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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百五十四話 資格

7445年10月15日


 親父とバークッドの従士たちを皆に紹介したあと、昼過ぎに親父たちはバークッドへの帰途についた。殺戮者スローターズは全員、グリード商会の従業員だからして、創業者の親はともかく、重要な仕入先の人と顔を合わせておくのは必要なことだ。今俺に万一のことがあったらグリード商会は兄貴が継ぐことになるしね。


 その後、虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズを含めた殺戮者スローターズ全体のメンバーの移動をするにあたって、幾つかの関門テストを設けることにしたと話した。


「……持久走の閾値ですが、私達の誰かではなく、平均タイムにすべきだと思います」


 ベルがすかさず意見を述べた。なるほどね。


「平均ってなんだ?」

「俺が知るかよ」

「真ん中って意味よ」

「そうなのか?」

「……ロッコさんとケビンさんでは走る早さが違いますよね。その丁度中間がロッコさんとケビンさんの平均、と言うように使われます。人数が増えれば全員の速度を足して人数で割ることによって全員の中間が分かります」


 虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズのメンバーにロリックが説明している。面倒をかけてすまないね。


「あー、で、次の休みに選別するようにするから、そのつもりでな。あくまで基本は今のメンバーだ。希望者に限ってテストをする。内容は、三つ。体力の試験、個人技の試験、連携の試験だ。それから、殺戮者スローターズから絶対に外せないメンバーもいるからな」


 そこまで言うと皆を見回した。誰も口を開くことなく俺のセリフを待っている。


「まず、俺。それから地図作成を手伝って貰っているグィネ。この二人は動かさない。尤も、俺の方はこの先また虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズへ行くかも知れないけど。絶対に動かさないのはこの二人だけだ。あとのメンバーには誰に挑戦してもいい。ただし……」


 皆のゴクリとつばを飲む音が聞こえたような気がした。


「挑戦者として指名出来るのはまず体力の試験を乗り越えた者だけだ。基準となる時間は今日これから測定するから今の殺戮者スローターズのメンバーは残ってくれ。ああ、ゼノムとグィネはいいよ。体力試験に合格すれば指名挑戦権を得る。挑戦された奴は逃げられない。で、だ。そこでやって貰うのは模擬戦じゃない」


 少し不思議そうな表情が浮かんだ。この前模擬戦って言ったしな。でも、模擬戦じゃダメだ。どこかに甘えが出ちゃうし、思い切り魔法が使えない。


「七層でオーガと戦って貰う。次の迷宮に行く時に挑戦者を七層まで連れて行く。いいか、行くまでも試験だぞ。連携を見たりするからな。で、挑戦者と、挑戦を受ける方は七層でオーガと一対一で三回戦って貰う。基本的にはその合計時間が短ければ勝ちだ。丁度良いのが見つかるまでそれなりに時間は掛かるだろうが、ま、二日もありゃ充分だろ」


 何人か既に諦めた顔をしているのが居る。いやいや、当たり前だろう? 八層のその先を目指してんだ。オーガくらい片付けられないでどうするよ?


「魔法が使えるなら当然使ってもいいし、武器も何を使ってもいい。だが、毒薬なんかはダメだ。援護が欲しければすぐに介入してやるから安心しろ。その時点で失格だけどな。なぁに、即死じゃなけりゃ助けてやれるよ」


 少しだけ笑いが起こった。


「それと、もう一つ。相棒が居るなら組んでもいい。例えば自分の他にもう一人、どうしても一緒に居たい人が居て、その人も同じ考えなら二人組とか三人組で挑戦するのも有りだ。その場合、挑戦を受ける方も二人組とかになるけどね。前衛と後衛が組になった方が良い、と考えるならそうしてみてくれ。

 ああ、それから、今の所あんまり意味があるとは思えないけど、スーナ、もとい、根絶者エクスターミネーターズから虐殺者ブッチャーズへ行きたい人が居ればそれもいいよ。評価方法を少し変えるから希望者が居れば申し出てくれ」


 そう言うと解散を宣言した。しかし、誰も解散せずその場で周囲のメンバーと話している。

 時間があるなら計測の監視でもさせて手伝わせようか。

 不正が無いという証明にもなるだろう。


「ズールー、エンゲラ。ボイル亭に行く前に宿に寄って着替えとタオルを持って来ておけよ」




・・・・・・・・・




 マラソンからゼノムとグィネを外したのは正解だったな。

 そもそも山人族ドワーフは足が遅い。

 それでもランニングを続けているグィネはかなりマシだとは思うが、精人族エルフ兎人族バニーマンのトリスやベルとは比較にならない。最近ではバストラルの方が速いし。

 また、俺が走ることも避けておいた。


 だって本気で走ったら平均タイムにかなり影響を与えちゃうだろうしね。


 当然ストップウォッチなどという文明の利器は存在しないので、時計の魔道具を使って大体の時間を測るだけだ。

 コースはいつものランニングコース。

 ボイル亭を出発して西から外輪山の山頂を走り、東の降り口から降りてまたボイル亭まで戻ってくる。

 全長は二十㎞程だろうか。


 正確な距離を計測なんか出来ない。

 大体ハーフマラソン弱くらいかなぁ。

 可能な日はこのコースをいつも走っている。

 最近ではだいたい二時間弱くらいの時間を掛けてるかな?

 ミヅチ曰く、途中で十二%くらいの急勾配の上り坂はあるし、路面状態も悪い。

 靴だって出来の悪いゴムサンダルだ。

 それを考えると充分だとは思う。


「戻ったらぶっ倒れてもいい。そのくらい全力で走れよ。このタイムが関門になるんだからな。障害ハードルを上げてやれ」


 ボイル亭に戻り、サンダルを履いて身軽な服装になった殺戮者スローターズの面々を前に偉そうに講釈を垂れていたら、ロッコが「アルは走らないのか?」と言って来た。彼にはカームと二人、時間をみてもらうことになっていた。と言ってもゴール地点に誰かが到達する度に時計の魔道具に手を当てているカームの肩を叩くだけの簡単な仕事だが。


 他の皆はとっくに登り口や山頂、外輪山の途中、街なかなどの要所に散っている。

 あと十分くらいでスタート出来るだろう。


「……そうよ。アルも走りなさいよ」


 手を組んで背伸びをしながらラルファが言った。にやついている。


「そんな! あ、でもそうした方が良いかも」


 屈伸をしながらベルも意味ありげな笑みを浮かべて言った。……む、あんま揺れてねぇな。そう言えばスポーツブラっぽいのを売っている店を見つけたとかミヅチが言ってたっけ。


「……しょうがねぇな。でも俺のは計算に入れなくていい。参考記録な」


 ラルファとベルは少し残念そうな顔をした。お見通しだよ。

 移籍を阻みたいなら死ぬ気で走れ。

 ま、俺も各種装備ウェイト無し、身軽な状態にして全力で走ってみるのもいいだろ。




・・・・・・・・・




 俺のタイムは五十五分三十秒。思ったよりかなり早かったな。本来ならレベル八十以上(俊敏や耐久が二増えた時もあるからね)という、あり得ない程高いステータスを存分に活かしてやった(つもりだ)。しかも山あり谷あり、路面には石があちこちに転がっている上に凸凹しているし、極稀にぬかるみすらある最悪な状態。平面で綺麗に舗装された地球なら二位以下をぶっちぎりの大記録だろう。


 うっぷ……ゲロ吐きそう。


 水を出そうにも魔力を練り上げるために精神集中することすらものすごく億劫だ。

 無理すれば出来ないことはないだろうが……いやぁ、久々だわ、この魔法が使えないじれったい感覚。

 ……もう暫く放っといて欲しい。


 ………………ふ。


 …………うっふっふ。


 ……ズールー、三年前のあの日、俺はお前に追い付けなかった。


 だいぶ前に追い抜いたのは解ってたけど……。


 すぐにウェイトを背負い始めてだんだんその重量も増やしていたからあんまり変わらないように見えていた。ウェイトを外してもあんまり差がつかなきゃ落ち込みそうだったから試した事は無かった。でも……。


 ふぅ、やっと追……落ち着いた。


「シャワー浴びて来る……」


 カームとロッコに呟くようにぼそっと言い、よろよろとボイル亭のシャワー室に転がり込んで汗びっしょりの服を脱ぎ、シャワー栓を抜くとシャワー室の床にへたるように座り込む。

 頭の天辺から水を浴び、やっと人心地がついた。

 ざっと汗を流し、とりあえずタオルを腰に巻いただけで部屋に引き上げて新しい服に着替える。

 ボイル亭の表ではまだカームとロッコだけが待っているのだろうか?

 それとも、もうそろそろ誰か到着しただろうか?


 ミヅチの部屋に寄り、タオルと着替えを適当に袋に詰め込むと表に戻った。

 既にミヅチは到着していた。

 薄紫の肌を真赤に上気させ、汗まみれで膝に手をついている。


 ミヅチにざっとぬるま湯程度のお湯を掛け、頭から大きなタオルを掛けてやった。


「お疲れさん。着替えも持ってきた。シャワー浴びて来い」


 ミヅチは俺に凭れたまま荒い息を吐いている。


「う、動け……お……」


「お?」


「……おえっ……おえっ……おんぶ……だっこ……」


「一人で行けよ……」


 吐きそうなのを誤魔化しやがった……。

 彼女の着替えを入れた袋を持つとシャワー室までは肩を貸してやり、中に放り込んだ。


 カームに記録を聞くと一時間十分四十秒だった。


 暫く待っているとラルファとベル、ちょっとだけ遅れてトリスが団子状になって駆け込んできた。

 ゴールまで辿り着くと三人共さっきの俺のようにへたり込んでいる。

 ラルファに吐かれたら嫌なので放っておくことにした。


 こっち見んな。

 さっき着替えたばっかなんだよ。


 彼女たちの記録は一時間二十一分二十秒。トリスは十秒遅れ。


 それに少し遅れてズールー。

 更に少し遅れてエンゲラ。

 最後にかなり遅れてへろへろになったバストラルが一時間四十分丁度。

 これでもいつもより十分以上速いペースだ。

 よく頑張った。

 でも感動はしない。

 だってこいつ、キャシーの前でゲロ吐くみたいに「おえっ」て言っただけで優しく介抱されてんだもん。


 平均タイムは一時間二十五分弱というところか。

 エンゲラとバストラルが平均以下かな? ズールーは微妙なところだろう。


 なんとなくだが、ミヅチ、ラルファ、ベル、トリス、ズールー、エンゲラはそろそろ耐久か俊敏あたりが増加しそうな感じがする。バストラルはもうちょっと掛かりそう……かな?


 なんにしてもみんなすごい速度だった。平地でスポーツシューズを履いていたらこいつらも……。


 全員がシャワーを浴び、着替えを済ませて人心地がついたところで監視に立っていたメンバーもみんな戻ってきた。


「平均は一時間二十三分四十秒な。勿論俺は抜いて計算してる。この時間以下が殺戮者スローターズへの挑戦権を獲得する資格だ。移籍希望者は次の休みに走って貰う。それまでにやるかやらないか決めてくれな。前日まで受け付けるぞ。当日は監視の人手の問題もあるから勘弁な」


 みんな理解してくれたようだな。


 解散しよう。


「みんなが走るのを近くで見たけどよ、アル以外は大した速さじゃねぇな」

「走るだけなら俺もアルより速いと思うぜ」

「あたいも挑戦してみようかな……」

「お? キム、お前槍使ってるから俺と組むか? で、マルソーとサージに挑戦すりゃあ……」

「……ん、いいかも」

「み、ミース、その、俺と一緒に……お願いします!」

「ねぇ、ジンジャー、あたしと一緒に」

「いいけどさ、ミース。ジェルが手ぇ出してるよ」


 へっ、言ってろ。まず無理だと思うぞ。




・・・・・・・・・




7445年10月23日


 今日は挑戦権を得るテストの日。


 虐殺者ブッチャーズからは全員。根絶者エクスターミネーターズからはジンジャーとサンノとルッツが挑戦することになっている。


『君は挑戦しなくていいのか?』


 ロリックに声を掛けた。


『え? コースと記録を考えたら無理でしょう……。これでも正騎士の叙任を受けていますからね。挑戦してみたい気持ちもありますが、おそらく惨憺たる結果になってファルエルガーズ騎士団の名を汚してしまう事になりますよ』


 ロリックが苦笑いを浮かべながら答える。


『でもさ、やる前から諦めるのって、どうなの?』


 話を聞いていたラルファが口を突っ込んできた。


『うん。格好悪いのは解ってる。でも、今は無理だ。せめて半年……いや、一年は走り込みをしないとあの記録は抜けないだろう。明日から俺とデンダーとカリムも走ることにする。アルさん、我々も一緒に走っていいですか?』


『ああ、もち『いいけどね。遅れたら置いていくからそのつもりでね』


 こいつは全く……。ウインクしながら言うセリフがそれかよ。


『はは……最初は仕方ないよ。でも、必ず追い付くさ……じゃあ私は持ち場に行きます』


 頑張ってくれ。ロリックは明るい顔で手を振りながら持ち場へと向かって小走りに駆けて行った。


『……私も行くわ。不正は見逃さないから』


 誰もしやしねぇよ……。ラルファも駆けて行った。


「アル、そろそろいいんじゃないか? ラルファもロリックもコースの最後の方なんだろ?」


 ゼノムが声を掛けてくれた。

 ゼノムは俺と一緒にここでゴールを見守る役だ。


 確かに良いだろう。時計の魔道具で時刻を確認すると九時四十五分二十秒だった。

 九時五十分で出発としようか。


 ボイル亭の前には俺の奴隷を除いた虐殺者ブッチャーズの七人のほか、ジンジャー、サンノ、ルッツ、それに前回走らなかったグィネが参考記録用として走る準備を整えてたむろしている。総勢十一人だ。


 ……そろそろ時間だな。ま、少し早くてもいいかな。九時四十九分三十秒くらいでスタートさせた。




・・・・・・・・・




 暇だ。

 ゼノムが焼酎を部屋から持って来たので、俺も蛸の足の燻製を持ち出した。

 二人でボイル亭の門の脇の塀に寄りかかって蛸の足をくちゃくちゃやりながら焼酎を飲んでいた。旨いな、この焼酎。ゼノムによると王都で買ったプレミア物らしい。


「どのくらいで戻って来ると思う?」


「うーん、速い奴でも一時間半はかかるだろうねぇ……。みんな伊達に何年も走り続けてた訳じゃないし……」


「らんにんぐ、と言ったか? そんなに効果のあるものなのか?」


「すぐには効果は出ないよ。でも、一月も続けてりゃ馬鹿でも実感出来るくらいには体力がつくよ」


 どうせ暇だし、体を鍛える意味や理論を簡単にゼノムに説明した。ゼノムは真面目に聞いてくれたが「良く解らん」と言うように頭を振ると「休んで力を蓄えた方が、いざという時に力になると思う」みたいな事を言っていた。俺の説明も悪いんだろう。結構な端折り方もしちゃったし。


「そろそろかな……っと。悪いけどちょっと酒は中断してくれ」


「ああ、大丈夫。俺はカップ一杯も飲んじゃいない」


 ……俺、二杯分は飲んだ。今度王都に行ったら焼酎探してやろう。


 暫く待っていると最初に戻って来たのは意外なことにグィネだった。今回は彼女も参考として走ってたんだよな。記録はバストラルと殆ど一緒の一時間三十八分だった。一応先輩としての面目は立ったようだ。その一分後くらいにジンジャーとキムが戻ってきた。


 その後も続々と戻ってきた。皆死にそうな顔をしている。どべはドワーフのケビンで二時間半も掛かっていた。


「みんな、一生懸命走ってくれたが残念だったな。正直言ってこんなんだと、とても今の殺戮者スローターズには入れられないよ。次は半年後くらいにやるから、それまで体力を付けることを考えてくれ」


 既にシャワーを浴びて着替え、さっぱりしているもの、ゴールしたばかりでぜぇぜぇと荒い息を吐いているもの。みんなの顔が悔しそうだった。うん、殺戮者スローターズの上位陣は俺を含めて全員ガキばかりの上に女の子もいるから気持ちは解る。一番遅かったバストラルに勝てたのだってたった二人。しかも記録はほとんど同じの一分違いだ。


 でもね、今のバストラル程度、半年も走ればすぐに追い付けるし、追い抜けるよ。

 ケビンは二年くらいしっかりと走らないと厳しいだろうけど。


「知っている人もいると思うけど。一応言っておく。殺戮者スローターズは走る時間が取れる日は必ず今のコースを走る。都合が付かなきゃ一人でも走る。その積み重ねで体が慣れているんだ。これがどういうことか考えてくれ。解らなきゃ解りそうな奴を捕まえて聞くのもいいだろう。……ケビンの息が整ったら皆で昼飯に行こう。

 ああ、食欲がなくても食べなきゃダメだ。それも体を作ることに繋がるからね」


 あと半年は安泰だ。もうちょっと八層の様子を見たら一度くらいテストだと言ってカームとジンジャーをリーダーにして、その間に八層にチャレンジしてみるか……。


 今回の件で殺戮者スローターズ入りを諦めてリーダーやりたいって言ってくれたら儲けものなんだよな。


 流石に居ないか……。


 いや、殺戮者からの出向が減れば頭割りの人数が減る。その分をリーダーが取ると言うのはありだ。でもせめて泊まり込みで三層くらいまで行ってくれるようにならないと俺が赤字のまんまだし、それじゃあ言い辛いだろうなぁ。


 元々年末くらいまで鍛えるつもりだったし、まだ良いか。

 殺戮者スローターズも俺とミヅチが居れば虐殺者ブッチャーズ根絶者エクスターミネーターズに一人づつ取られても、八層のモンスターがあんな程度なら問題ないか……。


 年末考えよう。

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