第三十二話 マージン
7442年8月23日
ミルーに、姉貴の身に何か起こったのか?
戦に出て戦死とか?
まさかな。
だって、あの姉ちゃんだぜ。
俺ほどではないが、規格外のMPを持ち、騎士としての実力だってそれなりに有る姉ちゃんだ。そう簡単に死んだりするもんか。俺は刑場の露となった元日本人で転生者のデレオノーラのことなんかすっかり忘れて、一体ミルーの身の上に何が起こったのか想像してみたが、悪い考えしか浮かんでこなかった。
なぜ国王は俺の出身地を尋ねたのか?
なぜ国王は俺に姉が居ることを確認したのか?
つまり、バークッド出身の領主の息子であることを念を押して確認したのだろう。グリード士爵家の次男であることはステータスオープンで確認されているから、再確認なんだろう。同姓がいないとも限らんし。
国王と家の繋がりは薄い。僅かに母ちゃんが王都の政治家であるサンダーク公爵家の傍系の出身であるというだけだ。公爵と言うからには王家とも何らかの繋がりくらいはあるだろうが、母ちゃんは三男の四女とか言ってたから、いくらなんでもその線は薄いだろう。何代か遡ればどこかで繋がりくらいあっても不思議でもなんでもないが、そんなのもう他人と一緒だし。
やはり、直属の騎士団にいる姉ちゃんが一番近いと言える。しかしなぁ、騎士団長だとか副団長だとかであれば直属の部下だろうが、その下の新米騎士なんか顔も知らなくても不思議じゃないし。叙任の時に謁見くらいあっただろうからその時に見初められでもしたか?
こんなことを考えているうちにサクサクと滞りなく裁きは進み、もうそうそろ終わるという段になって騎士が一人、俺のことを呼びに来た。未だ震える足取りで騎士の後を付いて行く。行政府の庁舎内まで連れて行かれた。
げっそりとした青い顔で待っているとまた先ほどの騎士が俺を呼びに来た。俺の顔色をみた騎士は心配して声を掛けてきた。
「どうしました? グリード様。お顔の色が優れないようですが? ご気分でも?」
「あの……ひょっとして姉になにかあったのでしょうか? 私の姉はミルハイア・グリードと申しまして、第一騎士団に所属しているはずなのですが……」
「ええ、存じておりますよ。同僚ですからね。グリード様はグリード卿の弟御でしょう? ならばご存知でしょうに……」
この人は第一騎士団の人だったのか。何をご存知だというのか?
「何をです? 姉は無事なのでしょうか?」
「え? 一体何の話ですか? 当然無事ですよ。今朝もピンピンして王都の駐屯地内の食堂で朝食をお替りしていたようですが……?」
そっ……か。一気に落ち着いた。だが、だとすると何だ?
「姉ではない、としますと、陛下は一体私にどのような?」
「さぁ? そこまでは……しかし、そんなにご心配はいらないでしょう。お怒りのご様子でもなかったようですし……さぁ、着きました。入ったら拝謁です。部屋の中ほどまで俯いて進み、それから臣下の礼を取って下さい。武器は持っていないようですし、右膝を立てて跪いて右腕を膝に乗せ、左手は拳を握って床に立てて下さい。許可が出るまで下を向いていて喋らないでください」
そう言うと第一騎士団の騎士は扉を開けてくれた。同時に俺の来訪を告げる。
俺は騎士に言われた通りの形で跪いて礼をした。
「うむ、グリードよ。よく参ってくれた。面を上げて良い」
「はっ」
俺は顔を上げると国王トーマス・ロンベルト三世を見上げた。
部屋は、絨毯敷の結構大きな部屋だ。学校の教室二つ分くらいだろうか。華美にならない程度の装飾はあるものの、花瓶の花と額に入れてかけてある風景画だけが目立った装飾品で、部屋の奥には王国の国旗がかけてある以外、大した装飾もなかった。国旗の前が一段高くなっており、そこに設えた椅子に国王が腰掛けていた。国王の左後ろには裁きの最中に国王に耳打ちした金属鎧がいた。
「まず、最初に訊ねたいが、そなた、ゴム製品の修繕は出来るか?」
は?
「はっ、大抵のものでしたら出来ますかと……ですが、今この場には補修用の材料がございませんので、一度私の逗留している宿に戻る必要があります」
ものすごくホッとしながら答えた。そう言えば数年前から王都でも評判になっているんだっけ? サンダルでもブーツでも直しますよ。どうせベルトでも切れたんだろ? それともクッションに穴でも開いたか?
「おおそうか、頼みがあるのだが、明日、余とロンベルティアの城まで同行して直して欲しい物があるのだ」
国王はそう言うとチラリと後ろの金属鎧に気を払ったが、俺に向き直ると更に言葉を続けた。
「ローガンめが規則を盾にそなたの姉を貸してくれんのでな。確か、姉は第一騎士団におるのだろう?」
ローガンってのが誰なのかは知らないが、大方騎士団でのミルーの上官かなにかだろう。
「はい、お陰様をもちまして、我が姉のミルハイアは陛下のお側にてお仕えさせて頂いております」
俺がそう答えると国王は満足げに頷いたが、金属鎧が喋った。
「陛下、騎士団の騎士は訓練で忙しいのです。連携訓練等では部隊の誰が抜けても統一された訓練になりません。グリードも騎士団の一員として重要な要員となっておりますし、今後は他の騎士団や郷士騎士団の指揮を執ることもあるため、座学にも手を抜くわけには参りません。休養だって立派な任務なのですぞ、いかな陛下とは言え私的に使うなどとは……」
なんか苦言を呈している。
「わかっておる。だからグリード卿ではなく、その弟が見つかったのだから、良いであろうが」
国王は金属鎧にそう返答すると、俺を見て言った。
「そう言えば、そなた、冒険者を生業としておると聞いたが、あの変わった鎧は使っておらんのか?」
「は? 鎧? あ……その……」
「陛下、本日はお裁きの証人として呼ばれることは分かっていたはずです。鎧姿で証人台に立つはずもないではないですか」
おお、金属鎧、ナイスフォロー。ポイント高いぜ。
「はい、今、そちらの護衛の方が仰られた通り、本日は鎧は着用しておりません。ご希望とあらばこれから着用して参りますが……」
俺がそう言うと、今度は金属鎧が身を乗り出した。
「む、そなたもあの鎧を使っておるのか……そう言えば今年からグリード卿の鎧も少し格好が変わったし、従士でも使い始めた者もいるが、そなたの鎧もあれらと同じものなのか?」
「は……その、私のは些か異なります。本来あの鎧は金属鎧同様に着装する個人に合わせて細部が異なりますので……」
姉ちゃんと一緒に来た従士の人達、ちゃんと使ってくれてたんだな。急いでたし量産型だけどさ。因みに俺のは見た目は四世代目ゴムプロテクターで、ほぼ彼らのものと同一だが、材質や構造に更に工夫が取り入れられて内実は四・五世代目相当になっている。大した違いじゃないけどさ。各世代の特徴は今度気が向いたときにでも話そう。
「む……そうか。いや、気にしないでくれ。あ、いや、後で少々時間をくれぬか。少し話がしたい」
「は。気ままな冒険者ですので時間はございます。御遠慮なくお申し付けください」
俺が金属鎧にそう答えると、それまでにやつきながら金属鎧を見ていた国王が言う。
「ふむ、騎士団は忙しいのではなかったか? グリードよ、そなたの時間をこやつのために割くのだ、しっかりと金を請求してやるがよいぞ」
あんたには請求しちゃいかんのか? 多分明日一杯はあんたのために費やすことになるんだがな。冗談だけどさ。
「は……そんな、滅相もございません」
俺は平伏しながら答えた。
「うむ、ローガン、良かったな、金はいらないそうだ。だが、お前にもメンツというものがあろう? けじめは付けろよ」
にやにやしながら金属鎧を見て言う。この金属鎧がローガンか。裁きの時に国王と一緒に鑑定しておいても良かった。こう近いとおいそれと鑑定も出来やしない。
「ではグリードよ。明朝、余と共にロンベルティアまで参れ。頼んだぞ。下がって良い」
「はっ、その前に一つだけお聞かせください。修繕の必要な品は何でございましょうか?」
「おお、そうだった。言うのを忘れていた。ベッドだ」
ああ、ウォーターベッドか。
「穴でしょうか? 裂けたのでしょうか?」
「穴だ。一箇所な。剣で突きおった、モリーンめが……」
なにそれ? まぁいいや。
「確かに修繕を承りました。明朝、陛下とともにロンベルティアまで同行し、後にベッドの修繕をさせていただきます」
「うむ、頼んだぞ。では、下がれ」
「はっ、失礼いたします」
部屋を出ると額に汗をかいていた。俺を迎えに来てくれた騎士は充分に問題のない態度だったと褒めてくれた。また、明朝『ボイル亭』まで迎えに来てくれるそうだ。ああ、ついでだ、その時にでもモリーンについて聞いておくか。
・・・・・・・・・
そろそろ晩飯の時間も近い。ああ、長引かなくてよかった。エンゲラにはまだ一銭も渡していないから晩飯抜きにさせるところだった。まぁそうなったとしてもズールーが出してやるような気もする。精神的に疲れた顔で行政府を出ようとしたら、別口の騎士に呼び止められた。なんだ? と思ったら少し待っていてくれと言われた。なんだよ、もう。俺は奴隷に飯食わせなきゃならんのよ。あ、ローガンが後で時間くれって言ってたっけ。
十分ほど待っていたら金属鎧のローガンが来た。
「待たせてすまんな。俺は鎧を脱いだら飯に行こうと思っている。一緒にどうだ? あと、出来ればそなたの鎧を持ってきてはくれまいか? 見せて欲しいのだ」
「? はい、解りました。夕食をご一緒させていただきます。鎧もお持ちしましょう」
「ああ、荷物持ちに一人付ける。店の場所はそいつが知っているから来てくれ。四番通りの『ドルレオン』と言う店だ。今から……そうだな、一時間後くらいに俺は店に着く。すまんな」
「いえ、お気になさらず」
「では、後でな」
そう言うとローガンは行政府内へと踵を返した。後ろ頭を見つめて鑑定した。ロッドテリー・ローガン。ローガン男爵家当主。レベル17。すっげ。レベル17。すっげ。レベル17。マジすっげ。男爵家当主? 第一騎士団で男爵? え? 団長か?
俺は荷物持ちを拝命させられた騎士(多分従士だろうけど)に言って、『ボイル亭』までの道の途中にあるいつもの飯屋に寄ってもらった。既に全員いたが、第一騎士団の団長と会食のため、今日は一緒に食えないことと、明日も王都に行かなくてはならないので明日一日バルドゥックにはいないことを告げると「少し早いが」と言ってエンゲラに今月分(正確には半月分だが)の給料として20000Z(銀貨2枚)を渡した。週給に直すと8000Z(銅貨80枚)だからズールーより2000Z(銅貨20枚)少ない。これが奴隷頭の分だよ、ズールー。あと、今晩と明日の食事代や宿代として彼らに少し多めに金を渡すとさっさと『ボイル亭』に向かった。時間ねぇもん。
鎧一式を従士に手分けして持ってもらい、えっちらおっちらと『ドルレオン』に向かいながら従士に国王の言っていたモリーンとは誰かと聞いてみた。王妃の愛称だった。モーライルって名前だったから、モールとかモーラだと思ってた。しかし、王妃様が剣でウォーターベッドを突いて壊したのかよ。王妃様、ご乱心か?
なんとなく深く関わらないほうがいいかも知れない、と思った。
『ドルレオン』に着いたがローガン男爵はまだ到着していなかった。しかし、国王の護衛の騎士達は数人いた。俺と荷物持ちの従士が店に入ると、従士と顔見知りらしい幾人かが声を掛けてきたが、俺たちが持っている俺の鎧に気が付くと遠巻きにこちらを観察し始めたようだ。なんか居心地悪いね。
そうこうしているうちにローガン男爵が現れ、会食となった。従士はいつの間にか俺達のテーブルから離れ、同僚のテーブルに混じって食事をしながらほかの同僚たちと俺たちの方を窺っていた。
「すまんな、わざわざ。コース料理でいいかね?」
「はい、お願いします。で、今私が使っている鎧をお持ちしました。これがそうですが……」
俺がそう言うと、ローガン男爵は、給仕を呼んでコース料理を二つ注文すると
「ああ、ちょっと見せてくれないか? ふむ、やはり軽いな……ふむ……なるほど……ほほう……こうなっていたのか……おっ、これは……」
とか言いながら俺のプロテクターを弄り回していた。
「あのう、団長閣下、何か問題でも?」
あまり夢中になって観察を続けていたので、遠慮がちに声を掛けてみた。
「お、おお。すまんすまん。いやな、グリード卿の鎧や、グロホレツやアムゼルの鎧とどう違うのか興味があってな……」
「はぁ……」
「ところで、この鎧だが、作成には二日もあれば良いと言うのは本当かね?」
おお? 買ってくれるのかな?
「そうですね、ざっくりでしたら二日もあれば。本当に細かい調整まで行うには四日ほど欲しいですが、二日もあれば姉や従士の方々へお作りしたものと同様には作れると思います」
「ほう、聞いていた通り早いな」
ローガン男爵はそう言うと、また篭手部分や肩当てなど、細かいところを見ていた。しょうがないので俺は飯を食うことにする。これ、奢りかな? 国王がケジメは付けろとか言ってたから奢りだろうな。結構美味いな。今後この店はなにかの際に使えるな。そう思ってバクバクと食っていた。
「おい、お前ら、こっちに来て見せて貰え。新型のゴム鎧だぞ」
ローガン男爵は離れたテーブルでこちらの様子を窺っていた騎士たちに声を掛けた。騎士たちはすぐに寄ってきて口々に「失礼します」とか言って鎧を興味深そうに見始めた。俺の体に合わせて多少デザインは変わってはいるが基本的にはミルーや従士たちに作ってやったものと大差はない。昔ミルーに渡した試作第三世代プロテクターのように各所にDリングをつけたり、胸部や大腿部などの大きなプレート部のエボナイト部分の盛りとその材質についていくらか改良を施し、腰部の構造を多少変化させたりしているくらいだ。全体としては彼らに渡しているものよりちょっと進化した程度だ。ただ、口々に「軽い」とか「これなら強度的にも充分」とか言っている。うーん、姉ちゃんもあの二人の従士に渡した鎧も大差ないはずなんだけどなぁ。観察させるほど見せてないのかな?
「あのぅ、姉と従士の方々へお作りしたものとそう変わらないはずなのですが……」
そう言ってみた。すると、
「新型の鎧に興味があってね。どうせ買うなら新しい物がいいじゃないか」
「この材質で盾も作れるのですよね? グリード卿のは左腕に盾が取り付けられますよね」
「これなら、腰も充分に守れそうだ」
とか口々に言ってきた。チャンスだろうか?
「えーっと、もしご購入をご希望でしたら、故郷に連絡しますよ。サイズ合わせに出向かせましょうか? 但し、その場合は十着単位のご注文と、ご注文ロット毎に納期には三~四ヶ月ほど頂きますが……」
そう言ってみた。すると、ローガン男爵を始め、全員が食いついてきた。
「そ、それは本当か!? グリード卿達からはバークッドまで出向かなきゃ作れないと聞いていたんだ。多少納期がかかるとは言っても四ヶ月だろう。俺の金属鎧なんか一年以上かかったんだぞ。それに比べれば早い!」
「それに、サイズを測りに来てくれるなら願ったりだ! 流石に鎧を作るのに一月半も休暇は貰えないしな」
「よーし、今がへそくりを使う時だな!」
「価格は? なぁ幾らくらいなんだ!?」
「た、盾も頼めるかな。カイトシールドで!」
おお、こりゃいい商売になりそうだ。
「そうですね。サイズは私でも測れますから、皆さんのサイズを採寸させて頂ければお作り出来ますよ。遅くとも……そうですね、もう九月も近いのでギリギリ年内にはお届けできるかと思います。また、価格ですが、私と同じ物で宜しければ3000万Z(金貨30枚)というところですかね。これ、鎧に使うにはゴムの素材のうち良質な部分を凝縮しなければなりませんからゴムを結構使いますし。あ、御代は半額先払い、残金は納品時で結構ですよ」
そう言ってみた。結構吹っかけた。まぁ値切られてからが勝負だしな。金貨30枚。高級な重ね札の鎧並みの価格だ。いいとこ2000万Z(金貨20枚)位に落ち着くだろ。そしたら一着あたり金貨1枚分くらい貰ってもばちは当たらないだろ。
「ぐっ、やはりそのくらいするか……いや、しかし……」
「やはり結構な値段だな。重量と防御力を考えれば安いか……」
「いや、安いだろ」
「買えなくはないよな」
「盾は? 盾は幾らするんだ?」
あれ? 値切ってこない。流石第一騎士団。高給取りなんだなぁ。なら遠慮する手はないだろう。俺の取り分は多い方が望ましいわけだし。
「それから、姉がお世話になっている第一騎士団への納入ですからね。特別サービスですが、胸に紋章を一箇所無料で入れさせていただきます。勿論、大きく防御力を損なわないようにレリーフにします。大きさは……そうですね、5cm四方くらいまでですかね。紋章は家紋でも、騎士団のものでも王国のものでも何でも結構ですよ」
そう言ってみた。テイラーなら問題なく作れるだろ。
「む、そうか。紋章まで入れてくれるのか……」
「ええっ、俺、家紋入れちゃおうかな」
「これ、うちの小隊でお揃いの鎧にすれば格好良くね?」
「お、それいいな。いま小隊長が護衛当番だろ? あとで言ってみようぜ」
「たっ盾にも紋章入れてくれるのか?」
おっ? 食いついてきたな。もうひと押しかな。
「なお、修繕ですが、修繕は姉が出来るはずですから、ご心配はいりません。いつでも水で丸洗い出来るのも特徴ですから金属鎧のように手入れに時間を取られることもないですし、内側に革を使った重ね札の鎧や金属帯鎧などと違って汗などで嫌な臭いになることもないですよ。まぁ新品のうちは多少ゴムの匂いが鼻につくかも知れませんが、その私の鎧、下ろして半年位ですがもうそろそろ匂いも気にならなくなっています」
これでどうだ?
「ぐむむ……確かに修繕費用が殆どかからないのは知ってはいたが……安いな……」
「俺の重ね札の鎧、剣を受けるたびに修理で金かかるんだよな……」
「そうか、維持費が安いのも魅力だよな」
「グリード卿、臭くないもんな」
「盾もグリード卿に頼めば修繕してくれるのかな?」
いい感じだな。ここでがっついちゃダメだ。
「明日には私も王都まで行きますので、お返事はその折にでもいただければ結構ですよ。それに、恐らくまだ数年は私はバルドゥックにおりますからいつでもお声掛け頂ければ結構ですよ」
今日はここで引いておけばいい。急いては事を仕損じるとも言うしな。明日、国王のウォーターベッドの修繕が済んだあと採寸することになった。
その晩の飯は美味かった。他人の金で食う飯は旨い(※但し、ジャバを除く)。
俺はホクホクとしながら『ボイル亭』に向かうと早速皮算用を始める。えーっと、実家には一着2000万Z(金貨20枚)くらいだろうな。と言うことは一着辺り1000万Z(金貨10枚)も抜ける。10着なら1億Z(白金貨)だ。うは、うはは、うははは。かつてない程の大儲けに興奮してきた。え? 利鞘取りすぎだろうって? だって、エボナイトって硫黄や木炭が多いからゴムはあんま使わないし、プロテクター一着分のゴムってサンダルだと50足くらいの量のゴムしか使わないんだぜ。
確かにエボナイトの歩留まりの事とかもあるから実際にはもう少し使うけどさ。サンダル一足40000Z(銀貨4枚)。60足で240万Zくらい。それでも大儲けなんだから、それを2000万Zで売るから、儲け自体は親父や兄貴の方が多いんだ。だから、俺がそのおこぼれに与ったっていいじゃんかよ。迷宮に潜るのがアホ臭くなる気もするが、第一騎士団の人数は騎士が100名くらいに従士が50~60名くらいだと聞いている。一度売ったら終わりに近いから迷宮にはこれからも行くさ。
アルはゴムプロテクターを望外の価格で販売できそうだということに浮かれ、税金を忘れています。まぁ国内の貴族家でもあるので売上金全額から見ると大した額じゃないのですが、これだけの金額となると結構な額になります。売上の10%が消費税(食料や衣服等、生活必需品はもっと税率は低いです)と言うか、贅沢税としてバルドゥックもしくはロンベルティアの行政府に収める必要があります。販売先が国の機関なので金額を誤魔化すのはほぼ不可能でしょうし、もし誤魔化せたとしても発覚すると一発死亡クラスの重犯罪です。つまり、アルは3億Zの売上に対して3000万Zの税を支払い、ついでにアルの性格だと実家の分の税(恐らくこちらはキールに払います)も持とうとするでしょうからそちらにも2000万Zの税が必要になります。利益自体は想定の半額になりますね。それでも5000万Zが手元に残りますので、非常に大きな商売です。この金額はゴム産業に手を付ける前のバークッド村全体の一年間の税収の3割近くに相当します。




