第二百九話 狼女
7450年5月16日
日の出前に出発したお蔭で、ザーラックスの手前で部隊に合流ができた。
今日はさっさとザーラックスに入って、ヨーライズ子爵に対して閲兵式を行い、明日には目的地のバルザス村だ。
そして、バルザス村ではサミッシュ地方にあるとされるデーバス王国の間者組織調査をしていたという体を見せなければならないので、最低二週間は教会に手は出さず、領内各地に兵を派遣させて時間を潰す。
勿論、これは麻薬の汚染状況の調査や教会の調査をする為でもある。
ある程度、領内の汚染について情報が集まったら、いよいよ教会を潰すのだ。
と思っていたのだが、領境にある関所で待っていたリンビーからの報告があった。
教会のトップである転生者の女が伝道の為にザーラックスに来ているという内容だ。
もしも会って話すことが出来るならもう少し平和的な解決も可能かも知れない。
ま、それはそうと、そろそろザーラックスの市街地に入る。
市街地の外れには、民兵のような粗末な鎧を身に着けた者たちが一〇人程いた。
誰何の声に答えると、驚いた事にヨーライズ子爵の騎士団員だという。
わざわざ出迎えに来てくれたのだ。
彼らの先導に従って、まずは騎士団本部へと歩を進めた。
本部ではヨーライズ子爵や騎士団長以下、子爵の騎士団員たちも勢揃いで出迎えてくれる。
そして騎士団の訓練場で部隊を整列させ、子爵に閲兵させた。
子爵はもうおじいちゃんなのに重そうな板金鎧を着込んでくれて閲兵台に立ち、俺が指揮する討伐部隊を観閲してくれている。
型通りの敬礼を行い、閲兵は終了だ。
馬を降り、閲兵台から降りた子爵の方へと向か……誰だ、あの女?
閲兵式の参列者の中に、変な格好をしている女を見つけた。
まさに、こう、何と言うか……修道女のような格好をして頭巾を被っているので髪の色は判らないし、耳や尻尾も見えないから人種も判然としない。
が、顔つきは彫りの薄い東洋人のそれがよく表れている。
あ、眉は黒いな。
もしや……。
【マーガレット・ジーベックス/3/7/7429】
【女性/14/2/7428・狼人族・ジーベックス准男爵家長女】
【状態:良好】
【年齢:22歳】
【レベル:6】
【HP:109(109) MP:29(29) 】
【筋力:17】
【俊敏:24】
【器用:16】
【耐久:18】
【固有技能:聖なる手(Lv.MAX)】
【特殊技能:超嗅覚】
【特殊技能:小魔法】
【経験:40830(43000)】
やはりそうか。
こいつが大悟者で、麻薬を作り広めた張本人だ!
固有技能も報告にあった通りの【聖なる手】で、しかもそのレベルは既に九に達している。
少しきつめの顔つきが油断のならないような印象を与えるが、顔の造作は整っている方だと思う。
でも、あれだな。
転生者の、しかも女性で犬人族や狼人族ってのは初めて見たけど、その、なんだ?
当然っちゃあ当然だが、ありゃあやっぱ……おっぱい四つあるわ。
胸の膨らみ方が種族の特徴を裏付けているが、一つ一つの大きさはまだミヅチの方が……。
って、下らない事を考えてる場合じゃない。
「団長……」
いつの間にかクローが側に居て声を掛けてきた。
口調と声音から本当に何らかの報告があって来たのではないことはすぐに解る。
こいつもあの女に気がついたんだろう。
お蔭でクローから何らかの報告でも聞くように立ち止まることが出来た。
「そのまま適当に口を動かし続けろ」
小声で言ってクローに耳を寄せる風を装いながら、これ幸いにと彼女の方へ視線を向けて固有技能のサブウィンドウを開く。
ちょっとだけでも読んでおきたい。
【固有技能:聖なる手;掌に聖なる力を宿らせ、奇跡を起こすことが出来る能力。技能レベルと起こせる奇跡については以下の通り。
レベル0 触れた対象が外傷を負っていた場合、使用者のレベルの10倍のHPを回復させ、同時に痛みも軽減する。外傷は何箇所あっても良い。
レべル1 触れた対象が細菌若しくはウィルス性の病気に冒されていた場合、対象の自己抵抗能力を使用者のレベル倍高める。
レベル2 触れた対象に対して害意を持つ者からの物理的な攻撃に対し、回避と防御の補助をする。補助率は使用者のレベルに応じて増加する。効果時間は使用者のレベルに60を乗した秒数。
レベル3 触れた対象が自己免疫性を含む機能的疾患による病気に冒されていた場合、対象の自己治癒能力を使用者のレベル倍高める。
レベル4 触れた対象に対して害意を持つ者からの魔法的な攻撃に対し、回避と防御若しくは抵抗の補助をする。補助率は使用者のレベルに応じて増加する。効果時間は使用者のレベルに60を乗した秒数。
レベル5 触れた対象が自己免疫性を含む器質的疾患による病気に冒されていた場合、対象の自己治癒能力を使用者のレベル倍高める。
レベル6 触れた対象が外傷を負っていた場合、使用者のレベルの50倍のHPを回復させ、同時に痛みも軽減する。但し治療可能な外傷は一箇所のみ。この奇跡のみレベルゼロの能力と排他。
レベル7 触れた対象が心因性を含む精神的疾患による病気に冒されていた場合、対象の自己治癒能力を使用者のレベル倍高める。
レベル8 触れた対象が嘗て持っていた歯胚や毛包、生殖細胞などの機能を使用者のレベルと同じ年齢分回復させる。
レベル9 触れた対象に対して害意を持つ者からの魔法による精神への影響に対し、抵抗の補助をする。補助率は使用者のレベルに応じて増加する。効果時間は使用者のレベルに60を乗した秒数。
なお、先天的な疾患などについて奇跡は起こせない。
また、MAXレベルの拡張能力は起こせる全ての奇跡の効果や補助率、効果時間を倍加させることである】
口を動かし続けるクローに対して適当に相槌を打ちながらウィンドウに目を走らせる。
ところで、たまに思うんだけど鑑定ウィンドウに書かれている文章って、なんとまぁ、読みにくい事よ。
日本語がそこそこ得意だけど、ネイティブじゃない人が一生懸命翻訳した感じに近いんだよね。
俺なら同じ情報を伝えるのでも、もう少し上手に纏められる気がする。
そういう愚痴は置いておいて、俺よりも目下だとは言え流石にこの地の領主であるヨーライズ子爵を前に長々と読んでいられる訳もなし。
さらっと目を通しただけで碌に噛み締めちゃいないが、今の時点では病気や怪我の治療や魔法を含む危害に対して纏めて抵抗できるだろうという事が判れば充分だ。
「わかった。行くぞ。トリーニン准爵とアークイズを呼べ」
クローに王国騎士団の中隊長を呼んで来いと命じ、俺は転生者と何か話している子爵へと向かった。
「子爵。どうだった? 八割方が王国南方軍だが、我が領の騎士団からも二〇名程……」
ヨーライズ子爵に語りかけると、子爵は「流石は竜殺しと名高い閣下の指揮する軍です。誠に勇壮でした。それに、閣下と同じ黒染めの鎧を着た騎士がおりましたな」と褒めてくれた。
なお、子爵の着ている板金鎧は手入れは行き届いているようできっちりと磨かれているが、結構な年代物らしく、デザインはかなり古いものだった。
そう言えば、迎えに来てくれた騎士たちの鎧もボロ、いや、使い込まれたような装備が多かったなぁ。
やはり軍備にはあまり金を回す余裕がないのだろうか。
なんとなく、以前バルドゥックの街にいた頃の事を思い出した。
――ヨーライズ子爵騎士団の方から来た。
とか消火器の押し売りみたいな事を言っていた連中がいたっけ。
もう顔も名前も忘れちゃったけど、まだ潜ってるのかねぇ?
確か、盾に紋章らしきものも描かれていたが、それが現役のヨーライズ子爵騎士団の者たちが掲げている紋章と同じものかすら思い出せない。
「はは。我が騎士団の装備がみすぼらしくて驚きましたか?」
え? 顔には出していなかったつもりだったんだが。
「ご存知の通り、恥ずかしながら我が領土はあまり裕福ではございません。ダート平原から然程遠くないとは言え、領土を開発するにはあまり軍備に金を掛けられないのです……」
子爵の声音や表情を窺う限り、どうやら俺の態度や表情を見て言った言葉ではなく、貧相な装備について詰られるよりも前に予防線を張っておこうとの考えから出た言葉のようだ。
「なるほど」
ここで軍備より土地の開発に力を注力するなど為政者として先を見ている、立派だ、とかお為ごかしを言う必要はない。
為政者としては何よりも軍備を整えて魔物退治や盗賊退治をしたりして治安レベルを高め、外国からの侵略などに備えて軍隊を移動させやすくする為に街道整備を行うなど、領民を守ることに直結する事業に金を注ぎ込むのが最優先だからだ。
開墾を始めとする土地の開発などそれが出来てからの話である。
西オーラッドで一番豊かだと言われているロンベルト王国でさえ国家予算に占める軍事費の割合は七割以上もある。
デーバス王国なんか八割以上、事によったら九割も予算に対して軍事費が占めているだろうと言われているのだ。
開墾や井戸掘り、山林の伐採、灌漑、高台などの掘り崩し、治水事業なぞ大規模なものを除けば本来は街や村を治める下級貴族がやる仕事だと言える。
日本でだって中世頃の小規模な工事は全て荘園単位、時代が下って江戸時代に入っても村の庄屋さんなんかが主導して行い、藩や幕府からの援助なんかまず無かったのだから。
そして、このサミッシュ地方近辺では河川の氾濫や山津波などの大規模な自然災害があったという話も聞かない。
従って、大規模な工事などが必要になる、なったという事も無いはずだ。
まぁ、自ら魔物退治をした上に木の伐採までした俺が言うのもあれだけど、俺だって西ダートに封ぜられてから一年以上、魔物の間引きを含めて土地開発に手出しなんかする余裕はなかった。
騎士団の訓練場を拡張したり、表向きの理由もあるから勘違いされ易いが馬車鉄道を敷設したりなんか、本来はもろに軍事費だからね。
自身が手を出した事も、ある意味で俺という最高戦力を誇る駒がいるからこそ、だ。
騎士団員の戦闘訓練を兼ねてそれを有効活用しただけだと強弁する事もできる……かな?
要するに、騎士団の装備が貧相な理由について、もっともらしく「領民のために致し方なかったのです」とか言っているだけで、結局は領民の為の行動をしていないって事を自ら告白しているのに他ならない。
このあたり、俺の常識では正直言って「まず領民の生活レベルの向上に努めているとは立派だね」と思わんでもない。
が、オース一般、いや、この時代の為政者の常識だとちょっとね……。
ヨーライズ子爵はどう見ても俺、転生者と同じような常識や価値観を備えているようには見えず、頭の天辺から足の爪先までこのオースに生きる人だ。
所詮は麻薬に溺れ、いや、麻薬が良くないものだという知識はなかったか……一時の快楽に身を委ねつつある人だということか。
「ところで閣下、折角なのでご紹介を……ジーベックス准爵、こちらへ」
そう言ってヨーライズ子爵はウルフワーの女に声をかけた。
「准爵、こちらは西ダートを治めておられるリーグル伯爵です。今日は閣下自ら、デーバス王国の間者組織摘発の実行部隊を率いておいで下さられた。見ての通り、お若いがバルドゥックの迷宮とダート平原に現れたドラゴンを斃した実績をお持ちの勇者でもあります。そして閣下、こちらは我が領で大地母神を祀っておられる団体の長を務めているジーベックス准爵です」
「はじめまして、リーグル伯爵。私はマーガレット・ジーベックスと申しまして、ニギワナ様をお祀りする教会を主催しております。今後共お見知りおきを」
子爵に紹介を受けたジーベックスは胸の前で手を組んで頭を下げ、俺に挨拶をした。
当然ながらその目には好奇の色が浮かんでいる。
俺の顔も彫りが薄く、東洋人的な特徴が目立つ上、髪は染めているが大半は錣付きのヘルメットに隠れているし、眉までは染めてないからね。
ああ、オープンフェイスのヘルメットなら挨拶の時に脱がなくてもマナー違反じゃないよ。
ましてや俺はこの場所では最上位者だしね。
「そなたがジーベックス准爵か。私はリーグル伯爵アレイン・グリードだ」
俺も会釈を返した。
そして、これだけ近距離で顔を合わせておきながら全く触れないのも不自然なので「いきなりで不躾だが、出身はカントーか? いや、これは失敬。サミッシュではなく、私の出身の地名だった」と言って相手の様子を窺うように目を細めて観察する。
やはりと言うか、ジーベックスは僅かに目を瞠ると「ケルサミッシュという村のカナガワです」と微笑んで答えた。
ヨーライズ子爵も知っているはずの土地の名が混ざっていたためか、子爵は変な顔をすることなくニコニコしている。
「ところで、リーグル閣下。出発は明日でしたな? バル「子爵、どこにデーバスの耳があるか分からぬ故、細かな情報については……」
ジーベックスの手前、バルザス村に駐屯する情報は直前まで伏せておきたい。
でも、この様子じゃもう話しちゃってるかな?
麻薬でおつむがやられちゃってるんじゃねぇだろうな、この爺さん。
「おお、確かに。口の動きから言葉を読む者もいると聞きます」
「うむ。用心に越したことはない」
重々しく感じられるよう、多少の演技を含めて言ったのだが、子爵が「たかが間者組織の摘発のようなケチな仕事にそこまで四角四面になる必要もなかろうて。ドラゴン・スレイヤーとは言え、所詮は冒険者上がりの若造か。より一層の手柄を立てようと必要以上に張り切っていると見える」というような目つきをしたのは見逃さない。
まぁいいさ。
若造なのは確かなんだし。
「それはそうと閣下、今夜のお食事はどういったご予定で?」
「明日以降の軍議を兼ね、部隊長たちと共にしようと考えているが?」
「む……左様でございますか。折角ジーベックス准爵もいるのでご一緒出来たらと思ったのですが……」
うーん。
その申し出には惹かれる。
確かにこの女とは話をしてみたい。
が、それには子爵は邪魔なんだよな。
正確には、日本語で話せば話している内容の大半について子爵の理解は及ばないだろうが、そんな状況を子爵が面白く思う訳がない。
ジーベックスの方も俺には興味があるようだし、話し合いは今夜でなくともいいか。
明日中にはバルザス村とやらに入らなくてはならないが、ここからは二〇㎞程度しか離れていないと言うし、今日みたいに俺だけ出発を遅らせて後追いで向かうことも可能だ。そう考えると明日の昼でも話は出来るだろう。
いや、彼女の予定もあるか。
まぁ、極端な話、軍議の方は絶対に今夜しなければいけないものでもない。
子爵を交えて歓談し、少しでも交流を持つべきだろう。
「……そうだな。軍議といえど喫緊のものでは……そもそも夕食までに済ませてしまえば良いだけの話だ。今夜は招待にあずからせて貰い、食事を共にするのも良かろう」
微笑みながら言った。
「おお、それは良うございます。では、後程案内の者をお送りいたします。准爵の方は宿はいつもの?」
「ええ」
ふーん、定宿があるのね。
そしてその場所なんかの情報は知られていると。
ならば今俺が下手に確認して変に思われるのは避けるべきだな。
「では、失礼させてもらう」
予定変更。
皆に一休みさせたら今のうちに明日以降の話をしておこうか。
・・・・・・・・・
二〇分ほど歩いて、ペギーはザーラックスに来る度に宿泊している宿に戻った。
すると、驚いたことにここにはいない筈の男がいた。
ペギーは少し前にその男にウォーリーへの手紙を託けていたのである。
戻ってくるには少しばかり早い。
「あら? どうしたの?」
「大悟者様、大主教猊下から至急のご連絡です」
男は跪きながらも懐から巻かれた羊皮紙を取り出して差し出した。
「至急?」
眉をひそめながら紐を解き、手紙に目を走らせる。
……。
暫しの時間が経過した後、ペギーは口を開く。
「ごめん、ちょっと一人にして。あと、リライ達に集合を掛けておいてくれない?」
男が部屋を出るとペギーはもう一度羊皮紙に視線を落とした。
――……ったく、ウォーリーったら考えすぎじゃないの?
そう思いながらもペギーの表情はどんどんと硬化していく。
――確かにタイミングとしては……でも、あの夫婦、そんな頭は持ってないと思うよ?
ヒーロスコル夫妻が訪ねてきた時の事を思い出す。
彼らは下卑た表情を浮かべながら「儲け話に一枚噛ませろ。その代り荒事なら任せろ」と言うような事を口にしたのだ。
念の為と実力を確かめてみたが、自認するだけあって、確かに二人共それなりの腕は持っていた。
そして、言葉通り金や酒以外の事にあまり興味を持ってもいないようだった。
更には都合の良いことに、文字通りの荒くれ者のように、振る舞いは乱暴で粗雑、すぐに教会の殆どの者から恐れられ、次いで嫌われるようになった。
――あの二人が西ダートの、あの伯爵のスパイ?
言われてみればバックスやナックスが麻薬だと気づいたのはともかく、全く手を出そうとしないというのも、ペギーが抱く荒くれ者のイメージらしくはない。
何しろ、バックスはともかくとして、本物の煙草すら吸っていないのだ。
ペギーは、他人に「儲け話に一枚噛ませろ」などと言ってくるような輩は享楽的で刹那的な生き方をする、というステレオタイプな認識があった。
――ん~、でも流石にそれを以てスパイだとはねぇ……?
ペギーも間抜けからは程遠い性格をしている。
二人を受け入れたあと、一週間以上も自由に泳がせていたが、外部と連絡を取るような素振りは見られなかったと言うし、日本語で話しても何らかの思慮が働いての行動だとも思えなかった。
尤も、フィオの方は生前、裸一貫から企業を立ち上げた男で、自分の肚を隠して別人格であるかのように振る舞う事には慣れていたし、簡単に見抜けるようなレベルでもない。
妻であるグレースの方も、彼女の固有技能である【耐性(精神異常)】に慣れていたからか、本当の感情が湧き出しても瞬時にそれを平静化させ、取り繕う事に長けていた。
――だけど、教会の舵取りで今までウォーリーが間違ったことは一度もない……。そのウォーリーが、今までバルザス村で築き上げてきた物の大部分を……。
その時、部屋の扉がノックされた。
忠実なパラディンであるリライ達、大悟者様のお供を任されるような者に街に来たからと言って遊び歩くような者は一人としていないのである。
「入りなさい」
数人の男女が入室してきた。
「大主教から、即座に教会の本部を移転すべしと連絡がありました」
全員の顔に驚きの表情が浮かぶが、すぐに消え、了の返事があった。
その態度にペギーは満足そうな頷きを返す。
「キャラック、あなたはすぐに馬車を村に戻しに行きなさい。その際には荷台に幌を掛けて、外から中が見られる事がないように。村に着いて馬車を置いたら誰にも知られないようにアックリーの丘に行って資金を運び出すのよ。特にヒーロスコル夫妻には絶対に気取られないように注意してね。運び先はコルザス村の例の場所。そこで落ち合いましょう。だから馬の一頭は村に入る少し手前でどこかに繋いでおいた方がいいわね」
「は」
キャラックと呼ばれた男はすぐに部屋から出ていった。
「ルーダとヘミットはコルザスに先回りして。悪いけど、馬はないから徒歩でってことになるけど」
「「は」」
ルーダとヘミットも部屋を出ていった。
「キルンとジャクソンは今すぐ私とリライと服を交換して。そして、このお金で適当な馬車と馬、服を買って、今晩、日が落ちるくらいでヨーライズ閣下から食事のご招待が来ると思うけど、出来るだけ長く引き止めた上で、ルーミ村で神の奇跡を求める者の為に私達はそこに向かってしまったとお詫びを。その後は南の方に向かって。バルザスとの中間くらいで馬と馬車を捨て、服を変えたら残りのお金を路銀にして遠回りでカールムに来なさい。その時はギィグ達のうちから二~三人一緒に着いてこさせて。ギィグ達はカールムの傍で適当な場所を見つけてそこで待機させておいて」
「「は」」
キルンとジャクソンはすぐに服を脱ぎ始めた。
因みにジャクソンは手紙を運んできた若い男だ。
「リライは服を着替えたらすぐに馬と馬車を用意して。馬具屋とか騎士団で用意はしないでね。デムソン士爵なら黙って譲ってくれるでしょう」
そう言うとペギーも立ち上がって服を脱ぎ始めた。




