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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第七十一話 傭兵

7449年9月3日


 遂にべグリッツに闇精人族(ダークエルフ)の隊商が来た。

 ライル王国の人口はこのべグリッツよりもかなり少ないので、周辺各国を巡っている隊商の数も少ない。

 べグリッツという、新たな目的地を増やして貰う為にトゥケリンへの付け届けを始め、ソーセージを安価に販売したりダート平原の調査を頼んだりしてそれなりに金を遣ってきた効果がやっと現れた形だ。


「ご無沙汰しております、伯爵閣下」


 そして今。

 隊商を率いている中年の……獲得階級のおっさんを他所に俺の前に進み出て頭を下げているのは、ミヅチの上司だったザーゲルフォルという一位戦士階級の長だ。

 以前に会った時とは異なり、俺が領地持ちの上級貴族となっているためか以前にもまして丁寧な言葉遣いだが、相変わらず少し古臭い発音には妙な感じがする。


「チズマグ……伯爵夫人も元、お元気そうで何よりだ、です」


 ミヅチにも挨拶をしているが、上司であった威厳を保とうとしているのが少し笑える。

 何でも、ダークエルフの社会には貴族階級が存在しないそうだ。

 それに近い元老家系と言うものは存在するが、現役の元老職に就いている者以外にはそれ程大きな敬意を払われることはないという。

 だがミヅチは女王によって現役の元老と同格であるとされてしまった為、碌に顔を合わせていなかった事とも相まってぎこちなくなってしまったのだろう。


 以前に会ったときはもう少し偉そうな話し方だったと思うけど、あれは顔を見た瞬間にミヅチが驚いてへいこらし始めたんで合わせただけなんかね?

 今のミヅチは伯爵夫人としてそれなりの立ち居振る舞いや所作を身に付けつつあるし、先触れによって隊商に戦士長が居るとも聞いていたために前みたいに慌ててペコペコしてないからそれなりの言葉遣いにしなければならないと思ったのかも知れない。


 それはそうと、今回このザーゲルフォル一位戦士長も隊商に同行して来るとは思っていなかった。

 そう言えば馬車一台の護衛は五人くらいと聞いていたが……隊商の長や戦士長を除いても一〇人近くの大所帯だ。


「お久しぶりです。先ずは隊商の皆さんに軽食を用意しておりますのでこちらにどうぞ」


 行政府の大会議室にバルドゥッキーを準備させているので先頭に立って全員を案内した。

 大会議室は隊商からの先触れがあった時点で用意させていたので、軽食の準備は既に整っている。


「まずはこの地で作ったバルドゥッキーをどうぞ」


 アツアツのソーセージが鍋から皿に移されて一行に供された。

 勿論、茹でているのはギベルティだ。

 何も混ぜものを加えていない素のソーセージだが、王都の工場で作っているものと遜色のない仕上がりになっていると思う。


「さて、召し上がって頂いている間に我がグリード商会が開発した新たな食品をご紹介させていただきます。ああ勿論、皆さんにはこの場で召し上がっていただきますが、調理の最初から御覧頂きたいと思っておりましてね。おい、始めろ」


 ギベルティは新しい鍋にお湯を沸かすところから始めた。


「勿論、最初に魔法でお湯を出しても構いません。ですが、この食べ物は暫くの間お湯を煮立たせ続ける必要があるのでコンロを使っています」


 皆がバルドゥッキーを食べ終わる頃にお湯が沸いた。

 ギベルティはテーブルに用意してあった食材をばらばらと鍋に投入する。

 投入したものは蕎麦粉八割、小麦粉二割で作った蕎麦の乾麺だ。

 だが、幅一㎝、厚さ一mm、長さは七~八㎝の短冊状に整形してある。


 茹でる前の乾麺状にしてある山から少し拝借して全員に少しづつ配った。


「これは蕎麦粉と小麦粉に水と卵を加えて良く練った生地から作っています。その後、このように整形して特殊な製法で乾燥させたものです。そのまま食べても一つくらいなら害はありませんが美味しくはありません。ですので今はその体積と重さに注目して下さい」


 小麦粉だけでなく、蕎麦粉を多くしているのは茹で時間を短くするためだ。

 まぁ、イタリアには蕎麦粉を混ぜたビゴリとかピッツォッケリというパスタもあるので、これもそう呼んでしまっても差し支えはないだろう。


 勿論、うどんやちゃんとした蕎麦切りを作っても良かったのだが(実際作ってみた)、醤油が無いのでどうやって食ってもあんまり旨くない。

 前世、たらこクリームうどんという奴を食べたこともあるが、日常的に食うには向いてないと思ったこともある。

 また、ソース焼うどんは俺も好きだったが、ソースが無いのはどうにも致命的だ。

 マヨネーズと煎り酒でなんとか食えるものはできたが、やはり何というか、所詮は変わり種の料理の一つでこちらも月に一回以上食いたいと思うほどのものではなかった。


 因みに、このオースでもラザニア状のパスタは一般的だが、乾燥パスタとでも言うべき乾麺は存在していない。

 これはデュラム種の小麦があるとかないとかには関係がなく、単に天日干しにして乾燥させただけだと非常に時間が掛るために上手く乾燥させることが難しく、場合によっては腐敗することがあるからだ。

 そう言った事情で乾麺は一般的になっていないのだろうと推測される。

 なお、この乾麺は魔法で一気に乾燥させているために腐敗せずに全てが綺麗に乾燥している。


 うん。ダイアンたちバークッドから来た従士にはゴムが作れるようになるまでは乾麺の開発をやらせていたのだ。

 まぁ、俺やミヅチを始めとして乾麺がどういったものかをよく知っている者が居たのであんまり苦労はなかった。

 今は揚げ麺も作り始めてるんだ。

 やっぱスープが苦労するよね。醤油ないし。煎り酒を乾燥させても良いんだけど醤油ほどのパンチがないんだよ。


「……七分くらいで出来上がります。それまではこちら、未だ王都でも発売していない、試作品のバルドゥッキーをお試しください」


 直径一〇㎝程の豚の大腸から採った腸膜を使って作ったソーセージを薄く輪切りにしたものを出した。

 こちらには豚肉の他、煮たレバーやカゾットというアナログチーズを小指の先くらいの小さな塊にして混ぜてあるので断面には少し面白い彩りがある。


 ダークエルフたちは初めて食べる太いソーセージに興奮している。


 そうこうしているうちに蕎麦パスタが煮えた。


 ギベルティは小さなお椀に、別に作っておいた鶏ガラと豚肉を煮込んだダシに塩胡椒で味を調えたスープを入れて茹で上がった蕎麦パスタをよそっている。

 そのお椀を俺とミヅチが全員に配膳した。


「熱いので手づかみではなく箸をご使用下さい」


 箸はオースでは珍しいが、ライル王国では一般的らしいから問題はない。


「むぅ。これがこうなるのか……」


 ザーゲルフォル戦士長は感心したような唸り声で手元の乾燥パスタと調理された茹でパスタを見比べてから口に運んだ。


「お! 柔らかいし、味もいいな」

「美味いな」

「他に肉なんかの具があっても……バルドゥッキーか」


 好評なようだ。

 でも、大切なとこに気づいて欲しいなぁ。


「これ、茹でる前の乾燥した状態では最低でも半年は保存可能ですよ。湿気のない場所できちんと保存するのであれば二年くらいは問題なく食べられるでしょう」


 しょうがないので言ってやったら隊商長と戦士長の二人だけが目をひん剥いて手元の乾麺とお椀に入った短い蕎麦きしめんとを見比べていた。


 生前勤めていた食品商社時代に大手の製粉業者と話した際には、パスタやうどん、蕎麦や素麺を一度乾麺にしたら、余程高温多湿の場所でもない限り、本来は五年くらい食べられるのだと聞いている。

 日本だと賞味期限とか色々と法律の問題があるのでどうしてもかなり短めに表示しなければいけないそうだが、乾麺というのは年単位の保存食として発展してきた側面が強いのだと言っていた。


 確かに糒(ほしい)という、炊いた米を乾燥させた食べ物は古くからあり(食べるときにはお湯で煮たり水で戻して食べる。少しづつならそのまま食べても良い)、その保存期間は数十年に及んだという話も聞いたことがある。

 似たような物は現在でも市販されているはずだが、賞味期限は一年半までしか書けないらしい。

 缶詰なんかも缶が錆びたり膨らまない限りは何十年でも食べられるが、こちらも法律の関係で三年が限度だ。

 自衛隊の缶飯なんかも賞味期限前に大量に消費されている。


 ま、賞味期限と消費期限の違いだね。


 次にギベルティは茹でたパスタから湯を切ってフライパンに移し、オリーブオイルとニンニク、塩を絡めたうえ、細切れにしたベーコンや小さく切ったバルドゥッキーと一緒に軽く炒め始めた。

 それも小皿に取り分ける。

 ミヅチが紫蘇にそっくりなミーズリという香草を細長く刻んだものをその上にちょこっと乗せ、彩りと風味をアクセントとして加えて完成である。

 こちらも俺とミヅチで全員に配った。


「これは……いいな」

「うんうん。ベーコンとかバルドゥッキーとか贅沢だな」

「これ……ステータスオープン。ミーズリ草かぁ。いい香りね」

「うまっ、うまっ」


 こちらも大好評のようだ。


「伯爵閣下」


 戦士長に声を掛けられた。


「この食べ物は……どのくらいの価格ですか?」


 ふーん。

 やっぱり戦士長も軍人なだけあって興味があるか。


「まだ決めていませんが、同重量の小麦粉の三倍くらいの価格にしようかと思っています」


 材料に少し高価な卵を使っているが、大部分が安価な蕎麦粉なので儲けはそれなりにある。

 挽き肉機を改良した押出製麺機がきちんと完成すればもっと色々な形のパスタも作れるので、この短いきしめん状の乾麺を基本価格として他はもう少し高い価格を付けてもいいだろう。


「茹でるだけという簡単な調理でこれだけ腹持ちが良さそうなものが……」

「何年も保存が利くというのは魅力的だな」


 戦士長と隊商長はなにやらヒソヒソと話を始めている。


「貴国にでしたらその三分の二の価格でお譲りしますよ。また、ここは私の領地ですからね。ここで販売証明と無税品目書を出せば、王国内の他の土地で関税が掛けられることも無いと思います」


 全人口でべグリッツの半分に満たないライル王国にはそれ程多くの需要がある訳でもない。

 多少安く売ったところでそもそもの量が知れているから、恩が売れるならそっちの方が俺にとっては良いだろう。

 ああ、勿論無税品目書を出すのはライル王国内での消費量までだ。

 それ以上多く購入して他の土地で売るつもりならそれはそれで別のやり方があるさ。

 王都で売っているバルドゥッキーみたいに輸出関税を掛けるのが楽だね。


 ところで、ザーゲルフォル戦士長に加えて隊商護衛の人員が多いと思っていた件だが、すぐに理由が判明した。

 四人の男女を傭兵として貸してくれるとのことだった。

 今回は初回なので戦士長自らが引率として付いて来たというのが真相らしい。


 なお、料金は一人あたり年間四〇〇万Zと食事及び住居の提供だ。

 単なる傭兵として考えた場合、相場の倍どころではない金額だが、全員がそれなりの魔法の腕を持ち、幾つかの魔術に精通していることを考慮すると当然の値付けだろう。

 それに、魔力量だって全員かなりのものだ。


 因みに、傭兵として貸してくれる四人は全員十代後半の年代で、ミヅチの事を知っているようだ。

 また、戦士階級としては最下位の三位戦士階級に所属しているそうで、四人が四人とも無魔法に二種の元素魔法しか持っていなかったが、それでもかなりの戦力アップだと思う。




・・・・・・・・・



 その日の夕方、隊商が宿に行った直後、傭兵として雇ったダークエルフの若者たちに仕事を与えていた。


「ええと、ガルソロスとダルゾロスだっけ。お前らは明日から騎士団の訓練に合流しろ」


 四人のうち年上の二人は共に一八歳でガルソロスが男性、ダルゾロスが女性だ。

 双方とも既に結婚しており、家族を国に残しての出稼ぎだ。


「それから、カルスロンとギジェラルスの二人にはまず別のことをやって貰う。一月から二月くらいで交代な」


 年下の二人は双方十七歳。

 未婚の男性同士である。


 彼らに頼むのはあと数日も経てば一度くらい顔を出すであろうラルファとグィネについて、検地の第二陣としてラルファたちの後を見て回らせるためだ。

 彼ら自身について外界とも言えるうちの領土の様子や過ごし方、領民や貴族との付き合い方を知って貰う意味もあるが、領主たちへの牽制という意味もあるし、作成された地図の正確さについてのアピールもある。


 ま、地図を作るという意味ではラルファやグィネ以上に適任者はいないけど、彼女たちだけだとどうもね……。

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