マリーが目を瞠るようにして答える。
「まぁ、最初から『民主的』な教育は難しいので、当初は魔法がっ……」
「おい」
魔法学校と言いかけたのだろうか?
マリーは少しだけ驚いた。
魔法、魔術を教える教育機関であれば入学希望者を集めるのは容易かろう。
魔術は最初の一歩こそ誰かに教わった方が効率よく学べるのは確かだ。
しかし、それは魔法の特殊技能を得る前と、得てからも新たな魔術を覚える時に限られる。
それ以降は自分で修行を重ねるしかなく、上達に近道は無い。
あのアルですら、血の滲むような努力を続けているのだから。
「とにかく、我々は民衆の教育と啓蒙からスタートするつもりで居ます。だからそれなりに時間がかかる事は覚悟しています……そちらでは何かそういった活動を行っていますか?」
セルがそこまで言った時、アル子が帰ってきた。
どうも全員分の飲み物を頼んできたらしい。
「……いえ、グリード閣下は成り上がり者ですし、まだ政治的な基盤の確立や軍の掌握を行っている最中です。教育については腹案もあるようですが、経済的な問題も大きいですし、現時点ではそんな余裕はないかと思います」
“軍の掌握の最中”と言ったところでデーバスの男性陣の目が少し鋭くなる。
「ダート平原の村を幾つも侵略……いえ、止しましょう。我々は民主的な、国民全員が平等な国家を作る事を目指しています。その過程で旧弊とも衝突するであろう事も考慮に入れています」
そう言うセルに対し、マリーは「そうですか」という以外の言葉を言えなかった。
「我々はいつでもあなた方を受け入れます。お国に帰られたらグリード閣下やお仲間にも是非我々の目指すところを語っていただきたい。もちろん、ニューマン士爵閣下がご希望なされるのでしたら、一緒に受け入れますよ。身分制度の廃止を目指しているとは申せど、それはかなり先のことになるでしょうし、貴族であれば人を導くのに慣れていらっしゃるでしょうし」
「今日の『味噌』料理は美味しかったでしょ? 私達、自宅にお風呂も持ってる人も多いのよ」
「風呂くらいあるだろ」
確かにロンベルティアには湯船を備えた公衆浴場もある。
「水洗のトイレや下水道の整備も始めようとしていますよ。生活の快適さについてはお約束できます」
アルも自宅に風呂や水洗トイレを作っているが、言われてみればそれを誰でも享受出来るようにはしていない。
少なくともそういう計画があるという話はマリーもジンジャーも聞いたことすら無い。
だが、毎週決まった曜日には休みを取れる自分達とは異なり、アルは碌に休みすら無い生活だ。
無理は言えないとマリーは考えていた。
・・・・・・・・・
「魔法の『学校』ねぇ……それに下水道か。そりゃ大したもんだな」
ぼそりと言うアルの顔にはどことなく不満気な面持ちが現れている。
第三部に入って、デーバスの人と話す時に少し会話内などで匂わせてきましたが、方言のような微妙な違いを表すために爵位の呼び方を変えています。
左側がロンベルト側、右側カッコ内がデーバス側の呼称です。
■公爵 デュクセル Duxell (ヘルティア Heltia)
■侯爵 メンクィス Menquis (マーキシ Marxi)
■伯爵 コーント Cornt (アウル Awl)
■子爵 ヴァリスト・コーント Vallist Cornt (ヴィンアウル Vinawl)
■男/女爵 メルクレイス/フェメルクレイス Mel Krais/Femel Krais (メルクレイン/フェメルクレイン Mel Kraine/Femel Kraine)
■准男/女爵 ヴァリスト・メルクレイス Vallist Mel Krais/Vallist Femel Krais (ヴィンメルクレイン Vin Mel Kraine/Vin Femel Kraine)
■士爵 ヴァンクレイス Van Krais (マスター Master)
■准爵 ヴァリスト・クレイス Vallist Krais (ヴィンマスター Vinmaster)




