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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第八十四話 底力

7444年8月24日


 五層の転移の水晶棒の部屋に到着した俺達は早速野営の準備を始める。


 地魔法で寝床を造り、晩飯の準備や、シャワーを浴びたりして着替えも一通り済ませ、全員でギベルティの作った料理に舌鼓を打っている。


「今日は惜しかったねぇ。あの祭壇の祠から、何出たんだろ?」


 ラルファは相変わらずせこい事言うなぁ。

 もう五層はいいじゃんか。明日から六層なんだしさぁ。


「大した物は出なかった、と思いたいね」


 ベルが相槌を打った。

 そうだな。そう思えばいいさ。


「でも、黒黄玉《ブラック・トパーズ》の人達……結構苦戦してましたよね」


 グィネは話題を変えた。

 確かになぁ。あそこの槍《スピア》使ってた奴らもグィネよりちょっとマシ、って程度の動きだった。

 前衛で逆三角形の盾(カイトシールド)と長剣《ロングソード》を使ってた奴らだって、盾はともかく、剣の腕はトリスとどっこいだった。

 あれなら俺でも魔法を使わずに、長剣一本だけで二人ならなんとか捌けるだろう。

 銃剣を使っていいなら三人くらいなら同時に相手取っても捌くだけじゃなくて勝てるんじゃないか?


「そうだな。あの戦斧《バトルアックス》を使っていた獅人族《ライオス》の男も、途中は派手だったが、力押ししか出来んタイプだな。総合的に見たらズールーの方がかなり上だろう」


 ゼノムが塩ベースのタレに漬け込まれ、味付けされた鶏の骨付きもも肉のローストを齧りながら言った。

 おいおっさん、あんたそれ二本目だからな。これ、一人二本だからな。


「そうですね……私にもそう見えました。それから、あのリーダーの女性、何と言いましたっけ? ああ、アンダーセンさん。弓の腕はそんなに良くないみたいですね」


 トリスがゼノムに答えた。

 おいおい、アンダーセンは充分だったろうがよ。

 お前までさっきのゼノムみたいにベル基準かよ。

 ベルが異常なだけだっつーの。はぁ。


「いや、アンダーセンの弓の腕は悪くないだろ。その証拠に二発ともきちんと当てていたろ? 下手に急所を狙っても外れることを考えたら充分な働きだった。あのライオスだって、【瞬発】を使った後の判断は甘かったかも知れんが、そこまで厳しく言わなくても……ゼノムもトリスも見方が厳し過ぎないか?」


 呆れながらそう言った。

 あ、このもも肉、美味いな!

 単なる塩ダレじゃあないぞ。もっと深い味付けになってる。

 ギベルティ……良い買い物だった。


「ん?」

「は?」


 ゼノムとトリスが顔を見合わせた。

 あれ? 俺変なこと言ったかな?

 ゼノムとトリスはちょっと微妙な顔をしていた。

 ああ、そういう事か。


「ん~、そういうことか。気を使わせたみたいだな。ありがとう。でも、今からそこまで心配しなくてもいいよ。それに、冒険者を部下にしたいとは思わない。いても強行偵察くらいにしか使えないだろ。そういうのが必要になってから考えても遅くないよ。そりゃあ勿論、良い人材がいればスカウトはしたいがな。でも、それだってまだ大分先の話だ」


 そう言ってまたもも肉にかぶりついた。

 まじで美味いな、これ。


「ふむ、確かに、少し焦っていたかも知れんな」

「ですね」


 ベルに横腹をつつかれてトリスが照れ臭そうに笑っていた。




・・・・・・・・・




 飯を食い終わってゆっくりとお茶を飲みながら順番にギベルティにマッサージをして貰う。


 まだここに着いて二~三時間。十八時くらいだろう。


 最近では四層と五層の突破には以前のように丸一日かかるようなことはない。

 流石に幾ら慣れても四層~六層突破に丸一日で済むようにはなるまいとは思うので、四層と五層の突破が多少短くなってもあんまり意味はないのだ。


 まぁ、五層が終わってからゆっくり休めるのは楽なのでそれはそれでいい。


 妙な例えだが、この五層の転移の水晶棒の部屋は殺戮者《スローターズ》専用な気持ちに近くなっていた。

 一月《ひとつき》のうち半分弱はこの部屋で寝ているからすっかり自宅みたいな感じで、今では誰がどのあたりで寝るなんて事まで決まっているし、更に調子に乗って、ギベルティを買って暫くした時、彼に買いに行かせたゴム引き布を使って簡単な足湯専用の小さな浴槽まで作ってしまっていたくらいだ。


 これから二十時くらいまでうだうだして、あとは真夜中くらいまでギベルティに任せ、休む。

 それから一時間毎に二人組四交代で見張りをする。

 午前四時くらいに全員起床して飯を食い、順番に簡単にシャワーを浴びて午前六時前には六層へ向けて出発するのが常だ。


 今夜の俺は午前三時から四時まで、ベルと二人で最後の当番だ。

 見張りのために起きている時間が半分になったこと、それに、必ず最初の四時間は全員が休めるので、全員揃って深夜には魔力が全快できる事でもギベルティを購入した意味は大きいと思っている。


 それまではローテーションによっては朝四時まで回復出来ないこともあったのだ。

 ギベルティの睡眠時間が少ないようだが、多分彼はその分昼寝でもしているんだろう。




・・・・・・・・・




 深夜三時、ラルファとエンゲラに起こされた。

 見張りの交代か。


 アイマスクを外して寝床の毛布から身を起こす。

 鎧下で裸足のまま銃剣を手に取ると、炊事場のようになっているあたりまで欠伸をしながら歩いた。


 木製のコップに冷たい水を入れ、一息に飲み干す。

 こめかみがチーンというくらい冷たい水はさっと意識を覚醒させてくれる。


 ベルも俺の隣で同様に冷たい水を飲んでいた。水と火魔法が使えると便利だよね。


 それから地魔法でベンチのように整形した椅子に並んで腰掛け、


「おはよう」

「おはようございます」


 と挨拶し、暫しの間ぼーっとする。

 当番としては最後の順番なので、どうせもう寝ることはないから、このあとは適当にシャワーを浴びて鎧を身につけるだけだ。


「先にいいですか?」

「ああ」


 ベルは俺に断って、先にシャワーを浴びるようだ。


 俺もベルも充分なMPがあるので朝さっとシャワーを浴びる程度なら水魔法三レベル、火魔法三レベル、無魔法四レベルの合計一〇MPもあれば充分だ。

 一時間と経たずに回復出来るし。


 シャワー施設も今では排水を考えて一m位の高さにしている。

 地魔法で出した土と石で土台を作り、その上に板を敷いて、更にすのこも敷く。

 すのこも板も少しだけ傾けている。

 低くなった方をなだらかな坂のまま部屋の外二〇mくらいまで伸ばしている。

 坂に窪みを付け、ゴム引きの布を細く切って敷けば一応排水機能があると言えるだろう。


 俺は少しだけ小用を足したくなったが、流石に見張り時間中に二人共この場を離れるのは宜しくない。

 ベルのシャワーなんて数分だろうから、待つことにした。

 あ、シャワー浴びながらしちゃうのはダメな派です。

 前世の両親にちゃんとトイレで用を足しなさいと躾けられた事がまだしっかりと記憶に残っている。

 あれから十六年、両親はまだ健在だろうか。

 生きていれば二人共とうに……米寿くらいか?


 ん? そう言えば美紀はまだ生きている筈だ。

 で、この世界にも居る、いや、居た。

 少なくとも六十年近くは二重存在だった?


 俺はてっきり、オースは広い宇宙のどこか別の星なんだと思っていたが……。

 いや、昔なにかSFとかで読んだ記憶がある。

 宇宙では時間は均一に流れている訳ではないらしい。

 それどころか光速を超えたりすると若返るとかなんとか……。

 別にどうでもいいか。

 考えても解らないし、調べようもないし……。


 俺の後方でシャワーの水音が止んだ。

 終わったのだろう。

 俺がプレゼントして以来、女性らしく金をかけて厚手のタオルを購入し続けているベルはきちんと体を拭いている。

 髪は俺が魔法で乾かしてやることも多い。

 勿論俺は体を拭くのにタオルなんて使ってない。

 いきなり体全体を魔法で乾かして終わりだ。


 間もなく、ベルが下着や服を身に付ける衣擦れの音が聞こえ、シャワー室から出てきたようだ。


「ごめん、髪乾かす前にトイレ行ってくる」

「ええ、どうぞ」


 用足しに使っている通路を進み、最初の左に曲がるコーナーで角の壁を向き、用を足し始めた。


 と、すぐに気が付いた。

 誰か近付いて来ている。


 ベルかな?


 俺が済むまでもう少し我慢しろよ。

 俺だってお前がシャワー終わるまで我慢したんだからさぁ。


「アルさん!」


 右手の、部屋の方からベルが俺を呼ぶ声がした。

 同時に部屋からベルのものだろう、駆け寄ってくる足音。


 え?


「アルさん、誰か来ます!」


 ベルの声が右の方からした。


 え?


 思わず頭だけ左に振り向いた。

 言われてみれば通路の奥から誰か数人で近付いて来るのが判った。


 え?


 手元を見てしまう。

 薄黄色い筈であろう液体は勢いが衰える事はない。

 あ、だんだんと火星人からは脱しつつあります。


 え?


 右後ろを見る。ベルが通路に走りこんできた。


 え?


 左後ろを見る。通路の奥から近づいてきた人影達は立ち止まったようだ。


 ホッとした。


「アルさん!」


 右後ろを見る。ベルはもう一〇mくらいのところに居る。


 こっち見んな。急には止められないんだよ。


「うわ、ベル! こっち来んなよ!」


 彼女は既に手に歩兵用の剣(ショートソード)を持っている。

 鞘ごと掴み、抜いてはいないが。


 ベルが立ち止まった。


 通路の中にじょぼじょぼという音だけが響く。

 何の拷問だよ。

 でもでかい方じゃなくてまだ幸ウンだった、のか?


 そのうちじょろじょろ、ちょろちょろ、という情けない音に変わり、ぶるりと体を震わせるとようやっと仕舞う事ができた。

 地魔法でさっと埋め、隠した。


 バツが悪いのを無理矢理飲み込み、ベルを見て頷くと、通路の奥の石にライトで灯りを点した。あいつらは……。


「日光《サン・レイ》……」


 ベルが呟くように言った。


 確かにそうだな。

 四〇m程先に立っている奴らは、日光《サン・レイ》だ。


 俺はほんの数秒、彼らを見つめ、ベルの傍まで行くと彼女の肩に手を置こうとして、洗ってないのを思い出してやめた。


 かわりに声をかけた。


「戻ろう」


 そう言って水晶棒の部屋に向かった。




・・・・・・・・・




 水晶棒の部屋に戻ると殺戮者《スローターズ》のメンバーは三層の部屋で慣れてしまっているのか図太くなっているのか毛布を被ったままだった。

 ちょっとだけ試してみたくなった俺は、普通に会話する程度の声で、


「皆、起きろ」


 と言ってみた。

 驚いたことに全員がさっと目を覚ました。


 ラルファまですぐに起き、彼女の傍らに置いてあった手斧《トマホーク》を握っていた。

 こいつ、寝たばっかりの筈なのに……良く起きられたな。


「お客さんだ」


 そう言って俺はベンチの様にした椅子に腰掛けた。

 足洗って靴下履いてブーツ履きたい……。

 ベルは弓矢を持つと大股に部屋を横切り隅の椅子に陣取った。


 すぐに日光《サン・レイ》のメンバーが部屋に入ってきた。

 合計八人か。

 全員右腕に山吹色に染められた布を巻いている。


 盾を使っている奴の盾の表面に鳥居のマークも見えた。

 パーティーの紋章は鳥居のマークだ。


 尤も、トップチームでパーティーの紋章とか言ってるのは彼らだけだが。


 ぞろぞろと部屋に入って来た彼らは、すっかり居心地の良さそうになった俺たちが固まる一角を見て驚いた顔をしたが、離れた一角で野営の準備に入った。

 それを見た俺たちも少なからず驚きを隠せなかった。


「追いつかれたか……」


 ゼノムが呟いた。


 そうだ。

 上の階層に戻るのではなく、野営の準備をしたという事は六層を目指すという事に他ならないだろう。


 俺たちもさっさと六層を突破し、七層を目指すべきだろうか?

 今、六層の地図の埋まり具合はおよそ六割強と言ったところだ。

 正直なところ、七層に行くだけならそう困難ではない。


 ここから六層に向かって転移しても二回に一回はかつて来たことのある場所に転移出来るのだろうからな。


 しかし、待て待て。「慌てる乞食は貰いが少ない」とも言う。

 今までは最低でも八割くらいが埋まってから次の階層を目指していたのだ。

 こんなことくらいで慌てても仕方ない。

 他人《ひと》は他人《ひと》、俺達《うち》は俺達《うち》だ。


「そりゃこういうこともあるだろう。だが、グィネを擁する俺たちも六層にはかなり長い間引っかかってるんだ。トップチームの一角とは言え、そうそう追い抜かれないよ」


 それに、日光《サン・レイ》はそもそもメンバーの数が多い(確か合計で十五~六人くらいいたはずだ)んだ。

 半年位前まではローテーションをしていたようだが、ここ最近はパーティーを分割してまで攻略していた筈だ。

 その原因は俺たちの流言だけどさ。


「彼らは俺たちがバルドゥックに来る前から五層に潜っていた。ここ半年位はチームを分けてまで潜っていたはずだ。他のトップチームより攻略速度が早い事も納得できるよ。そういった意味では俺たちの方が余程おかしいと思ったほうがいい」


 そう言って立ち上がった。

 別に争う気もないようだし、それなら俺はさっさとシャワーでも浴びようかと思ったのだ。


「大丈夫そうだし、時間まではゆっくり休んでてくれ。それに、今日は出発を多少遅らせてもいいさ。俺はベルの髪乾かしたらシャワー浴びてくるわ」


 そう言い残してベルの髪を乾かしてやってからシャワー室に入り、服を脱いだ。

 脱いだ服はカゴに入れて壁からぶら下げる。

 さっとシャワーを浴び、全身を魔法で乾かすと服を着た。


 出てから靴下を履き、ブーツも履いた。

 ゴムプロテクターを身に付け、ベルが革鎧を身に付け終わっているのを確認すると、ちょっとだけベルに目配せをして、日光《サン・レイ》が野営の準備をしている場所へと近づいた。


 俺が近づいてきたのに気がついた日光《サン・レイ》のメンバーの方へ向きを変え、さらに近づくと声を掛けた。


「先程はその、お見苦しいところを……。私はアレイン・グリードと申します。パーティー殺戮者《スローターズ》のリーダーをしています。貴方がたは日光《サン・レイ》とお見受けしますが、本日のリーダーの方はどなたですか?」


 日光《サン・レイ》には決まったリーダーはいない。

 何人かで持ち回りのようにしているらしい。

 勿論全員が順番にリーダーになっている訳ではない。


 俺の言葉が聞こえたのか、後ろから声が掛かった。


「私がリーダーをしています。ビーンスコール・ゼミュネルです。何か御用ですか?」


 今日はこいつか。

 犬人族《ドッグワー》の男で年齢は二十七~八だっけ。

 レベルは確か一七の筈だ。


 俺は彼に振り向き、口を開いた。


「いえ、大したことではありません。ご存知かも知れませんが、六層にはケイブボアーが出ます。奴らは鼻が良いので六層に行く前にはシャワーを浴びる事をお勧めします。もし良かったら我々の用意したシャワー施設をご利用いただいて結構です。水魔法が三レベル以上で使える方が居れば問題なく水を浴びられるようにしていますから」


 俺がそう言うとゼミュネルは驚いたように言う。


「おお、そうですか。我々は六層は初めてだったのです。ご忠告痛み入ります。また、施設を使わせて頂けること、感謝します」


 そう言って頭を下げた。


「いえ、いいんですよ。ああ、もし使い方がわからないようでしたら残っている奴隷に聞いてください。では」


 そう言って殺戮者《スローターズ》の陣地へと戻った。

 陣地ってなんだよ。


 その後、時間が来て朝食を摂った俺たちは順番にシャワーを浴び、六層へと転移した。


 日光《サン・レイ》の連中は見張りを一人しか置かないようだ。


 

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