第二百二十五話 若気
7447年4月28日
ほぼ勢揃い状態の殺戮者の面々を見て、驚いている俺やショーンの前にゼノムが進み出て来た。
「まぁ、折角だしな。今回の納品の時にこいつらも王城に連れて行ってやってくれ。救済者以外じゃロリックくらいしか王城に入ったことはないと言うからな。些か人数が多いが中堀の手前までは入れるだろう? 城を見せてやれよ。俺も久々に見てみたい」
確かに人数が多いよな……ここには俺も入れて殺戮者だけで二十人程も居る。バークッドからの隊商や番頭のラッセグも含めると三十人弱にもなっちゃうよ。それでもゼノムの言う通り、皆はグリード商会の従業員として登録はあるから問題はないと思う。多分だけど外堀を越えて三の丸の曲輪には入れるだろう。二の丸の曲輪に入る為には中堀を越えなきゃいかんが、武装しているいないに拘わらず、入れるかどうかは……判らない。
王城は少し変形部分もあるが、日本風に言う平城で概ね輪郭式の構造をしている。簡単に言うと大小の輪っか状の土地、曲輪が堀を挟んで幾つかあるってこと。最外部に外堀が回らされており、その内側にかなり面積のある三の丸の曲輪がある。外堀に掛かる橋は何箇所かあるが、跳ね橋ではなく、固定された頑丈な橋だ。橋の三の丸側には全て大きな門があり、門番の詰め所となっている櫓もある。もし持っていたら武器なんかはここに預けることになる。
三の丸には厩舎や駐屯する護衛部隊用の宿舎などもあるし、門以外にも各所に櫓なんかもある。軍隊が籠城することも考慮されているからだろうが、結構な広さの空き地も目立つ。天守閣に比べると簡易的ではあるが、三層構造をしている三の丸城とでも言ったら良いのか、砦のような本格的な櫓もあって、中堀から二の丸へと続く、唯一の跳ね橋を守護するかのように鎮座している。
その跳ね橋を通り、中堀を越えると、そこが二の丸の曲輪だ。ここも防衛用の櫓の他、ちょっとした庭園なんかもあったりする。三の丸同様に本丸に続く跳ね橋を守るように三層構造の櫓もある。各省庁の王城の出張所となる建物もここにあるし、第一から第四までの各騎士団の本部もある。騎士団の団長や副団長、本部職員などはここに出勤する。姉ちゃんも第一騎士団に所属してはいるが、第一騎士団を始めとする各騎士団の駐屯地は王城とは別の場所にあるので普段ここには居ない。
通常、鎧の納品はこの二の丸か三の丸のどちらかの三層構造の櫓の一室で行われる。どちらかと言うと、三の丸で行われる事の方が多い。当初こそ三の丸の空き地で納品や受注を行っていたが、ここ二~三年は三の丸城の丁度良い部屋が空いていない時に二の丸に行く感じだな。要するに俺も片手で数えるくらいしか行ったことはない。
で、最後に内堀があって、その中が本丸の曲輪だ。ここには当然天守閣が聳えている。当然だが俺もここに入ったことは無いから外からしか見たことはないので中がどうなっているかは知らない。
「ちょっとね、目標って奴を見てみたくなったのさ」
ゼノムの隣にジンジャーが進み出て言う。
ふっ。
誰が言い出したのかは知らんが、そういう事か。
「……ま、いいだろ。でも、入れるのは『三のま』……最外部までだと思うぞ?」
「構わないさ。話に聞く王城の一部でも見れるなら見てみたい」
サンノが肩を竦めながら言った。
ああ、そうだ。これ言っとかなきゃ。
「それと、ミヅチ、ゼノム、トリス、ベル、ロリックは今回遠慮してくれ。皆は前にも見てるだろうし、流石に人数が多過ぎる」
「「ええ~っ?」」
・・・・・・・・・
折角来たのにとかぶうぶう言う五人を店に残して、それでも合計二十人以上もぞろぞろと引き連れて王城に向かい、納品を行った。三の丸には問題なく入れたが、やはり二の丸には入れなかった。
それでも建物を彩る精緻且つ豪華な装飾や、芝生を見事に刈り揃えられた空き地などには全員かなり驚嘆していたようだ。ロッコやジェルが騒ぎ出しでもしないかと少しヒヤヒヤとしていたが、彼らも流石の豪華な造りに感嘆してきょろきょろと見回し、たまに「はぁ~っ」と小さな声を上げるばかりだった。
このロンベルト城が一応完成し、城として機能を開始したのは今から五十年程前の事らしい。装飾なども含め完全に施工が終わったのがそれから四十年後、僅か十年前だとのことだ。それ以前はここから少し北、現在では下級貴族街となっている辺りに以前のロンベルト城が建っていたそうだ。当時の国王である今の国王の爺さんが即位した十年後に新しいロンベルト城が八十年越しの工事によって完成したために古い方を二十年かけて廃城にして均し、移転したんだと。
そんな又聞きの知識をつらつらと垂れ流して解説までしてやった。
納品と見学を終えて城から出た後、商会に戻る道すがらカームと話をした。
今回の王城見物について皆に提案したのはトリスだった。トリスはこれから先、新しい国を作るという俺の目標について少しでも理解を深めて欲しいと言ったそうだ。それを聞いて、一度くらい王城を見てみるのもいいだろうと思ったんだと。勿論、全員が一度王城内部を見てみたかったという理由もあったみたいだけど。
ゆっくりと商会本部へと戻る道すがら、皆の話し声が聞こえてくる。
「いっやぁ~、すごかったねぇ~」
「うん、あんなのお伽話でしか聞いたこと無いよね」
「ショーンさんは何回も入ってるんでしょ? もっと奥に行ったことはあるの?」
「ああ、俺は一回だけもう少し奥に行ったことがある」
「あの先ってどうなってるんです?」
「もっと豪華な造りになってたな。かなり手の込んだ庭園なんかも見えた」
「はぁ~っ、庭園! そんなのまであるのか!」
「あの部屋の天井見た?」
「ああ、綺麗な絵が嵌めこんであったな」
「あれ、昔のお伽話だよね」
「そうなのか?」
「へぇ」
「そうよ。知らないの?」
「わからなかった……あまりの豪華さに目が眩みそうになってた」
「だよね。金だけじゃなくて一面漆塗りの戸もあったよね」
「あれは王国各地の風景を描いたものだそうよ」
「え? そうなのジェイミーさん?」
「ぷっ、お伽話じゃないじゃないか」
「……」
俺も初めて見た時は結構感心してあちこちキョロキョロ眺めていたっけ。
京都の大きな寺社仏閣や外国の有名な大聖堂の建造当初はあんな感じだったんじゃないだろうかと思っていたもんだ。絵の題材なんかは違うだろうけどさ。
そうこうしているうちに商会に到着した。苦笑いを浮かべた五人に出迎えられる。ここでも口々に王城の豪華さや素晴らしさを話していた。皆はこの後どうするんだろう? そう思って尋ねてみるとどうやら全員で食事に行くらしい。昨晩、一足早く王都に来た三人が店を予約していたそうだ。
どうせならバークッドからの隊商の皆や店の連中も一緒に食事したらどうか。そう思って提案してみるとトリスにやんわりと断られた。一緒に飲み食いして親睦を深めるのは夜にして欲しいとのことだった。なんだか釈然としないものはあるが、そう言うなら仕方ない。俺が居ちゃ話し難い事だってあるだろ。それじゃあ、幾らか援助させて貰ったほうがいいのかな、と思って申し出るとそれも断られた。なんだか善意を無にされるような気もしてあんまり面白く無いと思ったが、すぐにトリスが頭を下げて簡単に理由を説明してくれた。
今回の昼食会についてはゼノムやトリスを始めとする殺戮者の先輩が後輩に奢る形を取りたいのだそうだ。ふむ、確かにそれじゃ俺の出る幕はない。彼らは彼らで何度もリーダーをやり、それなりの信頼も得ている。
しかし、結局はまだ十九歳のガキが大半なのだ。二十代後半から三十前後の一流の冒険者を率いるにはリーダーとしての信頼感や個人の強さだけでなく、あらゆることに気を使いたいのだ。それにどの程度意味があるかについては置いておいて、何もしないよりは少しでも何かした方が良いと判断してのことだろう。
転生者だって過去の人生に加え、ガキをもう一回やって来ている。ただ腕っ節の強いだけ、多少頭が回るだけのガキじゃないって事を見せたいんだろうね。
人を率いるには未来を提示しないとダメだ。勿論、別の方法も無い事はない。例えば恐怖を与える、恐怖で縛るという方法だってある程度は有効だろう。それで失敗した奴も多いけど、ある程度までなら成功した例の方が多いと思う。別にスタートはどういう方法だって構わないさ。最終的に未来を提示し、それを目指すべきもの、自分がその一助になりたいと思わせられるなら、どこがスタート地点だって問題はない。自分で責任を取れるならな。
要するに決起集会のようなものをやりたいんだろう。
もっと突っ込んで考えるなら、トリスだって俺の作る国で上級貴族を目指していると公言しているのだ。ならば今すぐの家臣はともかく、将来に繋がる人脈だって欲しかろう。ロリックやビンスは貴族だし、ミースにも伝手があるらしいしな。
それなら俺は俺で別にやることをやるだけのことだ。まずは商会の帳簿を洗いなおして纏め、忘れないうちに行政府まで行って今回の鎧の贅沢税と一緒に先月分までの納税をし、ヨトゥーレン母子やラッセグたちから顧客の様子を聞き取り、ショーンたちには次回の納品物について改善の注文を付け、ソーセージ工場の抜き打ち検査を行って問題があれば叱責し改善させ、奴隷たちの教育状況の進捗のチェックを行い、ソーセージの原材料の仕入先に挨拶回りをするついでに今後の仕入れ量の推移予想を説明し、トゥケリンにもお礼を兼ねた挨拶のため顔を出しておかねばなるまい。おっと、サンダーク商会に行ってアミュレットについて話も聞いておく必要もある。
ある程度ミヅチと手分けするにしてもやらなきゃならん事は結構多い。ミヅチにはまず帳簿の検算に付き合って貰う必要があるだろう。そう思って声を掛けようとしたらトリスたちと一緒に出掛けるところだった……。
お前まで行っちゃうのかよ……。単に遊びに行くんじゃないんだろうけど……。もう一〇年以上も前から思考自体ラグダリオス語が中心になっているとは言え、ソロバンを使うにしても暗算をするにしても『願いまして~は、○○円な~り……』って日本語で言って貰った方が何故かちょっと効率良いし、集中し易いんだよな……。
仕方ないのでアンナに言い付けてサンドイッチを買ってきて貰ってそれを齧りながら帳簿の検算を行った。その後行政府まで行って納税を済ませた頃には三時を大幅に回っていた。
まだ日も高いが、ショーンたちを相手にヨトゥーレンたちとお茶を飲みながら顧客からのクレームや商品の改善点などを伝えておこう。ショーンたちもいつまでも居る訳じゃないし。そうして過ごしてると日も暮れてきた。契約している商会なんかに納品に行っていたラッセグやミリーがやっとある程度の仕事を終えて戻ってきた。ついでに少し酔い気味なのか、僅かに赤らんだエンゲラが店に顔を出すと、自分が留守番をするので殺戮者のみんなと一緒に食事をして来いという。
工場で働く奴隷のガキどもはズールーが中心になって飯に行くそうだから心配はいらないそうだ。元々飯を食うくらいの給料はやっているし、そっちは何の心配もしていなかった。工場の方はギベルティが留守番をしているそうだ。
何でも今回はローキッドで決起集会を開いており、皆はバストラルもキャシーも含めて未だ引き続きそこに居るらしい。王都でも指折りの高級レストランならショーンらの長旅をねぎらう意味でも丁度いい。バークッドの従士やラッセグ一家、ヨトゥーレン一家まで伴って出向いたらもう宴会になってた。ラルファやグィネがけたたましく笑う声が表まで響いてたよ。あのローキッドがバルドゥックにあるような安っすい店に堕したのかと勘違いしそうになるよな。
皆はすっかり酔っ払ってえらく陽気になっている。どうも食事のマナーについて勉強会を行っていたようだ。……おいおい、決起集会じゃなかったのかね? ま、いいけど。これだけの高級店で高級な料理をついばみながら大騒ぎするのもたまにはいいだろう。アンナにハンナ、カンナも大喜びだったし。
・・・・・・・・・
7447年4月29日
昨夜は結局、夜遅くまで宴会をしていた。お陰で従士たちや商会の通常の従業員たちと警備員たちの親睦もかなり深まった。結構楽しかったな。今日から殺戮者の面々は思い思いに羽を伸ばし、休みを満喫してからバルドゥックに戻るらしい。ショーンたちはもう一泊してゆっくり休んでからバークッドへ帰るそうだ。
夜明け前、まだ寝ぼけているミヅチを起こしてランニングに行くと、ズールーとエンゲラに先導されてランニングに勤しむソーセージ工場の奴隷たちに出会った。人数が少ないと思って尋ねてみると残りの半分は彼らが戻ってから今度はヘンリーやメックに先導されてランニングに行くらしい。道理で年長者の方が多いと思ったよ。
その時、奴隷の中から声が掛かった。誰かと思ったら工場の奴隷の年長者のうち男女二人、マールとリンビーだった。後で俺と話をしたいそうだ。
別にいいけどさ。
給料の賃上げ交渉かね?
今のところジョンとテリー以外はあんまり違いないけどな。
と言っても、彼ら二人は年長者だし、力仕事もあるし、小さい子の面倒まで見ているようだから他の奴らに比べたら少しばっかり多くしているんだけどな。
そう思ったら、驚いたことに戦闘奴隷になりたいと言ってきた。
変わった奴もいるもんだな。
宿に戻りシャワーを浴びてから一度店に顔を出し、出勤してきたヨトゥーレンたちに一声かけるとすぐに店を後にした。今日は最初にサンダーク商会に顔を出そうかと思っていたが、まずは先程の件もあるのでソーセージ工場へ。抜き打ち検査のためでもあるし、マールとリンビーと話をするためでもある。ミヅチにはトゥケリンの所に行って貰う事にした。遅れるけど俺も後で行くよ。
ソーセージ工場で働かせている奴隷はジョンとテリーを除いて二十二人だ。そのうち十一人は去年の夏、工場の操業を開始する時にタイミングを合わせて購入した。その後暫くして九人が追加され、更に二人、トリスの鎖帷子の調整の為に購入し、用が済んだらソーセージ工場に突っ込んでいた。
だから二人くらい抜けたところで工場の生産能力についてはあんまり変わりないだろう。でもさ、この二人、今年成人の年齢なんだよね。丁度一人か二人、戦闘奴隷が欲しいところではあったが、戦力にはならん。最低でも一年は武器の扱いに習熟させないと恐っそろしくてとてもじゃないがバルドゥックに連れてはいけない。
変な色気なんか出さずにおとなしく働いといてくれよ。で、お前らもう暫くしたら適当にくっついてガキを産め。その五年後くらいにはやらせたいと考えている事もあるしな。
工場に行くとズールーたちと一緒にマールとリンビーが俺たちを待っていた。
「戦闘奴隷になりたいと言っていたな」
工場の前にあった椅子を引き寄せてそこに掛けるとギベルティが差し出してきた焼きバルドゥッキーを朝飯代わりに齧りながら訊いた。
「はい、ご主人様。ズールー様のように稼げる戦闘奴隷になりたいです」
マールが跪いて真剣な声音で返答した。
「私もです、ご主人様。殺戮者に入れて下さいっ」
リンビーも跪いて同様に言う。
「……」
この年頃だと憧れなんかもあるのだろう。
または、やっぱり待遇の改善でも望んでいるのかも知れない。
俺の脇に控えているズールーとエンゲラの顔を見たいような気もしたが止めておいた。
ギベルティは店の奥に引っ込んで挽き肉機の分解を始めているようだ。
マールもリンビーも三レベルになったばかりだ。
購入当初は少し低目だった能力値も、食生活の改善もあって普人族の歳相応にはなっている。
勿論二人共立派な健康体だ。
「バルドゥッキー作って売るの、嫌になったか?」
「「いえっ! 決してそのようなことは……!」」
二人は慌てたように返事をした。
そらま、そう言うしか無いだろう。
「お前ら、武器を扱ったこと……ある訳ないよな」
「「はい。ですが必ず覚え、役に立ちますっ!」」
なんだろうね、この根拠の無い自信。
「おい、お前ら、立て」
バルドゥッキーを一口齧って言った。
「「はい」」
二人が立ち上がる。
瞳はキラキラと希望に輝いていた。
舐め過ぎだ。
「ズールー」
「はっ!」
「エンゲラ」
「はっ!」
「殴れ」
「「はっ!」」
バキッと殴りつける音が重なったかと思うとマールとリンビーはそれぞれ一撃で殴り倒され頬を押えて蹲った。
苦笑が漏れる。
手加減しやがって。
そのまま十秒程が経過する。
やっぱギベルティの焼き加減が一番最高だ。旨いなこのバルドゥッキー。
「マール、リンビー、ご主人様は“立て”とお命じになった。いつまで寝ているつもりだ?」
マールとリンビーは慌てて立ち上がった。
ああ、安心してくれ。
昔姉ちゃんと散々殴り合いをしたし、剣の稽古の時に親父や当時の従士長であったアイゼンサイド、ショーン、ウィットニー、ミッケンスなんかにもしこたま殴られ、蹴られているから解ってる。
素手で殴ってもHPに与えるダメージなんかたかが知れてる。
「殴れ」
「「はっ!」」
またバキッという音が二つ重なる。
今度はマールもリンビーもすぐに立ち上がった。
また手ぇ抜きやがったな。
「これで分かったろう? お前らじゃ物の役に立たん」
なんとなく気の毒になりつつもそう声を掛けた。
マールもリンビーも項垂れている。
二人共両側の頬を腫らしているようだ。
だが、鼻血すら流していない。
マールは悔しそうに歯を食いしばって俯き、拳を体の両脇で握り締めている。
リンビーも同様に俯いているが青い長い髪で表情が隠れて見えない。
まぁ同じように悔しそうにしてるんだろうけど。
「ご主人様がお尋ねよ? 返事をしなさい」
「「……」」
「殴れ」
「「はっ!」」
今度はドッと言う音が二つ重なった。
ズールーもエンゲラもボディーを殴ったようだ。
「「ぐうぅぅっ……!!」」
マールとリンビーは呻きながらも腹を押えてなんとか立ち上がった。
でも十秒くらい時間が掛かってる。
気の毒だけどそんなんじゃ幾らなんでも戦闘奴隷は無理だよ。
かなり長い間沈黙が続いた。
「おい、マール。お前、そんなんじゃすぐに死ぬぞ?」
返答はない。
ただ沈黙が続いた。
「リンビー、お前もだ。オークかホブゴブリンあたりに殺されるのが関の山だ」
こちらも返答はない。
椅子に腰掛けている俺の足元に視線を落として自分の無力さを思い知ったのか、それとも悔しさを感じてなのか、又は恐怖でも感じているのか、ただ打ち震えている。
理不尽だと不満でも感じているのかも知れないね。
まぁ、こいつらも生まれながらの奴隷だから理不尽だとまでは思っていないとは思う。
しっかし、この程度でなんとかなると思っているなら殺し合いを舐めすぎだろ、このガキ共。
すっかり冷めてしまったバルドゥッキーの串を持ちながら椅子からマールとリンビーを見る。
苦痛に歪みつつも僅かに恨めしそうな、悔しそうな表情が見て取れた。
ふん。
左上を見た。ズールーの厳しい顔が見える。
右上を見た。無表情を装うエンゲラの顔が見える。
二人共、どこか優しそうな目つきをしている気もする。
だけどな。
こいつら二人が死ぬのはまだいい。良くないけど。
だけどな。
こいつらを庇おうとして他の奴が危機に陥るかも知れない。
あ、そうそう、こいつらが死んだら俺の財産が目減りするじゃん。
これで行こうか。
説得しようとしたその時だ。
「腹減った。早く食いたいぜ」
「今日は工場休みだって」
「ジョンやテリーは居るだろ」
「……あれ?」
「グリード様ですね」
「ズールーにマルソー……それに……」
「バルドゥッキー食えそうじゃんか。グリード君が手に持ってるのそうだろ?」
「おおっ、良かったですねご主人様!」
「うん、俺は目玉焼きとバルドゥッキーを朝飯にするのが好きなんだよ」
サンノとルッツ、それにロリックと彼の戦闘奴隷も二人いた。
ランニングの帰りなのだろうか。
五人とも汗まみれだ。
「おいおい、深刻な面してどうした?」
「なんだ? 躾の最中か? 持ち主の言う事はちゃんと聞けよ?」
混ぜっ返してくれるなよ?




