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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第四十八話 疑問符 5

7449年4月18日


「ステータスオープン」


 取り敢えずロンザルのステータスを見て彼が本物のロンザルであることを確認した。

 ロンザルは怯えた表情を浮かべてキョロキョロと部屋の中を見回し、コーヴ男爵と士爵親子が共に拘束されているのを見付けて絶望に打ちひしがれた目をしている。

 あんまり意味は無いだろうが、少し時間を掛けて丁寧に見るふりをしながら嘘看破(ディテクト・ライ)の魔術も使っておく。


「まずはそなた、ロンザルよ。そなたは後ほど裁くゆえそれまで黙って待っておれ。私が許可するまで口を開くなよ? 勝手に喋り始めたら裁きの場を冒涜するものと見做して即処刑する」


 そう言うとクローに部屋の隅に下がらせるように命じた。

 ところで、例の反抗計画書をズールーに取りに行かせてるんだが、もうそろそろ戻ってきても良さそうなものだ。

 もう少し時間稼ぎをしておこうか。


「では、領主の館への放火及び、放火教唆について改めて裁きを執り行う。……本件については先月末に前代官であらせられたラフリーグ伯爵が裁きを終えている。しかしながら、新たな事実が判明したため、再度ここに裁きを執り行うものである。なお、前回下された審判の結果、ラフリーグ伯爵本人が所有する奴隷に対して刑罰が課されている。しかし、これについては奴隷の所有者による不要財産の処分と見做し、審判の内容及び結果についてその是非は問わないことをここに宣言する」


 うむ。

 つっかえないで言うことが出来た。

 領内の貴族たちが大集合するから明後日を通常の裁きの日と定め、裁きの場における言い回しを練習していた甲斐があった。

 セリフの内容は予め想定して練習していた物と全く異なるから少し心配だったんだ。


「さて、本件だが……先日の火災において領主の館は全焼した。これについては存じておる者も多かろうゆえ、要点のみを語る」


 館が全焼したと言った事で、安堵の表情を浮かべた者も多い。

 特にコーヴ男爵と士爵親子は揃って「じゃあ何が判ったと言うのか、この状況は不当すぎる」と言いたそうな不満気な目つきだ。


 ふん。

 お前さん達は例の反抗計画書の隠し場所については館のどこぞの部屋の壁に仕込まれていたと思っていたらしいから無理も無いがね。

 実は床下の瓶(かめ)に収められていましたとは現時点では知らないようだからな。


「なお、領地に赴任早々、屋敷が焼失してしまった事について私に含むところはない事も予め宣言しておこう」


 これも言っておかなきゃね。

 入居予定の屋敷が燃えてしまった事で私的な怒りをぶつけているのではないからな。

 それなりに豪華で頑丈な造りだったらしいが、水回りを含むトイレの問題もあるので築百何十年以上の木造建築なんか遅かれ早かれ取り壊して建て直してたんだし。


「よし、ロンザルをここへ……」


 腰縄を打たれたままクローに引きずられてロンザルが部屋の中央に引き出されてきた。

 その上で改めて部屋中を見回した。


 領主たちはつい今しがた言ったばかりの「屋敷が燃えちゃったけど俺は怒ってないよ」という言葉を信じてはいないようで、ロンザルを哀れみの目で見ている者も居た。


「先程宣誓を行った者、全員に問う。そなたらはこの者を知っているな?」


 一人ひとりに聞いて先任領主たちが全員肯定したことを確かめる。


「この者、ヨシフ・ロンザルは三月二七日の早朝、領主の館に火を点け、その罪を前代官に命じられて館の掃除を行っていた奴隷に被せた。よって、火刑に処す。そなた、己の犯した罪を認めるか?」


 静かな声で判決を申し渡した。


「……」


 ロンザルは真っ青な顔をして震えている。


「ロンザルよ。証拠は上がっている。そなたは三月二七日の早朝、領主の館に火を点け、その罪を前代官に命じられて館の掃除を行っていた奴隷に被せたであろう? 正直に答えよ」


 今度は少し強い口調で言う。

 証拠なんか何にもないけどね。

 確かな物は彼から「領主の館が燃えたので証拠隠滅が出来たからもう安心だ」と聞いたキブナル士爵の証言しかない。あとは情況証拠くらいかな?

 館の警備が限りなく緩み、暫くは掃除を命じられた奴隷が数える程しか居ないというタイミングは、動機がある者にとって千載一遇と言える物だ。

 法治国家であればこんな物だけで有罪になるなど有り得ない。


 しかし、ここはロンベルト王国、人治国家である。

 法はその地を治める領主が定めるもので、誰にとっても公平な物ではない。


「い、い……いいえ。わ、わた、わたしはそんな大それた事など……」


 まぁ、否定するわな。

 ロンザルとしては否定以外の言葉は持たないのは理解できる。

 俺が彼でもまず否定するだろう。


 それはそうとしてこれだけではな……。


「では、誰かに命じられてそれを行ったのか?」


 こう聞けばいいだろう。


「い、いえ。わ、私はぐ、偶然に見てしまっただけです」


 過去に見てきた裁きの日の審判においても余程軽い罪か、物証を示されていなければ最初から犯行を認めた奴などいなかったしな。


 因みにロンザルが喋った時に吐いている息は当然の如く嘘看破(ディテクト・ライ)に反応している。


 キブナル士爵からはコーヴ男爵か士爵がロンザルに命じて火を点けさせたかどうかについては確信が持てないと聞いていたが、これで裏付けが取れた。

 ロンザルは誰かに命じられて火点けを行っていた。


「否認するか。では、証人を喚問する……といきたいところだが、皆の者に問う。本件についてこの者の犯行であることを目撃した者は居るか? もし居れば名乗り出よ」


 当たり前だが誰も出て来ない。

 これにはロンザルは勿論のこと、コーヴ男爵親子もあからさまにホッとしたような顔だった。


「この件は一時中断し、続いて関連の件について裁きを行う。その前に一つ面白い話をしておこう。燃えてしまった屋敷だが、当然新しい屋敷を建てるべく工事を始めている事は既に知っていよう。新しい屋敷は私と妻で間取りや基本的な設計をしている……」


 少し勿体つけるようにして、まだガラス化を行っていない空のカップに魔法で水を注いで飲んだ。

 ああ、豚の煮込み、もう少し食っておきたかった。

 水を飲むくらいならまだしも、流石に裁きの途中で何か食うのは俺でも憚られる。


「見ての通り、私は魔法が得意だし、それは妻も同様だ。だから屋根の上に水を貯める大きな桶、これを水『タンク』と言うのだが、それを作る。また、風呂や料理で使った汚水を川に流すために『下水道』も作っている。そのために柱などをしっかりと埋め込まねばならないので床下を大きく掘り返していたんだが……先日床下から古い大きな瓶が出てきた」


 それを聞いてコーヴ男爵親子だけでなく、何人もの領主たちがぎょっとしたような表情になった。


「ん? どうした? ジンケーゼ士爵。顔色が悪いぞ」


 たまたま目が合ったミード村の領主に声を掛けてやった。


「い、いえ、別に……あ、いや、少し体調が優れないので一度退出して外の空気を吸って来ても宜しいでしょうか?」


 ジンケーゼの言葉に周囲の貴族たちは「あ、こいつ、逃げるつもりだな」という顔だ。

 そうは行くか。


「少し脇道に逸れてはいるが、裁きの途中で宣誓を行った者が退出するのは好ましくないな。……いや、体調が良くないのであれば治癒魔術を掛けてもよいぞ?」


 体調の悪い部下を思いやる優しい表情を心掛け、いかにも気の毒そうな声音で言う。


「あ、いえ。この時間中程度は……」


 俺に触られるのが嫌なのか、それとも接近したら捕まえられるとでも思ったのか、ジンケーゼ士爵は治癒魔術を断ってきた。


「ならば今暫く我慢願おう。さて、この瓶からは古い羊皮紙の束が出てきた。書かれたのは今から一〇〇年程も前の事のようだ」


 ここにいる半数以上の人の顔色が優れない。

 各地を治める貴族たちの体調が揃っていきなり悪くなるとは、ご領主様は大変に心配だ。

 はやく楽にしてあげたいものだ。

 俺の願いが天に通じたのか、ズールーが戻って来たとの知らせがあった。


 警護の騎士に案内されて、俺の奴隷頭が大切な証拠を持って来たのだ。

 堂々たる体躯を誇り胸を反らして俺の前に来ると、ズールーは跪いて包みを差し出す。


「ご苦労だったな。良い機会だから皆の者にも紹介しておく。この男が私の奴隷頭を務めているズールーだ。今後も何かと顔を合わせる者も多いだろうからよく覚えておけ」


 テーブルの一角を片付けさせ、そこに包みを置くと広げた。


「これがその時出てきた書類だ。未だ署名者の拇印のステータスも見ることが出来るぞ。勿論、書かれている内容も読める。ん? ゲーヌン士爵、それにミュアー士爵も顔色が良くないな? 体調が悪いのか?」


 彼ら以外にも真っ青になって脂汗を流している者は多い。


「は。その……」

「いえ……だ、大丈夫です」


 そうか、大丈夫か。

 ならさっさと次に行こう。

 少し雰囲気を変えることにした。


「他にも顔色が良くない者が多いな。……ミーズ士爵、ここに書かれている内容が何であるか想像が付くか?」


 小人族(ハーフリング)のバーリ村の村長さんは背が低いのを良い事に、俺の視線が届かないように少しづつ位置をずらしていた。なんか気に喰わないので指名してやる。


「は。い、いえ……その……」


 煮え切らないね。ちゃんと答えないと嘘看破(ディテクト・ライ)に反応しないじゃないか。


「どうした? きちんと答えろ」

「……」


 黙っちゃったよ。

 ま、いいか。


「コーヴ男爵。そなたはどうだ? コーヴ士爵でも良いぞ。ここに何が書かれているか想像が付くか? または、知っているか?」


 バリュートや警護の騎士に剣を突きつけられたままの本命に話を振る。


「……」

「……」


 二人共青い顔のまま沈黙を保っている。

 簡単じゃないか。返事ははいか知っていますのどちらかだろう?


「三つ数えるうちに答えろ。壱つ(ヒーム)……」


「……」

「……」


 黙秘権なんか無いのに。


「弐つ(ニーム)」


「……」

「……」


 ま、そう簡単に言う訳には行かないよね。

 わかる。


「ふーむ。返事をする気が無いのか? これは困ったな。大切な内容なのだが……」


 これは合図だ。


「か、閣下。発言をお許し下さい」


 キブナル士爵の息子、キブナル准爵が口を開いた。

 そうガチガチになるなって。


「許す。申せ」


 発言に許可を与える。


「い、一体何が大切なのでしょうか? 屋敷の放火とは関係が無いように思えるのですが……」


 ちゃんと言えたね。えらい。


「……キブナル君の言う通りだ。関係がない」

「そうですね。い、一体何の関係が……」


 コーヴ男爵親子は少しぎこちない様子だが、それでも水を得た魚の如く調子に乗っている。

 ……ま、俺の許可無く口を開いた事は不問にしてやろう。


「そうか、関係が無いように思えるか。他の皆はどうか?」


 一人ひとりに尋ねてみた。

 今回は答えやすかったのか、殆ど全ての領主たちは「関係が無い」と答えている。

 「関係が有りそう」とか「関係が有る」と答えたのは俺の子飼いの領主たちの他は最後に尋ねたキブナル士爵とゾルゲー村を治めるガロスタレン士爵とその妻だけだ。


 キブナル士爵やガロスタレン士爵が「関係が有る」と答えた時には大多数から意外そうな、阿呆でも見るような目付きで見られていたが、彼らは僅かに青い顔のまましっかりと胸を張っていた。

 キブナル士爵はともかく、ガロスタレン士爵夫妻は宣誓した以上、嘘は吐けないと思ったのだろうか。

 であれば、貴族として立派な人格を備えていると思われる。

 計算だとしてもそれはそれでいい。


 なお、我関せずと超然とした態度を貫いていたラノクス士爵親子は「関係が無い」との事だった。

 因みに、質問者であるキブナル准爵とラノクス士爵親子以外の「関係が無い」と答えた者は全員嘘看破(ディテクト・ライ)への反応が見られている。


 これで大体の予想がついた。

 ラノクス士爵親子はこの反抗計画書に先祖の署名がないことから、その存在すら本当に知らなかったのだろう。

 ラノクス家もハミット王国時代の貴族だった筈だが、何らかの理由で爪弾きにされていたか、反抗しても益はないと反抗計画に加わらなかったか、署名を拒んだのだと思われる。

 全く別の理由かも知れないが、今はいいし、そもそも本当に知らなきゃ関係が無いと思うのは当たり前だろう。


「ふふん。嘘吐きが多い領地だな。些か幻滅したぞ」


 ここからはガラリと表情も口調も変える。


「貴様ら、先ほどの宣誓は嘘か? 裁きの場において虚偽を口にするのは許せん。その理由は正確な裁きが出来無くなってしまうからだ! 今一度正しい事を言う機会をやる。嘘を認め、謝罪するなら先ほどの件は不問に処す。俺がこの書類の内容について口にした瞬間に何もかも取り返しがつかなくなると知れ! さぁ、答えろ!」


 この言い方で理解出来ないような脳タリンは領主として、貴族としての資格はない。

 それに、予め予定され、一般の領民全てに公開される裁きの日ではなく、わざわざこのタイミング且つ閉鎖的な場所で行っている事についても思い至って欲しいものだ。


 一体、何人が謝罪してくるか。

 正直なところ、既に火刑を申し渡したロンザルについては実行犯であることもあるし、何の罪もない奴隷に濡れ衣を着せたこともあって死罪を覆すつもりはないが絞首刑くらいにはしてやるつもりだし、一族に罪が及ぶようなこともすまいと思っている。

 また、教唆を行ったコーヴ男爵親子もここで素直に嘘を認め、罪を口にするのであれば死罪は勘弁してやるつもりだ。


 少し乱暴に言い過ぎちゃったかな?

 いきなり“俺”とか言っちゃったから萎縮しているのかもしれない。

 まぁ、公式とは言え閉鎖的な空間だから勘弁してくれよ。


「も、申し訳御座いません……嘘を吐きました……以降、改めますのでどうか寛大な……」


 言い出しっぺのキブナル准爵が崩れるように手を床について口火を切る。

 不自然極まりない変節だが、それもヒントだ。


「閣下……私も嘘を吐きました。我が身可愛さに虚偽を申し立て、閣下を謀ろうと考えてしまいました……。ここに居る息子はともかく、妻や他の子にはどうか……」


 ミーズ士爵もその小さな体を更に小さく縮込めながら、諦観を含んだ声を絞り出す。

 彼は隣にいる息子の後頭部にも手を当てて息子にも同じように謝罪の言葉を言わせた。


 彼の謝罪の後、次々と謝罪する領主たち。

 先任の者たちのうちで謝罪しないのはラノクス士爵親子とコーヴ男爵親子だけになってしまった。


 コーヴ男爵親子はともかくとして、ラノクス士爵親子は本当に知らないのだから問題はない。


「ラノクス士爵、それから准爵。そなたらは嘘は申していないか」


 コーヴ男爵親子については取り敢えず置いておいてラノクス士爵親子に尋ねた。


「は。我がラノクス家の名誉に誓って何の虚偽も申しておりません」


 しっかりと芯のある声だ。


「私も同意見です。ですが、皆の言葉を聞いて関係があるのかも知れない、いや、関係があるのだろうな、とは思っております。しかし、父と同様に私もその書類に書かれている内容については全く存じませんので……先ほどまでの意見に嘘や偽り、何らの私心はございませんが、どうやら意見を変えるべき状況になったと考えております」


 息子の方も俺の目を正面から見つめて断言している。

 勿論嘘看破(ディテクト・ライ)の魔術には何一つ反応していない。

 

 大半が「嘘でした。火事と床下の書類は関係があります」と言っている中、立派な答えであるかのように聞こえる。


「さて、コーヴ男爵、士爵。そなたらはどうか? 嘘を謝罪して意見を変えるか?」


 静かな声で尋ねた。


「……申し訳ございません、閣下。我ら親子ともどもその書類に書かれているであろう内容について想像がついております。また、その想像については恐らく正しいとも思っています」

「ち、父上……! ぐ……くっ。わ、私も、嘘を吐きました……申し訳ございません……」


 この親子にも貴族としての矜持は残っていたと見える。


「正直に申した事、嬉しく思う」


 慈愛を含んだ目で見つめてやると二人は肩の荷を降ろしたような、安心した顔になった。

 だが、安心するのは早い。肝心の話はまだ終わってないよ。


「さて、話を戻そう。コーヴ男爵、士爵。ロンザルに命じたのはどちらだ? また、命じた内容を申せ」


 安心から急転直下、絶望したような顔になる。

 忙しいね。


「……喋りやすくしてやろう。本件について親族に累を及ぼさないことを保証する」


 ここまで言って、二人はようやく供述を始めた。

 ロンザルに放火を命じたのは息子のコーヴ士爵だったようだ。

 だが、彼の供述によると放火の罪を奴隷に被せろとまでは命じていないらしい。

 単に、火を点けて屋敷ごと証拠を燃やせと命じたと主張している。

 嘘看破(ディテクト・ライ)は無反応だ。


 と、言うことは濡れ衣を着せたのはロンザルの独断か。


 

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