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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第百五十一話 空襲

7450年2月22日


 ダービン村ではミヅチが率いる殺戮者スローターズ達が布陣を終え、手ぐすねを引いて青いドラゴンを待ち構えていた。


 また、村に接近してくるゴルゾーンドクーリの方でも、村内を動き回る彼らの姿を捉えている。


――少ないが全くいない訳でもなさそう……か。


 多少なりとも獲物が居ることを見て取って、ゴルゾーンドクーリはここまで飛んできたことが完全な無駄足にならなかったことに少しだけ気を良くした。


 村の中央の広場には数人の人影がいて、接近してくるゴルゾーンドクーリに注目している。


 ここ数日というもの、襲撃した村にはその日の腹を満たす程度の獲物ヒトしか居なかった。

 ゴルゾーンドクーリはその件について、自分は怖がられているから逃散してまだ戻っていなかったのだろうと考えており、その考えは間違っているとまでは言い難い。


――あの様子だと、イエの中にもまだ獲物がいそうだ。


 村内に人影が認められ、逃げる素振りすらなかったために、彼らには守るべきヒトがいるからだと思ったゴルゾーンドクーリは、知らず舌舐めずりをする。

 村の上空を通り過ぎながら咆哮をかましてやれば、あそこにいるヒトの何割かは無力化できるだろう。


 そして、ゴルゾーンドクーリは見た。


 広場に居る人影はゼノム、トリス、ロッコ、グィネに加えてラルファの五人だけであるが、その他に屋根の上に登っている者もいる。

 勿論、ミヅチ、ベル、そしてズールーの三人である。


 彼女ら三人は、手にするライフル銃へのオプション部品も装着済みだ。


 銃身を延長するかのような太くて長い消音器サイレンサーと機関部には排莢口を覆うようにこちらもゴム製の薬莢受けが取り付けられている。

 数ヶ月前から行われていた試射では完全に発射音を消すまでは行かなくとも、それなりの減音効果が認められている。

 使う弾丸も亜音速サブソニック弾ではないが、発射音は確実に何割か減殺されたために効果充分として採用されていた。


――また無駄なことを……進歩がない奴らめ。


 弩や弓矢などで無駄な攻撃をするのだろうと思ったのだ。


 なお、村の北に設営されたロンベルト軍の駐屯地でもドラゴンの接近については察知されている。

 が、彼らは村内には入らずに森の中に身を潜めているため、ゴルゾーンドクーリには気が付かれていない。


 高度五〇m。

 飛来してきた南東側からダービン村に近づきながら、ゴルゾーンドクーリは咆哮を上げる為に大きく息を吸い込んでいる。


「耳を塞いで!」


 丁度耕作地の上空に達したあたりで、ミヅチが叫んだ。

 しかし、予め徹底していたからか、殺戮者スローターズの面々はミヅチが警告を飛ばす前から耳に手を当てている。

 ミヅチ自身は耳を塞がずに弓を構えたままだ。


 ぐんぐんと迫るゴルゾーンドクーリは、遂に居留地の上空に達した。


「ギャオオオォォン!!」


 大音声の咆哮がビリビリと空気を震わせる。

 とある家の前に置いてあった水瓶など、その水面が小さく揺れる程だった。


 しかしながら、殺戮者スローターズのメンバーには誰一人として咆哮の影響を受けた者はいない。

 当然、咆哮それ自体は大きく、恐ろしい叫び声なのである程度の驚きはあったがそれだけだ。

 ひょっとしたら、念の為にと耳を塞いでいた事が功を奏したのかもしれない。


 ゴルゾーンドクーリは居留地の外れまで飛びながら、高度を下げつつ左に旋回する。

 そして、見た限りでは折角上げた咆哮が無駄に終わったことを知った。


――まぁいい。イエの中で倒れている奴もいるだろうし。多数の獲物に逃げられなきゃそれで充分だ。


 一〇mくらいにまで高度を落としたゴルゾーンドクーリは、さてどいつから殺してやろうかと思案した。




・・・・・・・・・




――間に合わなかった……クソ。


 ダービン村へと続く道を全速力で飛ばしながら、アルは自省から口を引き結んだ。

 【部隊編成パーティーゼーション】によるとミヅチ達までの距離はまだ五km以上ある。


 全速力で飛ばしても、到着までに七~八分は必要な距離だ。


 ちらりと後ろを振り返ると、彼に遅れること数十m程でアンダーセンが付いて来ていた。

 だが、その距離はだんだんと開いているようだ。


――もう少し近づいたら屠龍の能力を……。


 今彼が得ている情報だけでは、使うべきかまだ我慢するべきか判断が出来ない。

 

――不利なようなら何か連絡があるだろうし……そもそもまだ少し遠いか……。


 ウラヌスは飛ぶような速さで駆けていく。

 その手綱を握りしめながら、アルは再び前方を注視した。




・・・・・・・・・




 高度を下げつつ村の西側から接近してくるドラゴンは、ベルから三つ程建物を挟んだ場所にいるズールーに目標を定めたようで、一直線に彼の方へと向かっている。


 その様子を見ながら、屋根の四方に建てられた避雷針の中でベルは僅かに口の端を吊り上げ薄笑いを浮かべていた。

 ドラゴンが飛ぶ速さは、以前アルに聞いていた程ではなかったのだ。


 弓に矢を番え、構え始めたベルとの距離はもう三〇m程にまで詰まっている。


 近距離ではあるがこれだけの距離があると、流石のベルでもドラゴンの小さな目を狙い撃つのは至難の業だ。

 まして相手は空を飛んでいる動目標でもある。


――速いは速いけど、これなら……!


 弓を引き絞った。

 番えている矢は盲目の矢アロー・オブ・ブラインドネスという、命中したら数分間相手の視力を奪う能力を持つ強力な魔法の矢だ。


 ベルは慎重に狙いを定めた。


 弦を引く右手の弓かけ(タブ)はライフル銃も扱う都合上、過去によく使っていたグローブ型ではなく、馬の尻革(コードバン)で作った掌部に金属製の部品を組み合わせて自作したものだ。


 指先に当たる革部が乾いていて心地が良い。

 これが湿った感じだと緊張から汗をかいている事になるので、それを自覚することもできる。


 そよ風が、ふわりとベルの頬を撫でた。


――落ち着いて。よく狙うの……。


 ダービン村の家屋の上に立っているのは避雷針だけではない。

 ほぼ全ての建物の上にはベルやミヅチが待機する位置からよく見えるように、竿が建てられ、その先端には鉢巻のような細長い布が結び付けられている。

 これで風を読むのだ。


 更に、彼女ベルの場合、固有技能を使えば命中率は大幅に上昇する。


――ここ!


 ベルは引いていた弓弦を放した。


 魔法の矢は、空を飛ぶドラゴンの速度と方向に加え、矢自体が飛ぶ速度や風向きまで考慮された偏差をつけて放たれている。

 恐るべき見越し射撃の腕前だ。


――あたる!


 ベルは自信を持って命中を確信した。

 自ら放った魔法の矢の行く末を見ながら、矢筒へと手を伸ばす。


 だが、ベルはドラゴンについては詳しくない。

 これは、ミヅチを含めここにいるすべての者に当てはまる。

 彼らには、実際にドラゴンと相対し、戦闘した経験は無いのだ。

 尤も、多少の戦闘経験があったところで詳しいとまでは言えないであろうが。


 ベルが放った矢が命中すると思われる寸前、ドラゴンはその首を大きくたわませてカッと口を開いた。

 ブレス攻撃のためだ。


 そのせいで、矢はベルが狙った右の眼球ではなく、開いた口に生えている右の下の歯に当たり、跳ね返された。


「なっ!?」


 思いもよらぬ光景に、ベルは思わず声を出してしまう。


 だが、その手は機械を思わせる正確な動きで二の矢を継いでいる。


 その間にドラゴンは、ライフル銃を抱えて屋根に伏せたズールーに向かって電撃のブレスを吐いた。


 バババリバリッ!!


 空気を引き裂いて雷鳴が迸る。


 ブレスを吐くために大きく息を吐きだしたためか、それとも両の翼を大きく前方に振ったからか、まるで空中で急ブレーキでも掛けたかのような挙動をした。


 結果的にドラゴンは空中で急減速をしながらブレスを吐いていた。

 にも拘わらず、不思議なことにドラゴンの高度は僅かしか落ちていない。


 電撃はズールーの前方、ドラゴンとの間に立っていた避雷針に命中した。


――何だあれは!?


 ゴルゾーンドクーリはブレスを吐きながら驚愕する。

 吐いたブレスは目標まで届くことなく、途中にある変な棒で食い止められている。


 目標に近づくまでの僅かな間のうちに頭を振ってみても、ブレスは棒に向かって捻じ曲げられ、口からまっすぐには飛ばない。

 驚いているうちにブレスを吐き終わってしまった。


 失った速度と位置エネルギーを回復させるため、ゴルゾーンドクーリは再び大きく羽ばたいて少し高度と速度を取り戻した。


 ブレスはライトニングボルトなどより余程強大な電撃だったが、その全てが地中に逃されてしまっている。

 避雷針は見事にその役目を果たしたのだ。


 とは言え、避雷針の方も完全からは程遠いことが露呈してしまった。

 避雷針に接続された銅線は電気抵抗値が低いにも拘わらず、あっという間に赤熱化して溶解し、あろうことかあちこちが切断してしまったのだ。


 ズールーがいる家屋に立つ避雷針は四本。

 そのうちの一本がまたたく間にだめになってしまった。


 その様子は地上に居たトリス達には見えていたので、彼らはすぐにズールーに警告した。


 その警告が発されたため、頭を動かしたベルは見た。

 別方向から一本の矢がドラゴンに向かっている所をだ。

 丁度ドラゴンが羽ばたいて上昇を始めた瞬間のことである。

 矢は、ミヅチが放ったものだと思われた。


 ベル程ではないが、ミヅチも弓についてはそれなりの腕を誇っている。


 飛んでいく角度から見て、首筋から肩口への命中が期待できた。


 あの矢もベルが放ったものと同様に魔法の矢なのであれば、きっちりと命中しさえすれば盲目化が期待できる。


 弓弦に矢筈を掛けて弓を引きながら、ベルは命中を祈る。


 しかし、ミヅチの放った矢は虚しくもドラゴンの鱗に弾かれてしまった。


――弓じゃ駄目。やっぱり銃じゃないと……!

 

 弓を引く手を戻し、引いていた矢を回収しながら、ベルは器用に矢筒を外す。

 そして、素早く弓かけ(タブ)も矢筒に押し込みながら右手を素手にした。


 傍に置いておいたライフル銃を掴み上げながら膝立ちの姿勢になる。


 銃口に取り付けられたサイレンサーのせいで、銃全体のバランスはベルが使い慣れていたものと幾分異なってしまっている。

 が、発射音と発射光を大幅に抑制する効果の方が優先されている。


――放て!!


 ベルが予想した通り、ミヅチからライフル銃の使用を許可する命令が届いた。

 その時にはもう、膝撃ちの姿勢を取って照門リアサイトを覗いている。


 丸い穴のリアサイトの先に引き起こした照星フロントサイトが見え、その先にはバルドゥッキーのように太いサイレンサーが見えた。


 取り付けているサイレンサーは新品なので、試射は行っていない。

 サイレンサーの内部は中心に穴を開けたゴム板で仕切られている。

 手作りの為に精度も良くない為、長距離射撃での命中性は当然のように低いだろう。

 だが、今回は目標までの距離はせいぜい数十mで、その図体は五mもある。

 また、銃口にサイレンサーを取り付けたことで多少威力は落ちるが、これだけの近距離であればそれもほぼ無視できる数値でしかない。

 そもそも、銃口にサイレンサーを装着した銃で目玉のような小さな急所を狙い撃つつもりなど最初からない。


 ベルにしてみれば固有技能など使うまでもなく命中可能な近距離射撃だ。


 引き金に掛けた指を絞るようにして発射した。


 パンッ!


 いつもの爽快な音ではなく、少し籠もったような音を立てて弾丸が発射された。

 この程度の音であれば目の前の広場にいるトリス達には充分に聞こえるだろうが、一㎞近くも離れた北部の森に隠れて様子を窺っている偵察部隊には殆ど聞こえないだろう。

 そちらに銃口を向けて発射しない限りは。


「ギャッ!!」


 飛翔しながら、ゴルゾーンドクーリは錐でも突き込まれたかのような、鋭い痛みを感じて小さく悲鳴を上げた。

 ベルの放った銃弾はドラゴンの左前肢の付け根辺りに命中していた。


 命中を確認したベルは落ち着きを取り戻す。

 次弾は既に薬室チャンバーに送り込まれている。

 薬莢受けにはたった今使い終わった薬莢が落ちている筈だ。


 ベルは加熱した薬莢によってゴム製の薬莢受けが溶けないか心配になったが、せいぜい二〇発程度で薬莢受けはほぼ一杯になるのでその間だけ保てば良いという話を思い出した。


 同時に、薬莢受けはともかくサイレンサーの方は発射する度に弾丸が空気室を仕切るゴム板を擦過することで発射音の抑制効果が減少し、五~六発で殆ど用を成さなくなるという事も思い出した。


 パムッ!


 ミヅチも発砲したようだ。

 彼女とベルとの距離は数十mもあるからか、先程耳にした自らの発射音より大分小さな音だった。


「グアッ!!」


 ドラゴンが苦痛の叫びを上げる。


 パムッ!


ッ!!」


 今度はズールーが発射した。


――痛い!! 何だ!? 何をされた!? なぜ防げない!?


 銃弾が命中した箇所から伝わる、今まで経験したものとは異質の痛みにゴルゾーンドクーリは少しばかり混乱した。


――さっきの変な棒といい、今の攻撃といい、今回はよく解らないことばかりだ……。


 バムッ!


 変な音がしたかと思うと、突き刺すような痛みに襲われる。

 この攻撃自体には、先日魔法の投槍を受けた時のように、すぐにどうこうなるような威力はない。


 やっかいなのは、自慢の鱗で弾くことも、【魔法抵抗マジックレジスタンス】も、【低位魔マイナー・グローブ・オブ法無効・インヴァルネラビリティ】も効かない攻撃である事だ。


 一発の威力は大した事はなくとも、積もり積もれば危険だと悟る。


――オレの知らない魔術か?


 ゴルゾーンドクーリは世の中はまだまだ広い事を識った。


――ならば食ってやる!


 幾つも傷を負わされたにも拘わらず、その戦闘意欲は全く衰えを見せない。


 耕作地の東の外れまで飛んできた辺りで、高度は五〇m程にまで回復した。


 また左に旋回し、再び目標を選ぶ。


――さっき、何か言ってたよな……。


 ゴルゾーンドクーリはトリス達がズールーに向けて叫んだ警告を耳にしていた。

 が、あの時はブレスが捻じ曲げられたことに驚くあまり、碌に聞いていなかった。

 今まで行っていた狩りではヒトはあまり意味のない事ばかりしか言わなかったので、しっかりと聞く必要などないと思っていた事も原因だろう。


――そんな事よりも、まずはあの魔術を放ってきた奴を見つけないと……!


 傷つけられた復讐心に燃えるゴルゾーンドクーリだが、銃という存在を知らないため、一体誰に傷を負わされたのかも判っていない。


 旋回を終え、少しずつ高度を落とし、同時に速度を増しながらゴルゾーンドクーリは再度居留地を目指して、滑るように飛行した。

 今度は北東側からの侵入アプローチだ。


 そして、目標を定めた。


 今度は一際大きな建物の上にいるミヅチ(ヒト)だ。


 目標と定めたヒトは膝立ちになって何かを構えている。


――ちょっと違うようだが、クロスボウか? ふん。


 ヒトの傍にはあの忌々しい棒が立っているのが見て取れた。


――チッ、ならば通り抜けざまに掴んで……。


 ヒトまではまだ一〇〇mはある。

 右の前肢を伸ばした。


 ヒトが構えている棒の先が小さく光る。


「グアッ!!」


 またさっきの魔術を受けてしまった。


 ほぼ同時(ひょっとしたら魔術を受けた後かも知れない)に、ヒトが構えている辺りからバン!!という音がした。


 今度は左の翼の付け根だ。

 かなり痛い。


 あの魔術の射程はかなり長いようだ。


「痛ェナ、コノヤロー!!」


 接近しながら前肢を更に右に伸ばす。


 その時。


「アッ、グッ!!」


 更に二発、突き刺すような鋭い痛みに襲われた。

 右の脇腹と右の肩だ。


 ズールーとベルによる射撃である。


 痛みのあまり目を切ってしまい目標を見失った。

 

――まずい、一度引くか?


 ゴルゾーンドクーリの心の中で一瞬だけ弱気の虫が頭をもたげかけた。


 だが、トリス達が手ぐすねを引いて待つ広場の上空を飛びながら見てしまった。


――あれは、お宝(キラキラ)!!


 痛みを無視して急制動をかけた。



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[良い点] キラキラ! かわゆ
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