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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第一部 幼少期~少年時代
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第三十三話 咆哮

 ミュンとの狩りの翌朝、俺は飯を食いながら考えていた。

 ミュンにはかなり世話になった。

 バークッド近郊の狩り場をいくつも教えて貰ったし、そこにいる魔物毎に異なる効率的な狩り方や弱点、また、魔物についての知識。オースのいろいろな常識やロンベルト王国やデーバス王国のこと。

 数え上げたらキリがない。

 冷静に考えてみるとミュンがいなかったり、あの時ミュンを殺してしまっていたら今の俺はない。


 魔物を狩ることによって得た経験(経験値だけじゃない、戦闘の心得や知識などの方が大切だと思う)や、オースで生活していく上で欠かせない常識や知識。これらはある程度は放っておいてもいつかは得られるのかも知れないが、早く得ることについては全く問題ない。ミュンは文字通り俺の先生だ。


 先生の人生の新しい門出に対して何かしてあげたい。

 物や現金を贈るのは日本では一般的だったが、物はともかく、金は持っていないし、現金を得られる状況にもない。

 だいたい、今迄バークッドでの結婚は金品を贈っているのを見たことはない。そもそも贈り物を出来るほど裕福ではない。ただ、宴会をして終わりだ。あとは年に一回来る司祭に結婚の儀式をしてもらって本当に最後だ。


 俺が難しい顔をして考え込みながら飯を食っているのに気がついたのだろう、その日の朝の魔法の修行の時に、ミルーが俺に話しかけてきた。

 もう既に二人共極度な集中までしなくても簡単な魔法を使うことは問題ない。

 と言ってもレベルが低い魔法に限られているので、ある程度効果の高い魔法を使うときにはやはりかなりの集中は必要だ。


「ねぇ、アル、どうしたの? 朝ご飯の時から何やら変な顔をしているけど、どこか、そう、おなかでも痛いの?」


「いや、どこも痛くはないよ、姉さん。ちょっといろいろ考えてただけだよ」


「ふーん。ゴムのこと?」


「いや」


「じゃあ、鍛冶のこと?」


「いや」


「ああ、畑仕事のことね?」


「いや」


「じゃあ、何よ? 何か心配事でもあるの? 明日はミュンの結婚の宴会なんだから、そんな小難しい顔してちゃダメじゃない」


 ミルーはそう言って話を切り上げようとした。

 あ、ミルーに聞いてみようか?


「姉さん、その……ミュンが結婚するにあたって何かしてあげられることはないかな? ミュンは、その、ずっと一緒だったし……」


「ああ、そういうことね。アルはミュンに何か贈り物とかしてあげたいの?」


 話が早いな。って、ああ言ったら誤解しようがないよな。


「うーん、普通は家具とか服とか贈るわねぇ……でも今からじゃ揃えられないし、遅すぎるわよね……」


 え? 普通家具とか贈るのかよ……。

 知らなかった。


「でもね、一番は食べ物よね。ほら、一昨年だっけ、もう少し前だっけ……。ザールが結婚したときの宴会でケリーが仕留めたブンド鳥が出たじゃない」


「ああ、そうだね、あれは美味かったなぁ……」


 あの時の事は良く覚えてる。

 あれは本当に美味かったのだ。

 ブンド鳥はあれ一回しか食べたことは無いけれど、強烈に記憶に残っている。

 今まで何回か結婚の宴会は行われたが、あの時の印象は強いな。

 結婚の宴会の時には当然贅を尽くした料理が振舞われるのだが、大抵の宴会の食材は狼人族で狩人のドクシュ家から買うのだ。


 バークッドでの動物性蛋白の供給源は、多くの農家で飼っている鶏とその卵、あとは豚だが、狩人も大切な動物性蛋白の提供者だ。

 鶏肉と豚肉だってしょっちゅう食えるわけではないのだ。

 鶏はともかく、豚は飼料の関係から飼っている農家も少ないし、村全体で毎月一頭から二頭くらいを食べているに過ぎない。

 小さいとは言え400人以上の人口があるから100~200Kg程度の豚(飼料が豊富なわけでもないのでバークッドの豚は日本の食用に飼育されている種類の豚ほど大きくはならない。品種も異なるようだ)の可食部分など、一人当たりにすればいいとこ二食か、せいぜい三食だ。


 それではいくらなんでも少ないので狩人が狩ってくる獲物は予約制で必ず売れる。

 たまに白毛鹿ホワイトデアーやデングボアー、ジャイアントトード、グリーンクロコダイルなど大物が獲れた時も問題なく売れる。

 一家族では多過ぎるし、とても代金は払えないが、共同で買うのだ。

 大物の時は当家も金を出すことが多く、領主ということもありいい部分を廻してもらえる。


 だが、総じてあまり美味くはない。

 尤も、皆は旨い旨いと言っているのでそれなりに上等な食材ではある。単に俺の舌が前世の関係で肥え過ぎているだけだ。


 そんな食材達の中では例のブンド鳥はあまりにも鮮烈だった。


 日本でもあれ以上の肉はそうそう記憶には無い。

 かつて出張や旅行の時に食べた松阪や神戸などのブランド牛などにも劣らない肉だった。鳥なのにあまり筋張ってなく、それはそれは美味かった。


 そうだ、ミルーの言う通り「いい結婚の宴会」は語り継がれ羨望の的になる。

 何かいい食材を提供できたらそれこそいい贈り物になるのではないだろうか?


「姉さん、わかったよ。僕は今日はこれから狩りに行こうと思う。まだ朝も早いし、父さまに許可を貰ったらケリーのとこに行って頼んでみるよ」


「ええっ? だってもうトーバスの家で注文してるでしょ? ジャイアントトードの脚も10匹分既に用意があるって聞いたわよ?」


「いいんだ。僕が贈りたいだけだから」


「でも、アルだけだと危ないから父さま、絶対許可してくれないと思うわ」


「……お願いしてみるしかないよ。場合によっては父さまに同行してもらえるようにお願いしてみる」


「……しょうがないわね。私も行くわ」


「えっ?」


「私ももう12だし、私とケリーも一緒なら父さまもそうそうダメとは言わないんじゃないかしら。でもケリーだけは絶対に一緒じゃないとダメよ。ケリーが仕事に行く前に捕まえておかないといけないわね……。とにかくケリーに先に声をかけてそれから一緒に父さまの所へ行ってあげる」


「……ありがとう、姉さん」


 それから俺達はケリーの家を目指して走り、狩りに出発するドクシュ一家を捕まえると事情を説明し、出発を待って貰った。

 次に、従士と訓練中のヘガードのところへ行き、ケリーだけでなくその両親の狩人一家に同行し、ミュンの結婚の宴会の獲物を狩りに行きたいと告げると、ヘガードは俺とミルーに魔力残量を尋ねた。

 二人共朝の魔法修行はすぐにそっちのけで話していたからまだ充分に残っている。

 ミルーは2割ほど使用していたが俺は6000MP程残っているから一割も使っていない。

 二人共まだ充分に魔力があると告げるとヘガードは従士長のベックウィズを呼び、お目付け役として同行させた。

 ドクシュ一家の狩りの邪魔をさせないようにと、ベックウィズに念を押し、俺達には気を付けていくように、と告げると訓練に戻った。


 許可が出たのはケリーだけでなくその両親のザッカリーとウインリーも一緒であったことも理由だろう。彼らに先に話を通しておいて良かった。




・・・・・・・・・




 俺はスリングショットと64式銃剣を用意し、ミルーはファーンから譲り受けたショートソードと俺のと同じ型のスリングショットを用意していた。ベックウィズはロングソード一本だ。

 防具はベックウィズは上半身だけプロテクターを装着し、俺達姉弟は肩と肘、膝部分だけ付けている。


 三人でケリーの家までいくと既に狩人一家も用意を整えて待っていた。

 俺は同行の許可を貰えたことを報告し、同行させてもらえることの礼を述べると早速出発となった。


 今日は村の東部の森を目指す予定だったらしいが、大物を狙うということでわざわざ北部の森を越え、北西部の山地を目指すらしい。予定では夕方には帰るとのことだったが、獲物の追跡状況によっては明日までかかる可能性もあるという。

 明日はミュンの結婚の宴会なのでなんとしても今晩中には帰りたい旨を告げると、笑いながら大丈夫だと請け合われた。


 さぁ、出発だ!


 ザッカリー達ドクシュ一家は全員弓とナイフで武装し、流石に耐久力や腕力に優れた狼人族だけあってゴムプロテクターを全身に装備していた。見れば腰には散弾タイプのスリングショットもぶら下がっている。思い起こせば騎士団やキンドー士爵以外の最初の顧客は彼らだった。


「そう言えばアル様。この散弾タイプのスリングショットは良いものですなぁ。鳥を撃つのにこんな素晴らしい物はないです。大きなものは流石にダメですが、うずらを撃つのに丁度いい。弾がある程度拡がるから外すことも滅多にないですし」


 ザッカリーがスリングショットを褒めてくれた。


「それにこのプロテクターも素晴らしいです。鹿の角も怖くないですし、軽いし、体に合っているので動きやすいのはありがたいです」


 ウインリーも装着しているプロテクターの胸を叩きながら笑いかけてくれる。

 多少はお世辞や追従もあるのかも知れないが、その喋り方や口調には実感がこもっている事を感じさせてくれ、俺はちょっといい気分になって和気藹々と北西部の山地に向かっていった。


 出発したのが7時頃だったか、3時間程歩くと北西部にある山地に到着した。


 ここまでの行程でうずらを6羽とフォート鳥と言うムクドリに似た鳥を3羽狩ることに成功したが、全てドクシュ一家の散弾スリングショットの成果だ。俺とミルーは散弾タイプのスリングショットを持って来ていなかったので見ていただけだ。

 取り敢えず9羽の獲物はゴム引きの布袋に入れて口を縛り、目印によく使う木にぶら下げておく。

 ゴム引きの布袋に入れてきっちり口を閉じれば臭いが漏れずほかの動物に食べられることもないのだそうだ。地味にいい仕事しているな。


 20分程の小休止の後、いよいよ山地に足を踏み入れる。

 山地とは言ってもここら辺は北部の山地のように石や岩がゴロゴロしているということもなく、森林の延長のようなものだ。

 ひぃひぃ言いながら狼人族一家の後を付いて、一時間程進んだ頃だろうか、狩人たちが全員しゃがみこんで前方を窺いだした。10m程の間隔を空けて付いていた俺達もしゃがみ込み、そっとケリーのそばまで行くと聞いてみた。


「どうした? 何かいるのか?」


 ケリーは真剣な表情で前方を窺いながら俺の方を横目で見ながら答える。


「まだ判りません。でも親父が何か見つけたようです」


 あ、鑑定を忘れてた。俺は鑑定を発動し、そっと前方を窺う。

 因みに、固有技能の射程は通常の魔法の射程の倍程もある。魔法はレベルあたり20mなので最高200mだ。俺やミルーの場合、魔力をつぎ込むことで射程を更に伸ばすことも出来るが。


レベル 射程

 0  10m

 1  20m

 2  40m

 3  70m

 4 110m

 5 160m

 6 220m

 7 290m

 8 360m

 9 450m

 

 俺の鑑定は450m程先まで見通せるが、仮に450m先に誰かいても気付く自信はない。

 こんな森の中で視線を木や木の葉に邪魔されるとその先の輝度が変化してもそれが人か中途半端に一部分だけ見えている木かの判別はつかない。どうしても判別したいのであれば鑑定先を決定し、ウインドウを見るしかない。当然隠れていたりして一部分しか確認できなければそもそも気づかないことも有る。ちゃんと見分けがつくのは視界が開けているか、鑑定を繰り返し使ってウインドウを見るしかない。実用レベルで言えばこの程度の森林だと200mがいいところではないだろうか。


 そっと前方を選択モードの鑑定でスイープしてみる。


 ……わからん。


 MPの無駄遣いを承知で偶然に任せて連続鑑定をしてみようか?


 その時、ウインリーがそっと中腰になるとさっと10m程前進し、木の幹に隠れた。

 ザッカリーも直後に移動を開始してウインリーから少し離れた木の幹に身を寄せる。

 ケリーもザッカリーの隣の木に身を寄せた。

 俺とミルー、ベックウィズはどうしていいかわからず、しゃがんで様子を窺っていることしか出来ない。


 やはり何らかの獲物はいるようだ。

 俺は鑑定を使いながらザッカリーとウインリーの見つめる方向を中心に集中する。

 ……わからん。

 と思ったら俺はどうも見当違いの方向を見ていたようだ。

 俺はてっきり大型の動物か魔物がいて木の幹などで隠れて見づらいか、鳥などがいて木の枝や葉に隠れているだけだと思い込んでいたのだが、それは大きな間違いだった。彼らが見つめている方向と俺が見ている方向自体は合っていたが、彼らは地面を見ているようだ。


 俺は視線の中心を地上1mくらいから上にばかり注意を払っていたので気づかなかった。

 4~50m程先の地面の一部が不自然に鑑定対象として選択できることに気づいた。

 だいたい直径10m程の不定形に鑑定できる。


【 】

【無性/21/10/7433・ブラウンスライム】

【状態:良好】

【年齢:3歳】

【レベル:2】

【HP:125(125) MP:1(1)】

【筋力:0】

【俊敏:1】

【器用:1】

【耐久:62】

【特殊技能:溶解】

【特殊技能:分裂】


 なんだ、スライムか。

 俺は前世で遊んだド〇クエを思い出して勝手にザコだとランク付けした。耐久力が高いだけのザコだと思ったのだ。

 だって、スライムってよく名前を聞いたし、RPGでだって序盤のザコだろう?


 狩人たちが戻ってくるとザッカリーが言う。


「アル様、ちょっとまずいです。スライムがいます。戻って別の道を行きます」


 何を言っているかわからない。


「え? スライムだろ? 矢でも撃ち込んでやれば直ぐに倒せるんじゃないのか?」


 ザッカリーは俺の言葉にちょっと吃驚したようだが、教え含めるように言った。


「スライムには矢も剣も効果ありませんし、あれで結構危険なのです。傍まで近づくと一気にくるまれて溶かされてしまいます。この森でも危険な魔物のトップクラスですよ」


 え? そうなの?

 そう言えば例のゲームみたいにお団子のような形もしてない。

 地面に広がっているだけだ。

 少し茶色がかった粘液のような感じに見える。

 茶色がかっているため遠目には少し濡れた地面とそうそう見分けはつかない。


「お前でもダメだろうか?」


 同行してきた従士長のベックウィズに聞く。


「ちょっと、無理ですね。お屋形様でも無理だと思います。いつも見回る辺りにはスライムは滅多に居ないので問題になることはないですし、それにスライムはゴブリンなどを食ってくれますから見かけても進路を変えるだけですね」


 うーん、ベックウィズでもダメどころか、親父でもダメなのか。でもなぁ、進路を変えたら時間かかっちゃうしなぁ。粘液に見えるから火魔法で焼き払ったらどうだろう? 山火事にならないように気をつけるか焼き殺したあとに水魔法で水でもかけておけばいいんじゃないだろうか?


「火魔法で焼けばどうかな? あのくらいなら一気に焼けるぞ」


 ベックウィズとザッカリーに言ってみる。


「え? 魔法ですか……。魔法なら行けるかも知れんな、どうだ?」


 ベックウィズがザッカリーに尋ねた。


「ちょっと判りかねます。私は火魔法は使えないので……」


 ザッカリーが答えると俺はそこに畳み掛けるように言う。


「なぁ、火魔法で焼き払えるなら試してみたい。駄目なら引こう。それとも攻撃されたスライムはいきなりここまで来るほど素早いのか?」


「いえ、獲物がすぐ傍にいればそれなりに速いですが、ここからなら距離もありますし、まだ気づかれても居ないので大丈夫でしょうが……」


 ザッカリーはそう答えるとウインリーを見た。


「そうですね、試してみて駄目なようならすぐに引けばそう危険はないでしょう」


 そうウインリーが答えてくれたので俺はやってやろうと胆を決めた。


「よし、じゃあ行くぞ」


 スライムに向けて左手の掌を向けると同時にレベル5相当の火魔法を絨毯状に無魔法で整形しながら飛ばした。

 使用MPは火魔法で5、整形で5、飛ばして3だ。

 火魔法には特に追加のMPを注ぎ込んでいないので温度は恐らく乾燥した木材に瞬時に引火できるくらいの300度前後と言ったところだろう。


 単に点火するだけなら時間さえあればもっと低い温度でも火はつくのだろうが、何も考慮せずに火魔法を使うとだいたいこのくらいの温度の火が出る。

 冷たくしようとだけ考えると多分マイナス30度くらいの温度になる。


 この二つが火魔法の基準温度で後はMPを余計に注ぎ込むことによって温度は上下に調節出来る。どちらかというと温度を下げるより上げる方が使用するMPは少ない。MPを1追加する毎に上げる場合だと最高100度くらいは上昇出来るが、冷やす場合は同様にMPを1追加する毎に1度下げられるくらいだ。初期のマイナス30度から300度くらいまでは感覚的に指示することで自由に変更は可能だ。


 スライムに向けて飛ばした火はあっという間にスライムの表面を覆い尽くした。

 表面を火で炙られたスライムは瞬時に広がった全身を縮めようとしたようだが、完全に縮むより先に息絶えた。

 鑑定しても死体は残っていないようだ。

 スライムが死んだことはその死体が鑑定できず、俺の経験値が増加していることで確認した。

 経験値は750程だった。


 スライムのくせにすげーな!


 確認後すぐに水魔法で残った火を消すと魔石の回収のために近づこうとしたが、ベックウィズに止められた。


「アル様、まだスライムが死んだとは限りませんぞ。まずは私が近づいてみます」


 スライムはもう死んでいるのは確実なのだが、俺以外にそれが分かる訳もない。危険はもうないし、止める理由もない。


「ああ、わかった。頼む」


 ベックウィズは恐る恐る近づいていくが何か起こる訳もなく落ちていた魔石を持ってきた。価値はゴブリンの魔石とあまり変わらないようで、200あるかどうかだった。


 とにかくスライムをうまく処理することも出来たのでそのまま狩場に向かって進むことが出来た。そのまま30分も進めば白毛鹿などの大型獣のいるいい狩場らしい。


 20分ほど歩いたあと、用心しながら進みだした。ここから数百メートル先に沼があり、水場になっているらしい。偵察にはウインリーとケリーが出た。暫くしてケリーが幾分怯えつつも興奮した様子で戻ってきた。


「父さん、まずい。奴がいる。ヒトツメだ」


 ヒトツメ? 一つ目か? 一体何だろう?


「なにっ? ベックウィズ様、まずいです。ホーンドベアーです。目は片方潰れていますが、あいつはずる賢くて危険です」


「何だとっ? ホーンドベアーか……。こいつはまずいな……。ウィンリーはまだ貼り付いているのか? ここは引いたほうがいいか……」


 ザッカリーとベックウィズは興奮したように話している。ホーンドベアーってなんだ? 俺はケリーに訊いてみた。


「ケリー、そんなにまずいのか? 危ないのか?」


「はい、ホーンドベアーは皮が丈夫で矢も余程近くないと通りませんし、爪で殴られたら大怪我で済めば運がいいくらいです。危険な獣です」


「アル、私も聞いたことがあるわ。ホーンドベアーは滅多に現れないし、ここらでは珍しい獣よ。魔物と言う人もいるわ。父さまや母さまは昔倒したこともあるらしいけれど、かなり強かったと言っていたわ……でも美味しいらしいのよね……」


 あんですと!?


 ミルーの言葉に反応してしまう。


 美味いのか! ならば何とかしたいな。

 魔法じゃだめだろうか? 火魔法だと焦げちゃうかな?

 ……あ! 地魔法で包み込めば行けるんじゃないか?


「ザッカリー、ベックウィズ、ちょっと聞いてくれないか?」


 引くべきかどうか議論中の二人に声を掛ける。

 もう殆ど引くことで合意しているようだが、それは無視した。


「なんでしょう?」


 ベックウィズが返事をしてきた。


「ホーンドベアーと言うのは相当強い奴らしいが、かなり美味だと聞いた。なんとか狩れないだろうか?」


「確かに聞くところによると美味は美味らしいですが……その……いまの我々だといささか持て余すと思われます」


 ザッカリーが冷静に答える。しかし、ここで引くわけには行かないだろう、ミュンの為に。


「うん。弓も相当近くからでないと通らないらしいな。だが、魔法ならどうだろう? 俺と姉さまで地魔法を使って、大量に土を出してそれで埋めてしまえば何とかならないだろうか?」


 俺の考えを言ってみる。

 ミルーはなるほど、といった感じで聞いているが、ミルー以外の3人は難色を示した。


「アル様。アル様ご姉弟が魔法が得意なことは解っていますが、相手が悪すぎます。あいつはただのホーンドベアーじゃありません。長年生きて大型化し、より強力になっています。今迄我々も何度か見たことがありますが、あいつは只者じゃない。正直なところ、あいつを見かけたら狩りは諦めて帰ることにしています」


 ザッカリーが言う。

 そうなのか、中学生の頃連載していた犬漫画に出てきたアカカブトみたいなもんだろうか?

 猟犬が必要か?

 いや、狼なら三びk、もとい三人いるし……。

 一緒にはならんよな。


「うーん、強力と言ってもたかが熊だろう? 埋めてしまえば抵抗もできないと思うんだが……どうだろう? ここで倒せればこれから奴に怯えないで済むし、美味い飯にもありつける。ここはやってみたらどうかと思う」


 その時、ウインリーが戻ってきた。


「あなた、まずいわ、一つ目のやつ、子熊を連れているわ。風向きが変わったら私達も匂いでバレるかもしれない。戻りましょう」


 あれれ、ちょっとまずいのかな?

 子供連れの熊はものすごく凶暴になるって聞いたことがある。

 オースの熊が地球の熊と一緒のはずもないが、子供がいたらそれを守るために全力で戦おうとするのは共通している気がする。

 うーん、ここは拘り過ぎるのは危険な気がしてきた。

 誰かが怪我するのも嫌だしなぁ……。


 その時、大きな咆哮が聞こえた。


 一瞬で全員の体が強ばった。


 

今回はミルーとケリーです。


【ミルハイア・グリード/26/2/7425 】

【女性/2/2/7424・普人族・グリード士爵家長女】

【状態:良好】

【年齢:12歳】

【レベル:4】

【HP:53(53) MP:861(861) 】

【筋力:8】

【俊敏:11】

【器用:7】

【耐久:7】

【特殊技能:地魔法(Lv.5)】

【特殊技能:水魔法(Lv.5)】

【特殊技能:火魔法(Lv.4)】

【特殊技能:無魔法(Lv.6)】

【経験:15147(18000)】


【ケリー・ドクシュ/20/3/7424 】

【男性/5/4/7423・狼人族・ロンベルト王国ウェブドス侯爵領登録自由民】

【状態:良好】

【年齢:13歳】

【レベル:4】

【HP:66(66) MP:3(3) 】

【筋力:11】

【俊敏:11】

【器用:10】

【耐久:10】

【特殊技能:小魔法】

【経験:14965(18000)】

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