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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第十二話 脅迫

7448年8月20日


 流石に講義が始まって五ヶ月も経つとスケジュールの余裕も目立って来たので、ある程度好きに休みが取れるようになった。


 領地経営や騎士団運営について、役人達からは「閣下は物覚えがよろしくて非常に優秀ですな」とお褒めの言葉も貰っている。


 褒められていると言っても、基本は言われた事をどれだけ覚えているかと言う事なので、この年代の脳味噌を持っているのであればあまり苦労はしないんだけどね。その日聞いた事は忘れないうちにしっかりメモに残してあるし、メモを作成する過程で再度頭に叩き込める。もし、忘れてしまっていたり、おぼろげになってしまったりしても数日以内には確認可能なのであんまり問題ない。むしろ「非常に熱心に学んでいる」という評価になるからそれはそれでOKだ。


 あ、それから、転生者から抵抗する気を奪うためとは言え、軽々しく発砲してしまったベルとトリスには(トリスはベルに拳銃を渡したそうだし、同罪だ)こってりと説教をしておいた。


 まぁでも転生者の抵抗意欲を削ぐには有効であるのは認める。

 事件を丸く収めるために相手を一人も殺さなかったというのも上々だ。

 騎士団に突き出すときに「迷宮で見つけた、轟音と小さな火を噴くだけの脅しの魔道具」と説明し、トールとやらへの尋問すら碌にさせないようにウィリアム王子の名を出して隔離させたというのも、まぁマシな判断だろう。

 勝手に俺のコネを使われたようで少しだけ呆れたが。


 しかし。

 しかしだね。


 拳銃あれは本当に危機に陥り、魔力も切れてしまった時の最後の砦のつもりで渡したんだ。

 脅しとして見せるだけならいい。転生者以外にはナンノコッチャか解らんだろうし。

 でも、街のヤクザごときを相手に軽々しく発砲して良いものではないのだ。

 誰にも命中させていなかったところだけが唯一の救いだね。


 罰としてベルは氷漬けをもっと素早く正確に行えるように(それが出来れば発砲しての足止めなんかいらなかった)、トリスは同様に土での埋め立てが上達するまで迷宮の三層で休日無しの刑に処した。

 地上に上がれるのは俺の講義の日だけで、あとは終日迷宮内で缶詰の刑である。

 こいつらの魔力量であれば、俺程というのは流石に無理でも数ヶ月もすればかなりの上達が見込める。

 それに余程深い階層じゃない限り、魔力切れにさえ気を付けていればあんまり問題もないし。


 因みに、三層の転移水晶の部屋には沢山の冒険者がいるので人知れずに体を重ねる事など不可能だ。

 また、大して強くもない三層のモンスターとはいえ、油断して迷宮の通路内で乳繰り合う程馬鹿ではないし、そこまで意志が弱い訳でもない。

 新婚直後のこの二人には一番の罰だとも言える。

 着替えや食料なんかはヘンリーやメックに指揮を執らせた彼らの戦闘奴隷に運ばせる。


 で、そんな面倒な話は置いておいて、本題に移ろう。


 今俺はドランの街の騎士団にいる。

 しかも地下牢に向かっているところなんだ。

 ああ、勿論、ある程度の下調べなんかは済ませてるし、必要だと思われる事について十分とはいえないが準備はしている。

 そこは最終的に無駄になろうが有効だと思えるならやるさ。


 碌に明かりもない、冷たい階段を案内役の騎士に先導されて降りている。

 一応壁や天井は石造りにはなっていて、予想していた程湿っぽい環境ではないみたいだ。

 ん~、壁が光らなくて狭いバルドゥックの迷宮の三層って感じかね?


 案内役の騎士が持つランプの光量は低く、足元はともかく、少し先の段すら見えにくい。


 一段、また一段と階段を降りていく度に、段々と大小便のまじったような嫌な匂いが空気に混ざってきたのを感じる。

 これについてはある程度予想してたので安物の革ブーツに履き替えてきて正解だった。 


 そして、やっと獄吏の人達が詰める小部屋に辿り着いた。


 騎士の説明によると、この地下牢には大小取りまぜて三十もの牢があり、最大収容人員は三百人を超すとの事だ。

 で、トリスとベルから報告のあった転生者、トールとか言う奴は窃盗団の頭目であったために、一応大物扱いなので二つしかない独居房の一つを充てがわれているそうだ。


 太っとい角材を格子状に組み合わせた牢が幾つも立ち並ぶ廊下を歩き、幾つかの扉を越えた最奥部。ここが独居房のエリアらしい。


「あそこです」


 騎士に促され、トールが収監されている牢の前に立つ。


「おい! 貴様、起きろ!」


 そう怒鳴って騎士は格子を蹴る。

 その間に騎士の後ろで魔術を一つ使って俺の準備は終わった。

 精神集中には十秒くらいかかっちゃうんだよ。

 床に寝っ転がっていた人物はボリボリとケツを掻きながら上半身を起こした。


【 】

【男性/14/2/7428・獅人族・ダムル家所有奴隷】

【状態:衰弱】

【年齢:20歳】

【レベル:9】

【HP:119(119)(139) MP:7(7) 】

【筋力:18(22)】

【俊敏:22(26)】

【器用:17(21)】

【耐久:17(21)】

【固有技能:超器用ウルトラ・デフト(LV.Max)】

【特殊技能:小魔法】

【特殊技能:瞬発インスタンテニオス

【特殊技能:夜目ナイト・ビジョン

【経験:106014(110000)】


 ふん、多少衰弱しているようだが、それでも高い能力値は流石は転生者と言ったところだな。


【固有技能:超器用ウルトラ・デフト;この技能の使用中、手先を使っての細かな作業の能力が技能のレベルに応じて上昇する。上昇度合いはレベルに応じて20%の上昇。能力が効果を及ぼすのは手首から先だけであり、体全体を器用に動かせるようになるわけではない。また、何らかの道具の使用においては技能は効果を発揮しない。効果時間は技能レベルに1を加えた数×1分間。MAXレベルの拡張能力は可動部分のない道具の使用が可能になる事に加え、体全体に能力の効果が適用される事である】


 へぇ、なかなか有用そうな固有技能じゃないか。

 でも、絶対に欲しい、という程ではない。


『お前がトールだな?』


 初対面でもあるし、立場が違いすぎるからあまり威圧的にならないように気を付けながら声を掛けた。


『……あんたは?』


 うーん、この状況で質問に質問で答えるとは……馬鹿なのか、やけになっているだけなのか判断が付かない。まぁいいや。


『俺はグリードという。バルドゥックで冒険者をしている』


『ああ、あんたがグリードか……。ドラゴンを倒したんだってな。大したもんだ』


 ライオスの転生者は鎖の嵌った足で地面に胡座を掻きながら俺を見上げて言った。

 二ヶ月も陽光に当たっていないためか、顔色は青白く感じられる。

 また、食事も好きに食べられる訳でもないのだろう、少し痩せている印象だった。


『あんまり時間がないから命が惜しいのなら手短に頼む。俺は世間話をしに来たんじゃない。質問に答えろ。お前がトールで間違いないんだな?』


 時間は結構あるんだけどね。嘘看破ディテクト・ライの魔術の効果時間中に終わらせたいだけだ。勿論、効果時間の延長をしたっていいんだが、この魔術、効果時間の延長には余計に魔力を使うだけじゃなくて、まるで別の魔術であるかのようにちょっと別方向の精神集中が必要になる。俺の方は基本の五分間で充分だとそっちの修行はミヅチに任せていたんだ。使えない訳じゃないけど面倒くさいってだけ。本当に必要なら鼻でもかめば十秒くらいは捻出できるからさ……。


 それに、あんまり長い間日本語で話していると騎士が変に思うだろう。

 場合によっちゃ会話を禁じられてしまうかもしれない。

 ま、正式な領主の特別命令で面会を捩じ込んだからにはそれはないだろうけど。


『この状況で俺がトールじゃない訳があるかよ?』


 そらま、その通り。

 ま、嘘を言うつもりではなさそうだ。

 別の答えが返ってくる可能性もあったけど。


『……まぁいい。お前の固有技能は何だ?』


『あ? 何の意味が……』


『答えろ』


『……掏摸バイラズだ』


 ん、トールの吐息が嘘看破ディテクト・ライに反応した。

 少なくとも俺を騙そうとした事だけは確かだ。

 それは別にいいんだけど、ちょっと考えが足りないな、こいつ。

 それとも、長年に亘って作られた、自分の中の常識を疑ってないだけの話で……いや、他の転生者を知らなきゃ仕方ない部分も多いけどな。


『掏摸ね。なるほど』


 俺は騎士にステータスが見たいのでトールに触れてもいいかと尋ねた。

 騎士は剣を抜くと「ステータスを確認する。格子から腕を出せ」とトールに命じる。


「ちっ」


 舌打ちをして格子まで寄ると嫌々ながらも腕を出すトール。

 この期に及んで抵抗には意味が無い事くらいは知っているのか。


『ああ、知らないみたいだから教えてやる。日本人同士なら固有技能も見えるんだ』


 格子から伸びてきたトールの腕。その手首を掴んで言う。


『あ!?』


 少し慌てたのが判る。


「「ステータスオープン」」


 俺とトールは同時に互いのステータスを見る。奴の目には俺のステータスが映っている筈だ。

 但し、固有技能と技能レベルなしの状態で。

 俺のステータスも見せてやるつもりだったからこそ見る前に教えてやったんで、見てくんなきゃあんまり意味なかったんだけどね。


「貴様! 無礼者め!」


 トールが俺のステータスを見た為に、騎士が激昂する。

 まぁまぁ、と騎士を宥め、改めて格子の向こうにいるトールを見る。


『騙したな……ふん、伯爵ともなると……』


 憎々しげな口調でトールが言う。


『今の反応でわかった。お前も嘘を吐いていたよな? ま、これでお相子って事でいい。だが、今後も嘘を吐き続けるようならお前の命は明日までだな。この地の正式な御領主であるウィリアム殿下は俺の顧客でね。お前の量刑くらいどうにでも出来るんだよ』


 俺は事実を淡々と述べた。


『自分の力でもない癖に偉そうに……虎の威を借る狐が』


 軽蔑したように言うトール。

 俺はこのトールという男が心底気の毒になった。


『持っているコネも含めて見る事が出来ないとはお前……可哀想な奴だな。……くっそ、あいつら……バカは間に合ってんだよ……』


 後半部分だけはなんとか口の中で済ませ、言葉を継ぐ。


『お前がどう思おうと事実は変わらん。さて、もう一度聞く。お前の固有技能は何だ? 嘘は無駄だぞ。俺は嘘を見破れるからな』


『……超器用ウルトラ・デフト。手先が器用になる。昔は道具を使ったらダメだったが、最近じゃあ道具も器用に扱える……』


 嘘は吐いていない。


『効果時間は?』


『今は十分くらいだ。昔はもっと短かった』


 同時に、自分の固有技能についてそこそこ理解している事も解る。


『そうか。じゃあ次だ。お前、今後は心を入れ替えて俺の役に立つと誓って、犯した罪を償うのなら助けてやる』


 本気で心を入れ替えるつもりがあれば考慮くらいはするさ。

 誰だってその気になって頑張りゃ再起は可能なのだ。 


『……どういう風の吹き回しだ?』


『御託はいい。答えろ』


『わかったわかった。あ~、リーグル伯爵か? あんたの手下となって働くよ。だから何とかしてくれ』


 こいつの吐く息が俺の魔術に反応している。

 嘘だ。

 まぁ、魔術なんぞ使うまでもないけどね。


「……そうか。嘘は吐くなと言った。じゃあな」


 そう言うとくるっと回れ右をして傍に控えていた騎士に「そろそろ……」と声を掛ける。


『待て! 待ってくれ! 助けてくれ! どうしたらいいんだ? 何でもするよ!』


 これは本音のようだ。


 俺は騎士に「すみません、少しお待ち下さい」と断ってトールに向き直る。


『今回は本気で言っているようだが、さっき嘘を吐かれた事は忘れんぞ?』


 格子の前に戻ると見上げるトールを見下ろす。


『……俺はな。ルールが守れない奴は嫌いだ。ルールの中で、ルールさえも味方にして頑張る奴をこそ評価する。ルールが嫌なら自分でルールを作れるように、変えられるように、捻じ曲げられるように力をつければいい。それが出来ないのなら黙って下を向いて従っておけ』


 冷たく聞こえるように心がけながら喋る。


「だから、ルールを犯して捕まったお前なんか本当はどうでもいい。だが、お前と出会った二人、覚えているか? トリスとベルに頼まれたからこうして来てやってるんだ。それを忘れるな」


 たまには騎士にも解る言葉で喋っておこう。


『わかった。いや、わかりました。お願いします。助けてください。これからは心を入れ替えて頑張りますから……!』


 土下座でもするかのように両手を地面について頭を下げるトール。

 吐息が見えないので本音かどうか解らない。

 どうせ嘘っぱちだろうけど。


『……お前の元の持ち主、ダムルってのは今どうしている?』


 俺がそう聞くと、交渉して助けてくれると早合点したのか、トールは『まだかろうじて営業しているのは知ってます。ギバサ通りの……』とか面を上げて言い始めたのでそれを遮った。


『知ってるなら話は早いな。実はここに来る前にそのダムル紡績商会の商会長とは会ってきた』


 俺がドランに到着したのは二日前の事だ。ついでに言うと、先月も一度ドランまで来て騎士団からトールについての話を聞いている。その際にステータスに記載されているダムルという家についての調書も見せて貰っていた。


 ダムル紡績商会は倹約家で知られ、数年前まではそれなりに羽振りも良かったらしいが、三年程前に投機的とも言える綿花の仕入れに失敗したあげくに大損をこいて経営規模もかなり縮小してしまっていた。


 で、そこの主人と話をした。

 主人はダムル家所有奴隷のステータスを持つトールが捕縛された事は既に騎士団から連絡を受けていた。

 だが、奴隷に代わって罰金なんか払いたくないダムル商会長は、当然ながら所有の放棄を宣言して(犯罪者となった奴隷の所有者は生計を一にすると看做されるとは言っても、所有の放棄を宣言する事で連座を逃れる事が出来る。この場合、当該の奴隷の所有者は行政府、引いては領主という事になる)いる。


 年齢から言ってもトールは恐らく、十年以上前に脱走したロズラル・ギーンという名の奴隷である可能性が高い。

 彼には両親の他に少し年の離れた兄がいて、三人揃って鉱山奴隷として売ってしまったそうだ。

 で、年齢以外になんでロズがトールだと予想が付けられたのかというと、その理由はこうだ。


 ロズが脱走してから数日は、所有している奴隷を使ったりして行方を探したりもしたが、そこそこに高価な獅人族ライオスとはいえ所詮はまだ小さな子供。

 仮に見つかったとしても一般奴隷なら五十万Zにもなるかどうかという程に幼い。

 また、当時はそこそこに羽振りも良かったのですぐに捜索は打ち切って日常に戻り、ライオスのガキの事なんか忘れてしまっていた。


 しかし、数年前に出所不明のヤクザ者がダムルの周りをうろつき始めた。

 はっきりとした事は言わなかったが、どうも以前にここに居た奴隷の家族の行方を探しているようだった。

 ヤクザのような奴とは言え、特に脅してきたり商売の邪魔をするような訳ではない。

 でも、やっぱりヤクザに下手な因縁でも付けられたら恐ろしいので騎士団への通報などは行わなかった。

 そうこうしているうちに、ヤクザ者の目的はギーン家の両親と兄の行方であろうと思われた。


 そこでダムル商会長は思い出す。


 昔、脱走したロズラル・ギーンの事を。

 もし生きているのならば、今ではもう成人している筈。


 ヤクザ達は“暁”という窃盗団らしい。

 暁と言えばトールと呼ばれているライオスの男がリーダーである事は有名である。


 足が付く事を恐れて自分では来れないのであろう。


 僅かに気の毒に思い、当時を思い出して誰に売ったのか調べようとしたダムルだが、冷静に考えるとトールは元々彼の所有する奴隷である。

 今現在も正式な所有者は自分でもある。

 なぜ奴隷如きに同情せねばならないのか。


 そう思ってつい、言ってしまった。

「ギーンには下に子供が居ましてね。ロズラルってんですが、両親達を売ったあとにそいつが逃げ腐りやがって……行方がわからんのですよ。今だと十七、八くらいですかね? もしウチの奴隷のライオスを見つけたら通報願いますよ」

 それからヤクザ者はパタリと顔を見せなくなった。


 まぁ、窃盗団の中に信用出来る手下なんてそう多くなかった可能性は高いし、当然自ら調査するなんて以ての外だったろう。

 興信所なんかないから普通はこれ以上の調査なんか難しい。


 で、その二、三年後に俺が行ったって訳だ。


 財布を傾けて数十枚の銀貨をテーブルに出したらぜ~んぶ喋ってくれた。

 勿論、ギーン家の販売先も聞き出したさ。

 それには手持ちの銀貨だけじゃなくて金朱まで出す羽目になったけど。


 販売した奴隷商から先、二人の奴隷商まで辿り、最終的には俺の領地の鉱山で使われているというところまでは調査した。

 これが無駄になるかもしれない下調べって訳。

 っつーか、無駄になる事を願ってもいる。


『で、だ。以前ダムル商会長が所有していた奴隷、ダグラル・ギーンとその妻のサンドラ・ギーン、息子のリナルド・ギーンの行方を……なんだ?』


 トールは目を見開いて口をパクパクさせている。


『あ……生きて……るんですか?』


 生きてるよ。兄貴の方は嫁さんまで貰って子供も二人いる。

 下調べの途中でトールが家族の行方を捜させようとしているのが判ったから、それなりの時間と金まで使って完全に調べ上げたんだし。


『……お前の心掛け次第じゃないかな?』


 おお、我ながら何と嫌なセリフだろう!

 調査の無駄を願っていた俺にこんな事言わせやがって。

 どうせ無駄にならないんならもう少し気持ちよく使いたかったわ、糞野郎。


『ぐ……汚ねぇ……』


 絞り出すような呻き声が漏れる。


『あぁン?』


 聞こえんなぁ?


『……何でもします。会わせてくれるなら、何でもします。だから……』


 本音みたいね。

 じゃあ、あとは少しだけだな。


『次だ。銃の事、どこまで、誰に話した?』


『あ? 銃? ああ……』


 トールは小狡そうな表情を浮かべる。


『俺には後で確認可能だからな。嘘を吐いた事が判ったら……』


『取り調べの時に騎士に話したのが全部だ、です』


 ああそれね。それなら聞いてるわ。

 因みに騎士たちは銃なんて見た事も聞いた事もないのでトリスとベルの説明を頭から信じ込んでいたのは確認済みだ。

 窃盗団を丸ごととっ捕まえたバルドゥックの一流冒険者の言う事と、捕まった窃盗団の頭目が言う事なんかどっちが信用に値するかって話だ。


――トールは魔道具なんか碌に知らないでしょうからケジューとかペシュトレとか適当な事を言ってましたがね。でっかい音に驚いて腰が抜けたなんて言えなかったんでしょうなぁ。ああ、勿論、手下どもにも尋問して、お二人が使ったのは危険な魔道具ではなさそうだという証言も得ていますよ――


 って訳。

 こういう時、魔道具を見つける事が多い冒険者ってのは便利だよね。


 因みにトールは嘘は吐いていない。

 さて、これならあとは最後だ。


『もう一度だけ聞いてやる。俺の役に立って働くか?』


『はい……』


 本音のようだね。


『よし、ならお前を買ってやる。だが、罰は受けろ。それで死ななきゃ傷の治療はしてやる』


 余程気が弱くない限り、手心を加えたムチ打ちで九レベルになっている転生者が死ぬような事はあるまい。

 まして窃盗団を組織し、率いていたくらいだ。

 そのくらいの気骨はあるだろ。




・・・・・・・・・




「すみませんねぇ、殿下。今回の件は今後のモデルケースにしたいんですよ」


 ウィリアム殿下に頭を下げる。


「いえいえ、頭をお上げ下さい商会長。王国でも犯罪者に強制労働をさせてはいましたが、最前線の村で開墾をさせる勇気はありませんでした。結果には期待していますよ」


 最前線という事は、ちょっと頑張れば外国に逃げる事が可能な地理だという事だ。

 そらまぁ、そんなところで強制労働なんかさせたら脱走者が相次ぐに決まってるわ。

 俺も暁の一団はともかくとして、トールを開墾作業なんかに使うつもりもない。


 ハナから信用もしていない。


 勿論、素直に言う事を聞いて一生懸命頑張るのであればそれなりの待遇にはしてやるつもりでいるけど。


 

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