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印描師  作者: 風妻 時龍
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3.『聖印』

3.『聖印』


 そもそも、以前、聖印が大和族に盗まれる際と、今回、他の集落で聖印が狙われているのは、全くの別件であると、風鶴は断言した。

「……根拠はありますか?」

「説明は出来ないが、ある」

 緋浦は一言も発することなく、終始無言。腕を組み、目も閉じている。

「説明できない理由を教えていただけますか?」

「……私を敵に回したい、と?」

「……失礼致しました」

 タチの悪い冗談を言うものだと、隼那はこの時は思った。

「物盗り、だとは思うが、君の聖印が真に狙われた時には、君の命が危険に晒される。……どうしたい?」

「護ります」

「この集落が吹き飛ぶような『印』を使われても?」

「……」

 黙った隼那をとりあえず放置し、風鶴は緋浦の方を向いた。

「とりあえず、一人は始末した。確認はしていないが、亥の印を使ったうちの一人だ」

「ほぅ……。流石だな。山を一つ吹き飛ばすほどの術者を、この短時間でか。

 流石だな、風鶴殿」

 緋浦に、イヤミのつもりはなかった。それがかえって、風鶴の心に突き刺さった。

「……いや、済まない。あれは……」

「いやいや、何を言っている。あんなことをする輩など、放置は出来ない。

 この短時間で片付けてくれるとは、仕事が早くて、感心するよ」

「……済まない。……私なんだ。アレをやったのは」

「……?

 何を言っている?あんな大規模な術を使う必要がある事態など、貴様にはあり得まい?」

「……緊急事態だったんだ」

「何故?

 この集落の全員の命を犠牲にしかねないほどの術を使わなければならないような緊急事態など、貴様にはあり得まい?」

「すまない、反省している。

 しかし、危うく聖印を盗んだ罪を――」

「聖印の真の価値を知っている貴様なら、人の命を犠牲にしていい理由になどなり得ぬことを、誰よりも正しく理解しているはずだろう?」

「……緋浦。

 まさか、私を嗾けているのか?

 別に、私は自らの手で世界を滅ぼそうとも、構わぬのだぞ?」

「協力しよう」

「マテマテマテマテ!」

 不穏な話の流れに、隼那ももう、黙っては聞いていられなかった。

「アンタらが言うと、洒落にならないの。分かる?

 責めても仕方のないことだから、水に流しましょう。

 ……緋浦、それでいいわね?」

「別に構わんが……なんだ。ようやく、世界を滅ぼす決意がついたのかと思ったのだがな」

「……滅ぼして欲しいのか?」

「ふ~うかくさん?」

 雪の結晶よりも冷たくて美しい声が、気温まで下げた気がした。

「解決にならない話はオシマイね。

 で?事後策はどうします?」

「う、うむ……」

 何かを考えたのだろうか、風鶴が、右手を眉間の辺りまで持っていった。

「全ての聖印を集める。可能であれば、その守護者ごと」

「……私も行かなければならないということね?」

「そうだ。

 しかし、その前にすることがある。

 聖印を出してもらえぬか?」

 疑問も挟まず、隼那は聖印を風鶴に差し出した。

「守護者として、認められれば良いがな」

 風鶴は、聖印に『卯』の印を施した。

「受け取れ。守護者の資格があるかどうかが分かる」

 首を傾げながら、隼那は聖印を再び手にした。……そして、その聖印が、隼那の掌にゆっくりと埋もれていった。

「え!?……ええ!?」

「良かったな、認められたぞ。

 これで、君の存在そのものが、『卯の聖印』となった。

 ……世界を滅ぼすほどの力を手に入れたに等しい。悪いが、両手・両足に封印を施させてもらうぞ」

 隼那の両手の甲・肘・肩、両足と膝。全部で十箇所に、風鶴は『封』の印を記した。

「一つの封印で、力は半減する。だが、十箇所の封印を施してなお、凄まじい力を君は手に入れた。注意せよ。この集落を吹き飛ばす程度など、生ぬるいほどの力を発揮できるのだ。軽率に使えば、滅びがもたらされる」

「……何となく、分かります。

 でも、これが、本当の聖印の力なんですか?」

「……本来は、もっと強い。かなり失われているにも関わらず、普通の印描師など足元にも及ばないことが分かるだろう。

 とりあえず、桃姫とうきに会いに行く。……緋浦は別行動を取るか?」

「当たり前だ!

 だが、その前にだな。……恐らく、『亥』の聖印と思われるものを手に入れたが、何故か掌に吸い込まれてしまった。

 先ほどので分かったのだが、俺は『亥の聖印の守護者』として認められてしまったのだな?

 悪いが、俺にも封を施してくれ」

「……そうか」

 風鶴は、辛うじてそう言えたが、隼那は絶句した。

「ならば、施そう」

 同じく、十箇所の封印。一つで半減ということは、千のうちの一つぐらいの力しか使えないようになったことになるだろう。

「私にも施していただけますか?」

 家の入り口から、声がした。その声を聞いただけで、緋浦は凍り付いた。家の入り口に、そもそも扉はないので、誰もその気配に気付いてはいなかった。扉の開く音でもすれば、恐らく全員が気付いていただろうが。

「桃姫。何故、ここにいる?」

「事態が動きましたので。

 『聖印』が覚醒したようですので、私も『未の聖印の守護者』になりました。

 制御する自信はありますが、聖印の性質上、暴走の可能性はあるかと思いまして。

 神託が下るのが遅かったので、自分の集落の対応に奔走した結果、この時期になってしまいました。

 ただ、敵勢力以外に被害がほとんど出ないと分かっていましたので、伝令を送ることもしませんでした。それよりは、私が駆けつけることの方が重要かと思いましたので。

 何か、大きな問題はありましたか?」

 桃姫は、翠林族でも有名な巫女だった。翠林族に、巫女は数名いるが、彼女ほど頻繁に神託を受け、しかもほとんど正しく詳細に神託を受ける巫女は、他にいなかった。

 翠林族であることを差し引いても、なおまだかなり美しく、巫女として翠林族として一番であることから、よく、『神々しい』と言われるほどの美貌だった。優しそうな見掛けなのに、人を寄せ付けない迫力がある。恐らくは、自分に相当な自信を持っているのだろう。

 そして、緋浦は彼女に弱みを握られているため、それに付け込まれたことなど一度もないのに、強い苦手意識を持っている。

「いや、ない。

 待て、緋浦。何処へ行く?」

 大きな体に見合わぬこそこそした態度で、緋浦はこの場から逃れようとしていた。

「スマヌ、今から、別行動させてもらう」

「……別に構わんが。

 お前なら、身にかかる火の粉ぐらい、払えるだろう。

 但し、聖印を求めて、命を狙ってくる輩が相当数いることを覚悟しろ」

「問題ない」

 気付かれた以上は、緋浦はこそこそとはしなかった。堂々と、だが迅速にその場から消え去った。

「お二人とも、私の集落へ来ていただけませんか?」

「……用件は?」

「捕虜を一人、捕えている予定ですので。

 何かの情報源となるかと思われますが?」

「必要ないが……いや、そちらが必要ということか」

「その通りです。話が早くて助かります」

「隼那はどうする?」

「ご同行します。必要でしょう?聖印の守護者となった以上。

 それに、自分の身を護る自信も、あまりありませんし」

「……決まり、だな。

 桃姫の集落へは、歩いて三日というところか。

 隼那、用意しろ。恐らく、準備できていないのは、君だけだ」

「一刻もかからず準備できます」

 隼那は、以前から風鶴も桃姫も知っていたが、その関係性については、ほとんど知らなかった。一時はてっきり、恋仲かとも思っていたが、そうでもないようだ。

 ただ……

 隼那の目から見て、二人には、どこか特別な空気が感じられた。

 恋人同士であれば、納得がいくのだが、それともちょっと違う。

 何となく、同じ匂いのする二人だと、ただ、隼那は、そう思っていた。

 兄妹と言われたら、ほとんど文句がない。しかし、風鶴は大和族、桃姫は翠林族。たまに混血はあり得るが、だとしたら、風鶴の方が、片親が翠林族だろうと隼那は思う。恐らく、親が同じだったとしても、片親だけ。桃姫が純血の翠林族であることは疑いない。でなければ、巫女と認められることはないからだ。

 隼那は、旅の準備を急ぎながらも、無言の二人の様子を気配だけで察して、羨ましく思っていた。

 言葉など無くても、通じ合っている仲。そう見えるからだ。

 翠林族の、特に女性で、風鶴に好意を持たない者はいない。寡黙で冷静、不言実行の塊。人のために自分を犠牲にすることを厭わず、しかし、浮いた噂は無し。時として厳しく接することでの優しさまで垣間見える。そして、絶大な力を持ちながら、それを私利私欲のために使うこともない。

 どこに弱みを持っているのか、傍目には見付けられないのだ。

 そして、トドメに、翠林族の中では『英雄』として扱われている。

 隼那は、桃姫ぐらいなら付き合っても許すが、他の翠林族の女性は、付き合うことも許されないなどと思っている。……好意を持っている、自分を含めて。

「準備、できました」

「……この家の管理を、誰かに頼んだか?」

「あ……いえ、それは」

「頼んでおいた方がいい。場合によっては、二度と戻れない」

「……分かりました。親戚に頼んできます」

 事態の深刻さを、甘く見ていたかも知れない。

 隼那は、そう反省した。

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