第八十六話 おあつらえ向き
7444年8月25日
皆のところに戻った俺は、シャワーでも浴びてさっぱりとしようと思ったが、今はグィネがシャワー室に飛び込んだ直後だったようだ。
俺様より先に浴びようとはふてえ野郎だと思ったが、よく考えたらジンジャーを送り届けるのに、グィネは自分の固有技能がバレないよう相当気を使っていた事を思い出した。
うん、今日はグィネが一番風呂の権利は充分に持っているよな。
……次は、ベルだろう。
となるとその次はトリスだろうな。
俺は後でもいいや。あんまり疲れてないし。
「ベルさん、お湯~」
グィネが革鎧と服を脱ぎ終わりシャワー室に入ったようだ。
ベルがはいはいと言いながらシャワー室の後ろの櫓に登って桶にお湯を入れている。
ゼノムは鎧も脱がずに足湯に足を漬け、一息ついているようだ。
トリスとズールーは金属帯鎧を脱ぐのにラルファとエンゲラの手を借りている。
脱いだ鎧は壁際に並べた鎧掛けに掛け、その後それぞれの得物の刃こぼれをチェックするのだ。
ギベルティがコンロの魔道具に火を入れたようだ。
刻んだ肉や野菜類を炒めているジャージャーという音が響き渡る。
日光には悪いが平和な殺戮者の日常だ。
俺はギベルティの傍まで行くと、
「今回は明日か明後日には戻るから、残りの食材の量を気にしないであいつらの分も作ってやれ」
と言って五人で輪になって座り、ぼそぼそと何か話し合っている日光を顎で指し示した。
ギベルティはにっこり笑うと、
「解りました、ご主人様」
と言って、野菜と肉をフライパンに追加した。
フライパンの隣のコンロでは大きな鍋が火にかけられていた。
「あとどの位で食えるようになる?」
と聞いたら、
「十五分くらいです」
と返事が返ってきた。
ベルがシャワーを浴び終わるくらいか。
俺もゴムプロテクターを外し、鎧下になるとベルに「次、ベルが浴びろよ。あと、今日はサンキューな。せっかくのチャンスだ。上手く使うよ」と言って、銃剣のチェックを始めた。
実は今日は一度も使っていないのだが、チェックは必要だよね。
すぐに問題ないことを確認すると、部屋の反対側にいる日光のところへ向かった。
丁度彼らも食事をしようかとそれぞれの荷物を漁り始めたところらしい。
良いタイミングだったな。
早めに取り出していた奴の広げた食い物を見ると冷えてカチカチになった蕎麦のガレットが二枚と干し肉、胡瓜一本がメニューらしい。
くっそまずいクッキーみたいな保存食じゃないだけマシな方だ。
「ゼミュネルさん、もし良かったら皆さんのお食事をご用意したのでご一緒しませんか? 温かいものがあります。それに、お食事のあと、シャワーもどうぞ。さっぱりしますよ」
と言って微笑んだ。
ゼミュネルは、
「いや、ありがたい申し出だが、しかし、そこまで……」
と言って遠慮しようとしたが、
「ご遠慮なさらないでください。それに、折角用意させた食事が無駄になってしまいますから」
と俺は答え、ジンジャーを含む他のメンバーにも微笑みかけた。
日光のメンバーは顔を見合わせ、ゼミュネルの決定を待っている。
「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます。是非ご一緒させてください」
ゼミュネルがそう答えたのを確認して俺は踵を返した。
・・・・・・・・・
ゼノムとラルファ、トリスとベル、グィネとエンゲラ、ズールーとギベルティが二人一組で食器を共有し、予備の一組の食器を出せば五人分の食器を用意出来る。
俺? 俺は勿論一人で使うよ。
肉野菜炒めと玉ねぎとキャベツ、カボチャや人参、角切りベーコンの煮物を振る舞い、干し肉で作った温かいスープも用意した。
「大したものではありませんが、どうぞ、温まってください」
そう言って食事をする。
日光のメンバーは最初は遠慮するように食べていたが、やはり腹は減っていたのだろうし、数日ぶりのまともな食事だったのだろう、すぐにガツガツと食べ始めた。
あっという間に料理は無くなってしまったが、十分な量は出せたと思う。
「いや、グリードさん。メンバーを保護して頂いたばかりか、食事まで……ごちそうさまでした。有難うございます。温かい食事は四日ぶりでしたので嬉しかったです」
食器をギベルティに渡しながらゼミュネルが言った。
彼に合わせ、日光のメンバーも口々に礼を言った。
「いえ、お気になさらず……。ところで、出過ぎた質問ではありますが、まだ戻らない方々ですが、如何するのですか?」
と言っても、社交辞令以上ではない。
探しようがないし、自力で元の六層に転移してきた水晶棒に戻るか、俺達のように六層の転移の水晶棒の部屋まで行くしかない。
闇雲に六層に向かったところで発見出来る確率は極小だろう。
俺の言葉にゼミュネルは難しそうな顔をして答えた。
「……仕方ないですが、捜索は無理でしょう。数日はここで野営して待つつもりですが、個人が持ち歩いている保存食は一日分です。食い伸ばしても三日が限度でしょうね……」
ま、そうだろうね。
俺は、
「せめて三人が全員バラバラになっていないことを祈りましょう。一人より二人、二人より三人の方が無事に生きている可能性は高いですから」
と真剣な顔で言って励ましてやった。
「そうですね……」
と言ってゼミュネルは俯いた。
当たり前だが責任を感じているんだろう。
そりゃそうだ、ほぼ一〇〇%、あんたの責任だ。
六層では水晶もないのに転移する事はちょっと噂を聞けば誰でも調べられる。
と言うより、この街の冒険者なら知らない方がどうかしている。
彼らだけが知らなかったなどという事は有り得ない。
当然彼らも用心はしていたんだろう。
戦闘中に別のモンスターに乱入された事自体はどうしようもないとは言え、その程度の状況で走って避けようとするメンバーを抑えられないあんたの問題だよ。
日光がどうやってリーダーを選抜しているのかは知らんが、最初に六層に来るようなチームのリーダーがこの体たらくだとあんまり見るべき人材はいないんだろうな。
やはり所詮は冒険者と言ったところかね。
「まあ、あまり気を落とさないことです。シャワーでも浴びてさっぱりしたら如何ですか? コーロイル君、お湯の用意をしたまえ」
失敗を反省するのはいいが、いつまでも過ぎた事を悩んでも仕方ない。
それより、あんたが考えるのは、出来るだけ長くここで野営を張って仲間の帰りを待ってやる事だ。
俺があんたなら今いる仲間の食料を全部置いて行かせて全員地上に戻し、少しでも長くここで仲間を待つ事を考えただろう。
又は余裕がありそうな俺たちに食料を売って貰うべく交渉するとかな。
当然俺たちは、もし殺戮者から誰か転移の罠で逸れた場合の事なんかも想定している。
奴隷も含め全員に作成出来た部分の地図の写しを渡し、可能なら地面に目印を残しながら中心を目指すように、危険だと感じたらとにかく身を守る事を優先し、大丈夫そうな場所まで移動する事、そしてその場を出来るだけ動かずに助けを待てと言っている。
特に地図の出来が五割以下の時なんか、絶対に逸れないよう、相当気を使っていた。
だから探索速度が遅かったのも大きい。
グィネなら自力で帰ってこられるとは思うけどね。
逸れたのが俺なら心配しないでとにかくこの五層の部屋か、ギベルティを残して地上で待つように、俺以外であれば俺とギベルティを残して全員で一度地上に戻り、荷運びを雇って持てるだけの食料を抱えて何とかしてここまで戻る。
俺が一人で探した方が効率が良いし、万が一俺が探し当てるより先にここに戻ってもギベルティがいるから安心も出来るだろう。
だから、俺がジンジャーを連れて戻った時、四人もその場にいたのが不思議でならなかった。
犬人族だけに犬並みの知能しかないとは思わないが、こいつは馬鹿か? と思ったくらいだ。
今さっきだって俺が声を掛けなきゃ全員で飯を食うところだった筈だ。
俺に言われ、やはり気分を変えたかったのだろうゼミュネルはシャワーを浴びる事にしたようだ。
俺に命じられたベルも立ち上がって櫓の方へ向かった。
残ったメンバーにお茶を振る舞い、努めて明るく話しだした。
「いいリーダーですね。逸れたメンバーを心の底から心配しているようです」
そう言いながら俺の脳裏にちらりとミヅチが言った「平気で嘘をつく人はパラノイアらしいですよ」という言葉が浮かんだ。
パラノイアは言い過ぎか。サイコパスか。
どっちでもいいか。よく知らんし、俺の感覚では同じ気違いだからあまり変わんないわ。
「ええ、ビーンは若いのに大したリーダーですよ。戦闘の指揮も的確ですしね。まぁ日光の隠し玉のような新進気鋭の男ですよ」
三十歳の普人族の男が答えた。
しかし、あんたも三十にもなってそんな程度か。
確か丸盾と戦棍を使っている奴だ。
名前なんか覚えちゃいないけど、確かレベルは一六だったかな?
……ああ、ハルケイン・フーミズ、レベル一七か。
こいつがジンジャーの替りに逸れていたら盾も使える事だし喜んで奴隷に落としてたな。
「でも、グリードさんも大した人物だわ。こんなに若いのに、殆ど只みたいなお金で私を助けてくれたもの」
ジンジャーがベルに遠慮しながら言った。
ベルは何事もなかったかのように澄まし顔でお湯を桶に作り出している。
なお、殺戮者の面々は苦笑を浮かべていた。
感銘を受けたように頷いていたのはズールーとエンゲラだけだ。
っつーか若さは関係ないだろ。
「いえ、助けを求めて来られた方を見捨てるのは忍びないですからね……。それに、大した手間でもなかったですし」
照れたように言った。
日光のメンバーから口々に礼を言われた。
「いやぁ、なかなか出来ることじゃない。ジンジャーを見捨てられていても文句は言えなかった。本当にありがとう」
「噂通り結構良い人みたいね。流石はバルドゥックのトップを走るだけあるね」
「正直言うと、ジンジャーは奴隷になるかと思っていたんだ。でも予想が外れて嬉しいこともあるんだな」
日光には阿呆しかいないのか?
緑色団や黒黄玉、煉獄の炎ならこんな馬鹿共はパーティーに所属する資格すらないぞ。
礼やおべっかなんか地上に帰ってからいくらでも言えるだろ。
俺は呆れたような表情が浮かばないよう、細心の注意を払って表情を保ち、言葉を続けた。
馬鹿は利用すればいいのだ。
まぁこいつらも「トップチームの一角」なんだからただの馬鹿じゃない。
戦闘はそれなりに出来るんだろうし、迷宮での経験も積んでいる筈だ。
「ところで、皆さんもゼミュネルさんが終わったらシャワーを浴びた方がいいと思いますよ。温かい湯でも浴びれば気持ちも落ち着くと思います。特にジンジャーさんは相当怖い思いもしたでしょうからね」
と言ってまたにこやかに微笑んだ。
「そうね。そうさせて貰うわ。昼前にシャワーをお借りした時には確かにさっぱりとしました」
ジンジャーが言った。
帰ってきた時にギベルティに聞いたのだが、戻らない三人のうち二人が水魔法で水を出していたらしい。
夏とは言え、迷宮内で水シャワーは厳しいだろうに。
火魔法程度の魔力なんかすぐ回復するんだし、一休みしてから行ったって良いじゃないか。
「あれも今後、ご自由にお使いください。さっぱりとするのは確かですが、それ以上に六層の猪は匂いに敏感ですからね」
「そういう事か! クソ!」
急に納得したように声を張り上げたのは……ジェルトード・ラミレス。
二四歳。レベル一三か。
「ボーグだよ。あいつ、寒いとか言ってシャワー浴びてなかったじゃんか。それで猪が連続で……」
「あっ……」
「そう言えば……」
「確かに……」
最初こそぽかんとしそうになったが納得した。
シャワーを浴びてなかった奴がいたのか。
正直なところそこまで関連性があるかどうか、猪にでも聞かなきゃ判らないけど、こりゃ都合がいいや。
殺戮者の皆もしたり、と頷いているし。
役者やのう。
「六層に行く前にシャワーをちゃんと浴びて匂いを落とすのはそういう理由もあるんですよ」
トリスが説明を買って出た。
「今、うちのグリードが言った通り、猪は犬並みに鼻が利きます。ドッグワーの【超嗅覚】もかくや、というほどね……。おそらく皆さんはここまで来るのに何日か迷宮内で過ごしていたでしょう? 勿論、魔物の返り血などを受けている方もいらっしゃるでしょう。そう言った全てを洗い流しておくことが大切なんですよ」
と丁寧にトリスが言った。
日光の四人は感心したように頷いていた。
「だから我々は、かなりの手間をかけてまでここにこんな施設を作ってシャワーを浴びるようにしている」
とゼノムもトリスの言葉を引き継いで言った。
「なるほど……」
「うーん……そうかぁ……」
「必要だよねぇ」
「これは俺たちも何とかしないと」
ふふん、そう思ってくれて俺も嬉しいよ。
「ですので、六層探索には欠かせない施設です。私たちがいない時に壊したりしないで下さいね」
グィネが首を少し傾けながらにっこり笑って言った。
髭がなけりゃもう少しましなんだろうが……ま、いいか。
「ああ、勿論だ。正直、そこまで重要だとは思っていなかった……」
「私たちも使っていいなら壊すなんて考えられないわ」
「こりゃ戻ったら皆にも伝えておかなきゃな」
「私たちも殺戮者の皆さんのように誰か見張りを置くべきかも知れないわね」
うんうん。そうしてくれ。
俺達はいずれ七層を、そしてロンベルト一世の様に八層を目指す。
その時でもこの五層の基地は維持しておきたいからね。
「日光の皆さんが良い方達で良かったわ。これで安心ね」
ラルファが余所行きの言葉で喋った。
俺はラルファに頷き掛けると、日光のメンバーを見ながら頭を下げた。
「皆さんに認めてもらえて助かりますよ。これからも良い関係で行きたいものですね」
頭を下げた俺を見て日光のメンバーが慌てて言った。
「そんな……メンバーを助けていただいた上に、シャワーまで……」
「頭を上げてください。頭を下げるのはこちらの方です」
「そうですよ、こちらとしてはお願いしてシャワーを使わせていただく立場なのですから」
「皆で金を出し合って殺戮者さんのように見張りの奴隷を買うのもいいな」
ああ、是非そうしてくれ。俺たちも気兼ねなく先に進みたいからね。
そうやって会話をしているとシャワーを浴び終わったゼミュネルが戻ってきた。
「なんだ? 何を話してたんだ?」
それを受けて日光のメンバーが斯々然々と、六層を探索するのにいかにシャワーが重要な施設であるか、それを見張ったりする事も大切な事であると説明していた。
緑色団や黒黄玉ならこうは上手く行かなかったろうな。
だが、これで殺戮者と日光がある意味で共同戦線を張ったと言う、一種の既成事実が出来上がる。
五つしかないトップチームの二つが手を組むんだ。
いくら緑色団や黒黄玉に実力があると言っても、もうおいそれとシャワーを壊すとか、見張りのギベルティに手を出すなんて事はしないし、出来ないだろう。
俺たちにまともな意味で対抗するには残った三つのトップチームが手を組まないといけない。
そして、俺の見立てでは恐らくそんなことは無理だ。
何しろ三つともかなり個性的だし、特に緑色団は自分達の力に自信を持っている。
今まで稼ぎの面でトップを張り続けた根拠のある自信だ。
お互い飲み屋で顔を合わせれば酒も飲むし、冗談も言うが、あのヴィルハイマーのおっさんは多分誰も信用しないタイプだ。
俺の勘だがパーティーのメンバーですら心の底からは信用していないと思う。
そうなると残った黒黄玉と煉獄の炎が手を組むのも難しいだろう。
あのアンダーセンの姐ちゃんもあれで冷静に損得の判断は出来る。
下手に張り合おうとはしないで、こちらになびくと見た。
煉獄の炎の山人族も今まで通り、グィネと敵対する事は好まないだろう。
悪くても中立、良ければ馴れ合いこそしないだろうが好意的に接してくると考えてもいい。
日光はバルドゥックの冒険者たちの中でもちょっと特殊だから今後何かあるとすればこいつらが鍵になると思っていたが、やっぱその通りだったな。
いや、結論は出てないけどさ。
こいつら日光は収入の殆どを喜捨しているという噂通り、他の一般的な冒険者みたいに飲み歩いたり、女を抱きに行ったりも《《殆ど》》しない。
多分「しない」ではなくて金が無くて「出来ない」だけだが。
だからあまり他の冒険者達と接点がない。
他の四つのトップチームはそれなりにお互い付き合いはある。
従って、大体どんな奴らで、何に興味を持ち、何を価値としているのかという事は理解しているし、されているだろう。
しかし、日光だけは殆どどことも付き合わず、我が道を行っていたのだ。
内実はともかく見た目だけでも、ここと友好的に共同戦線を張っているように見せかけられるのは大きいと思う。
「ほう……なるほどな。確かに尤もな話だ」
仲間たちから話を聞いたゼミュネルはうんうんと頷いている。
さて、リーダーのゼミュネルはどう結論を出すのかな。
ちなみに、俺が彼ならここでの即答を避け、他のメンバーと交渉すると言って時間を稼ぐ。
勿論こちらに対して好意的に見えるようにだ。
その後、可能ならこちらと交渉し、仲間を説得するための工作資金を要求する。
これは自分が必要だと言ってもいいが、より効果的な方法は日光の半分位に反対意見が出たとか、自分より上位の人のうち誰か一人が反対しており、他の賛成者から指示されたとかでもいい。
勿論工作資金自体は狙いではない。
そうすることで今後の殺戮者の選択肢を僅かではあるが狭める事が出来るし、変な言い方だが日光が一枚岩ではないことのアピールにもなるから、運がよければ殺戮者の油断を誘えるかも知れない。
最悪でも馬鹿じゃないという牽制にはなる。
「グリードさん。非常にありがたいお話で、私としてはすぐにでも飛びつきたいのですが、他のメンバーの意思も確認しなければなりません。ですが、今は逸れたメンバーの帰りを待たなくてなりませんので連絡も取れません。お返事は後日正式にさせていただきたく思います。本当に申し訳ありませんが即答出来かねる事を心苦しく思っています。ですが、必ず良い返答が出来るものと思ってもいます」
ゼミュネルは申し訳なさそうに言うと頭を下げた。ふぅん。
「いえいえ、お気になさらず、皆さんで話し合ってお決めくださって結構ですよ。ですが、そちらのデメリットも殆ど無いとは思いますよ」
にこにこと笑いながら返答した。
ゼミュネルの次はジンジャーがシャワーを浴びるようだ。
・・・・・・・・・
7444年8月26日
翌日、いつものように早朝に目を覚ました俺たちは、朝食を摂り、シャワーを浴びると装備などを身に付け、また六層探索に赴こうとしていた。
気が付いたゼミュネルが起きてきて挨拶した。
「お気をつけて……」
「もし、また逸れてしまった方と出会えたらここまで送り届けますよ」
「申し訳ありません。我々五人だと六層は自信が無くて……」
「いえ、お気になさらずに、では」
全員で水晶棒を握り転移の呪文を唱えた。
「キズトレ」
・・・・・・・・・
グィネによるとまだ来た事のないエリアらしい。
周囲に魔物の姿が見えないことを確認し、「こっちの方が良さそうですね」と言う彼女の言葉に従って進み始めた。
「ねぇ、アル。日光と組むの?」
ラルファが言った。
「悪い人たちじゃないみたいだから、組む相手としてはいいんだけどなぁ」
トリスが言った。
なんか引っかかる言い方だね。
「だな。しかし、あんなリーダーでよくやってられたな」
ゼノムが言った。
同感だが、他と没交渉であればあんまり問題にもならないしね。
「でも、他のパーティーよりはいい感じじゃないですか?」
ベルが言った。
ほう、どこが?
「私は、どうせなら煉獄の炎がいいなぁ」
グィネが言った。
お前、何も考えてねぇだろ。好みで言うなよ。
取り敢えず足を止めようか。
俺がわざと答えず、考えを纏めていそうだと思ったのか、皆ごちゃごちゃ言い出したが、結論としては手を組むにあたっては一番良さそうだ、と言う感じに落ち着いた。
うん、皆が納得してくれるに越したことはない。
俺が高圧的に決めてもいいが、出来れば自分たちで考えて話し合い、結論を出して欲しかった。
特にこいつらには。
「うん、俺も皆とほぼ一緒の意見だ。多分あそこが一番与し易いだろう。おあつらえ向きに人数も多い上、なんたって恩を与えてる。彼らはこちらに対してあんまり意見を主張しづらいはずだ。それに、手を組むと言ったって、仲良く探索をするわけじゃない。第一そんなことは向こうもお断りだろう。転移の水晶棒の部屋の管理の問題だけだ。だとすると何を言い出すかわからない、自己主張の強い奴らよりは良いと思う」
そう言って皆を見回し、
「向こうだって悪いことなんか殆どない。奴隷を出してくれるならその分ちょっと出費がかさむかな、という程度だ。五層六層で探索しているならそのくらいの金、出そうと思えば出せるだろ。その出費と見合うかどうかという話だけだ。少なくとも俺が日光の構成員なら手を組むことを考えるね。あとは組み方の問題だけだ。全員、日光の連中には一応気をつけとけ。どこから切り崩そうとしてくるかわかんねぇからな。多分そんなことしてこないとは思うけど」
と言って、話は終わりだと言わんばかりに歩き始めた。
迷宮内で逸れた人を捜索する件ですが、転移先が数百もあり、それぞれが繋がっているのか、いないのか、どうなっているのか解りませんし、転移先から中心の水晶棒の部屋まで長いと20km以上のコースになることもあります。短いと5kmもないですけど。ですので、殺戮者でさえ、当然全力の捜索はするでしょうが、普通のやり方だと見つけられない可能性の方が高いと思います。
アルの自信はもっと別の部分でしょうね。例えば、迷宮の六層の床50cm~1m位をレベル8とか9の全力の水と火魔法で氷を張り、その上を氷の塊に乗って滑って高速移動するとか、なりふり構わずに探すつもりなんでしょう。あらかじめ逸れた場合、すぐに床から1m以上の場所に登れるような場所に待機とか決めているだけで済みますしね。
※以前一章のホーンドベアーとの対決時にも書いていますが、元素魔法で元素を出す場合、無魔法の整形と組み合わせることによって射程内(視界内)であれば好きなような形で「床から水位が上がるように」連続して氷を出せます。レベル7以上の大規模な元素魔法が使えるアルならではの方法ですね。




