第二百十九話 被害者
7450年5月28日
デーバス王国の中枢、ダーリンス宮殿。
「昨晩言付けた件は聞いておろうな? 原本はここにあるから読むがよい」
デーバス王国国王のアゲノル・ベルグリッド公爵は一通の報告書をテーブルに滑らせて他の二名に尋ねた。
「拝見いたします」
序列第二位のストールズ公爵が受け取り目を走らせる。
数分後、報告書はストールズ公爵からダンテス公爵の手に渡った。
ダンテス公爵が読んでいる間、国王とストールズ公爵は黙したままだ。
彼らに開陳された報告書は国王が持つ諜報集団である「赤」の潜入諜報員から齎された物である。
そこには「来年の春先に大層美しいと評判のロンベルト王国の国王の娘が、南部の領主である元冒険者で竜殺しの二つ名を持つグリードという名の伯爵に嫁ぐ予定である」とあった。
また、「その証としてロンベルト王国はグリードに南方総軍司令官の役職を与え、ロンベルト王国南部の軍権を移譲した」と記されてもいた。
その他、付随する情報としてグリードは領土省の現役の尚書であるサンダーク公爵の傍系であり、血筋も悪くないこと、先日ダート平原に現れた青いドラゴンを少数の手勢を率いたのみで退治し、褒美として中部ダート地域の領有が認められる予定である事なども添えられていた。
なお、サンダーク公爵に連なる者であるという情報は昨年中に、南方総軍司令官に叙されたことについてはつい先月にロンベルティアにあるデーバス王国の領事館から情報が齎されており、一月ほど前に行われた会議でも話題に上っている。
そして、最も重要であると思われる情報として「グリードは現在の地位はともかく、ロンベルト王国からの待遇を不満に思っているフシが見られる」とし、その証拠として「ドラゴン退治の褒美が飛び地となることについて不満を漏らしている」「その褒美の中部ダート地域や現在領有している西ダート地域にしても王国は軍隊の増派を行っておらず、それについてもグリードは不満に感じているようだ」と書かれていた。
加えて「これらの情報はガルヘ村(諜報員が潜り込んでいる村)にグリードが立ち寄った際に、村の領主である士爵夫妻に零していた言葉を聞いたものである」こと、そして「ガルヘ村の領主夫妻とグリードは冒険者時代からの深い付き合いがあり、高い信頼を得ているために何でも気軽に話すことができる間柄であるようだ」ともあった。
他にも多少の事柄が列記されており、総合すると「この婚姻については他種族の夫人しか持たず、自らの血を引く子を希望するグリードと、彼の地に王の血を混ぜたい国王の双方が求めた婚姻であり、互いに姻戚関係となることでより強固な結びつきを狙うものであろう。ついでにグリードはその娘に執心しているらしい」というような書き方になっていた。
「……この情報、陛下の手の者より齎されたものとは存じますが、信憑性は如何程のものが?」
ダンテス公爵が読み終わり、報告書を国王に戻したのを認めた後、ストールズ公爵が言った。
新たに領土を得るなど、きちんと確認できそうな内容はともかく、グリードという貴族が抱く不満感など確認しようがない心の内について触れられているのだからして当然の疑問と言えよう。
「うむ。それについては余もどうかと思った。だが、この報告書を認めたのは赤の長の血を分けた妹だそうだ。成人する前からロンベルトの村に溶け込み続け、的確な情報を送り続けていた凄腕の潜入諜報員だそうだ。一昨年行われたロンベルトの開発村に対する攻略の際にも囮として攻撃した村や周辺についての詳細な情報について送られてきたからこそ、決行の断が下せたのだ。また、裏取りについても既に指示が送られているからあと一~二か月でこの情報の確度も推測できよう」
国王の返答にはそれなりの説得力があった。
また、その言葉からは自らが抱える組織、「赤」への高い信頼が窺える。
「なるほど、あの時の……」
一昨年に行われたコミン村攻略戦において、ロンベルトにこちらの目的を誤認させるため、数十㎞も離れた村へ囮攻撃を仕掛けた。
それが、ガルへという村であり、そもそもあの作戦はガルへ村の詳細な情報を得られたからこそ遂行の決断を下せたのである。
潜入していた間者は村の耕作や収穫状況ばかりでなく、村に駐屯している兵力やその練度、周辺の地形情報まで詳細にレポートしてきたのである。
その結果、当時のガルへ村は占領してもあまり旨味はない事が判明し、地形や兵力の情報が判明した為に囮としてロンベルトの目を逸らさせるには最適であろうと判断されたのだ。
相手の防衛戦力を引きつける目的の囮攻撃であるため、場合によっては大きな防衛戦力が集中する可能性、そしてその状況からの退却を考慮したものだ。
囮攻撃で侵攻した結果、間者が齎した情報は非常に高い精度を誇っていた事も確認されている。
ガルへ方面の指揮官であったシュリカーン准男爵が妙な色気など出さず、堅実に指揮を執っていればこちらの被害はもっと抑えられていた上に、耕作地などへの被害を増やすことができたであろう。
「面白そうな情報ではありますが……」
ストールズ公爵は腕を組んで黙った。
それに視線を送りながら国王は茶に手を伸ばす。
「理想を言うなら……私は輿入れのタイミングを狙って派兵すべきかと思いますな……」
ダンテス公爵が口を開いた。
その言葉に国王とストールズ公爵は同時に唸り声を上げた。
それについては二人共考えないでもなかったからだ。
領土を治める伯爵で南方総軍司令官の婚礼、しかも国王の娘の輿入れとなれば、近隣に駐屯する軍の指揮官クラスも参列するだろう。
勿論、大切な前線から最重要人物である指揮官を全員移動させる訳はないだろうが、それでも後方にある補給段列や予備部隊の指揮官などは参列する可能性は高い。
つまり、来年の春に行われるという輿入れの際、ダート平原の北半分の防御力は一時的に手薄になる。
それは甘美な誘惑であった。
「確かに前線から離れれば離れるほど手薄にはなるだろうが……」
「うむ。こちらも被害なしという訳には行かぬ。今は失った兵力の補充中でもあることだし……」
国王とストールズ公爵は揃って難色を示した。
「何か勘違いをされておられるようですな……」
国王とストールズ公爵を見て、ダンテス公爵が薄笑いを浮かべて言う。
「私が申し上げたのはダート平原にあるロンベルト側の開発村への侵攻ではございませぬ」
そのような浅薄な理由ではない、とでも断ずるかのように目を光らせる。
「派兵はダート平原ではなく、その奥に行うのです。人数も最大で二〇〇もあれば充分です。場合によってはもっと少なくても良いでしょう」
ダンテス公爵の言葉に二人は不可解な表情を浮かべる。
ダート平原にある開発村ではなく、平原の深部でもない。
更にその奥であると言う上、人数も二〇〇人前後という少なさに異様な目的を感じ取ったのだ。
「少し整理しましょう。グリードとやらは下賤な冒険者を生業としていたようですが、なかなか優れた者のようです。尤も、領土省を管掌するサンダーク公爵の血筋に連なる者のようですからそういうこともあるでしょう」
どんな事柄にも血筋や家柄に重きを置くデーバス王国らしい語り口である。
とはいえ、デーバス王国に限らずオース一般ではこちらが当たり前ではある。
そういった考え方が少し緩いロンベルト王国の方が異常なのだ。
そのロンベルト王国にしても少し緩いだけで、軍事や政治を除けば大抵の場合は血筋や家柄についても考慮されることが多い。
「かの有名なバルドゥックの迷宮でドラゴンを退治したという報告もありますが、同時にこれはどうも彼の者に箔を付けるために行われた工作であるらしいとも報告されています。これは、迷宮内で退治したワイヴァーンを鱗ごと献上した褒美に領土を賜ったということからして、ドラゴンについては工作でありましょう……」
何か悪だくみでもするかのような人の悪い表情を浮かべてダンテス公爵は言葉を継ぐ。
「……本当ならそちらの手柄が優先される筈でしょうし、何よりも、証拠とされるワイヴァーンの頭部は一日展示されており、氷が溶けた部分を触ってステータスを見ることが出来たようですが、ドラゴンの方は一か月も展示されていたにも拘わらず、ずっと氷漬けのまま、ステータスを検めることが出来なかったといいますからな」
ロンベルティアにある領事館からの報告そのままの言葉に二人は頷いた。
「ですが、ダート平原に出現したドラゴンを退治したのは本当のようですので、こと戦闘においてはそれなりの力があるものとは思われます。これは彼の者を南方総軍司令官に任じたことからも間違いではないかと……流石にダート平原における軍権を無能な者に預けるという訳には行かぬでしょうし」
二人は静かに耳を傾けている。
「そして、彼の者が優秀だからこそ、以下の推測が成り立ちます。その報告書にもあります通り、ロンベルト王国の彼の者に対する待遇はそれ程良い物では無いようです。悪い物で無いことも確かですが」
ダンテス公爵はお茶に口をつけ、喉を湿らせた。
「飛び地は珍しくありませんが……察するにドラゴンを退治した地を、それもダート平原の北部に並ぶ中で最上の土地を与えたのでしょうが、駐屯する兵力について碌に増派しないというのは……。こちらにはありがたいですが、彼の者が不満に感じるのも当然でございましょう……恐らく、グリードなる者は現在、自領や他領を飛び回って軍や人の算段に奔走していることでしょうな」
さもありなん、と二人は頷いている。
「尤も、そういった不満を逸らす意味でもロンベルト王国は庶子とはいえ、正式に認められている娘の降嫁を決めたのでしょう。これは私の想像に過ぎませんが、彼の者が執心していたという姫は庶子ですから、降嫁させても良いのであればとっくにされていた筈です。大方、こういったタイミングを見計らっていたのでしょうな。まぁ、ドラゴンの出現は読めなかったでしょうが、不満を逸らす格好の餌として温存していたのでしょう」
これらの論拠は二人にとってある程度納得できるものであったようだ。
そしてダンテス公爵は、遂に派兵先について言及する。
「……ふふ。狙うのは輿入れに来る姫です。正式に認められた国王の娘とはいえ、所詮は庶子。警備に付いている兵は多くても五〇程度でしょうし、同行する側仕えなどを含めてもまずもって一〇〇を超えることはありますまい。可能ならその娘を誘拐すべきです。グリードなる者が娘に執心しているのであれば、それを殺されたか奪われたと思ってロンベルトの王家への隔意が生まれるでしょう。彼の者の領土に入るまで、姫の身の安全についての責任はロンベルト王国、いや、王家側にあるのは当然でしょうから彼の者はロンベルト王国側の警備体制についても糾弾するでしょう」
ここに至って、当初ダンテス公爵が言った意味を理解した二人だが、表情は険しくなった。
「まぁ、それ以前に下手人が我が国だとは早々に露見するでしょうから怒りはこちらに向く可能性はあります。ですが、元々領土を争っていた相手ですからそこは今更です。問題はそこではありませぬ。彼の者とロンベルト王国に溝を穿つことです。勿論、ロンベルト王国としては彼の者に謝罪し、新たに姫を用意することでしょう。ですが、執心していたという姫を輿入れ前に殺されたという恨みは消えることなく燻り続けます。表面的に溝が現れなくとも、心の奥に穿たれたものはそう簡単に消えはしません」
得々として喋り続けるダンテス公爵。
「……そして、上手く拐えたのなら後々に於いてグリードなる者への交渉のカードにも出来ると思われます」
ダンテス公爵の御高説はこれで一段落を迎えたようだ。
国王とストールズ公爵は揃って「言うは易し、行うは難し」と思って渋面を浮かべた。
作戦の骨子自体は良い。
目的も優れているとは言えないが、そう悪いものではない事も理解できる。
派兵する人数が二〇〇というのも充分だろう。
大部隊という数でもないし、ロンベルト王国内への移動についても夜陰に乗じるなどして関所のない山奥などから入り込む事は可能だと思われる。
輿入れのタイミングについてもまだ先の話でもあるようなので調査する時間は充分にあるし、婚礼という祭事なのだから調査にも大きな苦労はないだろう。
勿論、襲った者の糸をデーバス王国が引いていたということについて、後々露見したところで問題はない。証拠となる物さえ残さなければ口を拭い続ければいいだけだし、どちらにしろ両国の仲は元々悪いのだからこれ以上悪くなりようがない。
そして、殺すか拐うかする対象は、公に認められているとはいえ所詮は庶子であり、正式な王族とは言えないから大戦争に発展する可能性はほぼゼロだ。
問題は「どこ」で襲うのか。
そして、それまでの間、二〇〇人をどうやって隠し続けるのか、ということである。
余程の山奥ならいざしらず、輿入れはそれなりに大きな街道を通るだろうし、そんな人通りのある場所まで二〇〇人を移動させたら絶対に見つかる。
それについて、ダンテス公爵にはなにか腹づもりがあるのだろうか?
二人の視線を受けてダンテス公爵は不敵な笑みを浮かべた。
「ご心配なさらず。方法は二通りあります。一つはそれなりに費用が掛かる方法ですが、確実性は高いと思われます」
案があるというダンテス公爵の言葉に二人は身を乗り出した。
「ふふ。お忘れですか? 世の中にはそういった事を請け負ってくれる存在があることを……」
その言葉に二人共ピンときた。
ライル王国である。
確かにライル王国に暗殺を依頼すれば費用はかかるが確実性は高いだろう。
しかし……。
「庶子とはいえ、王の血を受けている者だ。費用はとんでもない金額になろう。絶対に払えないという訳ではないだろうが、今は何かと入り用だし……難しいであろうな」
苦笑いを浮かべながら国王が言った。
困難さが異なるので正規の王族をターゲットにする程ではないだろうが、庶子とはいえ公にされたものだし、腐っても直接王の血を引いた人物の暗殺である。
数十億、しかも後半の数十億を請求されても不思議ではない。
いや、ターゲットが高貴な血を引いていることを考慮すればその程度の金額は請求されるであろう。
そして、ライル王国への依頼は全て前払いが原則である。
踏み倒しは出来ない。
「それに、ロンベルティアで暗殺しても意味は薄いですな。病死や事故死を装えば単に庶子の姫が死んだというだけで、グリード伯爵とロンベルト王家の間の溝にはなるまい。暗殺だと判るように殺してもどうせ偽の犯人をでっち上げられるだけだ。どちらにしても掛ける費用に見合う結果が得られるとは思えません」
ストールズ公爵も苦い顔で言う。
ダンテス公爵はそれらの言葉に対して一つ一つ頷きを返しながら聞いた。
「その通りです。ですので狙うなら輿入れの最中であることは絶対条件となります」
ダンテス公爵の言葉に二人は「そうなるとライル王国もそれなりの人数を用意せざるを得ない。金額はもっと高くなるのは必定だ」と返す。
「お二方が仰る通りですな。ではもう一つの案です。私としてはこちらが本命だと思っています」
自信たっぷりの顔で言うダンテス公爵に対し、二人は口を噤んだ。
「予め輿入れのコースについて入念に下調べを行い、人目に付きにくい山中の洞穴などを利用して根拠地を作っておく方法です。人は一〇人ずつくらいに分けて何ヶ月かかけてバラバラに送り込めばあまり目立たないでしょう……ライルの者に頼めばそれなりの費用は掛かるでしょうが、襲撃地点の選定や退路の確保も含めて確度の高い案を提示してくれるでしょう」
ライル王国に暗殺ではなく下準備を依頼するという手があったか、と二人は目を見開いた。
闇精人族の国が抱える兵力は暗殺に特化しているが、野伏せりとしても非常に優秀な人材が揃っている。
地形の調査を始め、襲撃地点の選定や山中での根拠地を定めたりなどはお手の物だ。
未開の地についての調査など、各国が依頼している。
冒険者に依頼するよりも費用は掛かるが精度は高いためだ。
当然、デーバス王国も過去において何度か依頼した実績があった。
そして、直接暗殺を依頼する訳ではないし、戦闘に参加させなければ費用はかなり抑えられるだろう。
だが……例のグリード伯爵の第一夫人はダークエルフだという情報もある。
その線から情報が漏れる可能性もある事を思い出した二人はそれを問うた。
「費用は置いておいて、そちらについてはあまり心配しておりません。ご承知の通り、ライル王国は依頼について絶対に秘密は守ります。そして此度の件、ライル王国は依頼には協力的であろうかと予想されます」
その理由として、ダンテス公爵はグリード伯爵の第一夫人がダークエルフだという事に触れた。
「他種族間での妊娠の可能性は低いですが、皆無ではありませんからな。彼らとしては第一夫人との間に子供が生まれる事を望むでしょう。少しでもそのための時間を稼ぐ事になりますから、仕事に徹して無関心か、好意的になりこそすれ疎む可能性は低いと思われます。もし好まれるのなら費用についても多少色を付けてくれるやもしれません」
二人としては流石に好みはしないだろうと思いながらも反論できる材料を持たないので何も言えなかった。
「話を戻しますが、ロンベルトに送る者も正規兵である必要はありません。勿論、指揮官は優秀な者を任じるべきですが、今回は適任者がいます。私は、宮廷魔術師の金杯、ロボトニー伯爵を推薦します。彼は白鳳騎士団で正騎士の叙任も受けておりますし、ファイアーボールを始めとした大規模な攻撃魔術に精通しておりますから、その分部隊の人数を減らす事も叶いましょう」
さりげなく、ダンテス家に連なる筆頭宮廷魔術師を推薦する。
が、良い人選であるのは確かであろう。
能力的には宮廷魔道士として名を馳せつつあるレーンティア・ゲグラン准爵の方が適してはいるのだろうが、残念ながら彼女は第一王子にくっついて東部戦線へ出征中だ。
ついでにゲグラン家は三公爵家の流れを汲んでいないので、どうせ手柄を立てさせるのなら三公爵家に連なる者の方がまだマシだし、信用度も段違いだ。
「送り込む者は大部分をベンケリシュで募集すれば良いかと。地下迷宮に潜っている冒険者なら、連携の習得も徴集兵に仕込むよりは早いでしょうし、何より魔術が使える者が多いと言いますから更に人数を抑えることにも繋がりますからな。加えて、関所のない山野を人目につかないように越え、根拠地まで向かうことについても徴集兵は疎か、正規兵よりも優れているでしょう。そして、これが一番重要ですが……」
ダンテス公爵が言うであろう言葉が二人の脳裏に浮かぶ。
「……撤退の際には捨てても惜しくはございませんし、正規の軍事行動であるという事についても露見が防げます。加えて、捨てて来たのであれば費用についても支度金程度で済みましょう」
二人共予想はしていたが、良心には反するようで渋面を浮かべた。
だが、デーバス王国にとっては悪くはない策であると思われた。
費用もライル王国へ支払う調査費用や冒険者を雇い入れる支度金を併せてどんなに高く見積もっても五千万Zを超えることはあるまい。
「……ライル王国からの見積もりと、此度の情報について裏が取れたのなら、それもまた良かろう」
暫し黙考した後、デーバス王国国王アゲノル・ベルグリッド公爵は重々しい口調で条件付きだが承認の言葉を発し、残る二人は頷くことで返答に代えた。
ベルナデッド・カロスタランが立案し、ダマルーン(ミュシェーレ・サグアル)を通じて齎した情報は敢えて虚実を入れ混ぜていたが、一部を除く大部分において彼女の予想通りの効果を発揮した。




