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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百三十一話 訓練

7445年7月15日


 翌朝、目が覚めてから厩に行って馬具を確認してみたが、昨夜俺が書いたものがそのまま残っていた。

 夜中に宿の小僧が馬を散歩に連れ出す訳はないから当たり前か。


 今日は一日、日光(サン・レイ)の訓練の日と聞いている。

 街の郊外での訓練だが、場所は殺戮者(スローターズ)とは異なる。

 聞いていた八番通りの先の空き地までランニングしながら行くと既に数人の人影があり、素振りなどをしていた。


 近づくとファルエルガーズたちだった。

 奴隷二人とルッツの姿は見えない。

 それでも時間より早く来て体を温めているなんて結構真面目じゃないか。

 俺も朝の挨拶をして空き地の端に行くと木剣で素振りを始めた。


 すぐにぞろぞろとメンバーが集まってきたが結構足りない。

 一軍は三人も参加していない奴がいるし、二軍も四人が参加していなかった。

 リンドベル夫妻の言によると怪我で訓練出来ないから、との事だった。

 言われてみれば確かにあれじゃ無理だろうな。

 だが、昨日俺がファルエルガーズたちと話した時にちらっと話題に出したが、サンノ以外は怪我してたのか。別に隠さなくたっていいのにさ……隠した訳じゃあないか。


 今は朝の五時だが、この後は二時間程訓練し、朝食がてら集中力に余裕があれば一度宿に戻って、怪我した奴らに治癒魔術を掛ける。

 その後十時にはまたここに戻り弁当を挟んで十五時くらいまで訓練して解散だ。

 勿論、集中力に余裕があればその際に怪我人への治癒魔術をお願いしたいと言われた。


 なるほど、他のパーティーでは休日の治癒魔術は強制じゃないのか。

 これも言われるまで気付かなかった。

 確かに魔法を使うにはそれなりの集中力を要する。

 折角の休日に同僚のために一生懸命魔法を使えと言われたって、一応は治療しているから死ぬ訳でもないし、現在迷宮内にいて自分を守る戦力低下に繋がる訳でもないのだからと嫌がる奴もいると言うことかね?

 とは言え、冷静に考えてみれば治癒魔術は治癒師の真似事をしたって一回で五万Zも入ってくるんだ。

 同じパーティーのメンバーと言えど只で掛けてやるのは……と言うセコい根性なのかも知れないけど。


 もしそうなら殺伐としてるねぇ。


 簡単に連携を確認し、殺戮者(スローターズ)の様に二手に分かれて攻守を別にした訓練になった。

 一軍チーム七人と二軍チーム六人かと思ったが、一軍チームからはコーリットが審判役で外れるようだ。


 人数としては同等だな。

 さて、やるか。


 木剣を構えた俺の前にはサンノこと、サンノセ・クミールが同様に木剣を構えていた。


「へへっ、ちょっと前から思ってたけどよ。グリード君、どっかで俺と会ってねぇか? 結構前にさ」

「……きちんとご挨拶させて頂いたのは私が日光(サン・レイ)に入った時だったと思いますが?」

「ん。……だよな。気にしねぇでくれ、俺の勘違いだろうからさ」

「はい」


 コーリットの号令が下り、訓練が始まる。


 が、先日の迷宮行である程度解っていたがすぐに困ってしまった。


 簡単に言うと日光(サン・レイ)の二軍のメンバーの実力はかなり低いのだ。

 二軍のリーダーのゼミュネルですら大したことないと感じた。

 対人戦だからだろうか、踏み込みも遅いし、剣の振りや槍での突きも大振りが目立つ。

 バストラルよりはかなりマシだが、彼を除く殺戮者(スローターズ)の戦闘要員で最弱のグィネでも暫くは耐えられそうな攻撃だった。

 エンゲラなら盾を忘れることなく凌ぎ切っちゃうんじゃね?

 相当手を抜いてやってやらないとな。


 暫く適当な動作を重ねながら観察していると、妙な事に気がついた。

 どうも相手の体に直接打ち込むのはいけないことらしい。

 怪我しちゃうからだ。


 尤も、人を相手にする訳ではないから大振りの攻撃を当て、大ダメージを狙うこと自体は悪い事ではない。

 でも、今は攻守に分かれての対人の模擬戦なんだから相手に合わせた訓練もそれなりに大切なのではなかろうか?

 対人の模擬戦を真剣にやってもあんまり意味は無いとは思うが、この程度だとどのレベルのモンスターを想定しているのか?(ハテナ)マークだよ。


 そんな中、ファルエルガーズとヒーロスコルの二人は流石に正騎士の叙任を受けただけあって他のメンバーよりも何枚か上手(うわて)な感じだ。

 相手との間合いの取り方から始まり、足運びや攻撃のタイミングや武器の振り方一つとっても堂に入った立派なものだった。

 どちらかと言うと、体つきの有利な部分もあるのだろうが、ヒーロスコルの方が上だと思った。

 トリスやズールーよりもテクニックはあるみたいだ。

 だが、まだ冒険者の戦い方ではない。

 冒険者の実力として見た場合、人型のモンスターでなければエンゲラにも劣るかもしれない。


 以前、トリス達が加わって暫くした頃、緑色団(ベルデグリ・ブラザーフッド)の訓練の情報を掴んだことがあり、そっと偵察に行ったことがある。

 彼らの訓練はこんなものじゃなかった。

 当然、迷宮ではモンスターを相手取るからそれを想定して力を込めた大振りの訓練が中心ではあったが、メンバー同士の模擬戦はもっとこう、激しかった。


 緑色団(ベルデグリ・ブラザーフッド)の訓練ではフェイントを織り交ぜて相手を幻惑し、隙を作り出したところに鋭い一撃を放っていたりした。

 攻撃を受ける方も真剣で、盾を上手に操り、役割分担などもしっかりしていたように思う。

 モンスターを相手取る訓練とは言え、俺達(スローターズ)も緑色団(ベルデグリ・ブラザーフッド)も想定したモンスター以上の強さを発揮出来るように腐心したものだ。


 対して、日光(サン・レイ)の場合、ただでさえ二軍は一軍よりかなり格下に思える。

 攻撃が素直すぎるんだよ。

 ああ、俺達はこのところオーガを相手に想定していることが多かったから、自然と対人に近い訓練になっていたのかも知れない。

 オーガはでかいとは言え、人型をしているし、身長も三m近いが、実際に三mもあるような個体はまずいない。

 器用に棍棒を使いこなすし、偶(たま)には粗末だけど盾のようなものすら装備する奴もいるから、自然とモンスター役の奴も他のモンスターとは異なりかなり真剣に剣と盾を使うようになって来たのかな?


 一軍の攻撃の番になっても二軍メンバーの実力に合わせた攻撃の訓練だった。

 勿論、テクニックのレベルは上がってはいるけどね。

 それにしても、この程度か……迷宮内で毎日何回も戦っている殺戮者(スローターズ)の方が戦闘の経験は上になっているということだろうか。


 尤も、今まで散々けなして来た俺が言うのもアレだが、訓練をしているだけマシな方だ。

 バルドゥックの冒険者でもきちんと訓練をしている奴らは四層に顔を出し始める程度の二流以上の奴らくらいで、大半の冒険者はいちいち訓練なんてやらない。

 休みの日は本当に(怪我をして)休んでいるか、遊んでいるかだ。


 そのまま何度か攻守を入れ替えて二時間程度訓練を行い、朝食のため一時解散となった。

 さっさと飯を食うとロッコたちの宿を回り「キュアーシリアス」を三人に一度づつ掛けてやった。

 移動する間に少しだけMPが回復してるからまぁ問題ないだろ。


 念のため馬具を見たが、馬が厩にいるということから判る通りまだ俺の報告書が入ったままだった。

 今日の夕方くらいまでは返事や新たな指示は期待しないほうが良さそうだ。

 ついでなので日光(サン・レイ)のメンバーの戦闘での実力も新たに報告に加えておいた。


 十時前にまた日光(サン・レイ)の訓練場に戻り、今度は二軍のメンバーを中心に迷宮内での音を立てにくい移動や、そこからの急なダッシュによるモンスターの引き離しなど、一軍のメンバーが冒険者の訓練を指導していた。

 ほほう、勉強になるな。

 こんなの俺たちは一度もやったことなかったわ。


 続いて未知の領域を進む際の訓練だ。

 槍使いを中心に弩や警報の罠や、落とし穴の発見方法の訓練などが行われた。

 これは、棒で叩きながら進むのは俺達と一緒みたいだが、叩き方にコツと言うか、左からこの角度で右に向かって扇状に何回叩いたら一歩進むとか非常にバカバカしい型のようなものだ。

 正確にこの角度で一定以上の速度で叩くのが最高速度の移動を保証するとかもうね、開いた口が塞がらないよ。


 それはそうと、ファルエルガーズやヒーロスコル、サンノらは日光(サン・レイ)どころか迷宮に入って半年も経たない新人だ。

 そんな彼らが真剣な表情で腰から下げた水筒を暴れないように縄でくくりつけたり、衣擦れ防止のため、腕や足の服の上から縄で軽く縛る位置を調整していたりなど今まで見落としがちだった部分について真剣な表情で先輩の冒険者から注意を受けていた。

 あ、こういうの、殺戮者(スローターズ)では適当なゴムバンドで済ませてた。


 そういえば日光(サン・レイ)には他のトップチームのように金属帯鎧(バンデッドメイル)や重ね札の鎧(スプリントメイル)などの重装甲のメンバーっていないな。

 全員革鎧だ。

 なんでだろう? 別にいいけど。


「どうだい? 日光(サン・レイ)は?」


 ハルクが俺に声を掛けてきた。


「皆さん流石ですね。やはりトップチームなだけあります。細かいところにまで気を配られた良い訓練内容ですね。あ、そうだ、先日は六層にはまだ早いみたいな失礼なことを言ってしまいました。不意を打たれて重傷者も出ていましたが、結局は誰一人失う事なく切り抜けていました。どうやら私の見立てが間違っていたようです。お詫びします」


 適当におべっかでも言って流しとこう。


「……戦闘訓練ばかりのどこかとは違うだろう? こういったメンバー全員に対する気配りは大切な物だと思う。君もしっかり学ぶといい」


 ヒーロスコルが皮肉げな口調で言うが、顔には邪気のない笑みが浮かんでいた。

 この様子だと俺に忠告をしてくれているのだろうね。

 ところで、今日の昼飯の弁当ってなんだろうな?


「そうですね、勉強になりますよ。あ、ヒーロスコルさん、今右端を一回叩き忘れてましたよ、気を付けて下さいね」

「む、そ、そうか。申し訳ない……」

「そう、そこで一歩踏み出しながら棒の上側から左手で掴むようにするとより速いですね」

「あ……こうだろうか?」

「ん~、右端まで叩き終わったら左足から踏み出す方が良いですね。同時にちょっと前、自分が叩いた周辺は安全ですからそこに足を置くように……自分が叩いた場所は覚えていなきゃダメです。これは考えなくても出来るようにならないといけません」


 俺は自衛隊での配属は普通科だったが、幹部候補生学校時代に施設科の基礎訓練も一応は受けている。

 当時導入されたばかりの掃除機みたいな地雷原探知機も一回だけだが使い方を習った。

 その時の助教の陸曹長の言ったことの受け売りを言っただけだけど。


 昼食の弁当はポリッジ(美味しくない)と、豚肉の煮込み(味付けが雑)と、野菜として生のきゅうり(痩せている)だった。だが、量はたっぷりあり、しっかりと腹ごしらえができた。


 午後も引き続き訓練だ。


 各メンバーと体の部位が急に指定され、指定された奴はその場に指定された部位の怪我人として倒れる。

 倒れた味方が出た場合のフォーメーションの組み換えを迅速に出来るようにする訓練だ。

 倒れ方にもルールがあるのには恐れ入る。

 ここまでやる意味あんのかね?

 ああ、しょっちゅう怪我人が出るなら意味はあるか。

 そう考えると、これはこれで重要な訓練と言っても良いかもしれない気がするような感じを受けなくもないが、やっぱ無駄な気もする。


 まぁ、倒れ方なんかどうでもいいが、ちゃんとフォーメーション組み換えの訓練もするんだね。

 冒険者は迷宮内で誰かが倒れた時が一番危険な時だと言われている。

 メンバーの精神的な動揺を誘うし、直接的な戦力も低下する。

 そうなった場合に慌てずにフォロー出来るフォーメーションにするためには理論ではなく、条件反射になるように体に覚え込ませる方が実際には速いだろうから、この訓練自体は理に適った、必要なものなのだろうと思い直した。

 確かに時間を割いて行う価値はある。


 それから救急訓練だ。

 ああ、傷の治療じゃない。

 あ、いや、そう言ってもいいか。


 味方が怪我を負った時、大抵は治癒魔術で初期治療を行うのだが、戦闘中や魔力切れで初期に治癒魔術が使えないことを想定してのものだ。

 倒れた奴を戦闘の邪魔にならないように安全な位置に移動させたり、その際に行える簡単な止血のツボ、同時に傷に塗る血止め薬とその薬が一番効果的な効力を発揮する傷の種類なんかの情報交換、とか座学みたいな感じにもなる。


 確かに戦闘は重要だが、冒険者は戦闘以外にも重要な事が山のようにあるよね。

 冒険者には「インテリだからと言って一流になれる訳じゃないが、インテリじゃないと一流になれない」という言葉もある。

 そう言えば、俺もバルドゥックに来た最初の頃はこうだったな。

 効率を考えて風魔法で楽をしたり、カールやミラ師匠に有効な魔術を教わったりして初心を忘れていたかもしれない。


 でも、よく考えたら使えるものは使った方が良いに決まってた。

 俺は俺のステージで努力すればいいのだ。


 だが、今まで他のパーティーの訓練内容なんか碌に知らなかったし、少し実情を知れたのはいい勉強だ。

 あんまり大した内容じゃない、と言うことが判っただけで充分だ。

 ついでに、これすらもやらないから二流レベルにすら手が届かない奴も沢山居る訳がよく理解できた。




・・・・・・・・・




 訓練のあと、一度街に戻り、ロッコたちに再度治癒魔術を掛けてやった。

 もうこれで完治と言っても良いだろう。


 夕食まで時間があったのでランニングに出かけ、宿に戻るとトリスから指示が来ていた。

 ……ほう、過激だね。

 少々良心が痛む気もするけど悪い手じゃない。

 以前似たような話をミヅチから聞いたこともあるから彼らも同様の話を参考にしたのかもしれない。


 まぁ、そんな話は抜きにしても、あいつらの誰が思いついても不思議ではない。

 しっかし、この内容、人使い荒いねぇ。


 ま、使える駒を最大限に活かそうとするのは良い事だ。

 奴らから見て俺なら充分に出来ると踏んだのだろうし、実際に出来るだろう。


 殺戮者《スローターズ》は明後日から迷宮に入るらしい。

 また、八日後の今月の二三日迄に用意を終わらせるようだ。

 少し余裕を見たんだろう。

 相当頑張るつもりなんだな。

 しかし、些か無理しすぎだ。

 また減点だなぁ、こりゃ。


 適当な店で夕食を摂ろうと、シャワーを浴びたあと着替えて宿を出ようとしたところにジェルこと、ジェルトード・ラミレスが俺を訪ねてきた。

 先ほどの治癒魔術について礼を述べたジェルは日光《サン・レイ》のメンバーの行きつけの店に行こうと俺を誘いに来たという。


 二人で暗くなりつつあるバルドゥックの街を歩き、フォートンという店に行った。

 俺の歓迎会を開いてくれたゴンルーよりも安っぽい店だ。


 ここが日光《サン・レイ》がいつも溜まり場にしてる店だったのか。

 溜まり場がこの程度なら新人の歓迎会をゴンルー程度の店でやるのも頷ける話ではある。


 店には日光《サン・レイ》のメンバーが居て、思い思いのメニューで食事を楽しんでいた。


 その中に俺とジェルも加わり、ホップの使用量がビールよりも低く、熟成期間も短いため若干安価なエールを飲んだ。

 エールも悪くはないが、個人的な好みとしては下面発酵のビールの方が旨いと思えるのは元が日本人だからだろうか。


 薄切りのベーコンとエールを喉に流し込んでいるとリンドベル夫妻も現れ、店は日光《サン・レイ》の貸し切りに近くなる。

 俺とジェルが飲んでいたテーブルに彼らが座ると、同じ様にエールと幾つかの食べ物を注文した彼らは俺に話しかけてきた。


「グリード君、訓練はどうだったね?」


 エールを一口飲んだコーリットが言った。


「いや、流石はトップチームの訓練ですね。皆さんキビキビと動いていましたし、感心しましたよ」

「あら、嬉しい事を言ってくれるわね」


 メイリアもちょっと嬉しそうに言う。


「グリードさんにそう言われたら悪い気はしませんね」


 ジェルも嬉しそうだった。ジェルは続けて尋ねてきた。


「ところで、グリードさん。七層のオーガは魔石だけで一個八〇万で売れるってのは本当なんですか?」


 ジェルの発言に俺のテーブルを中心として会話が止んでいった。


「……本当ですよ」


「うおー、まじだったか!」

「聞きたくてもなんか聞けなかった」

「私も聞きたかった」

「すげー、一匹で八〇万か!」

「やっぱ魔石屋の親父が言ってたの嘘じゃなかったのか」


 蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 俺の歓迎会の時はどこか遠慮があって聞けなかったのだろうか?

 だが、あえて聞かなくても調べりゃ判ることだし、いちいち聞かないだけかと思ってたよ。


「オーガってのは相当強い魔物だと聞いているが、簡単に倒せるものなのか?」


 コーリットが尋ねてきた。


「どうですかね。私は言われているほど強いとは思いません。ちょっとでかいホブゴブリンってところですよ。勿論油断は出来ませんがね。現に以前の仲間も一対一なら倒せる奴は珍しくありませんでしたし。全員大丈夫なんじゃないかなとも思うくらいです。ああ、勿論私も倒せますよ」


 嘘は言ってない。痺れ薬を使えばバストラルだって今なら充分に一人で倒せると思う。


「ええっ!? そうなの? ……これは、行かない手はないわね……」


 一瞬だけメイリアの目がZ(ゼニー)マークに変わったのを見逃す俺様じゃないぜ。


「だが、問題は六層だな……」


 コーリットは少し慎重なようだ。


「ああ、それですがね。私を先頭に置いてくれたらもう少し楽に抜けられると思いますよ」


 俺が事も無げにそう言うと、夫妻は目を見開いて反対した。


「そんな、危ないわ」

「そうだ、君に何かあったら……」


 俺の商会が利用できなくなるってところかね。

 言っていることは立派そうだが頭の中で計算してるだろ。

 俺に商会の話をしていなかったら俺もこんなことは考えてないと思うけどね。

 軽々しく話したのが読まれる原因だよ。


「これは現実を見据えての事ですが、私は六層での戦闘経験はかなり積んでいると自負しています。六層の突破を第一義と考えるなら私を使わない手は無いと思いますよ。一度くらいお試しで先頭を任せてみるのも良いかと。ですが、私の安全を考慮していただいたこと、有り難く思っています」


 ま、これで俺を先頭に立てるようになるだろう。上手く誘導してりゃいいだけだ。




・・・・・・・・・




7445年7月16日


 翌日からの訓練はオーガを見据えた対人戦闘にも重点が置かれた。


 思惑通りだね。


 俺は一日掛けて二軍チームの奴隷二人とルッツ、ヒスにもキュアークリティカルを掛けてやった。

 これで彼らも明日から戦線復帰だ。

 これにはファルエルガーズやヒーロスコル、サンノだけでなく、二軍のリーダーのゼミュネルからも深い感謝の言葉を貰った。

 ま、別にいいよ。




・・・・・・・・・




7445年7月20日


 そうこうしているうちに時間はどんどんと経過し、今日はもう迷宮に行く日となった。


 一層で最初に出会ったオーク四匹にストーンアローミサイル(薄暗い迷宮内だと石の弾頭は見えないだろうからミサイルだなんて解らない)を使って一匹の目玉から脳を破壊し、その後突っ込んで、仲間から見えないように左手でエアブレード、右手で剣を使ってあっという間に全滅させたらその後で怒られた。


 もっと慎重に行けってさ。


 うん、言いたいことはわかる。

 ストレス発散したくて調子に乗った。

 ごめん。慎重に行くよ。


 俺を先頭に一層を通り抜けるのに掛かった時間は……八時間。

 二層も同様に八時間近く掛けて通り抜けた。

 日光《サン・レイ》も地図は持っている(特に一層はグィネの地図をベースにしたものまであるのだ)割には時間がかかったのはご愛嬌、と言った所だね。





・・・・・・・・・




7445年7月21日


 三層も俺にしては非常にゆっくりと半日以上の時間を掛けて通った。

 それでも日光《サン・レイ》にしてみれば異常に速いペースだ。


 流石に苦情も言われた。


 曰く「地図に記載されている罠が増えないとは限らない」だって。


 それはその通りなのかも知れないけど、そんなの根拠の無い方便だろ。

 聞いたことねぇし。

 はっきり言って、魔物を恐れるあまりゆっくりし過ぎたり、遠回りしたりする方が余程時間が掛かると思うね、俺は。




・・・・・・・・・




7445年7月24日


 六層に二十回も転移を繰り返し、モン部屋が少ないルートを選ぶ。

 その後は俺がパーティーの先五〇m程を単独で歩き、生命感知《ディテクト・ライフ》の魔術でモン部屋の中の主を数え、偵察した振りをしたりしてた。

 「全力の攻撃魔術で当たった方がいい」という俺の忠告を容れてくれたリンドベル夫妻も結果的に怪我人が少ない事を喜んでくれた。


 二十時間も掛けて辿り着いた六層の転移の水晶の部屋には予定通り誰も居なかった。


 厨房の鍋に赤茶けたボロい布で蓋がしてある。

 なんか入ってんのかね? と思ったが、きっと何も入ってないだろう。ギベルティも居ないし。


 

日光の鎧に深い意味はありません。


 治癒魔術での痛みの回復ですが、さる筋からリクエストを頂きましたので解説します。

 以前活動報告で簡単に書いたことが有りますが、今回はもうちょっと詳しく解説します。

 少し前の話で日光のロッコくんが大怪我を負いましたのでそれを例にとります。

 彼はケイブグレートボアーというモンスターの牙に腹を貫かれました。牙の太さは13~14cmくらいあります。それが腰の少し上の左脇腹を貫通し、小腸の一部を傷つけました。放っておいたら10分ともたずに死ぬような大怪我です。解りやすくするためにMAXHPは110、治療開始のダメージは100だったとしましょう。残りHPは10です。痛みは気を失う寸前の最大級のもので100とします。

 HPは別にしてこの痛みが70くらいになれば冒険者なら何とか歩く程度はできるようになると思ってください。戦闘は無理です。痛みが50程度にまで軽減したらへろへろな防御行動くらいは出来ます。小学生低学年が相手ならなんとか防御出来る程度です。

 30くらいにまでなれば弱いモンスター相手なら防御行動が可能でしょう。20くらいなら普段相手にしているモンスター相手にそこそこの防御力を発揮できるくらいでしょうか。根性が有る人なら攻撃も可能でしょう。余程集中力のある人なら普段より時間が掛かるでしょうが魔法も使えるかも知れません。治癒魔術が使えるなら自分で自分に掛けることも可能でしょう。普段の十倍くらい時間が掛かると思って下さい。

 10にまで回復するとほぼ普段通りの行動が可能です。完治と言っても良いかもしれません。でも痛みは残っていますので集中力が削がれ魔法は普段通りの時間では発動はしないでしょう(二倍~三倍くらい)。しかしながらこのレベルだと大抵の人は魔法も使えます。くどいですが痛みであり、HPとは関係ありません(本当は有りますが)。

 上記のロッコくんの例だと最初にミースが「キュアーライト」を掛け、最も危険だった出血を抑えました。臓器と筋肉や皮膚などはまだかなりの傷が残っていますがHPは10%回復し、20になりました。痛みは100だったのが90くらいになりました。実際のところ殆ど変わり無いに近いですがこれであと三十分程度はもつようになりました。痛みで暴れまわるのを押さえつけて安静にして動かさなければ数時間はもつ可能性もあります。

 次に主人公が「キュアークリティカル」を掛けました。小腸の傷も塞がり筋肉や皮膚も目に見えて程度が良くなります、失われた血液もかなりの量が造られHPは50%である50も回復し70になります。痛みは45くらい良くなります。45になりました。なんとかへろへろ防御も出来ますし、移動出来る程度には回復しました。

 その後休憩し、再度主人公が「キュアークリティカル」を使いました。HPは50%回復する筈ですが、上限が110なので40だけ回復し、傷自体は完全に塞がり、肉体的には問題が無くなりました。しかし、痛みの回復効率は二回目の「キュアークリティカル」なので急激に落ち、15くらいになっちゃいます。30くらいの痛みが残ります。一応の防御も出来ますし、勿論移動も可能です。もし、完全に痛みを無くし(ゼロにする)たければあと2回位の「キュアークリティカル」が必要です。


HPはヒットポイントの回復率です。Pは痛みの回復率です

※カッコ内は二回目以降(前回と同じ傷に同一の術者が掛けた時にこの数値くらいまで効率が落ちます。元の数値に戻るには最低半日くらいの時間経過が必要です)


「キュアー」HP5% P3(1)

「ライト」HP10% P10(3)

「シリアス」HP25% P30(10)

「クリティカル」HP50% P45(15)

「オール」HP90% P70(21)

「ヒール」HP完全回復 痛み完全回復

※キュアーライトとキュアーシリアスの水魔法ボーナスは痛みには適用されません。

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― 新着の感想 ―
一層で最初に出会ったオーク四匹に になってます出ないんじゃ?
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