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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二百二十九話 地底の恐怖

7447年6月29日


 十層の守護者が通せんぼしていると思われる、直径二㎞程の大きな部屋に入る直前、昼食を兼ねてミーティングを行っているところだ。結局ライフル銃もネット・シューターも持ってきた。初めて十層の守護者と相対するのだからして、念には念を入れて当たる必要がある。今度の守護者にはあの無茶苦茶強いミノの数が増えている事まで予想されている。従って、ミヅチを始め誰一人として銃を用意する事に反対はしなかった。


「またミノタウロスなんでしょうね……」


 グィネが今さっき食べ終わった鶏の腿焼きの骨を地面に掘った穴に放り投げて言う。


「そうじゃないかな?」


 トリスが鶏の脂で汚れた指をぺろりと舐めあげて答えた。

 舌の先が二股に分かれてると便利そうだな。


「八層と九層は判ってるからいいとして、五、六、七層もミノタウロスだったんでしょう?」


 そして俺に確認するように尋ねる。


「うん、国王からはそう聞いてる。一層から四層の記録は残ってないらしいけど、恐らくミノタウロスだった、と考えていいと思う」


 俺は水筒に作った干し肉のスープを啜りながら返事をした。


「どういう方法で行く?」


 ゼノムが汚れた髭を手拭いで拭きながら質問をする。


「どういう方法って、いつもと一緒でいいんじゃない? ベルが網で絡める。マルソーが網に絡まってない奴を撃つ。それでいいじゃない」


 早くもデザートのみかんの皮を剥き始めたラルファが、他にどんな方法があるのかと言いたげな顔で答えた。戦闘突入の手順としてはそれでいいだろうさ。だが、ゼノムの言葉は細かいフォーメーションや個人個人の間隔、エンゲラが撃つ目標の順番、同時に行われるミヅチによる援護射撃の順番、そういった事を予め話し合っておこうという事だぞ。


「基本線は九層のミノタウロスを相手にする時と同じで良いんじゃないかな?」


 ベルが言うが、それ以外に作戦なんか立てられっこない。

 今話し合うべきは九層に集団で出て来たミノタウロスを相手取るときの作戦パターンの再確認と、想定外の事態への対処法だ。


 要するに、まずはアンチスキルエリアがまたあるのかどうかという問題。これは“ある”と想定しておくべきだろう。ミヅチの【部隊編成パーティーゼーション】が切れたら即座に判明するだろうし、もしも継続しているようなら俺が氷漬けにするなり攻撃魔術でカタをつけるなり出来るのでラッキーなだけだ。


 次に戦闘場所の地形の問題。見た感じだとこの馬鹿でかい部屋は八層や九層の中心の部屋とあんまり変わりがないように見える。仮に同じ様な部屋だとすると中心部の転移水晶の間は大きな柱の中にあって、そこへの出入口をミノタウロスが守護している筈だ。柱の周囲五十m程は身を隠す岩などが全く無い、無味乾燥とした土の地面が広がっているだろうと思われる。


 問題は障害物や身を隠すような岩、場合によっては七層のような樹木が生えていた場合だ。その大きさや密度によってはネット・シューターは効果的に使えない可能性がある。その場合どうするかについて話し合う。


「……そろそろ行くか」


 話し合いが終わり、鶏の骨など食べたもののカスを掘った穴に埋めると最後の装備点検を始める。


 銃剣、良し。

 ナイフ、良し。

 サバイバルキット、良し。

 各所のバンド、兜の緒まで含めて良し。


 皆もそれぞれの装備を点検している。

 通常の装備品に加えてベルがネット・シューターを一丁。更に盲目の矢を念のため一本。

 予備のネット・シューターをミヅチ。盲目の矢を三本。

 そしてライフル銃がエンゲラだ。今回エンゲラは盾は携帯していない。

 ここまで網を運んでいたズールーとバストラルは身軽になった。


槌参番ハンマーヘッド・スリー、五m間隔だ」


 前列中央に立つゼノムの右にトリス、その右にラルファ。ゼノムの左にズールー、ズールーの更に左が俺。槌の柄の先頭部分がバストラル、その後ろにグィネ、以下エンゲラ、ベル、ミヅチというTの字の隊形になる。


 そして、部屋に突入し、やはり外周から五百mあたりまで進んだところで先頭の五人がほぼ同時、殆ど間を置かずに【部隊編成パーティーゼーション】の感覚を消失した。今までの八層や九層で慣れているうえ、予め想定されていたために、慌てる奴は誰一人いない。みんな落ち着いたものだ。


 即座にトリスが手近な岩陰に隠れると一瞬だけ炎の剣(フレイム・タン)の炎を発動させた。魔法の品(マジック・アイテム)の使用についても問題はない。


 作戦通り槌の柄に相当していたメンバーが前進してきて俺達は横列弐番エシュロン・ツーへ移行した。守護者の視界範囲に入って部屋が明るくなり、ベルが網を撃ち放った瞬間に今度は天秤弐番バランス・ツーへ隊列を組み替えて全体の指揮をミヅチが執るようにする。


 飛び道具の無い俺は前衛の駒に徹するべきだ。

 俺がライフル銃を使ってもいいが、そうなると前衛の力は格段に落ちる。


 今のところ八層、九層の中心の部屋と特に変わった部分はない。


 あと四百m程進めば守護者の視界に入り、ライトニングボルトの檻が発生するだろう。


 俺達は慎重に進んだ。




・・・・・・・・・




 予想していた地点より遥か手前で部屋が明るくなり、続いてライトニングボルトの檻が発生した。まだゴツゴツした岩がそこここにある。岩の大きさ自体は人の身長くらいに小さくなってはいるものの、先に見えている柱の下に居ると思われる守護者の姿は確認出来ない。


 俺を含め全員に緊張が走る。

 あと五十m以上は先の予定だった。


 これは、ミノじゃない!

 ミノだとしても更に強力な奴だ!


鋒矢陸番アローヘッド・シックス! ここじゃ視界が悪い、前進だ! ベル、相手が見えたら撃てっ!」


 即座にベルを先頭、その左右後方にミヅチとエンゲラとした隊形に移行した救済者セイバーズは俺の命に従って前進速度を速めた。部屋が明るくなったということは守護者に気取られたと言うことで、今更足音を隠すようにそろそろと移動したところで意味は無い。


 それに、この距離で気取られたと言うことは相手はオーガメイジ並みの鋭い探知感覚を持っているか、さもなくばサンドシャークやレッサーヨーウィーのように【振動感知バイブレーション・センシング】を備えていると思われる。備えているとして、それを使っているのかまでは判らないけど。


 二十m程をダッシュしたベルは高さ一m弱くらいにまで小さくなった岩に飛び乗るとネット・シューターを構えた。続いてミヅチ、エンゲラもその左右に展開しそれぞれの得物を構えている。彼女らの視線の先には二匹の偉丈夫とも呼べるような、身長三m以上はあろうかという大きな人型のモンスターがこちらに向かって来ているのが見えた。


 足は太く頑丈そうで、二本指のように爪先が大きく二つに割れ、その先は鋭い爪になっている。

 踵の方も指みたいに大きく尖っているようだ。

 腕も太く、指は四本あるようだがその全てが足同様に鋭い爪のようになっている。

 幅の広い、キチン質に覆われたような胴体を持ち、その色は黒に近い暗褐色アンバーだ。

 首が埋まり込んだような胴体の上には横に扁平した大きな頭部を持っている。

 その幅は殆ど胴体と同じくらい、一m近くはありそうだ。

 頭部正面の下の方は扁平した頭の端から端まで届きそうな大きな口があり、中には無数の牙が見えた。

 口の両脇には内側に向かって湾曲する長さ一〇㎝くらいの大型の牙が生えていた。

 一匹はその更に外側に内側の牙の十倍近い長さの内側にギザギザのあるノコギリクワガタのような丈夫そうな湾曲した大顎が生えている。

 もう一匹にも外側の牙のような大顎があるが、こちらは内側の牙より少し大きい程度に見える。

 口の上には一対の動物のような目があまり広くない間隔で並んでいるが、その更に外側、扁平した頭部の両脇あたりには昆虫のように大きく、且つ黄緑色に輝く複眼らしきものも見て取れる。


 何だあいつ? クワガタ巨人か!?


 クワガタ巨人は何やら咆哮を上げながらだんだんと加速して走って来る。

 ドスンドスンという足音が響き渡り、否応なく巨人の体格を再認識してしまう。


 二匹いるのでベルが同時に絡めとってくれれば最高だが、贅沢は言えない。

 どちらか一方だけでもいい。

 厄介そうなモンスターだが、残った方をミヅチが絡め取ればそれで終わりだろう。


「!」


 モンスターの姿を見たミヅチが一瞬だけ息を呑んだが、そのままネット・シューターを発射した。殆どベルと同時発射だ。ミヅチは撃ち放ったネット・シューターを放り投げると腰の剣を抜いて叫んだ。


「アンバー・ゴライアスよ! 散開スプレッド!」


 見るからに危険そうな相手だ。

 体表のあちこちはまるでカブトムシかクワガタのように鈍く光を反射している。

 アンバー・ゴライアスという名前自体は以前ミヅチから聞いたことがある、気がする。

 彼女の故郷、エルレヘイの地下都市拡張工事の際に出くわすことがあったとか。

 トンネル掘りの得意な奴だったと記憶している。

 そうそう、ステータスではアンダーグラウンド・ヴォジャノーイと出るんだっけか。


 ベルとミヅチの発射したネットは左側の顎の小さな個体を絡め取ったようだ。


「皆、出来るだけ間隔を開けて! 前衛は念の為に相手を見ないでっ! 弓矢は通らないっ!」


 無茶言うな!

 だが、文句を言って行動を鈍らせる奴はいない。


「足元だけを見て! 近くでアンバー・ゴライアスの外側の目を両方見ると混乱するわ! マルソー、あなたは後退しながら距離を取って落ち着いて狙って」


 ミヅチが言っている途中でエンゲラのライフル銃が轟音を放った。

 弾丸は確かに命中し、大顎を生やした奴の足に命中した。

 まず足を傷つけて移動力を削ぐのは鉄板なので足を狙ったのは正解だ。


 しかし、何と言うことか!


 装甲のように膝を覆うような甲殻の表面に火花が散ったではないか!


 火花が散ったということは弾丸は弾かれた!? 

 そんな!?


 だが、もう一発。

 再び轟音を上げて放たれたライフル弾はその大きな腹部に命中した。

 今回は火花を上げるようなことはなく、しっかりとダメージを与えたようだ。

 腹部に空いた小さな穴から膿のような黄色い液体が噴き出している。

 少しだけ安心した。


「下がりなさい、マルソーッ! 貴方だけはきちんと距離を取って!」


 ミヅチの厳しい声が飛ぶと同時に「ふんっ!」とゼノムが気合を込めて斧を投げつけた。

 斧はくるくると回転しながら飛び、クワガタ巨人が防御しようとした右腕に突き立った。

 ナイス牽制!


「ギモ゛ォォォォッ!!」


 腹と右腕に傷を受けたクワガタ巨人が苦痛の叫びを上げながら、それでも速度を緩めずに、大きな爪を生やした左腕を振り被って走って来る。

 ところで、目を見ると混乱するって特殊技能かね?

 ならここじゃ使えないんじゃ?

 念のためか。


「くっ!」


 ビン、と弓弦の鳴る音を立ててベルが弓を放つ。

 頭部の目を狙ったようだが、クワガタ巨人は僅かに体勢をずらして目以外の位置で矢を受けた。

 矢は弾かれた。


「矢は弾かれる! ベルも前衛に! ズールーのカバー参!」


 ミヅチがベルに怒鳴る声を聞きながら俺は銃剣を構えて猛ダッシュだ。

 腹や胸なら弾丸が通る。

 ならば俺の銃剣だってなんとかなるだろうさ。


「伍! 参! 拾! おおおおおおっっ!」


 簡単に方針を伝えながら左腕の爪を掻い潜り、下腹と思しき場所に突き入れる。

 いい手応え!


「ゲエェェッ!」


 耳元で叫ぶなよ。うるせぇから。

 銃剣をこじってダメージを拡大しようとする。


「サージ! アルのカバーをっ! ラルは右弐、トリスとズールーは左から拾壱!」


 俺の指示を受け、矢継ぎ早に飛び出すミヅチの指揮を聞きながら引き戻された腕での攻撃も躱した。


「たぁりゃ!」


 俺の頭の上に槍がはしる。

 バストラルか。


「えええいっ!」


 ガクンと巨人の体勢が崩れた。

 ラルファの斧が傷ついた右腕にヒットしたらしい。

 視界の隅でゼノムの斧がひとりでに抜け、回転しながら戻っていった。


「エメロン!」


 トリスが剣に炎を纏いながら左の脇腹に斬り込んで駆け抜けた。

 傷口がじゅわっと音を立て、一瞬にして嫌な匂いが立ち込める。


「ゴギャアアアッ!!」


 俺のすぐ上で耳障りな叫び声が迸る。


「ふんっ!」


 トリスの駆け抜けた後でズールーが両手剣バスタードソードの一撃を左腕にお見舞いしたようだ。

 素晴らしく良い連携だ。

 普段の訓練の賜物だろう。

 ミヅチが「マルソー! もう一匹へ牽制射!」と叫びながら俺のカバーに入る位置についた。


「ガブバド!」


 ベルはやっと剣に持ち替え、突撃開始か。

 ラルファは引き続き俺から見て左の方で牽制を続けている。


「右へっ!」


 グィネに声を掛けられた俺は指示通り巨人の右へと体をずらしながら銃剣を引き抜く。

 巨人の体勢が崩れ、その左膝が地に着いた。

 今まで俺の体が専有していた空間を魔法の槍が駆け抜ける。

 しかし、ガバっと巨人の大顎が開き、俺を……!


シッ!」


 間一髪、カバーに入っていたミヅチが大顎の片方を斬り飛ばしてくれた。

 ほぼ同時にエンゲラの牽制射の銃声が響く。

 再度、バストラルとグィネが突きを放ち、片顎しか残っていない巨人の頭を俺から逸らせてくれた。


 全開のタコ殴りモードだ。


「うああああっ!?」


 ラルファの声だ!

 恐怖、不安、興奮、混乱、惑乱、色々な感情が篭っている。

 思わず彼女の方向を向いてしまう。

 当然その間には片膝を突いた巨人が居る訳で……。


 片側を斬り飛ばされた大顎の内側の牙をギチギチと鳴らし、その頭を俺に向け直している巨人。

 大顎の付け根の大きな複眼が左右とも目に入ってしまう。

 小さな複眼の一つ一つがチカチカと細かく明滅している。


 なんだ? これ?

 目が離せない。

 遠目に見た時はなんともなかったのに……。


 急激に吐き気をもよおし、ぐにゃり、と視界が歪んだ。


 

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