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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百三十五話 祭壇 4

7447年7月10日


 俺の左手を起点に膨大な空気が発生する。

 それが円錐状に広がる乱気流となって上空に舞い上がる。

 その余波を受けて周囲の木々は折れ曲がらんばかりに歪み、揺れる。

 耳が急激な気圧変化でツンと鳴った。

 ある程度の指向性は保持したまま、目標のワイヴァーンまで一瞬で届く。

 乱気流の渦中に捕らわれたワイヴァーンが姿勢を崩す。


 そこに殺到する紫色の光線。

 全ての光線が高速で上下左右に動き俺の魔術を無効化していく。

 だが、思惑通りキラキラと煌く粒は、新たに発生したものも含めその殆どが散らされて上空には残っていない!


 間髪入れずに電撃を飛ばした。

 一瞬にせよ超乱気流に巻き込まれ、辛うじて墜落だけは免れただけのトビトカゲへと。


「ギャオオオォォン!!」


 今度こそ光る粒に邪魔されることなく電撃はワイヴァーンをその青白く輝く触手に捉えた。

 そして、また光線が殺到したが、時すでに遅し。

 ワイヴァーンはダメージからか、それとも電撃によって筋肉が硬直してしまったのか、中途半端に翼を広げたまま墜落してくる。


「仕留めろっ!!」


 そう叫ぶと銃剣を手に墜落地点だと思われる場所目指して走りだした。


 周囲から続々と皆が合流して来た。


 バキバキと枝を折り、次いでドン! という地響きに似た音が響いた。


「こっちだ!」


 少し前方の梢の影からトリスの声がする。


 到着した時にはエンゲラがワイヴァーンの目に段平(ブロードソード)を突き入れて滅茶苦茶に抉っていた。


「仕留めたのっ!?」


 誰かが問うが、エンゲラは狂ったように右手で剣の柄を動かし、左手に取り付けた小楯のスパイクで側頭部を殴りつけている。

 ワイヴァーンは動いていない。


【状態:電撃傷・挫傷・刺創】

【HP:-9(612) MP:25(25)】


「エンゲラ、もう止せ」


 既に瀕死だ。もう何も出来やしない。


「ヒッ、グッ」


 小さな悲鳴を上げながらもエンゲラは目に突っ込んだ剣を動かし、盾のスパイクでガスガスと殴りつけている。


 ヒュン、と誰かの矢が飛んできたが長い首を覆う鱗に弾かれた。

 カームかな?


「もういい、マルソー。止めろ」


 トリスがエンゲラを後ろから抱え込むようにして押さえ、口で左手の手袋を引き抜くと手を伸ばしてワイヴァーンの頭に触れてステータスを見た。


「死んでます」


 やっと近くまで寄ってきた俺を見上げてトリスが報告する。


【状態:死亡】

【HP:-76(612) MP:25(25)】


「ひうっ、はぁっ、はぁっ……」


 エンゲラの顔を見ると涙でくしゃくしゃだった。

 余程怖かったんだろう。

 彼女が隠れて待機していた場所のすぐ側にでも落ちてきたのか。

 そりゃ仰天もするだろうよ。


「もう大丈夫、ワイヴァーンは死んだわ」


 ミヅチがエンゲラの手を取って立たせてやった。


「あ……お、奥……様……もう……」


「ええ、マルソー。もう大丈夫よ」


 エンゲラも落ち着きを取り戻したようだ。


「気を抜くな。まだ何か居るはずだ」


 全員に警告を発した。

 ライトニングボルトの檻は何事もなかったかのように未だ健在。

 立ち上っていた四本の七色の柱は消えているが、あの魔法を消してしまう光線の魔術を放ってきた存在も二十以上は残っている筈。

 ワイヴァーンを仕留めた程度で油断は出来ない。


「こいつの魔石は今はいい。それより、守りやすい所に移動だ。さっきの広場の手前まで移動する」


 広場の中に入る直前の場所まで移動すべきだ。

 片面の視界を確保可能なうえ、深い森に身を隠せる。




・・・・・・・・・




 周囲を窺いながら数分ほど待機を続けていると、何かが近付いて来たのが解った。

 勿論、気が付いて警告を発したのはベルだ。


「左から四本足が一匹……右からも四本足、かな? ……左奥から……分かり難いわね……右奥からも何か来るようです。左右の近いの以外は遠くてよく分かりません」


 少なくとも合計で四匹か……。


「ミヅチ、何だか判る?」


 ラルファがミヅチに尋ねている。

 そうそう、こういう時にミヅチの特殊な知識がモノを言うことがままあるのだ。


「さっぱり見当が付かないわね……」


 流石に難しいようだ。

 だが、彼女に予想が付けられないようであれば他の誰にも無理だろう。


 遠くからガサガサと音を立てながら何か動物が接近してくる気配。

 同時に「ブフォー」という吐息。

 バキバキバギンという何かを崩すような音。


「なに? あの音……」

「さぁ?」


 ラルファとキムが小声で会話をしている。


「何だか何か壊しているような……」

「石でも崩してるのかなぁ?」


 ズールーとグィネも言葉を交わしている。

 言われてみればそんな気もするね。


「ベル! 足の数は四本ね!? 二本とか八本、三本じゃないのねっ!? 重要なのっ! 特定して!」


 彼らの会話を聞いたミヅチが慌てたようにベルに尋ねている。

 何だ?


「ん……そうね。左右両方とも四本、だと思う」


 目を瞑って耳に神経を集中させながらベルが答える。


「確かね!?」


 ミヅチの目が興奮で血走り始めている。

 何なんだよ?


「三本? ちょ、ちょっと待って……近い方の二匹は確かに四本足よ」


 閉じていた目を開いてベルがしっかりと答えた。


「余裕が無いわ! 全員牛みたいなのが見えたら弓でも魔術でも総攻撃! 弱らせるまで決して近寄らないで! 固まっていてもダメ! 貴方は風魔法でとにかく空気を散らせて!」


 空気を散らせたら弓なんか当たらないだろうがよ!?


「あの音! 最悪なら石化のブレスがあるわ! 何としても貴方と私だけは攻撃を受けちゃダメ!」


 俺が文句を言う前にミヅチは驚くべき内容を口にした。

 それ聞いた全員の顔に怯えが走る。


「ベルも銃じゃなくて出来るだけ魔法を使って! カームさんは牽制だけでいいわ。それから森に逃げ込むのは足場が悪いからダメ。広いところで逃げまわってとにかくまず一匹、確実に仕留めるわよ!」


 魔法ったって、あの光線は? ……すぐに無効化される訳じゃないし、視認されなければ光線も撃てないか。


「とにかく四本足なら八本足より大分まし。散開(スプレッド)!!」


 ミヅチが強い口調で命じてきた。

 反射的にバラバラに走り出す俺たち。

 僅かな情報だったが、きっと彼女には何か心当たりが得られたに違いない。




・・・・・・・・・




 最初に見えたのは左の方から近付いて来た奴だ。反射的にファイアーアーバレストミサイルを叩き込み、他の皆の魔術も綺麗に決まったので、そいつは何も出来ずに倒れた。


 体の各所が角質化して、一見すると亀の甲羅にも見えるような黒っぽい皮膚をしている。

 大きな二本の角を頭の左右に生やし、牛そっくりのゴーゴンと言う奴だ。

 聞いたことあるな。


 次に右から近付いて来た一頭も広場に顔を出した瞬間に魔術を撃ち放った。

 幾つか躱されはしたものの、俺とミヅチのミサイルを付加した魔術が命中して事なきを得た。

 石化の息を吐き出させる暇なんか与えない。


 しかし、その後に現れた二頭が問題だった。


 広場に面していた左右の木々がビキビキと音を立てて石化したのだ。

 石と化した木をへし折りながら俺たちの居る広場に突進して来る。

 二頭同時にだ!


 二頭とも灰色の石化のブレスを吐き散らしながら猛スピードで右に左に、ベルとトリス、グィネ、ラルファから放たれる攻撃魔術を避けながら近寄ってきた!

 氷漬け?

 固まるよりもブレスを吐く方が早いさ。

 無理に決まってる。


「ブフォーッ!」


 ブレスを吐き出す度に風魔法でその吐息を散らす。

 拡散させるとかなり効果が薄れるか無くなるようだ。

 しかし、この様子じゃあ氷漬けどころか攻撃魔術を叩き込む隙もありゃしない!

 後ろの方でもミヅチが必死になっているようだ。


「キム! 貴女の槍で!」


 カームの叫び声が聞こえる。


「はいよっ! 任せなっ」


 阿吽の呼吸でそれに応えるキム。


 ブレスに対する防御はミヅチに専念させ、その間になんとかベルの魔術かキムの槍を叩き込む算段なのだろう。

 弓矢が役に立たないために、早々に放り捨てたカームとズールーが勇敢にも前進して囮になっているようだ。


 俺の方はエンゲラとラルファが囮になり、グィネの槍とトリスの魔術が攻撃役だ。

 だが、グィネの槍は魔法の武器ではあるがキムが使っている物ほど長くもないし、グィネの体も大きくない。

 必然的にリーチは短くなり、その分囮にも負担がかかる。

 攻撃魔術を使いたいが、あのブレスを散らせるくらい風魔法のレベルが高いのはこちらには俺の他にいない。

 向こうにもミヅチしかいねぇけど。


 トリスのストーンボルトが偶然に前足に当たり、それを好機と見たエンゲラの攻撃がクリーンヒットしなければ仕留めるのにもっと時間がかかっていただろう。

 エンゲラが連続して攻撃を命中させ、グィネの槍が横腹に突き入れられ、ラルファが頭を叩き割った。


 なんとかこちらの一匹は倒せた。

 ミヅチたちの方はどうか?

 魔力を練りながら振り返った。


「あああぁぁっ!」


 カームの小さな体が弾き飛ばされたところだった。

 思わず攻撃魔術をキャンセルし、カームが弾き飛ばされた方へと駆け出す。

 ブレスはともかく踏みつけられでもしたら……!


 そして、最悪の事態が展開される。


「ぐおっ」


 次に跳ね飛ばされたズールーの巨体が俺に当たり、俺も転がってしまう。

 そして、そのままミヅチに突っ込んだ。


「ひいいっ!」

「ああ、手、手がぁっ!」


 キムとベルが石化のブレスを浴びてしまったのだ!

 みるみるうちに二人は物言わぬ彫像と化した。

 特に変化のない武器や装備品はそのままに。

 くそっ!


「ベルッ!!」


 トリスがベルに駆け寄る。


「ダメッ!! 近寄ったらベルまで攻撃されるっ!!」


 俺の下からミヅチが叫ぶ。

 ズールー、どけっ!

 渾身の力でズールーを跳ね飛ばして再び魔力を練りながら起き上がろうとする。


「いえええぇぇいっ!」


 気合いの叫びを上げて駆け込んできたエンゲラの段平(ブロードソード)が最後のゴーゴンの首筋を切り裂いた。




・・・・・・・・・




 キムとベルは解石化(リムーブ・ペトリフィケーション)の魔術によってすぐに彫像から解放された。

 どうやら二人とも石と化していた間の意識は無かったらしい。

 肉体に戻ると同時に半狂乱になった。

 が、すぐに状況は理解できたようで落ち着きを取り戻してくれた。

 それからカームとズールーの傷を治療した。


 また、ゴーゴンが死ぬと同時にライトニングボルトの檻も消えていた。

 しかし、ライトニングボルトの檻が消えたということは光線はこのゴーゴンが放ったのだろうか?


 鑑定してみたが【石化吐息(ペトリフィケーション・ブレス)】しか特殊技能は無いぞ?

 魔法の特殊技能は疎か、あの光線に関係ありそうな技能すら無い。


「ステータスオープン……しかし、おかしいな」


 つい疑問が口を吐いて出た。


「何が?」


 ラルファが答える。


「あの光の帯でしょう?」


 ベルが言う。その通りだ。


「暫く警戒した方が良さそうですね」


 トリスも同意した。


「ミヅチさんは何か心当たりあります?」


 グィネがミヅチに尋ねるがミヅチも解らない、と言うより心当たりのモンスターが多過ぎて判断が付けられないようだ。

 さもありなん。

 魔法が使えるモンスター全てが候補足りえるだろうし。


 暫くの間、用心しながら周囲を警戒していたが、以降は特に何事も起きなかった。

 取り敢えず、当面は安全そうだと判断したので奴隷二人に命じてワイヴァーンとゴーゴンから魔石を採取させた。


 ワイヴァーンの魔石の価値は、鑑定によると八十九万飛んで百二十三。ゴーゴンの魔石はそれぞれ微妙に価値は異なっていたが四つとも二十万前後だった。売れば魔石だけで一千万Zを優に超える。


 また、勿論のことだが、ワイヴァーンの刺みたいになっている尻尾の先については切り落として慎重に回収した。

 ミヅチが大切そうに仕舞っていた。

 猛毒を備えているらしいからな。

 でも特殊技能に【強毒(ヴェノム)】ってあるって事は、毒自体は普段は無いのかね?

 切り落とした尻尾の先を鑑定しても【ワイヴァーンの尾先】としか出ていないし、サブウィンドウを見ても毒に類するような記載は無かった。


 そして、尻尾の回収の時に気が付いたのが、ワイヴァーンの鱗だ。

 一番大きなもので長径六~七㎝、短径四~五㎝の丸っこい菱形をしているのだが、その鱗の表面には全て例の階層守護者の紋様が薄っすらと浮き出ていたのだ。


 魔力検知(マジカル・ディテクション)の小魔法(キャントリップ)では反応が見られなかったが、魔力感知(ディテクト・マジック)の魔術には僅かに反応が見られた。


 これには全員が大興奮であった。


「ワイヴァーンの鱗を加工して防具を作れば、一体幾らの値が付くのか想像も付かない」


 とミヅチが言ったことも大きかったし、


「私の出身地のご領主のザーム公爵家にはワイヴァーンの鱗から作ったという鎧が家宝として代々伝わっているそうよ」


 とキムが呆然としながら言ったこともそれに拍車をかけた。

 公爵家の家宝と同格ってんだから興奮するなという方が難しいだろう。

 面倒だし、時間も掛かるがうっちゃる手は無い。

 鱗は一片も残さずに全て回収する事にした。

 そして、回収した鱗のステータスを見てまたもや騒然とする。


【原種ワイヴァーンの鱗】


 僅かに透き通るような色合いの黒褐色の鱗。

 鑑定のサブウインドウを見ても、特に変わったところはない。


 念のためゴーゴンの角も八本全部回収した。


【ゴーゴンの角(左)】


 (左)とか馬鹿にしてるのか?

 そう思ったが誰も疑問には思わなかったらしい。

 言われてみれば確かに【小鬼人族(ゴブリン)の右手】とか【オークの眼球(左)】とか出るよな。

 なんかもう、どうでもいいわ。


 その後はまず光の柱が立ち上った辺りを捜索してみようということになった。

 確かに光線は気になるが、わからない物を考えても仕方がない。

 何か分かりそうな場所の調査から始めてみようというだけの事であまり深い意味は無い。


 グィネの記憶を頼りに一番近かった光の柱の場所まで行ってみたが直径二十m程度の小さな荒れ地が広がっていただけで特に何も怪しい物は発見出来なかった。


 仕方ないのでもう一つ隣の柱の場所まで行ってみても同様だった。


 この時点で既に時刻は二十四時を回っていた。


「そろそろいい時間ですが、どうします?」


 トリスが尋ねて来るが、まだ休む訳にはいかない。

 ここまでの間に光線の発生源はひょっとしたらモンスターではなく、途中で幾つか見かけた祭壇ではないかという意見も出ていたのだ。

 今までの祭壇とは形も違うし、俺を含む転生者全員の頭にはある単語を連想してもいたからだ。


 すなわち、機械。


 または、魔道具、若しくは魔法の品。


 恐る恐る一つの祭壇に近づいてみた。

 だが、ライトニングボルトの檻が発生する以前に傍まで寄っても何事もなかったのだから特に恐れる必要はない。

 外側から調査しても結局何一つ解らなかった。

 思い切って少し離れた場所からストーンカノンの攻撃魔術を叩き込んでみたら呆気無く壊れた。

 中には機械など存在しない、単なるムクの石に見える。


 でも、流石に皆、体力の消耗が激しい。

 恐らく、明日の十時くらいまではモンスターの復活も無かろう。 


 取り敢えず乾パンでも齧って中心の転移水晶の部屋で休息を取るべきだ。


 ところで、本日のMVPはどのくらいHPが残っていたかは不明だが、ワイヴァーンを仕留め、更にその後、二頭のゴーゴンに大ダメージを与えたエンゲラだよな。

 レベルも上がってるようだしね。


 

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