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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第百四十二話 要求

7450年2月4日


 昼頃にロンベルティア城に到着したが、すぐに二の丸の第一騎士団本部の会議室らしい部屋に通された。


 第一騎士団長であるゲンダイル子爵は首を長くして俺を待っていたらしいが「ダート平原に現れたドラゴンについて聞きたい事は多いだろう。実際に相対した者を呼んで来るから詳しい話は彼らから直接聞いておいてくれ」と挨拶もそこそこに部屋から退出していった。


 すぐにロベイン卿、ザモルフ卿、ハリジャン卿、フィーヌン卿の四名が入ってきた。

 全員がタンクール村攻略戦に参加していた面々だ。

 あ、フィーヌン卿はハックルベリー・フィーヌンという名で、ハックさんの事な。


 黙ってお見合いをしていても仕方がないので、まずは亡くなった方々へのお悔やみを述べ、彼らが生還出来た事についての祝辞を述べ、先に帰ってしまった事については遺憾の意を表した。


 儀礼的な言葉の応酬が済むと、彼らはタンクール村を襲ったドラゴンについて、知る限りの情報を喋り始める。


 中心となって話してくれたのはロベイン卿で、他の三人は彼女の言葉が足りない場合に補足したりするに留まっている。

 その整理された話しぶりから、俺に対して話す内容については予め纏めてあったのかもしれないとすら思えた。


 尤も、話の内容が内容なのだ。

 彼らが帰還して以降、何度となく話し、報告を行ってきたのであろうから、整理されて話し慣れているのも頷けはする。


 今の所、俺にとって目新しい話は少ない。

 ブレス攻撃も以前倒したシャドウ・ドラゴンが吐いていたエネルギー・ドレインではなく、電撃(ライトニング)っぽいブレスを吐いていたという事も、出発前の僅かな時間でミヅチに聞いていた通りだった。

 確か、赤い竜は炎を吐いて、青いのは電撃、緑は毒ガス、白は冷気、黒は酸だった筈だ。


 ドラゴンの形も簡単なポンチ絵のようなものを描いてくれた。

 それによると首を長くしたイグアナみたいなトカゲに一対のコウモリっぽい翼を生やしたような奴らしい。

 そこもシャドウ・ドラゴンとは異なるが、むしろ俺が知っているドラゴンに近いし、ミヅチや他の皆がイメージしていた形状とも共通している。


 シャドウ・ドラゴンは四つの足全てが小さくて短かったし翼も体長と比較してずっと小さなものが二対四枚あったから、竜ってよりはどちらかと言うと龍に近い形だったし。


 尤も、体型以外はシャドウ・ドラゴンとの共通点は多いようだ。


 空を飛ぶ。

 ブレス攻撃をする。

 普通の武器による攻撃の効果が確認できない。

 魔法への抵抗力を備える。

 そして、咆哮することでおそらくドラゴンよりレベルの低い生物の精神にダメージを与え、恐慌させる。


 俺にとっての救いは最後の項目くらいのものだ。

 結構な人数が咆哮の影響を免れたらしいから、ドラゴンのレベルはシャドウ・ドラゴンのロンガルザムリュゾルファレンよりもずっと低いと思われる、という一点のみ。


 今、俺の目の前でドラゴンについて説明する四人のうちでは八レベルと最もレベルが低いハリジャン卿ですら咆哮の影響を受けなかったらしいし。


 ああ、そう言えば魔術は使って来なかったというからそこも助かるポイントだな。

 使えなかったのか使わなかったのかは不明なのでなんとも言えないけど。


 そうやってドラゴンの話を聞いているうちにゲンダイル子爵が戻ってきた。

 陛下にお会いするのでついて来いと言う。


 さて、陛下はなんと言ってくるだろうか?


 まぁ、一つしかないよねぇ……。


 でもさ、それってどうなんだろ?


 ドラゴン退治は村を襲うオークやホブゴブリンを退治することと何ら変わりはない。

 外国への侵略や、外国からの侵略を防ぐ戦争とは全く性質が異なるのだ。


 要するに、日本の一地域にゴジラが現れて暴れだした、というのと全く同じだと言える。

 この場合、西ダート地方を大阪府、俺を大阪府知事、程度に考えて、ゴジラが現れたのは名古屋くらいにでも考えれば適切だろうか?


 国王やその取り巻きの人々がどう認識しているかは置いておいて、状況は同一である。


 日本なら、まずは現れたゴジラを害獣と認定する。

 そこに住む人や耕作地などにダメージを与えたのであれば、問答無用で害獣認定はなされる。

 まぁ、ゴジラは海から来るから水産物の養殖場などに影響はあるだろう。

 漁船が何艘か転覆くらいはさせられているだろう。


 害獣である以上、本来ならその地域を管轄する警察が対処に当たる。

 この場合は愛知県警だな。


 害獣の駆除なので、日本なら地元のハンターなどへ害獣駆除の依頼が行われるべき事案である。

 そして、当然だがゴジラは一介のハンターだの個人や少人数を相手にする装備しか持たない愛知県警では手に余る。


 自衛隊の出動になるのが当たり前だ。


 恐らくは最初から愛知県知事から自衛隊への出動要請がなされ、内閣は「災害派遣」に「実弾射撃訓練」を兼ねて自衛隊に出動を命令する事になるだろう。

 まだ陸地に上陸する前であれば、水際や浜辺を一時的に訓練海域や射爆撃場、演習場なんかに指定するくらいはあるかも知れない。

 そうすれば民間人が紛れ込んでいたり、避難が遅れた人がいたりして死者が出ても法的に問題はないからね。


 外国を含む外部勢力からの武力攻撃ではないので、絶対に「防衛出動」には該当しない。

 超法規的な措置なんかまず起こらないというのは断言できる。


 何にしてもそういう状況になった場合、別の地域の警察組織、この場合はSATやSITなどを含む機動隊などが妥当であろうが、そういう部隊に出動が下命されるようなこともない。

 これは、俺と俺の騎士団に出動が下命されることはない、ということだ。


 要するに、西ダート地方を治める諸侯である俺、リーグル伯爵に対して正式に命令出来る類の話ではない、という事である。


 まぁ、ロンベルト王国は日本じゃないからそのまま当てはめて考えるのは危険だが、ロンベルト王国の法律でも村を襲う魔物の退治などはその地の騎士団で対処する事になっているから、あながち的外れな見解でもないだろう。


 出発直前に国法の生き字引であるインセンガのおばはんにちろっと確認しておいたので、いざとなったらそれを盾に出来ると思っている。




・・・・・・・・・




 遠路はるばる俺を呼びつけた国王は定形の挨拶をするとすぐに口を開いた。


「第一騎士団と(・)か(・)にドラゴンの倒し方を仕込んではくれぬか?」


「ええと、それはどういう事でしょうか?」


 ちょっと予想外な内容だったので思わず聞き返してしまった。


 タンクール村に現れたドラゴンについて、退治しに行け、ではなかった。

 この命令に対して素直に答えるのであれば、まず全元素……って、うん。無理だ。


「どういう事もこういう事もない。そなたは我が国唯一のドラゴン・スレイヤーではないか。そして、余に忠誠を誓う貴族でもある。で、あれば、余の願いを聞き届けてくれるものと期待してもよかろう?」


 お、おう。そう来たか。


「は……」


 しかしこのおっさん、無理難題をふっかけてくれるなぁ……。

 っつーか、仕込むとか出来る訳ねぇだろ、常識的に考えて。


「ほう? 了承の意味と取って構わんか?」


 ンな訳ねぇだろ、考える時間くらい寄越せや。


「い、いえ。その、一口に“仕込む”と仰られましても、出来る事などたかが知れています」


 正直言って、レベルを上げる、魔法の武器を持たせる、以外に思い付けることなんか殆ど無い。

 対応策の伝授とか教示になっちゃうよ。

 言ったところで実行出来る訳ないんだけど。


「ドラゴン・スレイヤーであるそなたにはたかが知れているのかも知れん……。が、我が国にはドラゴンを斃した者はそなたをおいて他にはいない。どんな些細な物でも良いから助言してやっては貰えまいか?」


 これはあれか?

 交渉術における対比効果を狙った発言だろうか?

 最初に高値(ロンベルト王国軍に対ドラゴン戦闘を訓練する)をふっかけ、それが無理と見るや値段を下げる(戦闘法はともかく、注意点などの知識を伝授する)という奴か?


 喋ったところで自国軍に対してなので俺に損はないように見えるから、ついついペラペラと喋りそうになるが、俺だってそこまで間抜けじゃない。


 いや、ドラゴンを退治するのに必要な知識類の教示の対価が欲しいとかじゃないよ。

 それが本当に必要な事で、役立ててくれるのであれば言う事自体に何らの問題は感じないしね。


 要するに、何を教示しようが無駄だってだけだし。

 そもそも、言ったところで実現はまず不可能だと思われるし、事によったら信じて貰うことすら難しいだろう。


 そして厄介なのは――多分だけど――この国王(おっさん)はそれすらも理解した上で言っているという事だ。


 ほれ、僅かな時間で俺を見る目つきが変わった。


「……陛下もお分かりでしょうに……」


 わざと思い切りがめつそうな表情を浮かべてやろうかとも思ったが、すんでのところで大切な事を思い出したのでピクリとも表情を動かさずに言った。


「お分かり? 何をだ?」


 俺の返答を聞いた国王は、俺が言いたい事を理解したようだ。

 にもかかわらず、まだつまらない小芝居を続けている。


 そりゃまぁ、俺が国王であっても小芝居を続けざるを得ないから、その心情は理解する。


 さぞや頭を悩ませた事だろう。

 だが、捻り出すことの出来た結論は最初から分かり切った内容だった筈だ。


 何せ、タンクール村にはあの精鋭の第一騎士団が何人もいたことに加え、戦(いくさ)慣れした第二騎士団や第四騎士団もいた。

 それも、合計で一〇〇〇を超えるような人数がだ。

 つい今しがた聞いた話だとドラゴンの体長は五m程だったらしいが、それでも勝てなかった。

 一〇〇〇人もの軍隊が碌な抵抗すら出来なかったのだ。


 バルミッシュ卿とファイアブレイズ卿が捨て身で時間を稼ぎ、命からがら潰走するだけで精一杯だった。


 そもそも、魔法以外の攻撃が効かず、その魔法すら碌な効果が認められなかった以上、これを訓練だの戦術だのでひっくり返すなんて、出来る訳がない。

 要するに、個人の剣技だの戦術だのはドラゴンに対してほぼ無意味に近い、という事でもある。


 まぁこれは、真の攻略ポイントは他に有る、という意味でもあるんだけど。


 ……この様子だとそれに気が付いてはいるんだろうな。


「その、タンクール村を襲ったドラゴンですが……先程聞いた話が本当であるのなら、私が過去の退治から得た教訓をお教えしたところで勝てないと思います」


 そうそう、俺が斃したドラゴンは普通の武器が効いたという設定だったしね。

 魔弾化させた弾丸で貫いた穴をクロスボウで撃ち抜いた、と言ってるし。


「……そうか。なんだか余の軍が馬鹿にされたようで腹が立つが、ドラゴン・スレイヤーであるそなたがそう言うのならそうなのであろう」


 あら? 忘れられちゃったのかな?


「いえ、陛下の軍を軽んじるなど、非才非力な私めにはとても出来ることではありません。もしそういう意味に取られたのであれば前言を撤回して謝罪いたします」


 おっと、そんなつもりはなかったのでさっさと謝っておこう。


「ふ。相変わらずそつがないな、そちは。そなたが倒したシャドウ・ドラゴンには攻撃も効いたし魔術も効いたと言いたいのであろう? わかっておる。嫌味くらい言わせろ」


 あそ。ならいいけど。


「は……」


 俺が倒した全長三〇mを超えるシャドウ・ドラゴンの方がダート平原に現れた五mのちびドラゴンよりも劣るとでも言いたいのか?

 ……まぁ、得られている情報を総合して判断するなら、考えようによってはそうとも言えるだろうけどさ。


「だが、それにしてもそなたがドラゴンを倒したという事実は変わらん。経験者としてどう戦えば良いのかくらい教えてくれても良かろう?」

「は……」

「なんだ、不服なのか?」

「いえ、そういう訳では……」

「勿論ただで指導しろなどと無茶は言わん。年末に来たその足で観戦に向かい、占領の手助けをしたら領地へ帰り、やっと戻ってさぁこれから仕事に打ち込もうという矢先に呼びつけられたのであろうからな」


 それが分かってんならもう少し言い方を考えてくれよ。


「来年度の上納金を少し負けてやる。今の三割から二割七分にしてやろう」


 おおう!

 一〇%も値引きとはでっかいね!


「は。有り難い事です。して、期間はどの程度を?」


 無期限なんて無茶はともかくとして、一ヶ月とか言われたらまじでシャレにならん。

 往復の拘束時間も考えたら一年の一〇%以上の時間になるからな。

 それに、それを言うなら今回の召喚だって何か欲しいくらいだわ。


「そなたはどの程度の時間が必要だと見る?」


「単に経験談を話すなら今日一日もあれば充分です。と言うより、私にはそれ以上出来ることはないと存じますが……」


 俺の返答を聞いた国王は僅かに顔を顰めた。

 一日じゃあ流石に高いか?

 だが、国王は即座にニンマリとした笑みを浮かべる。


「そなた、嘘を吐いたな?」

「は?」


 ナニイッテンノ?


「他に出来ることはないなどと見え透いた事を申しおって……」


 いやいや、その部分はそもそも質問への答えとは違うだろう!

 聞かれたのは経験談を伝える時間だったじゃないか!

 それに、それだって嘘じゃないよ!


 ドラゴンへの対抗策なんて、相手以上にレベルを上げ、高レベルの攻撃魔術を叩き込み、魔法の武器で斬りつける以外に何があんのよ?


 それらのうち一つでも難しいってのに、それ以上俺にはどうしようもないだろがい。

 せいぜい、あの戦闘から得ることが出来た内容を喋るくらいしかないだろう。

 飛行速度とか、ブレスの射程とか、空中機動力とか、戦闘にあたっての重要な情報はいっぱいある。


 どれもこれもなかなかに得難い、貴重な情報じゃないか?


「そう不満そうな顔をするな。余も無理を言っているのは分かっている」

「はぁ……」


 ならいいけどさ。

 全くそんなつもりなどないのに国王に「嘘を吐いた」などと責められたら俺でなくとも焦るだろう。


「とにかくそなたの体験談は貴重だ。何しろドラゴンを倒したのだからな。だが、そこから得られた経験の教示はともかくとして、悠長にそれをモノにするまでの時間がないことくらいは分かっている。放っておいたらドラゴンが次に襲うのは北のダービン村かも知れん。あそこにはまだ多くの兵がおるし、住民の退避は始めているが、完了までにはまだまだ時間もかかる」


 東西にあるデーバスの村の方が近いんだからドラゴンが次に襲うならそっちじゃないかな?

 でも、距離から言ってその可能性が高い、としか言えないし、根拠なんて他にないから贔屓目に見たってかろうじて成り立っている希望的観測に過ぎない。


「リーグル伯爵アレイン・グリードよ」


 居住まいを正した国王は、今までと打って変わって厳粛な声音で言った。


「はっ!」


 雰囲気が変わったことを察した俺はソファから立ち上がると丁寧に臣下の礼を取って応える。


「王国南部、天領の兵権をそなたに与える。リーグル伯爵領、ランセル伯爵領、ドレスラー伯爵領、エーラース伯爵領に駐屯する兵の指揮を執り、その地に害をなす魔物を撃滅せよ!」


 おいおい……。


「……」


 俺が返事をせずに黙ったままであったためか、国王は不審そうな表情を浮かべた。


「どうした?」


 どうしたもこうしたもねぇよ。

 兵権? いらんわ、そんなもん。


 いや、喉から手が出るほど欲しいけどさ。

 そんだけならいらん。


「お前さぁ、大概の奴なら感動してよぉ、安んじてお任せあれ、の一言くらい言うところだぞ?」


 国王は苦笑を浮かべて言った。

 本当にもう、この期に及んで……。


 急に砕けた口調になった事もあって本音が見え隠れしている。


 もう腹の探り合いはいらん、というところか。


「では、僭越ながら申し上げます。まずはその地に害をなす魔物の撃滅と仰られた部分です」


 国王は何も言わなかった。


「これは先に話していたドラゴンだけではない、という意味ですね?」


 いやまぁ、そこはいいけどさ。

 ついでなんだろうし。あわよくば、ということなんだろうしさ。

 でも、こちとらそこまで暇じゃねぇんだよ!


「ふふ。見破られたか」


 国王は少しだけ残念そうに言った。


「当然です。逆に、その程度の仰っしゃりようで引っ掛かると思われた事が残念でなりません」


 そう言うと国王は、悪い悪い、とでも言うかのように相好を崩して笑みを浮かべた。


「そりゃあ済まなかったな。だが、ドラゴンの退治だけは受けて貰わねばならん。引っ掛けようとした事は謝る。俺が悪かった、すまん」


 ソファの上から俺を見下ろしながら申し訳なさそうに詫びる国王。


「いえ……頭をお上げください」


 大国であるロンベルトの国王に詫びられ、請われる事自体は悪くない。

 だが……。


「それから、兵権を預かり、ドラゴンの退治をする。その対価が上納金の一割引というのは間尺が合いません」


 わかってるだろうに、そんなに暇じゃあないんだよ。

 その程度の金で誤魔化されるもんか。


「やはり、それも言うか……」


 当たり前だろ!


「対価となる上納金だが、今後はずっと一割引でどうだ?」


 おお!? それなら! って騙されるか。

 ドラゴンが暴れたらそんなもんじゃ利かない程度に土地は荒れるだろうし、多くの人が死ぬだろう。

 それを、俺に対する上納金の一割引で済まそうってのは虫が良すぎやしないか?


 だとしても、俺が領有する西ダートは遠いので直接ドラゴンによる被害はないだろうからいいじゃないかって?

 流石にそれは近視眼的過ぎる。


 例えばドラゴンが北に、ロンベルト側に向かってあちこちで暴れたら、その地の防衛力はガタ落ちだ。

 俺の領地じゃないから関係ないっちゃ関係ないが、デーバスがその機に乗じて攻めてくるかも知れない。

 攻めて占領するしないではなく、嫌がらせや、更なる防衛力漸減や混乱を狙うためだけにそうしたって不思議じゃない。


 っつーか、このご時世にそうしない為政者は馬鹿だ。

 現代の地球じゃあるまいし、他国に手を差し伸べる余裕のある国なんて一国だってありゃしない。

 地球の先進国だって自国民が安堵されて余裕があるからあちこちに資金を投資したり、国連軍とかいう多国籍軍を投入してるんだ。

 そんな余裕綽々な国なんて地球規模で見たら一割二割もあるかどうかだ。


 俺と俺の領地にそんな余裕なんかない。

 これっぽっちもない。


 ロンベルト王国だって周辺諸国と比べれば恵まれた大国だが、その内実は西暦九〇〇年代のローマ帝国にすら及ばないと思う。

 そんな時勢に、困っている他国に手を差し伸べたなんて国があったら教えて欲しいくらいだよ。


 西オーラッド一と謳われるロンベルト王国ですらそういう状況なんだから、他の国々はともかくとして、俺と俺の領地など何をか言わんやである。


 デーバスの上層部も底なしのお人好しや馬鹿揃いじゃあないだろう。


 とにかく、そうなってしまうと国土防衛戦だから国王は俺と俺の軍隊に対して大義名分を伴った出動命令を下せるし、それを断ることは余程大きな理由でもない限り困難だ。


 そんな時に兵権なんか貰ったって嬉しくもなんともないわ。

 むしろ、押し付けられそうになっている、という方が実情に合っていると思う。


 勿論、王国南部の兵権を預かるというのはでかいし、何より非常に名誉なことだ。

 平時なら俺も喜んで額を地面にこすりつけるだろう。


 しっかし、あれだね。

 わざわざ俺を呼び出した意味が見えてきた。


 ドラゴン退治にかこつけて、体よく俺にデーバス王国への防波堤になることを要求するためか。

 それ自体は理解できるし、俺が国王だって奇貨は利用したいと思うだろうし、従って別に腹も立たない。

 兵権の期限について明言されていないから、きっとこっちが本音なんだろう。


 まぁ、腹芸なしって感じにしたのは先方だ。


「上納金の値引きと兵権だけでお引き受け出来る内容ではありません」


 静かな口調で答えた。


「ちっ……本当にムカつく奴だな、お前は……」


 心底嫌そうな表情を浮かべて国王が言う。


「お褒めの言葉と取っておきます」

「そういうところもムカつくわ。可愛げがなくてな」

「申し訳ございません」

「はぁ~っ」


 国王は深い溜め息を吐いた。


「だがまぁ、こういう奴じゃないとダメなんだろうな……」


 口の中でブツブツと呟いているようだがよく聞こえない。


「……流石にまだ早いと思っていたが、こうなると仕方ねぇ。ランセル伯爵領、ドレスラー伯爵領、エーラース伯爵領も全部やる。これでお前はダート地方を領有する侯爵を名乗ってもいい。だが、駐屯する兵は遅くともこの先一〇年内外を目処に三分の一は引き揚げさせる。残りは諸共くれてやるから、俺に南部からの不安を感じさせるなよ? もしそうなら……解ってるならいい」


 これはあれか?

 いや、今判断する、出来る事じゃないか。

 とにかく、何としても最低一〇年は踏ん張れと言われたに等しい。

 その間、ボロカスだったらダート平原に駐屯している兵は揃って俺に対して剣を抜くという事だろう。


 その後は二時間で細々とした部分を詰めた。

 陞爵を含めて領地の割譲など諸々は見事にドラゴンを討ち取った後、一年以内に行うとか、赴任している代官連中は最長二〇年までレンタル可能、とか、そういった事が中心だった。

 時間に余裕もないし、それ以外は後回しにせざるを得ない。


 そして、ドラゴン退治に向かおうとする俺の背に、国王は声を掛けた。


「ああ、言うのを忘れていた。ジーベクトかレファイスかフォーケインとこの娘を娶れ。誰でもいい。とにかく俺の娘と結婚しろ」


 息を呑んで振り返った。


「……それが全ての条件だ。俺の領地の情報をあれだけ聞いておいて今更嫌とは言わせん。それとも、俺を義父と呼ぶのは嫌か?」


 嫌だよ。


「ああ、第二夫人でも構わん。人質だと思ってくれてもいいが、人質ならこちらも握っているしな。マルシリオと言ったか? それとも姉か?」


 昏く突き刺すような視線だった。


「どちらにしても今は王宮に招いている。将来の息子の家族なんだしな。俺に取っても大切な家族だ。おっと、姉の方は忠実な部下でもあったな」


 国王の声音には少しだけやるせないような成分が含まれていた。

 本当はこんな事言いたくなかった?

 だとしても言ったなら一緒だろうが!


「跡取りは早く作って、老い先短い爺いを安心させてくれよ? まだいないんだろう?」


 こ、この……!


「ふ。いい顔だ。案外とお前にも可愛いところもあるんだな。知らなかったぞ」


 クソったれ!


 

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ん?ハックルベリー・フィン? トム・ソーヤの冒険か。
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