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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第百四十話 急使

7450年1月17日


「じゃあな、ズールー」

「は。失礼します」


 ズールーは再び軍馬に跨るとムチを入れ、コートジル城へ帰って行った。

 俺はバリュートら騎士たちの他、馬車を曳いていた馬から魔法の蹄鉄を回収した。

 これだけは忘れずに回収しておかないとな。


 ん? ズールーとラルファ、グィネの馬にはつけっぱなしだけど、前からだしそれはいいんだ。

 勿論、俺のウラヌスもね。


「馬車の荷のうち、樽は……おい、使ってない地下牢はあるか? いや、房じゃなくて全体を使ってないやつだ」


 合計で三〇人程が収容可能な三号地下牢が丸々空いているとの事だったので、そこに運ばせて貯蔵しておくことにした。

 当然だが、当面の間はそこへの犯罪者の収容も禁止する。

 騎士団に三つある地下牢で一番小さなものだし、いいだろ。

 原油は人気がなく火の気もないところで保管すべきだし、デッドスペースの有効活用だ。


 俺に命じられたバリュートは厳しい声で従士たちに樽を地下牢に安置するように命じている。

 従士たちは即座に了解の返答を行い、キビキビと動き従っている。


 以前自衛隊員であった俺自身もそうだが、騎士団の人員には疑問があってもそれを即座に口にする者はいない。

 命じられた従士たちにしてみれば、なんとも表現がし難いくさい臭いが漏れる樽の中身が何なのか知りたい気持ちだろうし、なぜそれを誰もいない地下牢なんかに運ばなければならないのか理解できないだろう。


 情報は知る必要がある者に対してのみ与え、知る必要のない者には与えないという原則を、Need to knowの原則という。

 俺が転生する以前の地球、どこの国のいかなる組織でも当たり前に適用されていた原則なので聞いたことくらいはあるだろう?

 因みに、この原則は軍事組織では質問をすら許さないというものになるのが普通だ。


 とにかく、それが徹底されている事が確認できて少し満足した。


 尤も、このNeed to knowの原則については俺が叩き込む必要も殆どなかったというのが実情だったんだけど。

 そもそも貴族とそれ以外で徹底して身分の上下のある時代だし、軍隊内に限れば正騎士とそれ以外というだけでも天地の差だ。

 そんな状況だから、命令を発した上位者に対して、命令遂行よりも前に質問や疑問を口にするようなバカがその土地のエリートを集めた騎士団に居る訳がないのだ。


 つい先日、訓練中に自宅に帰りたいとか、うまい鳥料理を食いたいとか抜かすバカが居たので、いらぬ心配をしてしまったようだ。


 さて、ホワイトフレイム以下の従士連中は兵舎に戻るし、バリュートとデーニック、クローとマリーも家に帰るようだ。


 俺も家に……ミヅチは行政府だろうし、行政府に行くか。


 なお、ラルファとグィネの二人は三月から入団すると言ったからか、留守番をしていた従士たちに囲まれていたので放っておく。

 今のうちに親交を深めておくってのも悪いことじゃない。

 

 べグリッツの市街へ向けてバリュートたちと馬を歩かせる。

 せっかくできた空き時間。

 俺としては今回の視察行における簡易な反省会を行いたかった。


 ちゃんと反省会をやろうと言わなかった俺にも責任はあるだろうが、実戦に参加しなかったマリーは原油汲みの苦労話を始めてしまった。

 油田を見ることがなかったクローを始め、バリュートとデーニックの二人もふんふんとそれに耳を傾けてしまう始末だ。


 苦笑いしか浮かばない。


 俺は占領後の施策について殆ど見ることなく帰ってきてしまった事を責められるかと思っていたのだが、そんな事はなかったのだ。


 少し話を振ってみたが、話題は俺が期待した方向には行かなかった。


 それでもクローとマリーは俺の意図を汲み取ってくれたらしく、すぐにその受け答えは受動的なものになり始めた。

 しかし、バリュートもデーニックも、そもそもそちらの方にはあまり興味を持ってはいなかったようで、タンクール村攻略時の戦闘の推移についてや、あの時の配置はどうのこうのと言っている。

 まぁ、彼らもずっとこの、西ダートを防衛するリーグル伯爵騎士団にいたんだから占領したばかりの土地や住民に対して何かをするなんて縁のない世界だったろうし、当たり前といえば当たり前なんだけど、何と言うか、もう少し、こう、考えて欲しかった。


 教育というものはつくづく大切な事だと実感する。

 日本に於ける教育水準の高さは折り紙付きだが、まともな学校教育を受けていないバリュートやデーニックを始めとする、オースに生きる大部分の人々には転生者と比べて決定的に欠如している物がある。


 知識量だ。


 全ての事象に於ける基本的な知識の絶対量が比較にならないレベルで異なっている。

 知識は保有している量が増えれば増えるほど想像力の下地となる。


 つまり、そのまま視野の違いとなると言っても過言ではない。


 アインシュタインは「想像力は知識より大切だ。知識には限界があるが想像力は世界を包み込む」と言ったそうだが、この言葉はしばしば字面だけを捉えた、重要な部分を欠く不充分な解釈をされる傾向がある。


 粘り強く想像力を働かせる事が大事?

 そうだね。

 知識という“殻”を想像力で破り、そこから周囲を見渡すと更に新たな見解が持てるようになる?

 尤もな話だ。


 でもそれはある物事に対して、アインシュタインが物理学に精通しているレベルで識っている様な人の話だ。

 俺を含め、普通の人が宇宙の真理について、どんなに思いを巡らせたところで彼が考えるそれよりも真理に近い、などという事はないと思う。


 ある物事に対して碌な知識もない者がいくら想像の翼をはためかせたところで、その物事についてより深く識っている者が想像することと比べれば正解に至る、近づく可能性は低いのだ。

 そういう事が絶対にない、と言っている訳ではない。


 大昔の農民と現代日本の同年齢の人に「空を飛ぶ道具を考えろ」と聞いたらイメージし易いかもしれない。どちらの方がより多くの答えが出るだろう?

 同じように、「人はどんな時に幸せを感じるか」という質問を現代日本の中学生と、ベグリッツの裏通りを根城にして、その日の食事すらままならないような同い年の【名無し】に聞いてみると結構な割合で全く違う回答になると思うし、中学生の方が多くの種類の答えを出すと思う。

 でも、そんな【名無し】でもトールなら日本の中学生とあまり変わらないか、それ以上に多くの答えを出す筈だ。


 それと同様に、バリュートやデーニックに対してクローやマリーと同じような想像力や思考力を求めるのは“今の時点では”ないものねだりに近いだけなんだろう。


 手っ取り早いのは騎士団員を生徒にした学校のようなものを作るのがいいんだが、それにしたって効果が目に見えるようになるのは何年も経った後だろうし、優秀な奴なんてそれこそ一握りくらいだろうが……ないよりましか?

 まぁ、学校については最初は騎士団相手でもいい。そもそもロンベルト王国では学校というものに一番近い存在であることは確かなんだし。


 え? 一般の人向け?

 騎士団にすら入れない程度の奴なんかどうでもいい、とまでは言わないが、そこまでの余裕はないな。

 貴族や平民、せいぜい自由民の中から剣技や体力に秀でている者を選別しているのが騎士団なわけで、「騎士団員」とは入団が許される時点で少なくともそれらに対する努力を積み上げ、結果に結びつける事が出来た者だ。

 まずはそういう者が優先されるのは当たり前だろ。


 騎士団のカリキュラムの更新か……。


 少なくともここまでは俺がやらねばなるまい。


 あ、バリュートとデーニックと別れた後、クローとマリーには「折角勉強に行ったのに半分しか実地で学んでこないというのは増長と慢心だ」と詰られた。

 その通りなので言葉もない。

 誰かに言って欲しかったんだろうな、きっと。




・・・・・・・・・




7450年1月18日


 夕食を摂るような時間にデーバス王国の王城であるガムロイに呼び出されたレーンティア・ゲグランはダート平原から齎された報告を受けた。


『それは本当?』


 レーンは目眩すら感じるようなショックを受けた。

 鼓動が早くなり、指先も少し震えた。


 勿論嘘だとは思っていない。

 だが、嘘であって、誤報であって欲しいとの思いが口に出させた言葉だ。


『本当だ。一週間前、白凰騎士団第三独立警備小隊はタンクール村防衛戦において全滅した。遺体のステータスも確認されている』


 上座に座るアレキサンダー王子が冷静な声で返答する。


――ジーン。ドノヴァン。ヒーロ。ソリン。ウルスラ。メクイ。トーニ……。ああ、なんてことなの!


 レーンは改めて伝えられたことで大切な奴隷一人ひとりの顔を思い出して瞑目した。


『彼らを斃したのはロンベルト王国の第一騎士団のバルミッシュという者だそうだ』


――バルミッシュ!


 奴隷達を殺した仇の名を耳にしてレーンはカッと目を開き、王子を見た。


『こちらの資料では小隊長らしいから、デーバスに当てはめるなら十人長といったところかな』


 王子は報告書に目を落としたまま喋り続けている。


『……だが、これを聞いたら驚くぞ。そのバルミッシュもその後に村を襲ったドラゴンに斃されたと……』


 報告を続ける王子の声にも少し震えがある。

 だが、悲しみや恐怖によるそれではなく、深い感動ゆえの震えのようだ。

 そしてそれはこの場に集ったデーバス王国の転生者達の殆どに共通していた。 


 彼らも伝説やお伽噺でしか聞いたことのないドラゴンが実在する事に感動していたのである。

 今まで何度も話し合われ、その存在が予想されてもいたドラゴン。

 それが本当にいたのだ。


 そして、縁者が犠牲になった訳でもなかった。

 レーン子飼いの白凰騎士団第三独立警備小隊の面々については、レーン以外に面識すらない。


『レーン。すまんな。お前が可愛がっていた奴隷達が殺されたというのに……』


 いち早くレーンの悲しみとショックに気づいたセンレイド・ストールズ公子が詫びたのを皮切りに、他の面々も申し訳無さそうな顔になった。


――皆、ごめんね。レベルアップとか言って行かせたのは私。悪いのは私だわ。……ヨミス達はまだ充分じゃないわ。こんな事なら毎年買っておくんだった……。




・・・・・・・・・




7450年1月20日


 重い雲が空を覆う午前。

 ロンベルト王国の首都である王都ロンベルティアは昼食を前に往来を通る人が急増する時間だ。

 そんなロンベルティアに一頭の軽装騎兵が駆け込んできた。

 騎兵は手近な騎士団の出張所で新たな馬を借りると、再び王城に続く道を駆け出した。


 往来を行き来する人々など目に入らないかのような傍若無人な手綱捌きをする騎兵に、心ある人は道端に立つ衛兵に声を掛けるが、ただならぬ様子の騎兵が右腕に巻く伝令の印を見た衛兵は訴えに取り合わなかった。


 程なくして王城の入り口を固める門に辿り着いた騎兵は門番に自らのステータスを確認させ、騎乗したまま三の丸に続く橋を渡る。


 そのまま二の丸にも入り、第一騎士団の本部で漸く馬を飛び降りた。

 馬を馬留杭に繋ぐことすらしていない。

 本部で下働きをする従士が目を白黒させながら放られた馬を取り押さえ、馬留杭に繋いだ頃には、騎兵は慌ただしく建物に駆け込んだ後だった。


「何? ドラゴンだと!?」


 騎兵から報告を受けた第一騎士団長、タクラード・ゲンダイル子爵は驚きのあまり二の句が継げなかった。


「は。確かにドラゴンです。青いドラゴンでした」


 埃と汗にまみれた騎兵は団長執務室の床に跪いて報告を続けた。


「……わかった。被害は、生き残りはどのくらいだ?」

「私が知る限り、第一騎士団は私の他、ロベイン卿、ザモルフ卿、ハリジャン卿の四名です。第二騎士団の方も半数以上は逃げられたかと思いますが。私はロベイン卿の命により、一足先にこちらに向かいましたのでそれ以上の詳しいことは……」

「そうか。彼らは今どうしている?」

「ロベイン卿はダービン村で残存兵の再統合後、こちらに向かっていると思いますので遅くとも二・三日中には到着するかと」

「わかった。ご苦労だったな、ハック。今日はゆっくり休め。だが、急な呼び出しがあるやも知れんからここにいてくれ。私は陛下に報告に行く」


 ゲンダイル子爵はそう言うと足早に執務室を出ていった。


 そして数時間後、王城から一組の伝令が出ていった。

 彼らが目指すのは王国南方の地、西ダートである。




・・・・・・・・・




7450年1月22日


 ロンベルティア城の天守地下にある一室。


 深夜、そこには綺羅びやかな城には場違いな者が喚ばれていた。


「ど、ドラゴン……? 私に行けと?」

「そうだ。バルドゥックで一流と呼ばれる冒険者は少ない。そして、そなたは充分に一流と呼ばれるような地位だと聞いている」

「陛下は……」

「ここには俺とお前しかおらん。陛下は止せ」

「そう。なら遠慮しないわ。久々に呼び出されたから何事かと思って来たのに、ドラゴン退治ですって!? あんた、私に死ねと言うの!? やっぱりあんたは糞だわ!」

「……俺が糞親父なのは間違いないが、早とちりするな」

「なぁにが早とちりよ!? ドラゴンが出た、行けってんなら他に何があるのよ!? だいたい、ドラゴン退治なら適任者がいるでしょ? 当代随一のドラゴン・スレイヤーが! あいつと比べれば……悔しいけど私なんか……」

「勿論あれも呼ぶ。そして、戦うのはあやつよ。お前ではない」

「……どういうこと?」


 親子のものらしい会話は長い間続いた。




・・・・・・・・・




7450年1月27日


 ベグリッツに到着した翌日、ラルファとグィネはマールとリンビーの他、二人の奴隷を伴ってベージュ村とガルへ村の検地に出発していた。

 少しでも早く仕事を終え、騎士団入団までに残された時間を有意義なものにしたいのだろう。


 朝早くに彼女らを見送った俺は、その日のうちに大まかな焼玉機関の設計を行い、数日後には試作まで終えていた。

 原油自体は蒸留を終えていないので今のところ無駄なんだけどね。

 どうにも気持ちが逸っちゃったんだよね。

 燃料すら作っていないし、朧気な記憶に頼っていただけだから動くかどうかすら怪しいんだけど、これについては何回でも作り直す気でいる。


 また、トールの方は井戸用の手押しポンプについて、量産しても問題のないような型を完成させたばかりでなく、オースにしては大型のプレス機について設計の目処を立てていた。


 そして行政府についてはミヅチが、今まで俺とミヅチが行っていた事務処理などについて、下の役人に対して決裁権の割り当てを始めていた。

 尤も、始めたばかりなのでまだ大した量ではないが、それでも精神的にはかなり楽になっている。


 それからジャバだが、流石俺が見込んだ通り、数字に強い男であった。

 ミヅチには暇を見て彼に経理を仕込んで欲しいと言ってあったのだが、教えると真綿が水を吸収するが如く瞬く間にモノにしてしまった。

 彼が着任した直後に言っておいた問題点の提示についても適切な指摘を挙げて来ていたのであと数ヶ月も問題が無いようであればジャバは徴税長として確定だな。

 今の徴税長は今年六〇を迎えるおっさんなので退職させる。


 朝起きて走って、飯食ってミヅチと模擬戦して、行政府に出勤。

 午後はミヅチと一日交代で騎士団で稽古に明け暮れ、夕方に飯を食った後、何か作ったり事務仕事の残りをやったりして一日が終わる。


 戦場から帰って一〇日。

 そんな平和な時間を過ごしていたのだが、それはこの日の昼過ぎにやってきた王都からの急使によって破られた。


「は? ドラゴン?」


 急使によると、ついこの前俺の活躍で無事に占領出来たタンクール村が、俺が帰ってから二日後に青いドラゴンに急襲されて放棄されたという。

 そればかりか、放棄にあたってかなりの犠牲者を出してもいた。


 まだ未確認らしいが、侵攻部隊の司令官を務めていたファイアブレイズ士爵や第一騎士団のバルミッシュ士爵の生死も不明であり、伝令によって齎された確実な情報だけでも部隊には大きな被害が出ているとの事だった。


「つきましてはドラゴン・スレイヤーである閣下を王城までお連れせよ、との命を賜っております。代わりと言っては何ですが、この地には閣下が帰還するまでの間、第二騎士団の即応大隊から三個中隊、第四騎士団から二個中隊が派遣されます。既に王都を発って急いで向かっている筈ですので、あと二・三週間内外で到着すると思われます。領土の防衛についてはご安心めされよとのことです」


 急使はそう言って床から俺を見上げた。


 え?

 あんたも今日一日すら休まないの?

 今からすぐ来い?


 あまりに急な話だ。


 だけど、不本意ながらドラゴンが出たってんならそれも納得せざるを得ない。

 あんなん相手に、まともにぶつかるのは兵力をすり減らすだけだし。


 しっかし、俺を直接向かわせないってのは何でだろうね?


 ああ、タンクール村攻略に俺が参加してたって知らないのかな?

 いや、村がドラゴンに襲われたのは俺が村を出た二日後だ。

 そして、伝令はその後に発ったのだろうから、俺が参戦したという件について報告がされていない筈はない。


 参戦したこと自体は別に何の問題もない。

 手柄もくれてやったし。


 でも、ドラゴンかぁ……。

 もう二度とあんなの相手にしたくなかったんだけどな。


 えーっと、こいつと一緒に王都に行って六・七日、向こうで一日か二日。

 王都からタンクール村まで……流石に俺に手ぶらで行けなんて無体な事は言わないだろうから三週間ってとこかな?

 まぁ、第一騎士団の人が付いて来たとしてもドラゴン相手にどこまでやれるのかって気もするけど。

 出産して半年も経ってない姉貴はないだろうし。


 

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