第百二話 責任3
7444年12月14日
「……目から鱗が落ちる思いです。お恥ずかしいことを申し上げてしまいました。確かにそうですね。『郷に入っては郷に従え』という考えが足りませんでした。お詫びします。申し訳ありませんでした」
ファルエルガーズも真摯に詫びを入れてきた。
ちょっと突っ込まれて簡単に頭を下げるのは日本人らしいが、オースでは美点でも何でもないぜ。
この辺で止めさせないとな。
「ヒーロスコルさん、ファルエルガーズさん。頭をお上げください。お二人のお気持ちは理解しました」
ソファの背もたれから背中を起こし、微笑んだ。
話題を変えよう。
「これは個人的な興味なので、ご都合が悪いようでしたらお答え頂かなくても結構なのですが……お二人はこの場にいる方以外にご友人はいらっしゃいますか?」
多分いねぇだろうなぁ、と思う。
ああ、勘違いしないでくれ。
さっき彼らはバストラルのことを「友人」と言った。
きっと一月も付き合いがないであろうにだ。
他の日本人を知らないかと思って聞いたのだ。
直接的な聞き方をしなかったのは、あわよくば俺が日本人を集めようとしていることを悟られたくない、という気持ちもあった。
何しろまだ俺の仲間になった訳じゃないからな。
「友人、か。……いないな、私は……この二人だけだ」
「私は……そう呼んでも差し支えないのが、故郷に一人いる。二つ年上の喧嘩友達だがな」
ファルエルガーズは寂しそうに、ヒーロスコルは懐かしそうに言った。
流石に二匹目のドジョウはいそうにないか。
これはしょうがないけどね。
「本意ではないとは言え、折角新しい人生を歩んでいるのです。ご友人が多く出来るといいですね」
これだけじゃ感じ悪いな。
「出来るだけ多くの方と交流を重ねることが出来ればいろいろな考え方に触れる機会も多くなると思います。ここでお会いしたのも何かの縁です。私も貴方がたの友人の席に加えては下さいませんか?」
まずファルエルガーズに右手を差し出した。
「え? あ、ああ。ああ、勿論です! 勿論ですとも、グリードさん」
ファルエルガーズは俺の手を握るとその上に左手まで重ねて言った。
次にヒーロスコルにも手を差し出した。彼も同様に俺の手を握ってくれた。
少なくともこれですぐに険悪な関係になる事はないだろう。
甘いかもしれないが今はこれで満足しておくべきだ。
なにしろ、当初の誤解はともかく、俺の夢を「出来もしない壮大な嘘」と言ったのだ。
少なくとも共感はされないだろうし、彼らとしても己の国を作りたいという夢物語を信じるようなメンタルは持ち合わせていないと言う事だろう。
良くも悪くも日本人なんだろうからね。
だが、彼らを俺の配下に加える事を諦めた訳ではない。
将来的にヒーロスコルの方は今の仲間と同じようなポジションしか思い浮かばないが、ファルエルガーズはどうしても欲しい。
彼だけはあの手この手を尽くしても手に入れたい。
彼の肉体だけでなく、多分メンタル面についてもそれなりの時間をかけて鍛える必要はあると思うが、俺の魔法を別にすれば恐らく扱いは難しいが唯一に近い戦略兵器になる。
純粋な意味では俺の魔法などより余程優れているだろう。
俺に靡かないと確信したら、遠くに行く前に必ず殺しておかなければならない程だ。
「さて、それはそうとして、まずはファルエルガーズさんが立て替えたというバストラルさんの解放費用です。いか程ですか?」
「解放費用としては神社の費用で一五万Z、彼を買い取った費用が三〇〇万Zです。その他、彼は商会を立ち上げようとしておりましたので、商会免状取得費用で一〇〇万Z、種銭で八五万Zの合計五〇〇万Zを貸し付けています」
はぁ? さ、三〇〇万Z?
成人している男性とは言え非力な猫人族のガキにしちゃ破格だ。
どんなに高くてもせいぜい二五〇万だろ?
……きっと足元見られたんだろうなぁ。気の毒に。
「利息は?」
「取っておりません、今、借用書を持ってきましょう」
ファルエルガーズが席を立ち、外に出ていった。
金貨五枚かよ。
三一五万Zは納得出来るけど、他のは当面の生活費を除いてすぐに返却して貰おう。
現金でまだ持ってるだろ。
それはいいとして、俺、財布には多分二〇〇万Zくらいしか入ってねぇ……。
普段そんな高額の現金なんか持ち歩かないし……って、ここ俺の商会だった。
五〇〇万くらいはある。
村への輸入穀物の種やなんやの仕入れで一〇〇〇万は置いとけって言ってあるからな。それ以上は行政府の貸しロッカーだけど。
俺もソファから立ち上がり、ミヅチの脇を通り抜けると二階に上がった。
リョーグの寝室に勝手に入ると備え付けの隠し引き出しを開け、金貨だけ選んで五枚を持って戻った。
貨幣は種別に布でくるんであった。
ロズラルとウェンディーの几帳面さを思って苦笑が漏れる。
戻るついでに一階の奥、総面積の三分の一を占める倉庫の入口の小机から紙とペン、契約の魔石を持って席に戻った。
俺とほぼ同時にファルエルガーズも戻ってきた。
見せ金の五〇〇万Zを机の上に置いて、バストラルへ話しかける。
「バストラルさん。五〇〇万Zあります。必要なだけ使ってください」
こいつの現在の所持金と併せてこいつ自身に借金を返却させた方が良いだろう。
って、あれ? あれれ?
何全部取ってってんのよ?
驚きを顔に浮かべない意志力を褒めてくれ。
バストラルは俺に一つ頭を下げただけで全部持って行ってそれで返しやがった……。
ファルエルガーズは一枚づつステータスオープンを掛けて確認している。
五枚全部確認し終えると借用書を破り捨てた。
ああ、まぁ銀貨とか数多いしいちいちステータス見てらんないよね。
二〇〇万Z近くジャリ銭みたいになんのかよ……銀貨はジャリ銭とは呼べないか。
しかし、俺の思いに反してバストラルは一向に自分の財布を開こうとはしない。
そればかりか俺を見つめていた。
「何か?」
お見合いじゃねーんだよ。
金返せよ。持ってんだろ?
「あの、借用書を書かなくて宜しいのですか?」
へ?
いや、勿論書いて貰うけどさ。
あ! そうか! メンゴメンゴ。
武器も鎧も買わなきゃいけないよね。
すっかり忘れてたわ。
「あ、勿論書いて貰うつもりですが、契約書に追記しようと思いましてね。天引きの方がいいでしょ?」
「あの、そこでお願いがあるのですが……」
「ん? 何でしょうか?」
おずおずとしたバストラルの物言いが不自然だった。
「あと二〇〇万、いえ、一〇〇万追加でお貸し願えませんか? 図々しいのは百も承知ですが、どうかお願いします」
ほえ?
武器で一〇〇万、革鎧で五〇~六〇万、当面の生活費で二〇万くらいは必要だろうと思ったから五〇〇万はいいやと思ったのにあと一〇〇万?
そんな高級な武具欲しいのか?
魔法の武器はともかく、俺のお手製の剣を除いてそこまで高級な武器使ってる奴なんかうちのメンバーにだっていねぇぞ?
鎧は最近そこそこになってるけど。
あ、そういやエンゲラの段平が五〇〇万くらいするやつだったな。
そう考えると俺を除いて金属帯鎧に高品質な段平を使ってる奴隷女が最高装備だったのか……笑える。
「ん……使い道をお尋ねしても?」
金を貸す以上使用用途を確認するのは日本的に言っても当然の事だ。
本当に知りたいし。
「ん……私には故郷で結婚を約束した女性がいます。同じ奴隷なのですが、彼女を買いたいのです。自由民の奴隷所有の人頭税は一〇〇万ですからすぐに解放して結婚しますけど……」
はい?
おい、ちょっと待て。
俺はファルエルガーズとヒーロスコルを交互に見た。
彼らは重々しく頷いた。
こいつの言ってることは本当らしいが、それは流石にな……。
「……バストラルさん。それは無理です。いえ、金が無くて言っているのではありません。先ほど言った通り迷宮は危険な場所です。正直に申し上げて貴方は今年中に命を落とす可能性さえあるのです。それ以上のリスクを私に負えと仰るのですか? だいたい、その女性を購入したら貴方は武器や防具をどうやって揃えるおつもりですか? 念のため申し上げますが歩兵用の剣や槍の相場は七〇~八〇万Zですし、革鎧はそれより少し安い程度ですよ? 当面の生活費だって必要でしょう」
俺がそう言うとバストラルは言葉に詰まった。
ファルエルガーズたちもこれには何も言えないようだ。
「一年くらい我慢してください。はっきり言いますが、最初から今の私のメンバーと同じ待遇になど出来る筈がありません。いわば、二軍からスタートだと思ってください。ですが、お約束しても結構ですが、一年後、貴方が立派に生き残っていたのなら、贅沢な生活は無理でしょうが奥さんを買い、夫婦揃ってきっちり人頭税を払えるくらいには稼がせてあげられると思います。……ご出身はどちらですか? 心配なら半年後貴方が立派に働いているのであれば私が買っておいてもいいですよ」
なんか釈然としない。
アホか、俺は。
生活に困っている同郷人を自分の会社で雇う慈善家かっつーの。
……これ、どう考えても俺の持ち出し超過だ。
俺の命令に絶対服従が当然だよなぁ。
やっぱ契約するならちゃんと文面考えよ。
契約は対等なものだが、お互いの力関係で内容が変わることなんか当たり前だっつーの。
そうじゃなきゃ日本の下請けは潰れたりせんわ。
なんかもうバカらしくなってきた。
「私としては最大の譲歩です。これでご納得いただけないのであれば雇えませんよ」
今更雇えない事について文句は言わせん。
借金増額を断ったくらいで文句言われたらたまらんわ。
そんときは本当に放り出して金が返せなければ俺の借金奴隷にしてやるだけだ。
「……解りました。勝手に図々しい事を申し上げて済みませんでした。宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします。では、早速武器と防具を揃えましょう。宿も取らねばいけませんしね」
俺はそう言うと戸口に立っていたズールーに命じてヨトゥーレンたちを中に入れさせた。
「急に押しかけて悪かったな。あと、ロズラルに五〇〇万使ったって言っといてくれ。……って、いいか、帰りに俺が直接言うわ。あと、これで何かあったかいもんをアンナたちに食わせてやれ」
適当に銀貨を二~三枚、レイラに握らせると皆を促して商会を後にしようとした。
「あの、グリードさん」
ヘルメットを被り、篭手に手を通し始めた俺にファルエルガーズが話し掛けてきた。
ああ、ちゃんとミヅチに言ってあんたらのヤサは突き止めさせるよ。
そう簡単に折角の日本人を二人、それも騎士を簡単に諦めるもんか。
「ん? なんですか?」
「我々もバルドゥックまで行っても宜しいですか?」
え? 勝手にしろよ。
そっちのが有難いけどな。
ああ、そういえば見届けるとかなんとか言ってたよな。
暫くでもあんたらが勝手に付いて来てくれるなら監視の手間が省ける。
「ええ、構いませんよ。ラルファ、グィネ、立て。行くぞ。ズールー、エンゲラ、乗合馬車まで先に行って席取っとけ」
足が痺れたのか、よろよろと立ち上がり、その足をベルにつつかれてぎゃーすか喚くアホ二人を横目に兜の緒を締めていると、更に声が掛かった。
「それと、お願いがあるんですが……」
なによ、もう。
当面あんたらは雇わないよ。面倒そうだし。
「そのぅ、さ、鞘を売って欲しいのですが……」
「ほ、本当は鞘を買いに来たかったんだ」
聞こえないくらい小さな声で言われた。
え? もう、やめてよね。
若い子もいるんだからさ。って客だったんかい。
「ヨトゥーレン、鞘ってまだ余ってるか?」
小声で聞いてみるとかなり在庫が少なくなっているらしいがあるにはあるらしい。
但し、残っているのはSSとXLサイズだけだ。
あとは既に契約されている娼館商会分で埋まっており、フリー在庫はゼロとの事だった。
仕方ないので超ちっさいのと馬鹿でっかいのしか余ってないと言ったら残念そうだった。
「宿までおいでいただけましたらSとMサイズなら多少はお分け出来ますが……」
勿論俺が使うMサイズもあるが、エンゲラに支給しているMサイズとトリスに売っているSサイズは確保しているんだから当然在庫は多めに持ってるさ。
とりあえず全員乗合馬車に押し込めたので、ミヅチと二人、騎乗してゴムの作業場へと行き、ロズラル達に急に金が入用になったので五〇〇万使ったと伝え、乗合馬車を追いかけた。
「嘘看破」ディヴィネーション
(全属性Lv3、無魔法Lv5、消費MP22 無魔法ダブル)
対象を一人選んでその対象が嘘を吐いた場合、感知する。嘘とは事実に反しているかではない。意図的に相手を騙す目的で事実に反した発言を指す。本人が信じ込んでいれば嘘ではない。逆魔法は「本音隠し」。この魔法と相対した場合、使用者のレベル差で判定される。
HDD飛びました。と言ってもRAID6にしているのでデータやアクセスには全く影響ないのですが、ピーピーうるさいので短くて済みませんがこの辺で切り上げてHDD買いに行ってきます。もう、いろいろ忙しい時期に困るよね。マジで。
また、頂戴したご感想は全て拝読させて頂いています。
返信は活動報告の方で行っています。たまにご覧になってみてください。




