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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第四十八話 網

7443年2月5日


 魔物の復活について大分わかってきた。


 部屋の主を殺してから平均して十時間前後で靄のようなものが部屋の中心に発生し、新しい主が生まれる。生まれたばかりの主は年齢は当然ゼロ歳だが、レベルは最初からある程度高い。そして、同時に今まで見落としていた事項にも気がついた。鑑定の項目の中に経験値の表記が無いのだ。


 俺やラルファ、その他普人族や亜人を鑑定すると鑑定項目の最終行には経験値と次のレベルまでの経験値が表記されている。ところが迷宮内のゴブリンだとかなんとかスパイダーだとかいうモンスターには経験値の行自体が無い。ホーンドベアーとかバークッド近辺の森にいたモンスターにはあったっけかな? いちいちそんなとこまで覚えちゃいない。


 少なくともバークッド近辺にいたモンスターは子供や赤ん坊が生まれ、育てていた。ゴブリンの小さな赤ん坊を見たこともあるし、ホーンドベアーは母子諸共に殺した。ホブゴブリンの子供らしき個体を見たこともある。しかし、迷宮内部では少なくとも見かけ上は成体であり、子供など成長過程の個体を見かけたことは一度もない。


 このところ調査した復活の内容から推測して迷宮内のモンスターと外部のモンスターは似て非なるものであるかも知れない。それとも迷宮の外部のモンスターも迷宮内同様に何処かで靄から生み出されているのだろうか? まぁ俺は学者じゃないし、モンスターの繁殖や生態に関してはどうでもいい。それよりも行動様式やその思考法、攻撃方法や特殊能力について理解できればいい。いずれ学問的に解明されるのかもしれないが、それは俺の役目ではないだろう。


 まだ復活のサンプルは数える程しか見ていないので確信を持つには至ってはいないが、現時点で共通していることは


1.部屋の主を殺すと平均十時間で新しい部屋の主が誕生する。

2.旧部屋の主と新部屋の主は同じモンスターであるとは限らない。

3.靄が発生してから大体5~6分くらいで新部屋の主が出現する。

4.出現したばかりの新部屋の主はまだ良く動くことは出来ない。

5.旧部屋の主を殺してから復活するまでの間、通路をうろついているモンスターが部屋に侵入してくることもある(つまり、部屋の主を殺したからといって部屋は安全地帯にはならない)。


 ということだ。差し当たってこれだけ判れば十分だ。部屋の主を殺せば数時間はその部屋は主がいない状態になることが判るだけでも情報としては大きな前進だろう。




・・・・・・・・・




7443年2月14日


 俺とラルファ、ベルは揃って十五歳の誕生日を迎えた。加齢に伴ってHPは1づつ増加したが、俺とラルファの能力値は変化がない。ベルだけは俊敏も1上昇し、HPは合計で2増加した。種族の違いからくる成長差だろう。


 その日の夜、晩飯から帰ったあと、ボイル亭の俺の部屋に二人を呼んだ。誕生日のプレゼントとして、俺はラルファには薄いが丈夫な革手袋を、ベルには耳だけを出せる兎人族用の帽子を贈った。去年クリスマスに俺だけインバネスを贈って貰ったし、そこそこ高級な物を奮発してやった。双方共名前を刺繍してやった。大野美佐と相馬明日夏だ。防大出身者の裁縫スキルを舐めるなよ。名前の刺繍は生まれて初めてやったが、ボタン付けはもとより、カケハギまで出来るんだ。それに、俺の縫い針は剣と同様に鍛造した鋼を研いで作った特別製だしな。


「アルさん、ありがとうございます。大事にします」


 ベルは嬉しそうに微笑んで受け取ってくれ、早速被ってくれた。うん、良く似合ってるよ。


「え? ネーム入ってる……ちょっと、これ、アルが入れたの? 裁縫すごく上手だね。裁縫が趣味だったの? でもそれってちょっと男としては暗い趣味じゃない?」


 おま、おまえね。礼くらい言えや。それに暗いとか何よ? 偏見だろ。昔から腕のいい仕立て職人は男だろうによ。


「でも、嬉しいよ。ありがとう。私も大事に使わせてもらうよ」


 俺が額に青筋を立てているのに気がついたのか、ラルファも手袋に手を通しながら礼を言ってきた。手袋だからお前のには二つもネーム入ってるんだよ! 面倒だったんだよ、コラ。最初からそうしてろ、ボケ。


「アル、これ、あげる。私から誕生日プレゼント。ベルにはこれ」


 ラルファは俺には厚手の靴下を一週間分六足、ベルにはマフラーを渡していた。靴下は素直に嬉しいな。ベルも喜んでいる。


「アルさん、私からはこれを贈ります。ラルはこれね」


 ベルは俺に普段使い用のベルトに付ける革製の丈夫な小物入れを、ラルファにはマフラーを渡していた。お前ら、マフラーの交換してるだけじゃんか。別にいいけど。


「あとね、今日はバレンタインデーだから本当は義理チョコでもあげようかと思ったんだけど、チョコレートなんてないからねぇ。普通のお菓子で我慢して」


「私もチョコレートがないので、普通のお菓子なんですけど……すみません」


 ラルファからはスポンジケーキの出来損ないみたいなオース一般のケーキとベルからはクッキーの出来損ないみたいな、これまたオース一般のクッキーを貰った。


「二人共、ありがとうな。実は俺からも追加で贈り物、と言うか話がある。去年の年末、王都に俺の兄貴達と鎧の納品に行った時のこと、覚えてるか?」


 ちょっとだけ真剣な顔で話し出す。


「うん、覚えてるよ」

「ええ、覚えています」


 雰囲気が変わったことを察したのだろう、二人共少し改まった様子で返事をしてきた。


「あの後、河川敷で模擬戦をしたよな? 俺だけ別の用事で遅れたけど」


「ああ~、そうだね」

「ええ、ですが、それがどうかしましたか?」


 俺は二人の目を見ながら続ける。


「あの時、俺は遅れて飯を食ってた。その時にな、ちらっとだが日本人っぽいのを見かけた。女の、多分、山人族ドワーフだ」


「「えっ」」


「すぐに見失っちまったが、冒険者か行商人のような格好だった。荷物を積んだ馬車を護衛していたみたいだった。結構な量の荷物があったみたいだから出発の時だったか、それとも仕入れた後だったかのどちらかだろう。黄色い麻袋も見えたからカラス麦かなんかの種籾も扱っているようだな。雑穀の種籾を扱う商人はこの時期春蒔きの種籾の販売で忙しい。だから仕入れた直後だったとしてもすぐに行商に出かけているはずだ。大体二ヶ月から三ヶ月くらいはあちこちの村を回るだろう」


「なるほどね」

「そうなんですか」


「あれが年末……ひと月半くらい前だから、早ければそろそろ戻ってくるかも知れない。流石にちょっと早いとは思うけどね。だが、俺たち以外の転生者らしき人物が一人、王都かその近辺を根城にして、少なくとも確実にその巡回路に王都が含まれている。馬車は一台だけだったようだし、領地を跨いでの商売じゃないだろう。で、だ」


 もう二人にも理解できたようだ。


「これから暫く、王都で網を張る。そうだな、来週、2月19日から当面の間、迷宮探索は休みにして俺達は王都に行って主要な街道を見張る。実入りが減っちまうがこれは勘弁してくれ。その人がバルドゥックを通るとは限らないから、面倒でも王都で網を張ったほうがいいと思うんだ。但し、もうわかってるとは思うが、転生者は今日で十五歳、成人だ。洋介さんの件もあるからベルには無理にとは言わない。どうかな?」


 ラルファはベルの顔をちらと見て口を開いた。


「私は行くわ。転生者なら仲間に引き入れたほうがいいもの。だけどねぇ……」


 だけど何だよ?


「なんで女ばっかりなのよ? あんた、ひょっとして男の人避けてない?」


「はぁ?」


「冗談よ、冗談。任せて、私も一緒に行って見張るよ」


 何なんだ、こいつは。クローは男じゃないか……ってクローの事はこいつは話でしか知らないか。


「……私も行きます。バルドゥックに洋ちゃんが来たとしてもそれはお金を稼ぎに来るはずです。だとしたら数年は腰を据えるつもりでしょう。大丈夫です」


 俺はベルが休みの日や午後早い時間に迷宮から上がったあと、街中の大きな通りをぶらぶらと歩き回っているのを知っている。勿論、ラルファと買い物をしたりもしているが、あれは洋介さんを探しているんだ。おかげで俺もあまり変な場所に足を踏み入れ辛くなっているが、止めろなんてとても言えない。


 男の冒険者が行くような安い飯屋兼酒場、連れ出し娼婦のいるような下品な飲み屋、娼館の固まっているブロック。そんなところで店の中を窺いながらゆっくりと歩いているベルを見かけることもある。見晴らしの良さそうな飯屋の一角で俺みたいにお茶を飲みながら通りを眺めていることもある。


 流石にここ数ヶ月は殺戮者スローターズのメンバーだと知れ渡っているようで、ちょっかいを掛けられるような事も無いみたいだし、魔法も使えるし、しっかりとショートソードも携行しているから放って置いている。そんな彼女が洋介さんとは直接関係なさそうな転生者の網張りに協力してくれるというのは有難かった。


「ありがとう、二人共。助かるよ」


 そう言って頭を下げる俺に、


「やめて下さい、アルさん。当然ですよ」


 ベルが問題なんか何もない、という感じで答えてくれた。ベル、ありがとう。俺が礼をするのも何だか変な気もするが、素直に有難いと言う気持ちになる。


「うんうん、いいっていいって。王都での宿代持ってくれりゃそれでいいよ」


 そりゃ宿代くらいは持つつもりだったが、いちいちお前に言われるとなんか腹立つわ。


 俺達は来週からの網張りについて遅くまで話し合った。




・・・・・・・・・




7443年2月25日


 王都で網を張り始めてからそろそろ一週間が経つ。ゼノムをリーダーにズールーとエンゲラは一層でちょこちょこ稼いでいるようだ。俺がいないので稼ぎはゼノムの物だ。ズールーとエンゲラにはゼノムの言うことをよく聞いて、戦いの訓練のつもりでしっかり集中しろと言い渡してある。休日にゼノムが俺たちの様子を見に来た時に話を聞く限りでは特に問題もなく、やばい敵のいる部屋には近寄らないようにして稼いでいるらしい。


 まぁ今彼らの事を心配しても始まらない。俺達三人は飽きもせず街角に立ったり、飯屋でお茶を飲んだりして幾つもある街道を監視している。夜、飯を食ったあとに毎晩暗い河川敷で訓練もしているし、王都に来てからは彼女たちと三人で毎朝ランニングもして体が鈍らないように気をつけてはいるが、戦闘の勘のようなものが失われないか、鈍らないかが三人の心配の種だ。


 とにかくまだ一週間だ。最低一ヶ月は粘る必要があるだろう。少なくとも四月までは粘るつもりでいる。




・・・・・・・・・




7443年2月30日


 俺だけ一度バルドゥックまで戻り、奴隷たちに給料を払った。彼らには詳しい事情は説明していないが、王都で用事のために暫くそちらで過ごすと言った時に、王家とか騎士団との商談のことだと勝手に勘違いしているようなので特に訂正することなく、勘違いさせたままにしておいた。


 ゼノムには一日早く給料を渡して王都に向かった。




・・・・・・・・・




7443年3月3日


 雛祭りだが、ラルファもベルも何も言ってこないし、今更感が強いので俺も気づかない振りをした。もう彼女達も精神記憶的には三十を越えているし、雛祭りごときでガタガタ言うはずもないとは思っている。精神記憶的に三十を越えていても、そのメンタリティは十五だから心配はしたのだが、俺が観察している感じだとラルファは年相応、ベルは一歳位上、俺は二~三歳くらい上の感じみたいだ。


 ベルと話していて二人でそう結論付けた。これはもともとの年齢、というより、受け継いだ記憶量の多さ、人生経験の多さが成長に影響しているくさい。だから俺よりだいぶ年上の人であれば今でも二十歳くらいのメンタリティを保って(と言うと誤解される。早く成長して十五にして二十歳くらいのメンタリティにまで成長した、と言う方が合っているだろう)いるかも知れない。


 俺が見かけた転生者はどんな人だったのだろう?


 新しく生まれ変わってどんな人生を送ってきたのだろう?


 ベルを襲おうとしたデレオノーラの例もある。


 変な奴じゃないと良いんだが。


 出来れば固有技能くらい把握しておきたかった。


 すぐに視界から消えてしまったから名前すら覚えていないのは痛恨の極みだ。




・・・・・・・・・




7443年3月7日


 そろそろ三週間が経つ。網には引っかかってこない。名前もわからなければ仕方ない。ラルファが「見間違いだったんじゃないの?」と言って来る。だんだん俺もそんな気もしてきた。だが、確かに赤い字を見たはずだ。




・・・・・・・・・




7443年3月10日


 いつものように飯屋で豆茶を啜りながら道を眺めていた。特に何事もなく、適当に昼飯を食い、そろそろ時刻は夕方近くなった頃だ。外と比べて多少暖かい店の中、椅子の背にインバネスを掛けて足を投げ出しながら人の流れを観察している。


 お、あの猫人族キャットピープルの姉ちゃん、なかなかいいケツしてやんな、と目で追っていた。少し先の通りを行きかう馬車の中、空の荷台の馬車がある。御者台には二人の男女が座っている。背の低い女性の方が馬車を御しているらしい。男の方は線が細い。精人族エルフか。遠目にはそれくらいしか解らない。


 二人とも黒髪だ。そして顔つきもどことなく日本人を彷彿とさせる。逸る心を抑えながら鑑定する。確か俺が見かけたとき、馬車には男女二人が乗っていて、その周りを三人の男女が護衛していた。俺が気になったのはその護衛のほうだ。ひょっとして別の転生者だろうか。


【グリネール・アクダム/2/7/7429】

【女性/14/2/7428・山人族・ロンベルト王国ロンベルト公爵領登録自由民】

【状態:良好】

【年齢:15歳】

【レベル:3】

【HP:68(68) MP:11(11) 】

【筋力:12】

【俊敏:6】

【器用:16】

【耐久:11】

【固有技能:地形記憶マッピング(Lv.8)】

【特殊技能:小魔法】

【特殊技能:赤外線視力インフラビジョン

【経験:7869(10000)】


【トルケリス・カロスタラン/13/5/7429】

【男性/14/2/7428・精人族・カロスタラン士爵家三男】

【状態:良好】

【年齢:15歳】

【レベル:6】

【HP:82(82) MP:26(26) 】

【筋力:11】

【俊敏:17】

【器用:14】

【耐久:12】

【固有技能:秤(MAX)】

【特殊技能:小魔法】

【特殊技能:赤外線視力インフラビジョン

【経験:41862(43000)】


 赤字だ。転生者を発見した。しかも二人も同時に。行先を突き止め、ラルファとベルの応援を頼むべきだろうか。それとも、まずは俺一人で接触すべきだろうか。能力の確認や考える時間も惜しい。


 

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