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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第二十五話 心配の種

7448年10月23日


 午前十時。

 今、俺は独り、王城のすぐそばの高級レストランで優雅に一杯二百Zもする超高級な豆茶を愉しんでいる。

 この時間、店は空いており、俺以外の客はいいとこの娘らしい身なりの良い若い女性が、こちらも身なりの良いもう少し若い男性を口説いているくらいだ。


 あの後、大体の戦況と今後の大方針を殆ど一方的に聞かされた後、それでお役御免とばかりに会議室(?)を追い出されたのだ。


 陥落しそうだというなんとか村の戦況については正直意外だったが、ガルへ村を始めとする俺の領地については問題が無いみたいなのでその点は安心した。

 最悪の場合、ガルへ村は占領されてもいいとか言ってたけど、そりゃ取られないならそれに越したことはないからね。


 自分の領地について直近の心配の種は無くなったが、心に引っ掛かる部分を大いに残している。

 ま、心配しても始まらないんだけどね。


 でも、どうしても考えちゃうよな。

 他の転生者……か。


 冷静に考えて、可能性が高いか低いかで言ったら低いだろう。

 転生者は元々の人数からして大して多い訳でもないし、その少ない人数の中からデーバスの騎士団に入団して現時点で頭角を現していることになるからだ。

 でも、俺としては転生者なんだろうな、という気持ちでいる。


 幾つか判断の拠り所となる考えは浮かんでいるが、その外に根拠はない。

 ぶっちゃければ単なる勘と言った方が近い。


 俺がわざわざこんな店で独り時間を浪費しているのは、午後には講義が再開されると聞いていることもその理由だが、どうにも決心がつかないからだ。


 え? 何の決心かって?

 決まってる。

 転生者がデーバス軍の中でそれなりの地位に居そう(報告通りの腕を持っているなら姉ちゃん程度には扱われていなきゃおかしいだろ?)なら、さっさと使者を派遣してこちらに取り込むなり、それが駄目なら少なくともその人物について調査するなりすべきだ。本来なら。

 しかし、早急にそうした行動を行えない理由もある。


 一つは、人材の問題。

 流石に使者は転生者じゃないとな。

 オースの人を送っても信頼されにくいだろ、色々な意味で。


 俺が行くのは講義もあるし、論外。

 次はミヅチだが、彼女は既に俺の配偶者であり、いつ何時パーティーだのなんだのでお呼びがかかるかも知れないし、俺への嫁の売り込みに対する断りの際にも夫婦揃って頭を下げるのは礼儀なので今動かす訳には行かない。


 次点は……ロリックだ。

 正式な貴族でもある上に出自も良い。

 だけど、出自が良すぎる。

 今の国王の第三夫人の弟を勝手に国外へ向かわせたとか知られたらまずい。

 国王は気にしやしないだろうが第三夫人のマリーネン妃殿下は面白く思わないだろう。

 そもそも彼もそういった縁があるからいつ呼び出されるか知れたものではない。確かまだ俺の授爵式以来、マリーネン妃殿下と顔を合わせていない筈だ。ロンベルトの王族の常識なら、遅くとも年内には妃殿下から正式にお呼びがかかり、士爵位を得たことについてご褒美会みたいなものがあって然るべきなのだ。


 そうなると、残りはトリスかベルの二択しかない。

 トールに行動の自由を与えるほど信頼感はないからね。

 彼らであれば正式な貴族でもあるのでそれなりの家格を有しているし、対外的な言動も問題がない。また、俺の意に沿った交渉も可能だろう。

 でも、今は奴隷を訓練している真っ最中だし、何よりガルへ村が攻められている最中でもある。

 相手の出方一つで感情的になってしまう恐れを残している以上、適任とは言い難い。


 バストラルは経理の仕込みをして貰わなきゃならない。

 何ヶ月か空けるとなればそれだけ新しい領地への移動が遅れるし、何よりそれだけ長期に亘ってキャシーと離れるとなると納得はされないだろう。


 ……いや、まぁ、無理矢理に行けと命じたっていいんだけど、内容が内容だ。攻めてきた奴に対してこちらの陣営に来るように交渉するというのは難しい仕事である。

 勿論、転生者であることは絶対条件だ。

 場合によっては危険があることも充分に考えられる。

 向こうだって本当に転生者なのであれば、のこのこと接触して来たのが転生者なら逆に取り込もうとするだろうし、取り込めなくとも捕えて監禁するくらいはありそうな話だ。


 それでも喜んで行くような士気の高い奴じゃないとまず成功は覚束ない。

 仮に俺が行くにしても喜んで行くような気持ちにはとてもなれない。


 そういうの、喜んで行きそうな奴なんて普通いないよね。この状況だと。


 うん。いない。

 いないったらいない。

 俺の配下にはそこまで脳天気な抜け作はただの一人もいないのだ。

 いてはならないのである!


 それに、もう一つ、決心がつかない理由としては以前聞いたリルスの言葉だ。


――デーバス王国の生まれ変わりたちには気をつけて。いつか貴方の障害に……。


 この言葉を含む、あの時聞かされた彼女の話の全てが信頼に値するかどうかという問題は……確かにある。

 だが、疑惑の根拠はアンデッドに成り果てたデイオークとかいう死に損ないのたわ言のみだ。

 そんな与太話を根拠に疑う必要はない。

 俺にとっては美紀の言葉であるというだけで充分に信頼に値する。

 何しろミヅチだってリルスが日本語を喋ったのは聞いているし、お義兄さんの薬まで用意したんだ。

 あんな死に損ないヴァンパイアの宇宙人と同じであるもんか。


 ……第一、仮に、仮にだ。

 リルスが美紀ではないと仮定した場合、俺に助言を与える理由がない……筈だ。

 何しろ亜神であるというのはこれはもう、疑いの余地は少ないようだし、そんな存在がわざわざ美紀を騙ってまでして俺とミヅチを騙す意味が解らない。

 勿論、頑張っている俺に神様が救いの手を差し伸べただなんて考えるほど純真じゃないよ。

 オースならそういう事があっても不思議じゃないのかも知れないけど。


 まぁ、そういう訳でメリットとデメリット双方を考えると微妙な気持ちになるんだよ。

 デーバスの軍隊にいると目される転生者が現在の待遇に不満を持っているのなら引き込みやすいと思うんだけど……今回の戦で大手柄を上げた格好だろうしなぁ。

 給料が上がるのか、位階が上がるのか、褒賞を得られるのか、何なのかそれは知らないけど、ボーナス的な何かを得られている可能性が高い。


 当然今の生活だってあるだろうし、故郷に財産がある可能性もある。

 勿論、俺やバストラルのように既に結婚して家族を養っているのかも知れない。

 そうだとすると子供が生まれている可能性もある。


 ちょっとやそっとでこちらに来るとは思えない。

 それと、当たり前だけど接触するのであればそこはデーバスの勢力圏下である可能性が高い。

 いや、防衛に成功してりゃその点についての問題はないんだけどさ。


 そうなると、当該の転生者は捕虜として捕らえられているってことも……この場合は本当に最高だけど、そりゃねぇだろうな。

 軍と一緒に撤退してるだろうし、悪けりゃ戦死してる。

 尤も、あの報告じゃあ援軍が間に合わずにそのまま陥落するとの見方をされていたから、防衛が成功している可能性は殆どゼロだろう。


 デーバスにぶん取られたなんとか村に大人数で行けば簡単に戦争再開になるだろうし、少人数なら少人数で偵察隊だと思われて攻撃を受け、良くて追い払われるか、悪ければ殺される。


 やっぱり無理だよなぁ。

 せめて、本当に転生者が居るのかどうかくらいは確認したいけど、現時点ではそれすら難しいと言わざるを得ないだろう。


 やめやめ。


 転生者は大事だけど、目前に迫った領地引き継ぎの件やそれに伴う体制づくりの方が余程重要事だ。

 現在の予定では来年の二月から三月くらいには向こうに行ってなきゃならない。

 あと半年もないんだ。

 それまでにやっておかなきゃいけない事は山のようにある。


 そうだよ、こんなところで油を売ってる訳にはいかない。

 デーバスの転生者については今は忘れよう。

 ……って、そもそもいねーかも知んねぇけど。


 僅か十分という短い時間で店を出た。

 昼迄にはまだ二時間近くもあるんだし、その時間で出来る事だってある。

 怠けてる暇なんかないのだ。




・・・・・・・・・




 その日の晩。

 殺戮者(スローターズ)の皆は大部分が迷宮に入っているし、戦闘奴隷を鍛えている者も自分の奴隷たちと食事を摂っているので、一緒に飯を食うのはあんまり多くない。

 俺と同じテーブルに着いているのはヘトヘトに疲れてボロ雑巾のようになっているベンとエリー、今日一日彼らを苛めていたラルファとグィネ、ジェス、それから奴隷についてはベルに放り投げて話を聞きたがったトリスだけだ。


 なお、トールはつい先日、トリス達が身請けした暁一党の奴隷教育が終わったので彼らと交代でロンスライルの店に放り込んでいるから年末くらいまではいない。


 ラルファたちからベンとエリーの様子を聞きながら、こちらもガルへ村とかなんとか村の戦況について簡単に報告した。

 騒がれても面倒くさいので凄腕っぽい魔術師の件については今日は話すつもりはない。


『ま、トリスたちのガルへ村については心配はいらないみたいだな』


 そう言いながらビールのジョッキを傾ける。


『ふぅ~っ。良かったぁ……』


 トリスは気が抜けたような顔で椅子の背に凭れ掛かり、ため息を吐いた。


『良かったじゃん』

『私達も心配してたんですよ』


 ラルファとグィネも揃って安心したような顔をしている。


『でも、そのコモン村? でしたっけ? そっちの方はダメなんでしょう? そう考えると少し不思議ですね』


 安心したのか、少し頭が回るようになってきたトリスが言うには、ガルへ村に対する侵攻をはね退けたのはいいとして、その囮攻撃の方が陥落するなんて、意外だということであった。

 でも、話しているうちに俺が微妙な顔つきで目配せをしているのに気がついたようだ。


――ラル達の前じゃ言い難いって事ですね?


 トリスの心の声が聞こえたような気がする。

 俺たちもすっかり以心伝心の間柄になったようだ。


『何見つめ合ってんのよ。ミヅチとベルに言いつけるよ』


 ラルファが割り込んできたお陰でそれ以上の追求は有耶無耶に……。


『でも、アルさん。それってチャンスじゃないんですか?』


 ならなかったみたいね。グィネも関心を持ったみたいだ。

 しかし、チャンスと来たか。

 どういう意味でのチャンスだろうか。

 今回の事象だけを捉えての表面的な意味なんだろうけど、一応確認してみたい。


『そうそう、グィネと話してたんだよね。トリスには悪いんだけど、今回、ガルへ村がデーバスに取られなかったって事はアルにとってはあんまり良くないのよね』

『うん。本当は今回だけは取られた方が良かったんですよね?』


 ラルファとグィネが言う。

 トリスは半眼になって二人を睨んでいる。


『なぜそう思った?』


 二人の話を聞いて少し驚いた。


『だってさ、今回ガルへ村が取られたら当然アルの領地は減るでしょ?』

『そうです。そうしたら王国の防衛力不足を訴えられるじゃないですか。そうなれば上納金を減らすか、減らさないのなら駐屯?でしたっけ、防衛する兵隊の数を増やすように言えるなぁって思ったんですよ』

『そうそう、取られたガルへ村はさぁ、アルならその気になればすぐに取り返せるでしょ? 王国の軍隊に頼らないで取り返したらさぁ、取った捕虜の身代金は全部アルに入るし、トリスはトリスでもう奴隷沢山買ってんだから、すぐに村に入れるじゃん? で、領地を受け継いで早々にそうやって取られた土地を取り返したら、地元の領主達もアルに一目も二目も置くっしょ』

『ガルへ村を取られたのはアルさんが行く前の事なんだし、行ってすぐ取り返したら皆感心すると思うんですよね』


 へー。

 こいつらはこいつらでそれなりに考えてたんだな。

 確かに進歩はしているみたいだ。

 トリスも驚いた顔で二人を見ている。あと、俺の顔も見ている。


――まさか、元々それが狙いだった? 一度奪われることが前提でガルへ村を俺とベルに?


 違うから安心しろ。

 そこまでセコくねぇよ。


『よくそこまで考えたな。俺もデーバスが攻めてきたという話を聞いた時には一瞬、そう思ったこともある。でもそれじゃ半分だ。仮にそうなったら確かに俺はお前らだけで、王国軍の力を借りずにガルへ村を取り返すだろう。そうだとすると地元の領主たちは感心してくれるかも知れないな。でも、上納金についての交渉はしないし、駐屯する兵力の増加についての交渉もしないよ』


 俺がそう言うと二人は意外だったようで不思議そうな顔をしている。


『正確に言うと、交渉をしないのではなく、出来無いという方が合っていますかね?』


 トリスは気がついたようだ。


『うん、そうだな。まぁ、その気になれば交渉自体は出来るだろうし、上手に話を持っていけたら上納金の減額か、駐屯兵力の増加くらいは勝ち取れるかも知れない』


 ビールを飲んで喉を湿らせた。


『でも、それは長期的、いや短期的に見てもあんまり宜しくない。理由は幾つかある。一つは王国、引いては国王からの心証を悪くするということ。良くなる訳はないよな? まぁでも、これはあんまり大きな理由じゃあない。年間数億も節約出来るのなら多少心証が悪くなるくらい、我慢すればいい、という考え方もある』


 二人はこっくりと頷いた。


『もう一つは赴任早々、交渉の為にとんぼ返りで王都に来なきゃいけないこと。そよ風の蹄鉄《ブリーズ・ホースシュー》を使って飛ばしても往復二週間以上は掛かるだろう。領主の代わりはいないからな。向こうの役人や部下となる人達を碌に理解しないまますぐに領地を空けなきゃいけない。まぁでも、二、三週間なら大丈夫だとは思うけどな』


 これについても頷く。


『で、一番大きな理由だけどな。防衛してくれる兵たちの士気とプライドの問題だ。安全保障費を値切られたと知ったら普通はやる気が削がれるもんだ。彼らにしてみれば国境防衛のために折角赴任している訳だ。家族がいる人も居るだろう。そういう人達は自分がここでしっかりと頑張っているから、って気持ちもあると思う。誇りを持って防人の任を全うしようとしている人達も居るだろう。

 そういうやる気のある人達ってのは貴重だ。金を値切られるほど自分たちは頼りにならないのか、と思われてしまったら結局損をするのはこっちになる。なんだかんだ言って本格的な戦争になったら自分の領地は自分で守らなきゃならないからな。

 知っての通り、最終的には俺はこの国から独立したい。確実に守れるくらいどころか、デーバスを侵略するくらいに軍備が整うまでの間はロンベルト王国の軍隊に頼らざるを得ないんだ』


 ここまで話して、二人は良くわからない、という顔になった。


『そんなさぁ、長くても二年か三年で交代するような人達の事を……』

『それならまださっき言った理由の方が納得できますけど、それが一番大きな理由って言うのはちょっと……』


 とか言ってんの。


 勿論、上納金である安全保障費が多少目減りしたところで彼らが受け取る給料に変化はないだろう。

 別にリーグル伯爵領に駐屯する人達で山分けにする訳じゃないんだし。


 自分の得られる報酬が変わらないのであれば、国王に入る上納金が減ったとかどうだとか、そういうのを気にしない人も多いとは思うよ。

 でも、そういう事を気にしない人って、元々士気が高い訳じゃない。

 パトロールだって通り一遍、露骨な異常でもない限り見落としなんかも多いと思う。

 そういう人は別にどうでもいいんだよ。


 でも、駐屯する軍隊の多くは王国騎士団だ。

 つまり、国内最大の貴族でもある国王の私兵ってことだ。

 少なくとも指揮官クラスには国王に対してそれなりの忠誠心もあるだろうし、やる気もあるだろう。


 そういう人の士気を挫くような真似はしたくない。

 永遠に安全保障費を払い続けるのであればいざ知らず、遅くとも二十年以内、もし可能なら数年以内でも独立を宣言することを考えているから、その間くらいはきちんと支払って士気の高い兵力を維持しておきたい。


 場合によっては王国騎士団を辞め、俺の兵に転職してくる人だって居ないとも限らない。

 命を懸けて戦う人に対し、一度決めたその費用を再び値切るという実績を作りたくないだけだ。

 たった一度でもそんな事があれば、「あの国は国王並みに働けないとどんどん給料を減らされる」って事になっちゃうからね。

 勿論、何かの罰としてそういう処分を下すことは悪いことじゃない。それとは別の話だ。


 今想定しているケースだと、彼らは何も悪くないのに後からやってきた俺が、以前の守備隊が取られてしまったガルへ村を勝手に攻めて、「ほれ、俺はこんなに強いんだぞ。これくらい戦働きが出来無い軍隊は使えない。安全保障費を下げるかもっと人を寄越せ」と言う以外の何物でもない。


 将来的にロンベルト王国と敵対するつもりならそれもアリっちゃアリだが、俺にはそんなつもりは毛頭ない。


 そうなったら姉ちゃんを人質に取られる可能性もあるしな。

 そうでなくとも、姉ちゃんなら俺がロンベルト王国と反目したら怒り狂って本気で攻めて来るだろう。

 たとえそうなったとしても勝てないとは思わないけど、俺の兵隊には大きな被害が出てしまうのは確実だ。


 いや、いつまでもこんなガキみたいな回りくどい照れ隠しはよそう。

 俺は姉ちゃんのことは愛しているし、尊敬もしている。

 そんな相手に刃を向けるなんて真似は出来ない。


 二人共このあたりで得心してくれた。




・・・・・・・・・




7448年10月25日


 午前の講義を終え、昼食にラーメンでも食おうかな、と思っていたら騎士団からの使いが待っていた。

 何でも第一騎士団長のゲンダイル卿がお呼びらしい。


 国境の戦いで新しい動きでもあったかな、と思って王城にある騎士団本部へいそいそと出向いた。

 確か一昨日の朝聞いたのは十五日の情報だったよな……ダート平原から八日遅れの到着ね。

 距離を考えたら伝令の騎士は何頭もの馬を乗り継いで伝えてくれてるんだろうな。


「ガルへ村の方は特に大きな問題もなく推移しております。何度か戦闘も行われたようですが、尽く撃退して全く寄せ付けておりません」


 うん。ならば何の問題もないね。


「流石はバルキサス卿ですね。お陰さまで私も枕を高くして眠れるというものです」


 そろそろ戦闘の方も終息に向かっているらしいから、今年いっぱいはそのまま現地に留まって様子を見て、問題がなければ帰還してくるだろう。


「しかし、ランセル伯爵領のコミン村の方は残念ながら陥落が確定となったようです」


 ゲンダイル卿は苦渋に満ちた顔つきだ。

 あらら……。

 また、今回の防衛軍の司令官であるバルキサス卿は、ガルへ村の防衛についてはリチャード殿下に任せ、自らはコミン村の北に位置するワッカ村に向かったそうだ。

 そこで防衛戦を展開し、侵攻を食い止める腹積もりのようだ。


 ええと……結構な距離だったような……。


 間に合うんかね? と思ったら十七日にはワッカ村に到着していたそうで、これには本当に驚いた。

 バルキサス卿は慎重なイメージが強かったけど、コミン村の戦況報告を受けて即座に決断したんだろう。

 そうじゃなきゃそんなに短時間で移動可能な距離じゃない。

 当然舗装なんかされてる筈もないから道の状態だって悪いだろうし、ダート平原は一面森に覆われているそうだから直線での移動なんか出来る訳がないからねぇ。

 結構思い切りも良い人だったんだな。


 ところで、同時に齎された情報によると、コミン村に侵攻してきたデーバス軍には宮廷魔術師クラスの魔術師が複数いると思われていたのはどうやら間違いだったようだ。

 たった一人の魔術師らしい。

 しかし、ふーむ。これは、いよいよ……。


「……第一騎士団の総力を上げてコミン村を奪還することを考えております。デーバスの魔術師が引き揚げる前にです。今のうちに叩き潰しておかないとこの先大変な事になりそうですから……」


 それはそうね。

 たとえ転生者だとしてもそれで死んじゃったら仕方ないよね。

 ……ん? 第一騎士団の総力? え?


「グリード卿をぶつけるつもりです。後はこの奪還作戦について陛下に奏上し、ご裁下が頂ければ来週にも出陣の予定です。我々が守りますのでご安心召されよ、と言いたい所ですが、伯爵閣下におかれましては今のうちに姉上に会われておかれるのが宜しいかと……」


 何だと!?

 

 いや、もしそうなれば万難を排しても俺も同行するつもりだ。


 しかし、国王はまだこの作戦が立案されたことは知らないのか……。

 俺が国王ならどうするかな?


 許可するかね?


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