第二十二話 魔法の防具
久々に今日明日と連チャンで更新できそうです!
それとも、今までで通り水曜の方がいいでしょうか?
7448年10月16日
ロンベルト王国第一騎士団第一中隊第一小隊長のロンバルド公リチャード・ロンベルトは失意の中にいた。
数年前、ようやっと小隊を任された時の高揚感などすっかりどこかに失せており、騎士としての自信まで喪失する寸前であった。
――王家に生まれた定めとは言え、死守すら許されないとはな……そこまで私の力に信が置けないのであろうか……いや、何を考えているんだ。元々死ぬつもりなんかないし、勝てばいいだけの話だ。
「隊長、未だ敵方に動きは無いようです」
リチャードが頼りにする部下、騎士ベリーズが跪いて報告をして来た。
現在時刻は夜が明けて暫くした午前七時。
リチャードが指揮を執るロンベルト防衛部隊の半数はとっくに朝食を済ませ、迎撃の為の臨戦態勢を整えている。
「うむ。警戒を強化しろ」
――阿呆か、俺は。こちらの戦線だって重要なんだ。その指揮を俺に任せて頂いたバルキサス卿のご期待に応えずしてなんとする。……そんなことより、何故デーバスは攻めて来ない? これじゃ昨日一昨日と一緒だぞ? バルキサス卿がお考えになられた通り、こちらが囮でコミン村の方が本隊なのか?
「了解いたしました。それから、ご命令通り残留している守備隊を五つに編成しなおしました」
小隊長就任以来、右腕の如く仕えてくれているベリーズは優秀な女性である。
普人族のリチャードより頭一つ大柄な獅人族で、男娼専門の娼館に入り浸る性癖がなければ言う事はないくらいだ。
――コミン村の方にミルー程の魔術師が投入されているなら、確かにその可能性は……しかし、こちらへの攻撃も常と同じようだ。単なる足止めとも思い難い……と、すると考えられるのは二正面作戦、か? いや、それはそれで妙だ。
「騎兵に怪我を残している者はいないな?」
――最初からそのつもりなら双方の方面ともにもう少し多い兵力を充てなければおかしいだろう。しかし……いや……。
「おりません。隊長も含め、八人全員ピンピンしてます」
ベリーズはそう言うと落ち着いた表情でリチャードを見上げた。
その表情を見て、リチャードは不思議と心が穏やかになり、落ち着いた思考力を取り戻せたことを自覚する。
――頼れる部下ってのは有りがたいものだ。編成も済んだようだし、今日一日は敵の出方を窺うとするか……。奴らも阿呆じゃなきゃコミン村の戦況くらい、今日のうちに入手している筈だ。それによって動きも変わって来るだろう。……可能性は幾つか考えられるが、どれもそう大した根拠がある訳でなし……。今日一発目、どう出てくるかによって絞り込むしかなかろう。
「確か全員、いや、俺以外は着脱の楽なバークッドの鎧だったな」
「は? はぁ、確かそうですね」
リチャードは警戒レベルを上げさせている事を思い出し、自分を含む騎兵全員に対して敵襲の報が有るまで就寝を命じた。
自らは鎧を着たままクッションを集めての就寝である。
これで結構図太いところもある王子様であった。
・・・・・・・・・
7448年10月17日
「な、何だと!?」
デーバス軍のガルへ村侵攻部隊長、ギリアム・シュリカーン准男爵は深夜に到着した伝令が齎した報告に唖然とした。
「おい、貴様! それは真か? 誤報ではないのだろうな?」
准男爵の部下の騎士も信じられない、と言った表情で伝令に問いただしている。
「は。確かにコミン村は昨日の昼過ぎ、臨時司令官であらせられるヘリオサイド准爵指揮の下、占領いたしました。獲得した捕虜は六〇〇人以上になります。後送のため、ラコルーシの街に駐屯する緑竜騎士団に移送部隊を用意させております」
ぜぇぜぇと息を吐きながら報告する伝令の前、ガルへ村侵攻部隊の主だった指揮官たちは慄然とした。
陽動と目されるコミン村への侵攻部隊の総数は二〇〇程度であった筈である。
それがコミン村の占拠ばかりか、三倍以上もの捕虜を得たとは俄に信じられないのも無理はなかった。
しかしながら、虚偽の報告を行う意味も無いことも確かである。
ましてや昨夜遅くにガルへ村を監視させていた物見からの報告で、ロンベルトは凡そ半数近くの部隊を移動させていることが判明している。
その際には「これで二回もコミン村らしき方面への増援を送り出している。ヘリオサイドの小僧めもお情けで百人長になったという訳でも無いということか。なかなか立派に陽動を果たしているではないか」とほくそ笑んでいたのだ。
それを受けてシュリカーンは半減したガルへ村守備隊に対し、昨日今日と様子見の攻撃を行っていた。
可能な限り多方面からちょっかいを掛け、守備隊の移動が伏兵でないことについて確認していたのだ。
そして、伏兵の為の移動ではないとの確信に至ったため、明日には攻略部隊の全数を以って一気に突撃を行うつもりでもあった。
「それから、臨時司令官よりのご命令です」
――命令? ……命令だと? ……まぁ、確かに臨時とはいえ司令官は奴だ。
「……申せ」
「はっ。戦果は既に多大なり。無理をせずあと数日、戦線の維持に務めたうえ、次の命令を待って退却せよ、とのことです」
息を整えながら伝令が言った。
シュリカーンは目の前が真っ暗になった気がし、その次の瞬間には自らの顔がカッと朱に染まったことを自覚した。
「くっ……くうううっ! そんな……また後塵を拝すると言うのか? 俺はあいつが白凰騎士団に入団する前から百人長だったんだぞ! ……それをっ!」
ツェットやアレックス、セルなど今回の件について大元の作戦を立てた転生者達とてシュリカーンがツェットに対して面白く思っていないことは認識していた。
だが、彼らの目にはシュリカーンはそこそこ常識的な言動をするタイプであり、向上心もあるように映っていた。
――ここで引いてしまったら、俺は奴の十倍の戦力を率いて囮として足止めをしただけの……いや、コミン村に対する増援派遣の阻止すら行っていないから足止めすら碌に……。そうなれば……陛下にそう思われてしまったらもう二度と……奴との差は絶望的になってしまう!
「それから、ヘリオサイド臨時司令官は本日未明、コミン村より更に奥地にあるワッカ村に対する攻撃のため、出陣している筈です。司令官はコミン村へ増援を送ったばかりであるため、ワッカ村の防備も薄いであろうとのお考えです」
「何?」
――駄目だ。そこまで奴に手柄を……それこそ俺はいい面の皮だ! せめて、せめて目の前のガルへ村程度占領しなければ……! この際捕虜などは後回しだ。結果を出さねば……!
シュリカーンは一つの決意を胸に秘め、伝令には休息を許可した。
・・・・・・・・・
7448年10月18日
一夜明けた今日。
夜明けとともにシュリカーンは全軍を率いて陣を発った。
勿論、目的は二度にわたって増援を送り、守備隊の半減したガルへ村の占領である。
シュリカーンも無策に突撃を行うつもりはない。
ガルへ村への攻撃を行うにあたり、前線の一歩手前に攻撃魔術を使うことの出来る者を選別して配備していた。
敵の指揮官や騎兵を優先的に狙わせるつもりなのだ。
勿論、普通なら高級指揮官は高い身代金が得られるので、明確な殺意を持って狙われる事はあまりない。
怪我をさせて無力化を狙うくらいがせいぜいである。
これは大きな賭けでもある。
実例は多くないがこういった戦法が採用された事例は過去にもあり、成功した時は多大な戦果を上げることもあるが、読まれて失敗した際はかなり悲惨な結果に直結することが多い諸刃の剣と言える。
攻撃魔術を使うには慣れた者でも数秒程度の精神集中時間が必要となり、その間は完全に無防備になる。
弓で狙われたり、反対に攻撃魔術で狙われることも多い。
そのうえ、魔術の使い手の戦死はほぼイコールで治癒魔術の使い手を失う事に直結し、最悪の場合にはそこから士気が低下して全軍崩壊に結びつくことすらままあるのだ。
だが、今回に限ってはそこそこに分の良い賭けとも言えた。
何しろ、守備隊の騎兵は殆ど残っていないことが確認されており、残る数名を倒せたら士気が崩壊するのは敵の方が早そうであるからだ。
対してこちらの魔法使いは玉石混交だが二〇人近くいる。単に魔法が使える、という程度ならもっと多いが、攻撃魔法を使える程度の技能レベルを持っているとなると人数は激減するのでこれは仕方がない。
しっかりと目標を視認する必要が有るために森の中からではなく、ロンベルト側の陣地を多少迂回して開けた耕作地に出るつもりだ。
そこで先方から攻撃を掛けて来るのであれば迎え撃ち、様子見をして来るようであればこちらから攻撃を行う。
単純だが一兵卒に至るまで誤解しようのない作戦だ。
ロンベルトの張った陣地から三〇〇m程離れた場所に出たデーバス軍はシュリカーン指揮の下、攻撃態勢を整え始めた。
それを見て取ったロンベルト軍の方はこちらも素早く迎撃の為に隊列を整える。
「突撃ッ!」
シュリカーンの号令一下、デーバス軍は盾持ちの歩兵を先頭にして鬨の声を上げて駆け出した。
「来たな。……ふん。大した魔術師がいないのなら死守するまでよ。全軍、迎え撃て!」
リチャードはそう号令すると、傍に控えていた騎士たちに素早く命令を発する。
そして、自分は陣の先頭から少し手前まで前進し、防御を受け持つ盾兵の鼓舞を行い始めた。
デーバス軍の盾兵が数十mまで近づいた時、高い位置から戦場を見渡せるロンベルトの騎兵達は全員が異常に気がついた。
デーバス軍の中、ところどころに足を止め臨時司令官である王子に掌を向けている者がいるのだ。
陣の中央先頭近くという、ロンベルト軍で一番目立つ位置に居たためにいい的になってしまったのだろう。
勿論、デーバス軍の指揮官たちが最初の目標として指示したという理由もある。
「攻撃魔術です! お気を付けて!」
ロンベルトの騎士達は王子に声を掛ける者もいれば、配下のスナイパーにデーバスの魔術師に対する狙撃を命じる者もいた。
狙撃によって斃された魔術師もいないではないが、陣の先頭は既に接触が行われている事に加え、敵味方が入り乱れてしまったため、命令通りの戦果を挙げられたのは僅かな人数である。
そして、狙撃を免れた魔術師のうち、精神集中の終わった者から炎の矢や石の矢の魔術が散発的に放たれ始めた。
魔術だけではない。
あまり多くはないが直射で狙うことが可能なクロスボウ・スナイパーもロンベルトの騎士たちに狙いを定め始めている。
当初こそ、発射を見極めて華麗に身を躱していたリチャードだが、すぐに余裕がなくなってしまった。
「くっ!」
手綱を離して左手に装備する盾で炎の矢を防御するリチャード。
「おおっ!?」
フレイムアローを放った魔術師は勿論、リチャードを援護しようと傍で盾を掲げた兵達の間からも声が漏れた。
炎の矢は盾に突き刺さるかに思われたが、盾に接触した瞬間、明らかに小さくなって、あっという間に消滅してしまったのだ。
リチャードが使用している盾はワイヴァーンの鱗から作られた特別製である。
作られた当初から黒壁鱗の銘が付いており、使用している本人も知らないが【中位魔術減衰】という効果を持っているのだ。
これは盾で防御した攻撃魔術の弾頭のレベルを四レベル分減衰させる能力である。
「くおっ!」
リチャードは体を捻り、別方向から飛来した石の矢を弾こうと盾を構え直す。
と同時に、彼の脳裏にはさすがに厳しい、ここは下馬すべきか、との弱気な考えがよぎった。
「おおおっ!?」
先ほどのフレイムアロー同様にストーンアローも盾に命中した瞬間、消滅した。
まだまだ行ける! 大した衝撃も感じずにストーンアローの防御に成功したことに満足したリチャードは周囲の味方を鼓舞し、新たな目標の指示をし、盾兵の頭上に振り下ろされそうになっている敵の長柄武器に対する注意を喚起した。
また、驚くべきことにデーバス軍のスナイパーから放たれたボルトは、リチャードに対して明らかに命中しそうにない物も、その殆どがあり得ないような不自然な軌跡を描いてリチャードが構えた盾めがけて飛翔し、その尽くが盾を貫通すること能わずに弾かれて地に落ちた。
こちらも黒壁鱗の効果である【飛び道具の目標】の効果が発揮された結果である。
「あの魔術師を狙えっ!」
盾の効果に気が付いていないリチャード本人は必死で目標を指示する。
リチャードも攻撃魔術を使うことは可能だが、騎乗していることに加えて防御を行っているために精神集中の余裕などは無い。
フレイムアローであれば数秒で放つことも出来るがその数秒が命取りになるのだ。
だが、そんなリチャードを見たデーバス軍は大きく士気を落とすことになった。
いち早くそれに気が付いたリチャードの部下のベリーズは、魔法や矢の無駄をあざ笑うかのように敵味方に対して大声を上げて更にデーバス軍の士気を挫き、味方の士気を鼓舞していた。
・・・・・・・・・
「馬鹿な! 何だあいつは!?」
その様子を味方の後方から見ていたデーバス軍のシュリカーンはまず唖然とし、すぐに怒りの感情に支配される。
騎士は弓矢や魔術攻撃の防御訓練として先にタンポを付けた矢を射らせて稽古を行うことは一般的だ。
だが、数本も連続して射撃されると一本くらいは命中すると思っていい。
それを弾くための重装甲の鎧である。
数射もすれば装甲の隙間を貫通することも多いし、攻撃魔術は相手が動きさえしなければ術者が狙った場所に必ず命中する。防御に専念させれば動きも止まるからそれを狙っての作戦であった。
「ぐむぅ……」
シュリカーンは唸るように声を上げると正規兵の集合を号令する。
こうなっては指揮官を討ち取ることは難しい事を悟り、数を頼んでの白兵戦に賭けるしかなかった。
ロンベルト軍はコミン村への増援のために多くの兵が失われており、残余の数は約一〇〇〇。こちらの半数近いと見積もられている。
とは言え、徴兵が主体のデーバス軍にとっては自軍の半数といえども平地で白兵戦をするにはロンベルト軍は相変わらず脅威である。
ただ正面からぶつかってしまえば、負ける可能性すらあるのだ。
・・・・・・・・・
「ははっ、殿下。黒壁鱗は大したものですな! 魔術を消し去り、矢も勝手に弾いておりますぞ!」
リチャードの傍で盾を構えていた兵士が思わず語りかけた。
本来なら「それはお前の腕じゃない」と宣言しているようなものなのであり得ない発言だが、その兵士も思わず口をついて言葉が出てしまったのだ。
周囲の者たちの中には兵士の発言のまずさに気がついた者も居たが、同じ気持ちでもあったので指摘はされなかった。
「ぬ?」
また一本、不自然な軌跡を描き、リチャードの盾によって矢が弾かれた。
――これは一体? こやつの言う通り、黒壁鱗の力であろうか?
リチャードがそう思ったのも束の間、デーバス軍に不自然な動きが見られた。
正面に展開する部隊に正規兵が集められているようだ。
――ふ。一点突破で俺の首を狙うか。だが、そう上手く行くかな?
・・・・・・・・・
一〇分後。
デーバス軍は全軍の一割に当たる二〇〇名程の死傷者を出した時点で撤退を開始した。
リチャードは巧みな指揮で中央を後退させつつも同時に両翼を前進させ、デーバス軍を半包囲するかのように見せかけた。
デーバス軍の中央部隊以外は脆弱な徴兵部隊であり、危機を悟ったシュリカーンは部下達からの進言もあって渋々ながら軍を引かざるを得なかったのである。
デーバス軍の撤退自体は理にかなった動きであり、ガルへ村の防衛が主目的のロンベルト軍も深追いするようなことはせず、引くならどうぞとばかりに警戒態勢に移行する。
先日、カドカワ様の小説投稿サイト、カクヨム(https://kakuyomu.jp/)がオープン致しました。
本作の版元という御縁もあり、カドカワBOOKS様の公式連載ページにて私も一つ、書き始めています。
小説は「銀河中心点-アルマゲスト宙域-」というタイトルで、ジャンルはSFです。
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154963628
1960~70年台あたりの古い香りがする感じの作品になると思います。
SFというジャンルですが、いわゆるハードSFみたいなガチガチなものではなく、緩くて考証もデタラメな作品です。
もしご興味があればご一読頂けますと幸いです。




