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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第四十九話 反抗計画

7449年4月18日


「さて、ロンザルよ。こうしてコーヴ士爵はそなたに火点けを命じたと言っておるが、その点について喋る気になったか?」


 少なくとも教唆された事について、今更否認など出来無いと思う。

 何しろ「自分が命じました」とコーヴ士爵自らが白状しているんだし。


「……」


 だんまりか。

 ならば仕方ない。


「三つ数えるうちに何か申せ。壱つ(ヒーム)……」


 後ろ手に縛られて這いつくばったまま俺を見上げるロンザルの目は哀れみを誘うがな。


弐つ(ニーム)


 何か覚悟を決めたのかロンザルはゆっくりと目を閉じ、開いた。


「み、認めます。確かに若、いえ、コーヴ士爵から屋敷に火をかけろと命じられました……しょ、正直に申しましたので母や女房、子供はどうか……」


 ロンザルの火魔法の技能レベルは三であり、木造建築物に対する放火には充分すぎる程だ。

 また、嘘看破ディテクト・ライへの反応はない。


「それで火を点けたか」


 一応確認ね。


「ぐ、く……」


 命令に従って火を点けたと認めてしまえば奴隷に罪をなすりつけた事になる。

 こっちはそう簡単に認める訳には行かないか。


 ま、いいさ。


「コーヴ士爵。命じたのがそなたであれば此奴は屋敷が燃えた後で報告をした筈だな? どういう報告であったか?」


 コーヴ士爵は放火教唆の犯罪者とはいえ、一応はれっきとした貴族だ。その証言には充分に証拠能力がある。

 証拠として一番有力なものは物証であり、その後は貴族の証言が位の高い順に続き、最後に貴族以外の者の証言となる。証言には当然自白も含まれる。

 裁定者である領主はこれらの証拠を元に誰が事件について責任があるのかを判断し、量刑を決定しなくてはならないのだ。


「は……その……屋敷にひ、火を放ったと。誰にも見られていないとも……」


 嘘看破ディテクト・ライへの反応はない。

 少なくとも言っていることに嘘はない。


「うわ、私が火を点けましたっ! 申し訳ございません! ですが、家族だけは! 何卒! 何卒ぉぉっ!」


 もう言い逃れは完全に無理だと悟ったのか、ロンザルは放火を白状した。

 家族に罪が及ぶのを恐れているようだが、さっき俺は「本件について親族に累を及ぼさないことを保証する」って言ってるんだがな。

 ああ、本件というのは放火教唆の自白についてだけだと思ってるのかな?


「そなたが火を放ったということは、屋敷の火事についてラフリーグ伯爵の奴隷は関わっていない事を認めるか?」


 一応確認ね。


「ぐ……は、はい。認めます。私が魔法で火を放ち、奴隷が火の不始末をしでかしたように流言致しました……」


 真っ青になって震えながらもロンザルははっきりと自白した。


「……素直な白状や良し」


 拷問の手間が省けたというのは王国でも罪を減免する条件でもある。

 まして、拷問なんかやりたくないし、直属の部下とも言える騎士団員に行わせたくもない。


「改めて沙汰を申し渡す。まず、実行犯であるロンザルよ。そなたの罪は重い。領主の館に火を放っただけでなく、その罪をただ現場に居合わせたというだけで奴隷に押し付けた。これは実に卑劣で卑怯な行為である。従って火刑が妥当であるが、逆らい難い上位者からの教唆という事情も鑑みて罪を減じ、死罪を申し渡す。刑は明後日の裁きの場において執り行う。それまで騎士団の牢に収監するが親族だけは面会を許す」


 人に死刑を宣告するという行為は思っていた以上に精神的にきついものがあるな……。

 だが、元々予定されていた明後日の裁きの日においてもスラムで喧嘩の末、相手ばかりか止めに入った者までをも殺し、更にその遺体から財布をくすねたという愚連隊の構成員に死罪を申し渡す事になっていた。

 こんな事は今後もきっと、何回もあるだろう。


 ……慣れろ。


「あ、あの……」


 ロンザルがなにか言いたそうだ。


「何か言いたいことがあるのなら申せ」


 恐らく家族のことだろうなと思ったらやっぱりそうだった。


「そなたの家族は今回の件とは無関係だ。従ってなんの罪もない。それより、家督の相続が必要なら監視の騎士を伴って一度だけ牢からの外出を許す」


 俺の沙汰を聞いた領主たちは一様に驚きの表情を浮かべたものの、理由を尋ねたりして場を騒がせるような事はなかった。


「続いてコーヴ士爵。そなたは家の従士であるロンザルに対し、次期家督者であるそなたに逆らい難い事を利用して放火を教唆した。そなたも貴族であるからには放火自体が重罪である事を知っている筈だ。自ら火を放ったのであればまだ酌量の余地はあった。だが、自らの手を汚すことなく下位の者に凶悪な犯行を強制させる行為は計画的なものと断ずることが出来る。偶然現場に居合わせた奴隷に濡れ衣を着せたロンザルにも劣る、数段卑劣な行為だと知れ!」


 実行者が喜んでやったか、しぶしぶやったかという問題はあるだろうが、どちらにせよ教唆を行った者にも同等の罪があると俺は思う。

 勿論、客観的に見て実行者には「命じられたことを実行しない」という選択肢もある。

 あるが、「実行する」という選択肢を選ばざるを得ない立場というものもある。

 当然だが他にもいろいろな理由や理屈が考えられるだろう。


 判断は非常に難しいし、後で後悔するかもしれない。


 だが、俺はたとえ間違っていたとしてもこの地の領主として判断を下し、その決定について全責任を負わねばならない。


「そなたの士爵位を剥奪する。今後相応の理由がなければコーヴ士爵家の再興はない」


 貴族にとっては非常に重い罪だ。

 家督の相続すら許さない、実質的なお家の取り潰しである。

 とは言え、コーヴ士爵家はコーヴ男爵家の従士長という立場なので領地を持っている訳でもないからゾンディールの街に大きな混乱を招くことはないだろう。

 コーヴ士爵は既に結婚しているらしいから、配偶者や子供も含めて准爵でもなくなり、単にコーヴ男爵家の従士長という立場の平民になる。

 今まで享受していた特権の幾つかを失うだけだ。


「あ……ぐ……」


 士爵は余程堪えたのか、今まで以上に真っ青な顔になってガクガクと震えている。

 だが、コーヴ男爵家の次期家督者の資格まで消失した訳ではないんだから、そんなに屈辱に思わなくてもいいじゃんか。

 まぁ、ゾンディールを治める一族にとっては貴族位が一つ消えるというのは確かに大きな問題に思えるのかも知れないな。


「士爵位の剥奪についても明後日の裁きの場において正式に領内に発表する」


 コーヴ士爵を冷たく見やりながら宣言した。


「は、ははっ」


 俺の沙汰を聞いてひれ伏してはいるものの、直前に不満気な目つきをしていたのは見逃していない。

 そらま、満足する訳なんかないだろうけどな……。

 まぁ、あと二日、いや、実質は明日一日か……は士爵位はあるのでそれまでに整理しておきたいことがあれば整理しとけ。


「そしてコーヴ男爵。そなたに放火教唆の罪はなく、今回の放火事件において関わりがないことを宣言する。だが、次期家督者の教育を間違えたな……いや、士爵は既に成人して何年も経っている。親であるそなたの責任はないものとする」


 嘘についても言い直す機会をやった以上、なんの罪もないと言えるだろう。

 男爵は「ははぁっ!」と平伏している。


「が」


 まだ終わんねぇよ。


「西ダート地方……この地で二番目に大きな街を治める貴族としてはその能力について疑わざるを得ん」


 親として、そして親族としての放火に絡む罪はないが、管理監督者としての責は負って貰わないとな。


「「なっ!?」」


 驚いたように声を上げたのは本人だけでなく、息子のコーヴ士爵もだった。


「何を驚く? そなたの従士長が従士に命じて起こした事件だ。本来であればまずそなたが裁くべき案件なのではないか?」


 ま、男爵がまず裁けというのは事件の内容からして言い過ぎだけど。

 放火。特にそれが領主の館に対する物であれば最初から領主に持って行くべき話だけどね。


「まして、そなたは今回の放火となんらかの関係性のある書類が領主の館にあることを知っていたと申したではないか。当日、館には掃除を命じられた奴隷が数人居ただけ。警護対象である前代官も宿に移り、館の警備は薄くなっていた。何か事を起こすには絶好の機会だった筈だ。このリーグル伯領の男爵として、まず最初に証拠隠滅の放火を疑うべきはそなたでなければ一体誰だったのか?」


 コーヴ男爵の顔色は青かった筈だがいつの間にか親子揃って赤くなっている。


「地位には責任が伴う。たとえ親子だろうが親族だろうがなんだろうが、領主に対する真の忠誠があれば……過失による火事だとの判決が下りようとも放火を疑って再度前代官か私の判断を乞うべきだったのではないか?」


 いやぁ、我ながら無茶苦茶言ってるわ。

 書類についての知識は男爵も他の領主も一緒だろうから、男爵だけを責めるのもなんだかなぁという気がしないでもない。

 だが、貴族とはそういうものだ。

 階位が高ければ責任も増すのである。

 そして、それを判断するのはこの地の絶対的存在である俺だけだ。


 とかなんとか言っているけど、俺だって地面の下からあんな大昔の書類が出て来るまでは「奴隷のガキの火遊びかよ、畜生」と思っていたんだけどね。


「従ってコーヴ男爵の男爵位を一階級下げ、准男爵とする。また、ゾンディールの街への税を現行の六割から二分引き上げ、六割二分とする。こちらも明後日の裁きの場において正式に領内に発表する」


 コーヴ男爵にとっては降格の上、五%の減給処分である。

 災難だろうがその程度、連座して死罪になったり家を取り潰されるよりはマシだろうから我慢しろ。


 その後すぐにロンザルを牢に引き立てさせ、裁きの終了を宣言した。


 そして、コーヴ男爵を始めとして反抗計画書を見たがった数人の領主たちに書類を見せてやる。


「見たければ見ても構わんぞ。ステータスも見たければ見れば良い」


 そう言うと俺はミヅチと一緒に子飼いの領主たちの輪に加わり、まず食べることに専念した。

 一〇分程経って書類を載せたテーブルを見るとまだ何人もの領主たちがステータスを見ては唸っていた。

 魔法が使える奴が何人もいるんだし、俺があの中の一人だったらとっくに燃やしている。

 書類に書かれている内容について何一つ言及していない意味を考えろ、根性なし供め。

 言い過ぎか。


「どけ」


 腹も膨れたのでずかずかと近づき、書類の束をまとめて分捕ると、中身が殆ど空になった大皿に無造作に放り投げた。


「おっと、手が滑った」


 肉汁や油で書類が汚れたのを見ながらわざと棒読みのように言う。


「「あ」」


 あ、じゃねぇよ。


 続いて掌を向けないまま集中して火を点けた。

 水分を含んでしまったのでなかなか燃え難かったが完全に灰にしてやる。


「誰だ、燃やしたのは? 誰も魔法を使っていたようには見えなかったが……なかなかの腕の持ち主が居ると見えるな。なぁ、ゲーヌン士爵、そうは思わぬか?」


 無表情を保つつもりだったがどうしても唇の端がつり上がってしまうのは避けられなかった。


「え? あ? は、はぁ……」


 俺の横に立ったまま唖然として書類が燃えるのを見ていたゲーヌン士爵は目を白黒させながら「燃やしたのはあんたじゃ……」とでも言いたげな目つきで俺を見た。


「何か重要な事が書かれていた気もするが……んぐっ……ぷはっ、酒を飲んだら忘れてしまった」


 ミヅチが持ってきたグラスを受け取って一息で飲み干すと唖然としたままの領主たちを見回しながら言った。


「そんな汚い紙っ切れなどどうでもいいか。ゴミを燃やした犯人には手間を省いて貰ったのだから感謝すべきだな。ん? ガロスタレン士爵、そなたは内容を覚えているか?」


 目を丸くして皿の上の灰と俺の顔とを交互に見ていた精人族エルフに向かってニヤリと笑いかけてやった。


「ん……は。ははっ……んぐっんぐっ……ぷはっ。私もさっきまで覚えていましたが、酒を飲んだ拍子に忘れてしまいました。閣下、申し訳ございません」


 その後は書類には関係のなかったラノクス士爵までもが酒を飲んで何も覚えていないと言い出した。

 ふむ。無難に空気を読むくらいは出来るのか。

 あまり評判が良くないと聞いていたが、こりゃもう一度しっかり調査する必要があるな。


「さて、少し早いがここらでお開きにしよう。明日はそなたらの従士や家族との挨拶もあるし、明後日は裁きがあるからな。そなたら、明後日の裁きは見ていくのだろう?」


 お裁きは大切な見世物だからな。

 祭りのようなもんだし、近隣の村からもなんとか時間をやり繰りした見物人も多く集まる。


 領主たちがそれぞれの宿に引き上げた後、何も言っていないのにゼノム、トリス、ロリック、ビンス、カームは行政府に戻ってきた。


「コーヴ親子をそれと判らないように見張れ。あの顔つきは何か企んでる」


 俺の指示に全員が頷いた。




・・・・・・・・・




「父上! どうするのですか!?」


 ヘンリエッタというそこそこ高級な宿の一室に戻るなりコーヴ士爵は父親である男爵に声を掛けた。

 刑の執行自体は明後日なのでそれまでは士爵と男爵だ。


「……やってしまったことは仕方がない。お前の士爵位の剥奪は納得できる……鞭打ちもないのは奇跡とも言えるくらいにな」


 男爵は苦い顔をして言う。


「しかし、父上の貴族位まで降等の上、税を上げるだなどと……! 由緒あるハミットの王族に連なるコーヴ家がじゅ、准男爵に降等など、先祖に申し訳が立たぬではないですか……!?」


 喋っているうちに士爵のこめかみには青筋が浮いている。


「それも相応の理由があるならまだ納得出来ますが……なんですか、あの理由は!?」


 憤慨して吐き捨てるように言う息子を見て男爵は呆れたような表情を浮かべた。


――確かに育て方を間違ったかも知れぬ……。


「父上もそうお思いではありませんか? 私だけならまだ我慢ができます! ですが……」

「もうよい。それよりもエストン。そなた、ロンザルに対して思うことはないのか? 宿に戻って最初に言うことがそれか?」

「何をおっしゃいますか!? 従士が主人のために死ぬことは名誉ではありませんか!」

「こんな死に方でもか?」

「そうです! それにロンザルの家族や家は安堵されたではありませんか! それなのに何故我らの家は……!」

「不服か?」

「当然です!」

「ならば何故あの場でそれを言わなかった?」


 男爵は厳しい目で息子を見た。


「……ふん。答えられぬか。なら反乱でも起こすか?」

「はんら……反乱? そうです! 今こそハミット王国を再建するのです! 騎士団の騎士など三〇人程度、しかも三分の一は常に領内の見回りに出ています。それに対してうちの従士は二一人、跡取りや兄弟なども含めれば六〇人はすぐに集まります。ダーシュやケインなど弩が得意な者も多いですし、全員が戦争経験者ですよ」

「バカが。騎士団員は騎士だけでないぞ。従士も多数いるし、伯爵閣下はドラゴンスレイヤーだ。勝負にもならん」

「ふ。父上、何も騎士団と正面切って戦う必要などありません。伯爵は毎晩コートジル城に戻ると言っていたではないですか。夜中に強襲すれば幾らドラゴンスレイヤーだとて……」


 それを聞いた男爵は頭を振り、口を開いた。


「確かに伯爵は少数の奴隷と夫婦のみでコートジル城に居る。六〇人で強襲すれば勝てるやも知れん。だが、その後はどうするのだ? 領内には王国騎士団も駐屯しているのだぞ? 合計で千人以上の騎士団が怒り狂って攻めてくる。守り切れる道理がないわ」

「……」


 士爵は王国騎士団の存在について失念していたようだ。

 だが、暫く沈黙した後、再び口を開いた。


「……ふふ。反抗計画書を燃やしてくれたのは大助かりでした。王国騎士団はそっくり味方にしましょう。今日、あの伯爵は大きな失態を犯しています」

「失態?」

「そうです。大切な書類を勝手に燃やしたのです。あの書類は王国への反抗計画書であり、我ら貴族への檄文でした。我らに拒否されたので燃やして証拠隠滅を図ったのです。伯爵を弑した後にそれを王国に訴えるのです。王国への反抗を未然に防ぎ、窮地を救った褒美として、父上、貴方がリーグル伯爵となればいい! 他の領主達も伯爵が死んで我らがその立場になれば口を拭って従います!」

「馬鹿な! そんな事で……そなた、正気か!?」

「父上、父上にはお解りになりませんか? あの伯爵はコーヴ家が邪魔なのです。これからも何かと難癖をつけては爵位を下げ、しまいにはゾンディールの統治権を奪うつもりなのですよ!」


 それを聞いて男爵にも思うところはあった。

 反抗計画書には確かにコーヴ家の先祖の署名があり、且つハミット王家として反抗の完全なバックアップを認める旨が記載してあった。

 あの内容を読めば実質的な反抗組織のリーダーが当時のコーヴ家であることは誰に聞いても明白だと答えるだろう。

 この地の領主としてはそんな血筋の家が続いていると知ったら何とかして取り潰したくなるのは道理でもある。


「だがな……」

「まぁ、今晩はもう遅いですしいいでしょう。明日また話し合いましょう」


 自室に戻った息子がまずおこなったのは供としてゾンディールから付いて来た従士の一人に命じて麻痺薬を買いに行かせることである。


「父上は悔しくないのか! ……かくなる上は、事が済むまでは父上には口を出させぬことだな。事が済んでしまえば父上も私の行動をご評価くださるだろう」



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