第二百七十話 花嫁襲撃 2
7451年3月29日
「ねぇ、どうかしら?」
停車した馬車の中で、両手を広げながらミマイルは旧知の召使い女に尋ねた。
「とても良くお似合いです。ですが、ここが皺になっておりますよ」
衣装の皺になっている部分を直して貰いながらミマイルは「ありがとう」と礼を述べる。
「いえいえ……と、これでどのような殿方も姫様をひと目見たその時から視線を外せなくなる程かと……」
彼女より少し年上の召使いは王都を発って以来、数十回目のセリフを口にして微笑んだ。
このところのミマイルは、毎日のように朝と昼に新しい服に袖を通す。
尤もこれは、贈られた衣装の数が多く、彼女に似合う衣装を探す意味合いも多分に含まれてはいる。
この着替えも昼食後に行われた衣装替えだ。
「やっぱり? グリード閣下もそうかしら?」
目の前に持ってきた袖を眺め、体のあちこちに目を落としながらミマイルが言う。
その姿は召使いが言う通り、エレガントな魅力に溢れていた。
「勿論ですよ。姫様ほどお美しい方などおられませんし」
「グリード閣下も、それはお喜びになられるでしょう」
着付けを手伝っていた召使いの女達は口々に褒めそやした。
「私、閣下と直接言葉を交わしたのはまだ十回もないけれど……それでも閣下は私に魅力を感じてくださるかしら?」
「勿論ですよ。姫様ほどお美しい方などおられませんし」
ミマイルはまだ身体のあちこちを眺め続け、縫製などにムラがないか確認している。
そのような瑕疵があったとして召使い達が見逃すはずもないのだが、ミマイルとしては自分の目でも確認しておきたいのだ。
「ん……これ……脇、ちょっときついかも」
「そうですか? 姫様、右腕をゆっくり……ん~、見たところおかしい所はないかと……」
「そう? でもなんか右手をここまで動かすと胸が背中の方に引っ張られる感じが……あ、左手の方もね」
「ではそのお召し物については今一度確認致しますので……お脱ぎ下さいまし」
召使い女達の手を借り、ミマイルはドレスを脱ぎ始めた。
高価なドレスでも人の手による縫製のため、ミスは珍しくない。
まして、これらの衣装は国王がミマイルを驚かし、喜ばせようと、仕立てる前にたった一度寸法を採っただけで裁断や縫製中の寸法合わせは全く行われていない。
従って、ミスが無い方がどうかしている。
しかして、その実態は……。
「どう?」
「特におかしな所は……仕立ての腕不足かと」
「そう。ならそれは直しの方に入れておいて」
「では、こちらを」
一国の国王が懇意にする仕立て屋は、本来一度採寸すれば充分なのだ。
衣装が完成するまでに対象の送るであろう生活や体型の変化を読むなど彼らにしてみれば容易いことなのだから。
また、それだけの腕を持っていない方がおかしい。
とは言え、騎士団を辞め、地下迷宮にも行かなくなったミマイルである。
気を付けて生活していても採寸時よりも少しふくよかになってしまうものだ。
ましてやそれがうら若き女性で、それまで行っていた稽古や鍛錬から遠ざかったのならば、なおさら仕方がないだろう。
「ん……これは着心地がいいわね! どう? 似合うかしら?」
「勿論ですよ。姫様ほどお美しい方などおられませんし」
「そうよね! 私、頑張ったもの!」
「ええ。姫様の努力はお屋敷の皆がよく存じ上げております」
確かに騎士団を退団して生活の場を屋敷に戻しても、ミマイルは剣や槍、魔術の稽古は怠っていなかった。
普通の人なら音を上げるような稽古にも真剣に打ち込み続けていた。
だが、騎士団で腹違いの兄に強制的に扱かれていた頃程では無かったというだけである。
「ありがとう。でも私、まだ不安だわ……閣下からはまだ一度も愛を囁かれたことはないし」
「姫様。そのようなご不安は杞憂です。今の姫様であれば、どのような殿方も姫様をひと目見たその時から視線を外せなくなる程のお美しさです」
「そうかしら。閣下は私の事を気に入ってくださるかしら?」
「勿論ですよ。姫様ほどお美しい方などおられませんし」
愛想よく応える召使い女達だが、その顔がミマイルの視界から外れる姿勢になると能面のように表情が消えたり、面倒そうな表情になったりしていた。
着替えが完了したことを確認した召使いは、そっと馬車の戸を開ける。
少し離れて立っていた護衛隊の副隊長とミマイルの護衛騎士が小走りに駆け寄ると跪く。
「どう? このドレス。似合うかしら?」
「とても良くお似合いです」
「思わず見とれてしまうほどですよ」
「お美しい。それ以外の言葉が出ない程にお美しい」
騎士達は眩しそうにミマイルを見上げると、彼女の両脇と正面の座席に腰を下ろした。
召使い達はすました顔で後部座席に並んでいる。
・・・・・・・・・
間に小休止を挟んだ二時間後。
ミマイルの車列はロボトニー伯爵達が東の襲撃地と呼ぶ場所に差し掛かっていた。
「いえいえ、私が思うに姫様の美貌は三国一かと。嫁ぎ先が決まっておらず、私が一回り若く、もう少し出世していたのなら、必ずや求婚していたでしょう!」
そう言って褒めそやす副隊長はにこやかな表情を絶やしていない。
「でも、皆様のような武に重きを置く男性から見て、今の私がどう見えるのか本当に不安なんです」
「端的に申し上げて、非常に魅力的ですよ、なぁ?」
ミマイルに返事をしつつ副隊長は護衛騎士に声を掛けた。
「ええ、私などがミマイル様のお美しさを評する事など……畏れ多いです」
「でもね。先日閣下が屋敷においで頂いた時、皆が気を利かせてくれて閣下と二人きりになれた時間があったのだけど……」
護衛騎士の二人もその時のことは覚えている。
彼らの本来の主人であるフォーケイン准男爵の指示により、僅か二〇分程度だが屋敷の庭園でアルに付き従っていた護衛を引き離すことに成功したのだ。
「……その時も閣下は私に愛しているとか好きとか仰っては下さらなかったわ。本当は嫌われているかも……」
その言葉とミマイルが浮かべる沈痛な表情に護衛騎士の一人は歯軋りが出る程悔しがった。
贔屓目が大きいと自省するほどの彼の目から見ても、ミマイルの女性的な魅力は輝かしく映っている。
また、騎士団に入団する前と後を比べ、戦闘者としての成長も著しい。
主家の娘で王国の公式な庶子でなければ、思いつく限りの愛を訴えて求婚していたであろう。
「ミマイル様。お役目から遠目に見ておりましたが、あの時閣下がミマイル様を見る目には、しっかりと愛情が含まれておりましたよ」
「そう? 閣下も私のことを好きだと……?」
「ええ、あの目は愛しい者を見るそれでございましたとも。不肖、この私めが保証いたします」
護衛騎士から見て、アルは一度もそのような目でミマイルを見てはいない。
失礼のないように薄い微笑みを湛え続けていただけだ。
また、不調法にならないよう、相当に気を使っていたであろう事も読み取れていた。
彼にはそこに一欠片の愛すら見い出せていない。
が、それをそのまま伝える程彼は愚かではないし、何よりミマイルを悲しませるような事は一言も口にしたくはなかっただけだ。
「ありがとう。私、騎士団に入った時から貴方がたの事は頼りにしておりました。嬉しいわ……そう、閣下が私のことを好きだと……」
相当な精神力を使って表情を変えないよう、苦労しながら護衛騎士はミマイルの言葉に頷きを返す。
「……私のこと、愛していると……」
え? と護衛騎士達や副隊長は思い、すぐに「またか」という感情になる。
どうにもミマイルには思い込みの激しいところがあるようだが、それは全てグリード侯爵も彼女に思いを寄せている、という部分にのみ発揮されており、むしろそれ以外は貴族女性として大きな成長を見せているために「嫁入りを控えた若い女性の可愛いところ」と思われていた。
ここ一~二か月でその症状は悪化しているようにも感じられるが、それも婚礼時期が近づいてきているために浮き立つ心がそうさせているだけだろうとも見なされていた。
しかし、王都を発って以来、かなりの速度で重症化しているようにも取れる。
この件に関して、二人の護衛騎士は召使い達の意見にも耳を傾け、相談し続けている。
未だ結論には達していないが「どうやらミマイルは侯爵の第一夫人であるという、元冒険者のダークエルフに無用な劣等感を抱いているらしい。おいたわしいことだ」とか「刻一刻と婚礼が近づき、いざその時になって怯えもあるのだろう」という意見になっている。
「ふふ、そう。閣下も私のことが好きだと……」
そう呟いてミマイルがハイライトの消えた目で笑った。
まさにその時。
「「うわっ!?」」
「「何だっ!?」」
急に馬車の外が騒がしくなった。
馬の嘶きや御者が馬を宥める大声も響く。
馬車に乗っていた者達はミマイルも含めて全員が薄く空いていた窓板の隙間に目をやる。
と、その隙間から白煙が車内になだれ込んできたではないか。
副隊長と護衛騎士達は互いに顔を見合わせると頷きあった。
「ミマイル様、これを……!」
護衛騎士の一人が立ち上がり、天板に固定されていた歩兵用の剣をミマイルに差し出す。
彼女は単なる姫ではなく、立派に武器をとって戦える戦士でもあるのだ。
残りの護衛騎士は、こちらも己の腰の剣を引き抜くと振り返り、召使い達に「そなたらは頭を抱えて姿勢を低くしていろっ!」と命じ、空いていた窓板を閉め始めた。
副隊長は明り採り用に開いていた天板のつっかえ棒を外して天井を締めると備え付けの金具でロックする。
・・・・・・・・・
時は僅かに遡り、ここはロボトニー伯爵達が東の襲撃地と呼ぶ渓谷の脇の道。
「……」
伯爵の隣に潜む冒険者が唾を飲み込んだ。
伯爵は草陰から、目の前を横断する道の左の方をそっと窺う。
物見からの報告通り、合計数十人の護衛をつけた馬車が何輌か見え始めている。
彼らが潜む土手状の場所は高さが三~四mもあるが、綿密な調査の結果、安全に駆け下りる事の可能な場所は幾つも発見されている。
また、土手から街道までは下草に覆われた数m程の地面があり、何本かランダムに灌木も生えているため、効果的に兵を広げることは困難だ。
街道自体の幅は三m前後で、その向こうには四~五m程の幅の地面もあるが、ここにも背の低い木が生えている場所があって、その先は深い渓谷になっている。
「……!」
車列を警備する者達の話し声が、伯爵にも聞こえ始めた。
当然だが、その声はだんだんと大きくなって近づいてきている。
――上手く行くか……? 行ってくれよ。
何日か前に行った訓練で、この罠がきちんと作動することは確認済みだが、どうしても疑念が拭えない。
今、配下の冒険者の幾人かは、罠を起動する為の紐を握って息を殺しているだろう。
――あと、もう少しだ。
知らず、唾を飲み下しながら伯爵は嫌な汗に濡れる右手を開く。
車列の先頭を行くのは四人の重武装の兵士。
その直後に騎乗した二人の騎士が控え、更に四人の兵士が続いている。
そして、その後ろには二頭立ての馬車が二輌。
そのうち、先頭の馬車は兵士ではない、装備がまちまちの者が七~八人警備についており、二輌目の馬車には比較的軽装の槍兵が馬車の前後に二人ずつ、弓兵が左右に二人ずつ護衛としてついており、加えて後方から一人の騎士が指揮しているようだ。
――これで二六人か……。
先頭の馬車はあと少しで襲撃ポイントに差し掛かろうとしていた。
二輌の馬車の後方にはひときわ大きな六頭立ての馬車が続いている。
こちらは騎乗した騎士が一人、馬車の脇にいる他は、やはり槍や弓を持った兵士が合計一二名も周囲を固めている。
その後ろにも二輌の馬車が続いているようだが、そちらには何人の護衛がいるのかまだわからない。
――先頭の二輌と同じ程度なら、合計六〇弱というところか……少し多いが地の利と先手はこちらにあり、だ。
ついに予定されていた襲撃ポイントに差し掛かった。
伯爵の傍にいた冒険者が握っていた紐を思い切り引っ張ったのを横目に、車列の様子を窺う。
地面の数カ所から盛大に白煙が立ち上り、まるで煙幕でも張ったかのような有様になっている。
車列のあちこちから怒号や叫び声が上がる。
が、白煙の濃さは完全に視界を奪う程ではないため、馬や人影は伯爵達からは充分に認識が可能だ。
伯爵は立ち上がって土手から上半身を覗かせると先頭の馬車を引いていた馬に向けて右手を伸ばした。
「ふっ!!」
短く息を吐き出すと同時に伯爵の右手に青い魔術光が凝集し、音もなくぱっと散った。
掌から燃え盛る石塊が発射される。
ファイアーボールは狙い違わずに、先頭の馬車を引いていた右側の馬に命中し、爆発した。
哀れな馬が末期の嘶きを上げると同時にその姿を白煙が覆い隠す。
街道に仕掛けられた罠は特殊な薬品を組み合わせた仕掛けで、薬品同士が混ざり合うと真っ白い煙を発生させる。薬品を消費し尽くして化学変化がおさまる迄の時間はほんの十数秒程度に過ぎないが、その間は勢いよく白煙を出し続けるのだ。
そして、それらとほぼ同時に、何か重い物が地面に落ちる音が二つ。
伯爵配下の冒険者魔術師が地魔法で出した大量の土で車列の前後を塞いだ音だろう。
次いで土手の上からは弓弦の音が鳴り響く。
魔術弾頭も幾つか放たれた様子だ。
「あああっ!」
「う、撃たれたっ!」
「襲撃だ! 賊の襲撃だぞっ!」
――高価い買い物だったが闇精人族達は良い物を譲ってくれたな。先頭の騎士のうち最低一人は首尾よく始末できたか。
煙の中で騎士の一人が絶叫を放ちながら馬から落ちたのを見て、伯爵はほくそ笑む。
白煙が晴れないうちの攻撃時は騎兵のみを集中的に狙えと命じていたのだ。
こういう時、守る方は指揮能力が物を言うので、この命令は鉄板の定石とも言える。
また一人、先頭の馬車を護衛していた騎士が討ち取られたようだが、弓弦は鳴り止まない。
ちらりと左手を見た伯爵は数名の者が土手の上から弩を構えているのを認めた。
――向こうも手をこまねき続ける訳ではないからな。
護衛部隊に初撃を凌げた指揮官が残っているのなら、指揮下の兵をまとめてこちら側に打って出るだろう。
本当に車列の先頭か最後尾にいた者でもない限りは街道が塞がれてしまった事を知らない筈だ。
これだけ混乱を呈している中での音だけで推測するのは非常に難しいし、そもそも道を塞ぐほどの元素が立てる程の音を聞き慣れてでもいない限りは、まず気付かれる事もない。
そのための煙幕でもあった。
そうなると、防御側の指揮官としては馬車隊を前進させることで危機から離脱させ、自分達がその時間を稼ごうとするのは当然のことだ。
そして、この地形であれば渓谷側ではなく、土手側からの襲撃であろうことは子供でもわかる。
「敵は右だっ! 行くぞっ!」
「馬車隊は全力前進だっ!!」
思惑通り生き残りの騎士が兵を纏めて指示を飛ばしている。
だが、多少は見通すことの可能な白煙の中だ。
そして、時間とともに煙はどんどんと薄くなっていく。
襲撃側にしてみれば大声を上げて自らの居場所を明らかにしてくれている事もあって、目標の選定は容易である。
次々に弩が放たれた。
重厚な鎧に身を固めている騎士とは言え、僅か一〇m程度の近距離では弩の威力には抗し難い。
「うああっ!」
「くそおっ!!」
また数人が撃たれて落馬したことで、身軽になった軍馬が煙の中で暴れている。
当然、馬車を引いていた馬も嘶いて竿立になったり闇雲に走って煙から逃れようとしていた。
御者達は馬を宥めつつ、先の騎士の言葉に従うべく馬車を進める事に必死になるばかりである。
そして、渓谷を通る風にようやっと煙が薄くなってきた。
文字通り、馬車隊は大混乱に陥っている。
車列の中や後方に居た馬車は闇雲に進もうとして進めず、前方の馬車や兵士に突っ込んだりしていた。
ここまで罠の発動から僅か二〇~三〇秒程度の時しか経っていないが、この僅かな時間だけでも車列を護衛する者達の視界を妨げられた効果は大きい。
――なんだ?
伯爵は腰のあたりに、何やら不穏な雰囲気を感じたが、今はそれどころではない。
「よぉし、かかれっ!」
伯爵の命令に、デーバスの冒険者たちは武器を白兵戦用の物に持ち替えると一斉に立ち上がった。
・・・・・・・・・
「くそっ、襲撃だ。全員馬車の左へ! 盾にしろ!」
バースは白煙の発生と共に素早く命令すると周囲に視線を飛ばす。
だが、煙はあっという間に彼らの視界を塞ぎ、馬車や仲間の輪郭がぼやけていた。
――これは魔法か?
そう思う間もなく、魔術的な爆発音が鳴り響き、一瞬だけ視界の隅が真っ赤に照らされた。
ぼほ同時に、彼らが警護する馬車を引いていた馬が悲鳴を上げて倒れたのがわかった。
――ふぁ、ファイアーボール!?
彼ですら滅多に見たことのない攻撃魔術だ。
前リーダーのヴィルハイマー亡き今、ファイアーボールが使えるのはジルとリザーラの二人しかいない。
彼女らにしても魔力効率の悪いファイアーボールなどまず使わない。
バース自身、彼女らに使えと命じた事もなかった。
――敵には結構な魔術師が……。
そう考える間もなく、ファイアーボールと人馬の声に紛れ、ざらざらっという大量の土砂が立てる音と、ドン!という重量物の立てる音が前方から響いた。
一番先頭の馬車を護衛していたために、地魔法が立てる音については比較的聞き取りやすい位置取りだったからだろう。
「これじゃ魔法や弓は駄目だね」
「だな、ここは温存だろう」
ジルとベンノコの言葉が聞こえる。
僅かな興奮を伴ってはいるものの、落ち着いて状況を見極める声音は流石に一流の冒険者だ。
「ロック」
「あいよ」
バースは魔術と弓の得意なメンバーに声を掛けると「前を見てきてくれ。道が塞がれていたらコトだ」と命じた。
バースは以前、これに似た音を聞いた経験があるのだ。
足音だけを残し、ロックの気配が去っていった。
「魔力は取っておけよ」
続くバースの指示に仲間たちのうち、魔法が使える者達から返事があった。
この白煙が魔術によるものか、そうでないかは不明だが、仮に魔術であった場合、未知の魔術である。
どのような状況でも対応してきたからこそ、バースの指揮する緑色団は未だバルドゥックで最高の冒険者集団だと言われているのだ。
尤も、彼ら以上だと評される冒険者達がほぼ引退状態にあるからこそ、とも言えるのだが。
「敵は右だっ! 行くぞっ!」
「馬車隊は全力前進だっ!!」
――何だとっ!?
全く状況にそぐわない命令がバースの耳に届いた。
「おい」
「バース!」
メンバーも理解しているようで流石に慌てている。
「この煙だ。この馬車に突っ込まれてもまずい。ちょっと左に寄っておくぞ」
バースの命令に緑色団のメンバーが馬車から渓谷側へ移動した時。
今の今まで彼らが盾に使っていた馬車に後続の馬車が突っ込んできた音が響いた。




