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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-
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幕間 第二十話 根元正明(事故当時25)の場合

 ああ~、くっそダリぃ。

 ここは駅のホームだというのに課長はバカみたいに俺の態度について怒っている。

 なんだか、哀れにすらなってくる。

 本来俺とは関係のないミスについて客先に謝罪しないことや俺の話を聞く態度が気に食わないとのことらしい。


 ミスとは納める製品の納期の連絡ミスだ。

 何故ミスが起きたかと言うと、まず、客先から俺に納期の確認をされた。

 で、俺が生産管理部門の人間に確認したときに担当者から聞いた内容をそのまま相手に伝えたに過ぎないのだ。

 だから、責任は間違えた生産管理の担当者にあって、俺には無いと思う。


 それを、この腹の出た課長は

「そもそもそんな日付が出てくる時点でなぜ不思議に思って確認を怠ったのか」

 と怒り狂っている。


 確認するのは俺の仕事じゃねーし、そんなに給料もらってないよ。

 あーあ、電車行っちゃった。

 次の電車は鈍行だし、その次の電車まで待たなきゃなんねーじゃん。

 15分もこのおっさんの小言を聞きながらホームで待つのもかったるい。

 まぁ黙って立っていりゃあそのうち気が済むだろ。


 案の定、おっさんは

「もうお前にこれ以上言っても無駄のようだな」

 と言って話を切り上げてくれた。

 いつものパターンだ。


 はっ、馘首くびに出来るもんならしてみろよ。

 たかが一介の課長ごときに人事権なんざあるわけがねぇ。

 大体、俺は親父の従兄弟である藍村さん(当社の取締役だ)の引きで入社してやった(・・・)んだ。

 藍村さんは若い頃、親父の兄貴である俺の伯父に相当世話になったとかで藍村さんは俺の親父にも頭が上がらないらしい。


 大学こそ一留しているが、現役で入学したんだ。

 あんたみたいに浪人するのが嫌だからと滑り止めの都留文科大学? だっけ?

 山梨だかどっかの田舎大学を出た奴とはそもそもの出来が違うんだよ。

 妙ちきりんな関東出身のDQN高校生が入るような程度だろ? どうせ。


 俺の大学はそんな聞いたこともない学校なんかと比較にならない。

 私立サウスアジア大学と言ったら地元では誰でも知っている。

 バスの路線にも「SA大」って名前がついてるくらい地元秋田では結構有名だ。

 韓国や中国の有名な大学とも交流があるんだ。

 そんなところに推薦で無試験入学した俺は優秀といっていいだろうよ。

 そこで経済学を学んできた俺と一緒に働けるだけでも有難いと思えよ。

 悔しかったら国公立大学くらい行ってから俺に説教垂れてみろ。


 覚えてろ、社畜め。

 俺は入社に当たって藍村さんから期待されているんだ。

「正明くん、君には当社で一番優秀な沼岡の下についてもらうよ。あいつは確か教員免状も持っていたはずだから君に教えるには丁度良いだろうしね。何事も下積みが一番大事だからね。数年しっかり修行するようにな。昇進なんかその後のことだよ」

 俺がいつ頃幹部社員になれるのか聞いたらこう言ってたんだ。

 だからあと二~三年もすりゃあ俺が次長か部長になってあんたに説教する番だ。


 本当にこの社畜のおっさんのことがどうにも好きになれない。

 勤務時間中はいつも仕事や客の話題ばかり、仕事ばかりで気持ちが悪い。

 この前だってカスタム品の注文処理の社内伝達方法なんか聞いてもいないからちょっと二~三日程度後回しにしていただけで説教してくるし、別注品の受注入力だって何ヶ月か前に一度聞いたことがある程度のことを間違っていると翌朝になってから細かく指摘してきた。

 あんた、俺のストーカーかよ。

 そもそも幹部候補の俺には営業の現場仕事なんか興味はないんだよ。


 だいたい理由を言おうとしても口答えするなと言うし、俺が直接悪いわけでもないことを客先に無理に謝らそうとする。

 なんで俺が悪くもないのにいちいち客に頭下げなきゃならねーんだ?

 二言目には筋を通せとか、言っていることが安いヤクザみたいだ。


 俺は役員に期待されている幹部候補生だぞ。


 先週だって勤務時間を15分過ぎての残業を命じてこようとした。

 確かにその日に受注処理すれば翌日の朝に処理するより一日納期は早まるが、それだけのことじゃねーか。


 こんなおっさん共がいるから日本経済は弱くなったんだ。大学で習ったぜ。


 18時過ぎているのに大阪の客が会社の傍まで出張で来ていて、今日は泊まりだからというだけで何故酒に付き合う必要があるのか?

 酒なんか飲みたい奴だけで好きなだけ飲んでいりゃいいだろうに。

 友達ですらない奴となんで自腹で飲みに行かなきゃならねーんだ。


 偉そうに奢ってやるとか、大物ぶりたいだけか。


 だいたい、居酒屋なんてタバコの煙で充満して副流煙で肺癌にでもなったらどう責任取るつもりなのか。

 そのあとはお決まりの風俗だろ、どうせ。

 そんな酒だとか風俗とかで使う金額で新刊の小説やマンガ、ブルーレイやプレステなんかのゲームがどれだけ買えると思ってるんだ。


 やっと快特が来た。スマホで異世界転生の小説を見てるほうが余程健康的だ。移動時間中くらい好きにさせろ。しかし、この「男なら性風俗王を目指さなきゃね」って馬鹿だよな。異世界でゴムをつくるのはいいとして、なんでわざわざ難易度高そうなコンドームよ? 意味わかんねー。だいたい、主人公まだコンドーム使えてねーし。ムカつく主人公ざまぁって言えばいいのか? 童貞のままどうやって性風俗王を目指すんだか、呆れて物も言えん。ま、かくいう俺も童貞だけどね。三次元に興味はないよ。俺と付き合いたかったらモニターの中に入ってから言ってくれよ。


 あ? おっさんと一緒に宙に浮いてる?




・・・・・・・・・




 一体何が起きたのか? 事故か? と思う間に泣き出した。なんだよ、この声。俺の声か? 泣いたのなんて大学に入学してから、ゲーセンで弟の同級生の中学生にカツアゲされて以来だ。




・・・・・・・・・




 だんだんと状況が掴めてきた。どうやら俺は「文豪になろう」とかのウェブ小説でよくあるジャンルの主人公のような状況にあたったらしい。転生だ。まだ異世界か、現実の地球のどこかかは不明だが、家具や家の造りから見て異世界だろう。しかし、英語っぽい単語もあるようだし、地球のどこかかも知れない。


 半年が経ち、だんだんと言葉もヒアリングだけだが覚えてきた。ここはなんとかとかいう偉い貴族の領地の更にすっごく辺境の奥地らしい。村の名はウェンビル。それ程裕福でもないが、ものすごく貧乏と言うほどでもない感じだ。いや、俺の感覚から言うと貧乏なんだけど、少なくとも食事は満足にできる。現実の地球だってここ以上に貧しい場所なんか腐るほど……人間以外がいた。ここは地球じゃない。


 異世界転生か。本当に?


 魔法とかあるのかな?


 それとも現代地球の知識で内政しちゃうのか?


 最近よく、大人たちがヴァリオーラがどうとか言っている。


 最初は人名かと思ったが、どうやら違うようだ。


 昔、最後に出現した村をそこに住む人ごと焼き払って根絶したとか言っている。


 なんだろう?


 そうこうしているうちにヴァリオーラとやらの正体がわかった。


 病気の名前だった。


 この村でも患者が出たのだそうだ。


 だが、すぐに領主が断固として患者の住む家を住人を生きたまま焼き払った。


 正直なところホッとした。


 俺の家族も表面上は酷いとか言っていたが、家の中では、ホッとしているのが解る。


 うん、仕方ないよね。


 ヴァリオーラって伝染病みたいだし。


 領主は批判されようとも正しい対応をしたんだろう。




・・・・・・・・・




 一家全員の体調が悪い。


 揃って風邪でも引いたのか? 熱もあるし、頭痛もひどい。


 調子が悪くなり始めた翌々日。


 既に俺の調子は戻っている。


 俺の母親が俺を見て悲鳴を上げる。


 なんだ?


 その日の夜、理由が判明した。


 俺の三つ上の兄を見たからだ。


 顔に大きな発疹のようなできものがいくつかできている。


 なんだろ? 俺にもあるのか?


 顔を触ってみるとどうやら俺の顔にもできものがいくつも出来ているようだ。


 兄の顔を見た両親は青ざめている。


 ヴァリオーラ。


 あの伝染病の症状らしい。


 親父は「もうだめだ、今晩荷物をまとめて一か八か山奥に夜逃げする」と言っている。


 お袋も「そうね。もう私たちもヴァリオーラだろうし……なんとか逃げて治ったら戻るしかないわ」と言って荷物をまとめ始めた。


 荷物といっても着替えがちょこっとと可能な限りの食料だ。お袋は俺を抱き、兄貴を背負い籠で背負う。親父はお袋同様に背負い籠に荷物をうず高く積み、両手には持てるだけの荷物を入れたカバンを下げる。


 夜陰に乗じて村を出た。


 途中、何度も休憩しながら一晩中山を歩いたようだ。俺は寝たり起きたりだった。


 なんとか丁度いい木の洞を見つけてその中にお袋と俺たち子供を寝かせた。


 親父は木の傍に枯葉を集めてそこに横になった。




・・・・・・・・・




 家族全員、顔や体にできものが出来ていた。


 確実にヴァリオーラという病気らしい。


 もう一回発熱し、それさえ乗り切れれば助かるし、二度と感染はしないらしい。


 小康状態の親父やお袋は枯葉を集め、枝を切って過ごしやすい環境を整えるのに熱心だ。


 最初に俺の体中のできものが破れ始めた。膿と血が滲み、高熱にうなされる。


 次に兄、そして両親へと症状は展開していった。


 熱に浮かされた俺は今が昼なのか、夜なのか、まだ生きているのか、既に死んでいるのかすらよくわからない。


 何故かと言うとできものが潰れたためか目がよく見えなくなったからだ。


 体中に痛みが走り、呼吸も苦しい。


 高熱のため意識もはっきりとはしない。


 なあに、オヤジも言ってた。


 ヴァリオーラでも四人の家族全員が助かることもあるって。


 亡くなるにしても発症患者十人中せいぜい三人くらいらしい。


 しかも子供は比較的助かりやすいって。


 俺は大丈夫だろう。


 何しろ異世界転生出来たくらい運がいいんだ。


 俺はきっと助かるさ。


 俺は助かるさ。


 助かるさ。


 きっと。


 き………………………………………………う………………………………。


 

ごめん、またこんな話だよ。もう諦めてください。

また、文中に登場する学校名は入試難易度ランキングで適当に拾ってきたものを参考にしているだけです。万が一ご不快にお感じの方が居ればおっしゃってください。可能な限り早急に対応します。

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