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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第百九十七話 毒 1

7450年4月9日


 フィオたちを見送って別の仕事を片付け、太陽もかなり高くなった頃になってやっとカムランで飲んだくれていた殺戮者(スローターズ)たちが行政府へとやってきた。

 勿論、騎士団員はシフトに従って騎士団に行ったり警備に就いたりしているから全員ではないが。


「いやぁ~、飲んだ飲んだ」

「こんなに飲んだのは久しぶりだった」


 ロッコやケビンたちがまだ眠そうな目を擦りながら話している。


「おえ、ぎぼぢ悪い……」

「あったま痛ぇ~~」

「ちょ、あんまり大きな声出さないで」

「響くんだよ」


 カームやトリス、ミース、ジェルといった面々もひどい二日酔いのようだ。

 ベルなんか起きてすらいないで眉間に皺を寄せた顔のまま寝てやがる。


「……」


 アンダーセンは少し顔色が良くないようだがなんとか平静を保っているように見える。


「あの女共……やっぱりとんでもねぇな……」


 ヴィックスが言っているのはラルファとグィネのことだろうか?


「アル。すまんが重要な話があるなら魔法で……」


 一人平然としているゼノムが話しかけてきた。


「いや、今じゃなくてもいい。二日酔いに苦しむのもたまにはいい薬だろう」


 苦笑いを浮かべて答えるとゼノムは肩を竦めて「そうだな。お前もそうだろうが、俺も含めて皆、この一年は結構忙しかった。良い息抜きになったしたまにはいいだろう」と笑う。


「うん。じゃあ叙任式が終わる……一四時頃にもう一度集まってくれ。宿まで行けそうにないならそれまでここで寝ててもいいから」


 それだけ言って会議室を出た。

 片付けなくてはならない仕事はまだ沢山あるのだ。


 執務室に戻ると、丁度インセンガ事務官長が来たところだった。

 中に招くと椅子にも座らないうちから文句を言われた。


「閣下。先程耳にしたのですが、奥様はまだ朝走っておられるそうじゃないですか!?」

「ああ。それがどうかしたのか?」

「どうかしたのかではありません! お世継ぎを身籠られているのですから、もっとお体を大切にしていただきませんと!」


 いや当初こそ俺もそう思ったけどさ、妊娠したと言ってもまだ二ヶ月……三ヶ月も経ってないから大丈夫だよ……それに、平民だって奴隷だって臨月まで農作業してるし。

 そう言ってみたら「そんな身分の低い者達と一緒になる筈がないでしょう!」と叱られてしまった。


 言われてみればその通り……とは言えないな。


 前世だって妊娠した女性は早い人でも予定日の二週間位前に入院する程度で、それまでは普通に過ごしてる人が大多数だったし、シャーニ義姉さんだって妊娠が判明してから数カ月は模擬戦もやってたし馬にも乗ってた。


 まぁ、ミヅチは前世にいなかった闇精人族(ダークエルフ)なので地球の人間やヒュームとは一緒にならん、と言ったのだが、ダークエルフも妊娠が判明しても何もしないなんて人は皆無だったと譲らなかった。


――それに、何もしなかったら私、太っちゃうよ。いいの?


 そう言われたらお手上げだ。

 何より運動不足は全ての不健康の元だし。

 ジャバなんか男のくせに五つ子でも妊娠しているような身体をしているし、ありゃ早死にするだろう。


 それにミヅチも言っていたが、こんな時期から食っちゃ寝だけして何もしないなんて体が鈍るだけだしなぁ。


「あのな。身分が違うと言うが、奴隷だろうが貴族だろうが普人族(ヒューム)は普人族(ヒューム)だし、精人族(エルフ)は精人族(エルフ)だ。身分によって責任が変わったりするのとは訳が違う。身体の作りは一緒だ」

「それは当たり前です。私が申し上げているのはそういう事ではございません! 世の秩序の問題です! 何より閣下は奥様が身重なのに走るなんて……ご心配ではないのですか!?」


 いや、ご心配ですがね。そらぁ。


「だが、妊娠初期の今のうちから安静にしていると体力が失われるだけだ。いざ出産、となった時にへばられる方が困るだろう?」

「何を馬鹿な事を……失礼。しっかりとお休み頂いて、たくさん食べ、体力を養うのです!」


 あー、そう。そうね。そういう考えの人って多いよね。


「そなたの考えは理解した。だがそれを容れる訳にはいかんな。なぜならたくさん食べて休むのは数日なら効果があるが、それは失った体力を回復するという意味での効果しかないからだ。出産直前ならそれもよかろう。だが、出産までにはまだ何ヶ月……半年以上もあるんだから動けるうちは動いておいた方が良い。これは私たちがこの世に生まれ変わる前の世界ではとっくに解明されている常識だ」


 納得しがたい顔のインセンガに、とうとうとミヅチの運動スケジュールについて話をした。


 今までと同様のランニングは今月一杯で終了し、五月から六月一杯までは大幅に速度を落としたジョギングに切り替え、騎士団での稽古も激しいものは止める。

 七月からはジョギングも距離を四分の一程度に減らし、乗馬もしないし、騎士団の訓練も素振りや型稽古に限定する。

 九月からは一切の運動はせず、仕事も行政府での事務だけに制限し、予定日が近づいた一一月に入ってから初めて一日中自宅で過ごすようにするのだ。


 これは先日バークッドでシャーニ義姉さんが妊娠していた時期の生活を聞いて、それを参考にミヅチと二人で計画したものだ。


 こうして話していると一月の半ばから終わりにかけて仕込んだ事がバレるのであまり言いたくはなかったが、これから先もこのおばはんを黙らせる為には致し方無かった。


 それはそうとして、うーん。


 このインセンガのおばはんに代表されるように、オースの人々は当然のようにオースの常識に縛られている。

 それはそれで悪い事ではないし、他人の価値観や常識など俺に害をなす事でもない限りは好きにしろと思わんでもない。


 だが、妊婦に対する考えや人間の運動能力の鍛え方、耕作に牛馬の使役が敬遠される迷信、奴隷や家畜のお産を介助してはならないという常識などに代表されるように、科学的からは程遠い考えがまかり通っているというのは害悪以外の何物でもない。


 とか思いながらも……。


「だがまぁ、助言についてはありがたい。今後も忌憚のない意見を述べてくれ」


 この地における最高権力者のくせしてぴしゃりと黙らせるような事はせずに、こう結んでしまうのは小市民的な根性が抜けきっていない証左だろう。


 しかしながら……。


 文化や文明ってのは時代に沿って発展していくものだ。

 この時代、王制や封建制、奴隷制度などは当たり前で、それを数年だの数十年だのという短いタームで急に変えることはまず無理な相談だと言える。


 このままなら。


 記録や通信も大切な要素だが、何より物流の発展があれば時代……いや、歴史の流れは急激に加速していく。

 地球でも一八世紀から二〇世紀にかけて文明は大発展期を迎えた。

 これは一八世紀に蒸気船が、一九世紀に蒸気機関車が、そして更に強力な機関が幾つも発明された事が原因となったと言っても過言ではあるまい。


 蒸気機関の登場とともに、それまでの手工業的な技術はあっという間に廃れ、大量生産に繋がる新技術が取って代わった。


 それも全ては通信技術が発展し、各地で記録された知恵や考えが世界各地にバラ撒かれ、優れた商品や文物が物流網に乗ったからだ。

 要するに、誰かが考えた思想や集めた知識、便利な道具などの“情報”や“現物”が広く伝播した。

 それを受け取った者が更に平易にしたり纏めたり改良したりして別の場所へ伝播させる。

 それを受け取った者が更に……と続いていく訳だな。


 何にしても、人や物を移動させる輸送力の向上がなければ実現しなかったであろう。


 それらのお蔭で価値観の大転換も行われ、世界各地で市民革命が起きる原動力となった。

 全ては物流の発展があったからこそだ。


 真実は違うのかもしれないが、俺はそう考えている。


 それはそうと、そろそろ時間か。

 鎧を着なきゃ。

 ん?

 正騎士に昇進する三人の従士の叙任式をするんだ。

 大規模なお祭り、二日目の目玉だしね。


 ああ、鎧?

 残念ながら未だ親父から贈って貰ったゴムプロテクターだよ。

 バルドゥックの地下迷宮で倒したロンガルザムリュゾルファレンからかっぱいだ鱗の鎧、ようやく完成の目処が立ったと聞いているが、出来上がるのは夏頃になるだろうってさ。




・・・・・・・・・




 昼過ぎ。

 殺戮者(スローターズ)の面々が再び行政府の会議室に集まってきた。


「酒は抜けたようだな」


 苦笑を浮かべて言うと大半が照れくさそうな顔で見返してきた。


「仕事でいないものも居るが、彼らには既に伝えている部分もあるし、別途話をするから気にしなくていい。今から言う事は全て来年になってから公表されるから、それまでは誰にも言わず皆の胸のうちにしまっておいて欲しい」


 そう前置きをして、ダート平原北部に並ぶ四つの伯爵領を全て領有し、新たな侯爵を名乗る許可を得たことについて話をした。


「今の西ダート以外の中西部ダート、中部ダート、東ダートにいる領主たちのうち、国王陛下の従士の方々は最長二〇年間は居て下さるとのことだから、近々に政治的な空白地帯が出来ることにはならんから、そこは安心してほしい」


 喋りながら一人ひとりの顔を見回した。


 ズールーは何度聞いてもいい話だ、とでも言うようにルビーやジェスと満面の笑みを湛えている……いや、その笑顔、悪くはないけどなんか、その、気持ち悪い。ごめんな。


 ゼノムは黙って目を閉じており……寝てないよな? ……うん、寝てない。


 トリスとベルからはすうっと表情が消え……ふん。こいつらはそうだろう。


 カームとキム、それにロッコ、ケビン、ジェル、サンノ、デンダー、カリムと言った多くの面々は驚いた表情を隠そうともせず……少しはトリスとベルを見習ってくれ。


 ジンジャーとビンスは微妙な表情で耳を傾け……大丈夫、悪いようにはしないさ。


 ミースはギラギラした目つきになり……うん、俺は好きよ。その表情。


 ヒスは最初から全く表情が動いていな……こいつだけは昔から何を考えているのか、イマイチ読み取れないが、今更なのであまり気にしない。


 ロリックは微動だにしないまま真剣な顔をしたまま、そんなロリックや大口を開けているサンノをちらりと見たルッツは少し楽しそうな顔になった……まぁ、こいつらはこいつらでわかり難いけれど、ヒス程じゃないからいい。


 そして、アンダーセン。

 彼女も驚いていた。

 そう言えば、中部ダート地方である、ドレスラー伯爵領を拝領することは知っていたが、他の領地も、って事は知らなかった筈だしね。

 ヴィックスに至ってはカームたち以上に目を白黒させている。


「また、先日言ったようにこの四つの領土に駐屯する王国軍の指揮権も得た。それに伴って、王国軍内での階級も第三位階第一位に昇進した」


 今までが第三位階第四位だったので一気に三階級もぶち抜いた。

 当然ダート地方では最上級者であり、王国騎士団の副団長とか筆頭大隊長クラスである。

 俺より上の階級は王国軍の各騎士団長などごく僅かしかいない。


 このあたりはよくわからんという顔をした者が大半を占める。


「それと、来年の……まだ時期は未確定だが、三月頃に結婚する。相手はミマイル・フォーケイン。顔くらい覚えているか?」


 水を打ったように静かになった。


「すまんが、その頃にまた結婚式をやるから来てくれよな……」


 なにか言いたそうにしている顔が多い。

 色々な思いが伝わってくる。


 ミヅチは納得したのか?

 どう考えてもミマイルを娶ることが爵位を上げ、領土を増やす条件だったとしか思えない。

 あんなに嫌がっていたのに、ひょっとして自分たちのために……?

 申し訳ない。

 何があったのか、心変わりをしたのならおめでとう。

 おめでとうございます! ご主人様!


 そして……ラルファはどうなるんだ? それを聞いてどうしたんだ? という、何組かの突き刺すような視線。


 そのような一種異様な雰囲気に落ち着きがなくなるアンダーセンやヴィックス。


 それら全てを無視するかのように言葉を継ぐ。 


「ミヅチにはもう話をしているし、騎士団に所属している者たちにも既に話はしている……」


 そう言うと、突き刺すようだった幾組かの視線が少しだけ行き場を失ったように俺から外された気がした。




・・・・・・・・・




 その夜。

 再びカムランに集まった殺戮者(スローターズ)の面々だが、表面上は昨晩同様に騒いでいるものの、ある特定の人物にだけはどこか遠慮がちに接していた。


「ねぇベル。なんかみんなよそよそしくない?」


 店の奥の洗面所。

 手を洗うベルに柄杓で水を流してやりながらラルが尋ねた。


 ベルは手を洗いながらラルの顔を見た。

 彼女にはラルが無理をしているようには見えなかった。


 喧騒はここまで届いている。


「……ねぇラル」

「うん?」

「アルさんが来年結婚するって……」


 それを聞いたラルの表情が一瞬にして固まったのをベルは見逃さない。


「あ、ああ。聞いてる。めでたい……よね」


 だが、ラルはすぐに平静な表情を取り戻したばかりか、柔らかい笑みすら浮かべて答えた。

 しかし、口の端は僅かに震えている。

 ベルはこれも見逃すことはなかった。


「そうね……」


 手洗いを終えたベルは備え付けられているタオルで手を拭きながら屈んでいた姿勢を戻す。


「……なに?」


 ベルに正面から見つめられてラルは答えた。


「まぁ、あなたの言う通り、おめでたい話と言えなくもないわね。でも、あなたはそれでいいの?」

「いいのって何が?」

「わからないふりをしてるの?」

「何の話?」

「自分の気持ちをアルさんに伝えたのかって話よ」

「き、気持ちって……あ、ああああたしは別に、アルのことなんか……」


 ラルは明らかに落ち着きを失った。

 彼女にとって触れて欲しくない部分だったからだ。

 まして、つい先日そのことをグィネに責められたばかりだという事情もある。


「そういうところ、可愛くて私は嫌いじゃないけどね。でもいいの?」


 手を拭いたタオルを元のハンガーに戻しながらベルはラルが両手で抱くようにしていた柄杓をもぎ取る。


「ミマイルってあの子でしょ? 陛下の庶子でヒュームの」


 そして、大人しそうな顔の中にも一本芯が通ったような顔を思い浮かべて水瓶に柄杓の先を突っ込んで掬いながら言った。


「……どんな顔だっけ? 忘れちゃった」


 手を洗うために屈むでもなく、ラルは答える。


「ふぅん。忘れたんだ」


 水を汲んだ柄杓を持ったままベルは言った。


「……」


 ラルは窮したかのように何も答えない。


「ラル。よく聞いて」


 ベルはラルの顔を覗き込むようにして言った。


「なに?」

「私は、この世でトリスが一番好き」

「知ってる」

「でも、その次にあなたとアルさんが好き」

「……知ってる」

「あなたの事は、アルさんやトリスがあなたを知っている以上に知っていると思うわ。ある意味で、ゼノムさん以上に知っているつもりよ」

「……そう」

「ええ。アルさんもあなたも私の大切な友達。あなたは? 私のことどう思ってるの?」

「なんで今それを……」

「答えて」

「そんなのわかってるくせに……ベルは私にとっても大切な友達だよ……」

「……手、洗いなよ」

「うん……」


 ラルは屈んで手を洗い出した。

 その姿を見つめながら、ベルの顔から全ての表情が消えていく。


――私は……どうしたら? ミヅチさんと結婚した以上、ラルが自分から告白できるような性格じゃないのはアルさんだって……。


 ベルの頭には様々な人物の顔が浮かぶ。


――ゼノムさんだって、ラルには幸せになって欲しいはず……子供が生まれればその子にファイアフリード家の家督を継がせれば……。


 パシャパシャと水が流れる音だけが洗面所に響く。


――そもそもラルがさっさとアルさんに……って無理な相談よね。それができりゃミヅチさんが入る前に言ってるわ。だけど、アルさんもアルさんよ! とっくの昔にラルの気持ちに気付いてる筈なのに……いえ、アルさんは悪くない。……何も悪くない。ミヅチさんだって何一つ悪いところなんかない。


 柄杓の水がなくなり、ラルはタオルを手にとった。


――アルさん自体は政略結婚を望んでいたの? 違うわね。もしそうならバルドゥックで……何年も前にとっくに結婚していた筈。今回の結婚は、勿論ご自分の出世のためでもあるんでしょうけど、私達皆のためでもある……。


 ベルはまだ柄杓を持ったままだ。


――ミヅチさんだってそれを解っているから我慢を……はは、我慢をさせているのは私達なのに……私は何を偉そうに……。救いようがない……本心では嫌がっている政略結婚を知っていながらどの面下げておめでとうございます、なんて良くも言えたものだわ。本当に救いようがない。


 ゆっくりと柄杓を水瓶の上に戻し始めた。


――あの子とアルさんの間に子供が出来てしまったら、王国とアルさんとの間の結びつきはすごく強固になる。ミヅチさんは異種族だから王国もあまり気にしていない……ということは、あの子とアルさんが結婚したらヒュームのラルにはもう完全に芽がなくなるということ。


 ようやく柄杓を水瓶の上に戻す。


――私は……友達……いえ、恩人のラルやアルさんのために……何が出来る? 何をすればいいの……?


 ラルも手を拭き終わり、タオルをハンガーに掛けた。


――誰の失点にも、汚名にもならないようにするには……考えろ。考えろ、私。幸い時間はまだ……。


 表情を消したままで考え込んでいるベルだったが、ラルがタオルを掛け終わったのを見て柔らかい笑みを浮かべた。


「ラル……」


 ハンガーから振り向いたラルの目からは涙が溢れていた。


「ふっ……」


 くしゃりとラルは顔を歪ませる。

 ベルはそんなラルに対して思わず手を伸ばし、自らの胸に抱きしめた。


「泣いてもいいよ」


 豊満なベルの胸に顔をうずめ、ラルは細かく震え始めた。


「……っ」


 慈しむようにラルを見下ろしていたベルの顔から、再び表情が消えていく。


「私ね。トリスの次にあなたとアルさんが好きよ。ゼノムさんも、ミヅチさんも、グィネも、皆のことが大好き」


 優しい声音は毒のように自らを犯していく。


――だから、誰も苦しまず、悲しまず、大団円を迎える方法を……。




・・・・・・・・・




 深夜。

 バシュケル山の中腹にある洞穴でキャンプを張っている一団がいた。

 洞穴は出入り口から少し奥に入るといい感じで曲がっており、中で火を焚いても明かりは漏れにくい構造になっているばかりか、小型なら馬車すらもそれを引く馬ごと数台入れられるほどの広さと高さを誇り、その存在は広く知られていた。

 そのためか、道行く者たちの一夜の宿として近くを通る道に看板まで立てられていたのだが、どういうわけか今夜の住人は僅かに五人、一グループしかいなかった。


 小さな焚き火を囲んだ五人の男女は、火の番をしている一人を除いて全員が毛布にくるまって体を横たえている。


 焚き火に枯れ枝を放り込んで、マールは大きな溜め息を吐いた。


「……どうしたの?」


 火の番の交代の時間が近かったのか、マールの側で毛布にくるまっていたリンビーが目を覚まして囁くように尋ねた。


「どうもしねぇ。まだ眠気が来ないからもうしばらく寝てろよ」


 不貞腐れているかのような声音で、それでもボリュームには気を使って答えるマール。


「実は、私も眠れないんだよね……」


 そっと体を起こしたリンビーは、毛布にくるまったままマールの隣まで移動した。


「寝ないと明日辛いぞ」

「うん。それは分かってるけど……最後のノブフォムさん、もの凄く……」

「ああ。ヒーロスコルさんはまだ理解できた。だけど、ノブフォムさんは……」

「……悔しいね」

「……この前、ズールー様に褒められたからって調子に乗ってた訳じゃない、と思ってたんだがな」

「ナイフの使い方がとんでもなかった……どうしたらあんな速さで……」

「体術の方も、とてもついて行けないほど……」

「あれ、奥様やご主人様よりも速く感じたわ」

「……だな。くそ、稽古したいな」

「そうね……」

「ん?」

「なに? どうしたの?」

「リンビーお前……そんなの付けてたっけ?」

「え?」

「髪留め? 髪飾り?」

「い、今頃言う?」

「ってことは結構前からしてたのか? いや、お前なんか碌に見てなかったから気付かねぇよ」

「は? 喧嘩売ってるの? なら一ゼニーあげるから帰んなよ」

「けっ、可愛くねぇ女だな。だいたいそれ、あんま似合ってねぇっつの」

「むーっ、ご主人様はセンスいいって褒めてくれたのに……あんた、ご主人様のセンスを疑うのね?」

「えっ!? いや、い、色はいいんじゃないか? それに、よく見れば……」


「どうした二人共。何かあったのか?」

「い、いえ、なんでもありません」

「うるさくして申し訳ございません……」


 フィオが声を掛けた為か、二人は慌てて詫びるとお互いにそっぽを向いた。


 

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[気になる点] 妊娠初期の話は現代一般知識としてこれでよいのかな? だいぶ後から追っかけているから他の人も指摘していてわかったうえでそのままなのかもしれないけど。 ここでは妊娠初期の運動についてはイン…
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