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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第九十一話 師匠、ミラ・ミライス

7444年9月1日


 日付が変わったのを確認し、ミヅチと二人で妖精郷へと足を踏み入れた。


 驚くミヅチを連れて池の島へと渡る。


「カール! 魚持ってきたぞ!」


 声を掛けると樹の上から返事があった。


「誰かと思ったらアルかい? ちょっと待ってて。今行くよ」


 樹の空洞から飛び出したカールはすぐに樹の根元近い空洞に飛び込むと、またすぐに出てきて「ぴるるるっ」と甲高い例の言葉でまわりの仲間に声を掛けた。


 何匹かの妖精がカールの元へと飛び、皆で樹の空洞に入るとコンロの魔道具を引っ張り出してきた。

 なんだ、言ってくれりゃ俺がすぐに引っ張り出してやったのに。


 妖精たちが何匹かで引っ張り出してきたコンロの魔道具はしっかりと掃除がされており、前回の油汚れは残っていなかった。

 腰の袋から魔石を取り出すと魔道具にセットして火を付けてみる。

 問題なく炎が出てきた。


 同じ空洞に突っ込んであった五徳を出してやり、リュックサックから干物を取り出すと、見ていた妖精たちから歓声が上がった。


「ところで、今日は一人じゃないんだな。……ダークエルフか。ミヅェーリット・チズマグロルさんね。宜しく、俺はカール・ミライスだ」


 ステータスオープンもされずに名前を言われたミヅチは少し目を見開いたが、俺から【妖精の目】の特殊能力を聞いていたのですぐにそれを思い出したのだろう、慌てることなく普通に挨拶をしていた。


「ああ、そうだ。ミラを呼んで来るよ。今日は起きてるからね」


 そういやそんな名前を聞いた事があったな。

 確かカールの姉だった筈だ。


 メイネイジの干物を焼きながらゆっくりと待つことにした。


 しかし、ものの三十秒ほどでカールは一匹の髪の長い女性の妖精と一緒に戻ってきた。

 近くで見てみると確かにどことなくカールに似ている気もする。

 気がするだけでよくわかんねぇけど。小さいし。


「さあ、アル。紹介するよ。ミラだ」


 カールは連れてきた女性を前に押し出すと紹介した。

 カールと同じ蜂蜜のような金髪だ。


「いつも魚を持って来てくれてるんだってね。カールから聞いたよ。私はミラ・ミライス。ここの長をしてる者だ。あと、もう二回以上ここに来ているなら三層からの転移方法については教えるのは構わないよ。後で教えてあげよう」


 うえ、そういやそんな事言ってたな。もうやっちゃった。

 ミラが挨拶を言って来たので、俺も名乗ってから言う。


「ああ、その、実は今日は三層から転移してきたんです。方法はリルスに聞いたのでもう知っています」


 俺の言を聞いたミラはミヅチを横目で見ると、


「リルス様の事を敬称抜きで呼ぶとは……お前さんは何にも言わんが、認められるのかの?」


 と俺ではなくミヅチに確認した。


 そういや亜神《デミ・ゴッド》だった。


「理由がありますし、陛下もお認めになられております。問題はありません」


「ほーん!? 亜神《デミ・ゴッド》様自らがお認めになられてるのかね! そこまで大した奴なんかね! どら……ほーん、固有技能を二つ持ってるね……でもリルス様がお認めになられる程ではないと思うがの……まぁ良いけど。今日は魚もたっぷりあるようだしね。別に良いさね」


 と言って、にんまりとした笑みを浮かべた。

 え? 五月の頭に来た時も食いきれないほど持ってきたと思うんだが。


「アルの持って来る魚は旨いからね。ミラはまだちょっとしか食べた事はないんだよ」


 そうか、じゃあたんと食ってくれ。


「ああ、今日もたくさん持ってきたよ。食ってくれ。で、だ」


「解ってるよ。魔法の事だろう? ミラにも話してあるからいいよ。俺よりは知ってると思うし」


 おお、カールの癖に今日は話が早いな。良い事だ。


「カールから聞いとるよ。私が知っている程度で良いなら教えてあげるさね」


 ミラも物分りがよくて助かる。


「うん、ありがとう。カールはミヅチに……ミヅチと言うのは彼女の事だけど、教えてやってくれないか? 基本的な事は話してあるからまだ俺に教えてないような奴を頼む。あと、ミラさん。ミラさんには私にお教えいただきたいと思っています」


 同時に同じ内容を教わるより別々に教わって後で内容を教え合った方が効率良いからな。

 おあつらえ向きにミヅチは全属性の魔法が使えるし魔力も非常に多い。俺のパーティーでは最適だろう。




・・・・・・・・・




 丸一日掛けてかなりの魔法を教えて貰えた。途中何度か小休止を挟んだが、その度にカールとミラで俺たちに教える内容が被らないように四人で話し合った。

 ミラに再生《リジェネレート》の魔術を教わった時には、ミヅチの顔の傷も直してやれるかな、と期待した。

 ミヅチは魔法の特殊技能レベルが低いのであまり高度な魔術は無理だが、それでも俺の知らない魔術は多いから非常に役に立つ。



 ミヅチには今回、罠発見(ファインド・トラップ)、縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)、魅了感知(ディテクト・チャーム)、嘘看破(ディテクト・ライ)、生命感知(ディテクト・ライフ)、幻影打破(ディスペル・イリュージョン)、魔術打破(ディスペル・マジック)など、比較的魔法のレベルが低くても役に立ちそうな魔法を中心に学ばせた。


 俺は快復(リカバリー)、金属ガラス化(グラススティール)、仄めかし(サゼッション)、人物魅了(チャーム・パーソン)、植物魅了(チャーム・プランツ)、嫌悪(リパルション)、集団透明化(マス・インヴィジビリティ)、白痴化(フィーブルマインド)と言った比較的高レベルの魔法の技能が必要とされるものを学んだ。


 ミヅチは途中何度か魔力切れになる前に休ませたが俺は休み無しだ。因みに念の為と思って確認したが鑑定(アイデンティフィケーション)の魔術は聞いた事が無いとの事だった。

 何となく予想はしていたがやはり固有技能を魔術で再現するのは無理か、可能だとしても非常に困難である事は間違いないようだ。良かった。


 ミラが居るとカールの話が早いのには助かった。


 正直な話、カールがいつもの調子ならミヅチが使えるようになった魔術は半分以下になっていただろう。

 実はそれくらい覚悟していた。


 ミラも普通に話が出来る事は嬉しい誤算だったので、妖精族への偏見はそのままカール個人への偏見になった。


「ふぅ、久々に真面目にやったから疲れちまったよ……」


 ミラがため息混じりに愚痴をこぼしたが、本当に頭が下がる思いだ。


 こんなに沢山の魔術を目の前で使って貰えるとは思ってもいなかった。

 何しろお礼なんて干物だけだし。

 干物程度で魔術を教えて貰えるなんて幸運、滅多にないぞ。


 しかも俺に魔術を掛けて貰ったりして効果を実感出来るのも大きい。


「ミラさん。有難うございます。心から感謝します」


 俺は自然と頭の下がる思いで礼を言った。


「ん? 別にええよ。私はここ百年近く妖精族以外の人の顔を見なかったからの。しかもそれが亜神《デミ・ゴッド》様を呼び捨てに出来る程の大物とあっちゃ一日くらい頼みを聞くなんて訳はない。だいたい、以前来た……何と言ったかの……普人族の男と比べたらお前さんは殆ど何にも無くて苦労しそうだからの。はっきり言って憐れみに近い」


 憐れまれてた……。別にいいけど。


「そもそもこの場所は強固な目的意識を持った者でないとそうそう来る事は出来ん。偶然迷い込むという事も可能性として全く無い訳じゃないが、何十年に一度に近いから有り得ないと言っても良いしの。よしんばそんな者が迷い込んで来たとしても我らに害をなそうとするだろうからの。実行に移した瞬間に寄ってたかって殺すがの。二回目以降の者には土産さえ持って来てくれるならそれなりの事くらいはしてやるわいの」


 思っただけで良かった……死ぬところだったわ。 


「おおおおおおおっ! なるほどっ!」


 ミヅチの驚いたような感激したような、納得したような声が上がった。

 なんだよ、もう。


 あ、あああああっ!? この野郎! 何て事を!!


「あっはははっ! 面白いね、それ! そんなやり方思いつくなんてミヅチは天才じゃないの!? 俺はこんなに驚いたのは何十年、いや、何百年ぶりだよ!」


 昨(・)日(・)作(・)っ(・)た(・)ば(・)か(・)り(・)の(・)ブ(・)ー(・)ツ(・)の右足が踝くらいの高さにまで短くなっており、踵が踏み潰された形で履かれていた!

 っざけんなコラッ!

 それはなぁ……それは、ダイアンが一生懸命作ってくれたブーツなんだぞ!

 大事に使えば何年も持つんだ。

 それをお前、切ったのか!?

 あまつさえ踵まで踏ん潰しやがって!


「手前ェコラ……」


 きっと俺の額には青筋が浮かび、眼球の毛細血管は切れていた筈だ。

 ミヅチは短くなったブーツの踵を踏み潰したまま、満面の笑みを浮かべて俺を見て右足を蹴り上げる。


「貴方、見る! 『明~日天気になぁ~あれっ!』


 あ゛!? 舐めてんのか!?

 ミヅチの足から元ブーツがぽーんと飛び、ひっくり返って落ちた。


 あ?

 ブーツを飛ばす瞬間のミヅチの右足が僅かに光っていた気がする。


「はい、ここ、妖精郷地方の明日の天気は……雨で~す」


 それを見てカールは腹を抱えて笑い転げている。

 俺は怒り心頭に発し、思わず銃剣に手をやりそうになるのを堪え、様子を窺った。


 魔法……なのか?


 っつーか、雨ってお前。え? 雨降んの? ここ。


「今のは天候予測《プレディクト・ウェザー》の魔術か……あれは呪文で使ったんだの」


 ミラが解説してくれた。


 やっぱあれは魔術だったのか?


 しかも天候予測《プレディクト・ウェザー》だって?


 思わず天井を見上げる。


 一〇〇mちょい上は石壁のような発光している天井だ。

 あそこから降る雨って湧水じゃねぇのか?


「おい……お前……」


『いやー、上手く行かなくてダメ元で呪文調べたら笑っちゃいました……よ? 何怒ってるの?』


「そのブーツ……ってあれ?」


 よく見たら似てるけど違う奴だ。

 ああ、元々履いてた革底の安物の方か……安心した。


『ああ、これ? カールが教えてくれたの。天候予測《プレディクト・ウェザー》の魔術は触媒として何か使うのが良いんだって。普通は篝火とか水に浮かべた草舟とからしいんですけど、草舟でやっても沈み方と予測した天気のイメージが結びつきづらくて、前のブーツ切っちゃいました。下駄なんかないし』


「なに? なんて言ってんの? それどこの言葉?」


 ほほう、そういう事か。

 こりゃおじさん一本取られたね。

 あ、羽虫は放っときます。


 でも、なんで古いブーツまで持って来たんだよ。


「いや、あの。せっかく新しいブーツを作って貰ったのでありますからして、お披露目は全員で迷宮に入る時が宜しいかと思ったので……」


 持って(履いて)来なかったのは新しい方か。

 勘違いして悪かった。


 その後、俺はミラに一つ聞いてみたかった事があったのを思い出した。


「ミラさん。土や石から金属を加工して取り出す魔術をご存知ないですか?」


「ん? 岩石(トランスミュート・)泥化(ロック・トゥ・マッド)と言うのがあるが、それの下位の魔法は使えるんじゃないかの? 泥沼(クァグマイア)は知らんのか?」


「それは知っています。しかし、泥沼(クァグマイア)は地面の一部を泥沼にするだけの魔法ですよ?」


 ちょっと不思議だった。


「うむ泥沼(クァグマイア)は岩石(トランスミュート・)泥化(ロック・トゥ・マッド)の機能を限定する事によって簡略化した魔術だからの。岩石(トランスミュート・)泥化(ロック・トゥ・マッド)ならば泥に出来るのは地面に限定されん。岩や鉱石も泥に出来る。それで金属鉱物を多く含んだ岩や土壌を泥にしてやればいい。水魔法で作り出した水が混じっているから水と一緒に無魔法で選別してやれば簡単に単一金属を結晶化して取り出せるぞい。変形も一緒に使えば取り出す形も思うままよ」


 それだ!


「おお、そうですか。ではその岩石(トランスミュート・)泥化(ロック・トゥ・マッド)の魔術をお教えいただけないでしょうか!」


 土下座する勢いで頼み込んだ。

 必要だと言うならお礼に手足の一本くらいくれてやってもいいくらいだ。

 再生(リジェネレート)覚えたし。


「教えてやるのは吝かでもないが……」


「はっ」


「今日はもう無理さね。私の魔力が持たんわ。また今度の」


「……解りました。次回は必ず……。もっといい魚も沢山お持ちします」


 残念だが仕方ない。強要出来るはずもないし。

 因みに岩石(トランスミュート・)泥化(ロック・トゥ・マッド)の魔術は風魔法以外全ての魔法の技能が8レベル必要だそうだ。

 魔力も相当食うようで、ミヅチと同じくらいのMPを誇るミラですら連続で二回は使えないらしい。

 と、言う事は一回で一五〇とかMPを食うんだろうな。

 そんな俺をミラは寂しそうな顔で見た。


「皆そう言ったが、ここに複数回来たのはアルで何人目だったかね……。今までにも数える程しかおらんよ。期待しないで待っとる」


「期待して良いですよ。私はまた必ず来ます」


 ニヤリと笑みを浮かべて言った。


「ふん、勝手にするさね……」


 ミラも長髪の奥でニヤリと笑った気がした。


 残った魚と魔石を置いてミヅチと二人、深夜のバルドゥックの街に戻った。仮の宿を引き払い、ボイル亭に戻る。

 あと一日、ゆっくり休んだら迷宮だ。


 見てろ、今月中に六層を制覇してやる。


 

短くてすみません。


クローの【誘惑】の効果は基本的には同種族の異性に対して性愛的な好意を得られる事です。ある意味で盲目的な愛すらも得られます。性欲も絡みますがどちらかと言うと付随的な効果に近いです(こちらをクローズアップしたのが【性技】になります)。場合によってはクローに対する攻撃すら身を呈して庇うでしょう。明らかに損な取引だって応じると思います。ついでに言うと抵抗すら碌に出来ません。解除の方法も限定的です(具体的には時間が切れるか、魔力中和の力場に入るか)。ついでに言うと【誘惑】効果中の対象者を「魅了感知」も出来ません。


対して魔術の「人物魅了」はそこまでの効果はありません。魔術の対象者は術者に対して好意は持ちますが、それは昔づきあいの長い親友に対するそれです。損な取引も多少なら考えられますが、明らかに損な場合、断るでしょう。逆に言うと「明らかに」損でない場合にはまず断りません。簡単に現代に当て嵌めて言うと、知らない相手にかけられた場合でも、効果時間中であれば保証人の判くらいはつかせられますが、連帯保証人だと魔術関係なく知り合いとか、親戚じゃない限り難しいでしょう。

術者に対する第三者からの攻撃を身代わりになって引き受けるなんてこともありませんし、そもそも「人物魅了」の魔術に対する抵抗すらも可能です。抵抗に成功すれば当然魅了される事はありませんし、何か超自然的な力で精神を捻じ曲げられそうになった記憶も残ります。普通は何らかの魔法を疑うような超自然的な力です。

基本的には術者と対象者のレベル差が魔術の掛かり易さ(抵抗のし易さ)に関わってきます。解除の方法ももっと多いです。また、効果時間は通常5分間です。魔力を多く注ぎ込めば余計に注ぎ込んだ魔力分効果時間が平方根で延長されます。100倍注ぎ込んだら10倍の50分間魔術の効果は持続します。1000倍注ぎ込んでも31倍強しか延長されません。尚、アルも1000倍は注ぎ込めません。


共通するのは魔術や固有技能にとらわれた場合(人物魅了の場合は抵抗に失敗した場合)、術者に対する感情が魔法によるものである事に気付かないという点だけです。

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