第三十八話 それぞれ
7449年4月10日
朝の食事を済ませたあと、女は懐から小さな木箱を取り出した。
かなり美しく、上品な装飾の施されたタバコ入れだ。
そして、蓋を開けるとその中からタバコとしては非常に高価な葉巻を一本引き出す。
葉巻は安いものでも一本五万Zくらいの価格がするので嗜好品としては最高峰の物と言える。
気だるそうな表情を浮かべたまま足を組み替えて少し斜めに座り直すと、左手の人差し指と中指の間に葉巻を挟み、テーブルに身を乗り出して左肘を突く。
端がすぼんだ一方を口に咥え、もう一方、平面状の切り口がある方の端に右手の指先を当てると少しばかり精神集中をする。
と、右手の指先から小さな炎が噴き出しタバコを焦がす。
「……」
一・二秒も炙ったところで女はもう良いだろうと火を出すのを止めた。
「あれ?」
少し不思議そうに呟いたが、口の中だけだったので誰にも聞こえなかった。
火は点いていない。
「…………」
今度は少し長め、三・四秒も炙っていただろうか。
しかし、依然として火は点かない。
おかしい。
昔テレビで見たタバコを吸うシーンではライターの炎とタバコの先が接触していた時間は一秒あるかないかだったのに……。
未だ火は点かないことから、女は今度こそ「あれ?」というような表情を浮かべると葉巻を口から外し、焦がした方を見つめた。
葉巻はすぼまった方を刃物で少し切り、好みの大きさの吸い口を作ってから火を点けるのが普通である。
「あの……タバコは吸い込まなきゃそう簡単に火は点かないですよ。それに吸い口切ってないんじゃ……?」
テーブルを挟んで女の対面に座っていた若い男が女の頬がすぼまらない事に気が付いて、おずおずと声を掛けた。
尤も、女と男の出身世界の葉巻は葉の質が比較にならない程良い上に乾燥の技術が発達しているために、吸い込まなくても火は点くのだが。むしろ吸いながらでないと火の点きにくい、品質の低い葉巻は絶滅して久しい。
「え? あ、わ、忘れてただけよ!」
忠告を受けたにも拘わらず、女は礼の一言すら述べないまま腰から大ぶりのナイフを抜くとテーブルの上で葉巻の尻を少し切った。
「……それ、魔石採るナイフじゃ……?」
「だから何よ! 文句あんの!?」
「いえ、いいならいいですけど……」
今度こそ吸い口を咥え、少し息を吸い込むようにして火を……。
「……」
右手の指先から火が出ない。
「……点けて」
意識して葉巻を吸い込みながら火魔法を使えるような器用な人はまずいない。
「……『着火の魔道具』どこやったんすか、もう……」
男は不平を零しながらも女の咥える葉巻の先に指先を伸ばすと、僅かに指先を強く見つめる。
すぐに指先からはぽっと小さな炎が立ち上った。
「うん、点いた」
満足そうな笑みを浮かべ、女は少し上向き加減のまま口の中だけでふかすと薄紫色の煙を吐き出す。
紙巻きタバコと異なり、葉巻の重い煙が彼女の周囲に纏わり付く。
非常に上品な香りが漂った。
「は、肺に入れるのよね?」
女はテーブルの反対側に座ってこっちを見ている男の方を見ると確認するように尋ねた。
「そうだと思うけど……俺も葉巻は吸ったことないんで、あんまり詳しくは……」
自信なさげに男は答えた。
男の頭の上に生えた三角形の猫耳がピクピクと動く。
因みに、質の良い葉巻は普通の紙巻タバコや刻みタバコのように煙を肺に入れない。
僅かに肺に入れる以外は煙の香りや味を楽しんで鼻から煙を出すのが一般的な喫煙方法である。ニコチンは口の粘膜から吸収するのだ。
「……ふ……ふぇ……ごっ! げへっ! ぐぇへっ!」
一口二口吸い込んだところで女はむせて咳き込み始めた。
「だから言ったじゃないですか……タバコは止めとけって」
呆れた声音を出しながら肩を竦める猫人族の男。
「げふっ! なにコレ!? もう……うえ~。ぺっぺっ」
火を点ける前に浮かべていた気だるげな表情は完全に失われている。
「でも勿体無いから吸う……」
更に勢い良く何口か吸い込んだようだ。
正面でねっとりとじとついた視線を送る男の目には赤熱化した葉巻の先がよく見える。
葉巻の火は紙巻きタバコよりも余程大きく、温度も高くなりやすい。
「あづっ! なにコレ、煙熱い! ……あ……なんか頭がクラクラする」
ふかすのは一分間に一度くらいで充分であり、あまり何度もふかしていると煙の温度が急激に上昇するのである。おまけに味も落ちる。
女はたった今火を点けたばかりの葉巻を右手で灰皿に押し当てながら左手で顔を拭う。
この短時間で葉巻を何度もふかしてしまったからか、女の顔からはすっかり血の気が引き、青くなった顔には脂汗が噴き出していた。
ごく軽度の急性ニコチン中毒である。
「……っはぁ~、もう……ハンカチどうぞ」
男が懐から丁寧に折りたたまれたハンカチを差し出すと、女は小さく「ありがと」と言ってそれを受け取り、顔を拭いた。
その後、少しだけ元気を取り戻したのか、女は名残惜しそうに火の消えた葉巻とまだ新品の葉巻が三本も入ったままのタバコ入れを見つめる。
「どうすんすか、それ?」
女の視線を追った男はいかにも勿体無いと言うような声で尋ねた。
「……ちょ、ちょっと私には早かったようね……おへっ……ギモヂワルイ」
女は泣きそうな声で言った。
言っている内容自体からは結構素直そうな性格が窺えるのが救いだった。
「全くもう……幾らしたんすか?」
別段、金額が知りたくて尋ねた訳ではない。
「葉巻が一本六万、タバコ入れが四万……あの、お父さんには言わないで……」
女は情けない声で答えた。
「二八万! ちゃんと吸うならまだしも……言いません、言いませんから。安心してください。っつか言える訳ねぇよ……」
男は呆れて物も言えないようだ。
「あー、もう。高いのになんでこんな……いい女ってのは大変ね……」
ぼやくように言う女を見て、男は言わずにはおれなかった。
「あの、ラルさん。俺も昔は吸ってましたから喫煙に偏見はないですけどね。いい女とタバコは何の関係もないと思うんですが……」
「じゃあサージさぁ、これ買って♡」
「いりませんよ。もう吸わないですし。それに、アルさんもロリックさんも言ってたでしょ? タバコは『肺活量』落とすって……疲れやすくなりますよ?」
それを聞いたラルファは少しばかりしょげた様子で何か呟いていた。
「……バースさん、ジグワー吸ってたっけ……買ってくれるかな?」
・・・・・・・・・
「よし! 今だっ!」
サージが命じると戦闘奴隷は大声を上げて槍をノールの胸に突き刺した。
彼女には槍の柄を伝ってノールが絶命したのがわかった。
「次、左の奴!」
ノールの動きを見逃さず、即座に相手の隙を見つけて再度命じるサージ。
パーティーの左方で盾を構えながらノールの攻撃を受け流していた戦闘奴隷は少しだけ体をずらす。
その間隙を縫って、後方で槍を構えていた別の戦闘奴隷が槍を突き出すと、狙い違わず槍はノールの腹に突き刺さった。
それを確認した盾持ちの戦闘奴隷は即座に右手に握った戦棍を哀れなノールの頭部に振り下ろす。
ごしゃっ、と言う嫌な音を立ててノールの頭は潰れ、その体はその場に崩れ落ちるようにして倒れた。
その間にも激しい戦闘は続き、パーティーの前衛を担う戦闘奴隷には負傷者も出ていた。
だが、十五匹もいたノールはもう半数が地に倒れて動かなくなっており、戦闘の趨勢はサージが率いる冒険者一行に有利に推移している。
程なくして残っていたノールは傷ついた仲間を置いて何処かへと退いていった。
「おいおい、十五匹程度、逃がすなよ。俺を抜いても六人もいるんだからさぁ……まぁいいや。おいお前、怪我を見せろ」
怪我をした戦闘奴隷の治療をしてやると全員で手分けしてノールの胸を割いて魔石を採った。
得られた魔石は十個。
今日は結構戦闘を重ねることが出来たので一層にしてはかなり稼いでいた。
「よし。今日はもう戻るぞ。今なら最終の乗り合いに間に合うだろう」
サージはグリード商会の職員達への経理学習については焦らないことにしていた。
だからたまにはこうして工場や店を警備する戦闘奴隷を率いてバルドゥックの迷宮で過ごす日もある。
地上に戻ると乗合馬車の最終の時間まではまだ小一時間ほどあったので、入り口広場の屋台から人数分のバルドゥッキーとビールを購入して戦闘奴隷達に振る舞った。
屋台の傍では同じようにバルドゥッキーを齧り、ビールを飲んでいる者も多い。
その殆どが顔も名前も知っている者達だったので簡単に挨拶を交わす。
この場所は迷宮から戻った冒険者達の憩いの場と化して久しいのだ。
奴隷たちが一息吐いている間に魔石を換金に行くと、魔道具屋はかなり混み合っていた。
先ほどの屋台に群がっていた顔ぶれから予想していたが、先客は皆、サージの顔見知りだった。
キムを筆頭にジェルとミース、ヒス、サンノ、ルッツ、そしてラルファを取り囲む数人の山人族達も居る。
彼らも仲間達が領地に向かった後はそれぞれのお屋形様の戦闘奴隷を鍛える事を兼ねて、迷宮の一層で日帰りの冒険を繰り返していたのだ。
因みにラルファだけは戦闘奴隷二人に加えて従士予定のドワーフの中から日替わりで七人を伴っての迷宮行である。
「よう、サージ。どうだった?」
ジェルが陽気に声を掛けてきた。
「ん、まぁまぁっすね」
袋の口を広げて中身を見せながらサージは答える。
「ふーん。あいつら引っ張ってそれだけ稼げりゃ立派なもんだ」
サージの袋の中には魔石が三十個ほども入っていた。
冒険者で飯を食っている連中でも迷宮に半日と居ないでこれだけの数を稼ぐような者はなかなかいない。
「ええ。彼らも結構慣れてきたみたいです」
この日の収穫は〆て四五万Zを超えた。
「ふふん。今日のアタシ達の稼ぎはね……」
誰も聞いていないのにラルファが会話に参加してきた。
「じゃーん! こんだけぇ!」
ニヤニヤしながら袋の口を開いて見せ付けて来るラルファ。
「いやぁ、流石はお嬢!」
「ゼノムさんばりの斧使いだったよな!」
「そや、お屋形様の一番弟子やさかい」
「あー、今日も結構働いたよな!」
「一層でも連戦が続くと疲れるねぇ」
「ま、でもお嬢が居ればまず問題ないよな」
「本当、お嬢は魔法の腕も大したもんだし」
ラルファの後ろにはドワーフ達がぞろぞろと付き従い、口々に適当なことをほざいていた。
仕方なく袋の中に目をやるサージとジェル。
袋の中には百以上かと見紛うほど多くの魔石で溢れかえっていた。
「そら、煉獄の炎の主力が七人も居りゃあ……」
「そうなるな」
「っつーか、あんたらは一層なんかじゃなくてさぁ、ラルが居なくても五層でも六層でも行けるだろうに」
「ホント、わざわざ一層でちまちまと戦闘繰り返さなくったって……」
それくらい出来て当然だとでも言うように碌に関心を示さない二人。
「えっへっへ。僻まない僻まない。もっと素直になってもいいのよ?」
今日もバルドゥックは平和であった。
・・・・・・・・・
同時刻。
ロンベルト王国の東部に広がるリーンフライト伯爵領のとある山中。
「グレース、右だっ!」
「はいっ!」
大柄な虎人族の男女二人に相対するのは屈強そうな五匹ものホブゴブリン。
しかし、彼らの足元には既にホブゴブリンが一匹、瀕死の様相で転がっている。
ホブゴブリン達が退却もせずに踏ん張っているのは、倒れた仲間を見捨てることが出来ないこともあるが、何より相手の数が少ないことが最大の理由であった。
男は盾と長剣を手にして五匹のホブゴブリンを相手に一歩も退かず、冴え渡る剣技でホブゴブリンの突き出す槍を斬り飛ばし、盾を器用に使って別方向からの攻撃をいなし続けている。
女は槍を両手で構え、隙の出来たホブゴブリン目掛けて突き込んでいたが、致命傷を与えるような攻撃ではなく、徐々に出血量を増すような狙い方である。
二人共ホブゴブリン相手の戦闘はそれなりの場数を踏んでいるようで、倍以上もの数を相手に怯む様子は見られない。
「気を抜くなよ! こいつらもうすぐ体力がなくなるからな! それから一気に仕留めるぞ!」
「わかりました!」
程なくして舌をだらりと伸ばし、息の上がった一匹が出るや、男は鋭い気合いと共にその一匹の右脇の下から一気に右腕を斬り飛ばした。
それを合図に女も男の死角に身を入れると別の一匹の胸を突き、それを見たホブゴブリン達が怯んだ隙を狙って引き抜いた槍を振り回す。
振り回された槍のお陰で体勢を崩されて更に息が上がり、動きの鈍るホブゴブリン達は背を見せて逃げ出す隙を見付けることも出来ないまま二人に殺されていく。
全てのホブゴブリンが地に伏した時、流石の二人も息が上がってぜえぜえと大きく肩を上下させていた。
「……ふう。こいつらが依頼のホブゴブリンで良いのかな?」
「そうだと思いますが……」
「どちらにしろ魔石は必要だ。俺が採るから見張っていてくれ」
「はい」
長剣を鞘に収め、ピッと口笛を吹いて戦闘前に逃していた彼の軍馬を呼ぶ。
そして、死体の傍に屈み込んで腰からナイフを抜いた男は、ホブゴブリン達の着ている汚い革で作られた革鎧のバンドを斬り飛ばし、胸にナイフを突き立てた。
「臭いな……あった」
ホブゴブリンの胸から魔石を抜き取ると右耳を切り落とし、丁寧に革袋に収納する。
全てのホブゴブリンから魔石と右耳の採取が終わる頃には軍馬は彼らの直ぐ傍まで寄り、女に首を撫でられていた。
男はホブゴブリン達が使っていたうちの槍から金属製の穂先だけを回収すると紐で縛った。
「お疲れ様、フィオ」
「うむ。グレースも疲れたろう。流石に今日はあの士爵もお湯を分けてくれるだろうからお互いに体が拭けてさっぱり出来るだろうな」
「そうね。……明日から一週間も被害がなければ依頼を果たしたと認めて貰えるのよね?」
「……多分な」
軍馬に槍と盾を結わえ付け、戦利品もサドルバッグに納める。
男は軍馬の鐙に足を掛け、さっと跨ると女を引き上げて後ろに座らせた。
女は男の腰に両腕を回し、しっかりと体を密着させる。
「おい、グレース。……その、くっつき過ぎじゃあ……?」
「そう?」
「俺も男だから、そういうのは……」
「でも私は妻ですからね。いいじゃないですか」
「それは……」
「ちゃんと結婚も済ませてるじゃない」
「しかし……私は修行中……」
「もう、わざと当ててんのよ」
「……もっと硬い鎧を買おう」
「……堅物」
男の手綱さばきはどこかぎこちなかった。
・・・・・・・・・
更に同時刻。
ロンベルト王国南西部。ヨーライズ子爵領のとある集落。
夕暮れが近づき、空の色が変わり始めると小麦やリカレッソの花畑に出ていた農奴たちもそろそろ労働の手を止め始める。
それぞれの持ち主の家に行き、今晩と明朝の食事となる麦や小麦粉を貰って料理を始める時間なのだ。
集落の居住地の中心にはひときわ大きな建物が建っておりその前を通る者達は老若男女、奴隷か平民かを問わずに全員が一時停止をして頭を垂れる。
どうやら建物に住んでいる者に対して自然と敬意を払っているようだ。
建物には一人の女性が住んでいるのだが、彼女は今留守にしている。
そんな集落から馬車で数時間移動した小高い丘の中腹。
少し広めの広場では馬車を中心として数人の男女が野営の準備を始めていた。
丘の反対側は同じロンベルト王国に所属するリーグル伯爵領である。
この集団の中心人物は二人。
一人は件の建物の住人である女性で、もう一人は彼女のパートナー兼代弁者とも言うべき男性である。
その他に居る四人の男女は全員彼らの下僕と言ってもいい者達であった。
下僕達は甲斐甲斐しく働き、馬車に積んであった天幕を張ると手際よく焚き火まで用意した。
「大悟者様、大主教猊下、夕食の用意が整いました」
屈強な体格を誇る獅人族の若者が傍の石に腰掛けて談笑する男女の下へ駆け寄ると跪いて報告した。
「そう。行きましょうウォーリー」
「ああ」
二人は石から立ち上がると焚き火の傍に用意された御座の上に腰を下ろす。
その時に二人は被っていた帽子を脱いだ。
女の頭の上には三角形に立つ狼の耳が、男の頭にはレトリバー犬のように大きく垂れ下がる耳が現れた。
目の前には脚付きのお膳が並べられ、干し肉や汁物などが並んでいる。
料理自体は少し上等な旅の商人が食べるものと殆ど変わりはない。
「全、風、炎、地、水。トリヰ(イ)の向こう、ガンガンカイの神々よ、ミョーヲヤよ、今日もそのお恵みにより命を繋げたことに感謝し御礼申し上げます……テーソン」
女の言う結詞に合わせて男も同時に「テーソン」と結詞を唱えると食事を摂り始めた。
下僕達は給仕の役を担う普人族の女一人を残して彼らを警護するかのように周囲に立って見回している。
彼ら二人は何度も「一緒に食べよう」と話しているのだが、下僕達は屋外においては決して彼らと食事を共にするような事はなく、順番に食事を摂っていた。
何度言ってもこの用心深さは直らないので彼らももう諦めて久しい。
彼らの食事が済むと下僕達も順番に食事を摂り始める。
最後の一人が食事を摂っている時。
少し離れた茂みがガサガサと音を立てた。
下僕達に緊張の色が走るが腰の武器に手を掛けるだけで抜く者はいなかった。
ガサガサ、ガサガサ。
茂みの中を何かがこちらに近づいて来る。
程なくして茂みから顔を出したのは大柄な体つきをした三つの人影だ。
その手には槍や棍棒を握っているが、腕はともかく足はその身長に比較してかなり短めである代わりに丸太のように太い。
頭部に張り付く顔は豚と人を掛けあわせたように醜く、牙も生えている。
豚人族であった。
「ア……ゴ、ゴギゲンヨウ。ダイゴジャザマ、ダイジュギョウザマ……」
進み出てきた一匹がそう言うと三匹とも焚き火の傍に座っていた二人の前に跪く。
「久し振りですね、ギィグ。それにゴォドとジェズも」
醜悪なオークを目の前にして女は優しく微笑んで声を掛ける。
「オ、オデダヂ、チャントヤッタ……ダ、ダガラ……」
ギィグと呼ばれたオークは懇願するように地面から顔だけを上げて女を見上げる。
しかし、女は微笑んだまま何も反応を返さなかったので、今度は阿るような目つきでウォーリーと呼ばれた男の方へ顔を向けた。
「ダイジュギョウザマ、オ、オデダチ……」
冷たい目つきでオークを見下ろすと、男は下僕の一人に合図を送る。
合図を受けた下僕は馬車の荷台から大きな袋を三つ運び下ろした。
そして、その袋をオーク達の目の前に積み上げる。
目の前に袋が積まれる度にオーク達の目はギラギラと輝き、口の端からは涎を垂らす者まで出始める。
御座から立ち上がった男は薄笑いを浮かべながら積み上げられた袋の口をゆっくりと解く。
……ゴクリ。
オークが喉を鳴らす音がやけに大きく響いた。
男が口の開いた袋に手を突っ込み中身を少しだけ掌に載せて見せる。
「ア……ア……オ、オデ……オデ……」
一人のオークが我慢しきれなくなったのか、腰にぶら下げた袋を解き始める。
「待て。まだだ。首尾を聞いてからだ」
暫くオークの話を聞いた後で納得したのか、男は袋をオーク達に渡してやった。
オーク達はその場で袋を開けると腰からパイプを取り出してその先に袋の中身を詰め、焚き火の炎を借りて火を点けた。
刻みタバコなのか、喫煙を始めるとすぐにオーク達からギラついた目つきは消え、蕩けたような表情が浮かぶ。
それを見つめながら男は傍に控えていた下僕の一人に何事か話していた。




