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手を繋ごう  作者: 夕月 星夜
貴方への恋を
5/6

親指からはじめよう 5


「それで、どうするのさ」


ずずいっと音がしそうな勢いで詰め寄られた。

助けを求めて彩を見たけど、美咲と同じような顔をしてる。


「……どうも、しないよ」


そう言うと、美咲が怖い顔で睨んできた。

でも、本当にどうしようもないんだけどな。


「あまーい!!」


びしぃって勢いよく指を突きつけられる。


「あのね、そのままでいられる訳ないの!!」

「……どうして? 言わなければ、このまま」

「いられないよ」


静かにそう言ったのは、彩だった。

どうしてかな、哀しい笑顔で私を見てる。


「……無理なんだよ」

「なんで……なんでそんな事、言うの?」

「だって、知世は拓斗さんが好きなんでしょ?」


それはそうだけど。

でも、妹って言われたら。


「妹って言われたからじゃないの」

「え?」

「あのね、よく考えて」


彩が頭を撫でた。

子供に言い聞かせるように、ゆっくり話してくる。

だから、聞きたくなくても、聞こえてしまう。


「言わなければ、今まで通りに接する事は可能かもしれない。でもね」


嫌、聞きたく、ない。


「拓斗さんが、他の人を好きになって。それで、相談してきたら、どうするの?」


ききたく、ないのに。


「……アタシ、兄貴と仲いいからわかるけど。妹に恋愛相談って、してきたりするよね」

「そうなった時、平気なの?」


そんなの。


「……平気じゃない」


平気な訳、ない。

だって、好きだもの。

拓斗さんが好きなんだもの。


ぐらり。

世界が、歪んだ。


「知世……」

「泣くくらいなら、強がらないの」


美咲に言われて、泣いてるって気づく。

ぱたぱたと落ちるのは。

涙。


「~っ、う~!!」

「よしよし」


気づいたら我慢できなくて、声を上げて泣いた。

子供みたいで、みっともなくて。

それでも、二人とも一緒にいてくれた。


好き。

好きなの。

止められないの。


拓斗さんが好きなの。


妹って、言わないで。

好きなの。

拓斗さん……


「……ねぇ、告白しちゃえば?」

「へっ!?」


一通り泣いて、やっと落ち着いてきて。

そんな私にそう言ったのは、珍しく彩だった。


「だって、好きなんでしょ? 自分の中でちゃんと納得しなきゃ、諦めるにも諦められないから」

「あー、うん。一理あると思うな」

「そ、う?」

「今さ、このままじゃいられないって思ったんでしょ?」

「……うん」

「だったら、けじめつけた方がいいと思う」


でも。と俯いたら、美咲がとんでもないことを言った。


「ねぇ、デートしてきなよ」

「えっ!?」

「だーかーらー、会って、楽しんで、それで最後に告白!! ほら完璧!!」

「ど、どこが!?」

「えー、楽しい綺麗な思い出があればさ、立ち直りやすくなるじゃん」


それより、やっぱり未練の方が大きくなると思うんだけど。

だって、拓斗さんと会ったりしたら、忘れられなくなる。

好き、だから。きっと。


「告白、しなよ。それで、自分に決着つけよ?」

「彩……」

「私、MIMIの今度の展覧会ペアチケット持ってるの。これに二人で行ってきなよ」


そうして渡されたチケットを受け取って。

この瞬間。

告白するって事は決まってしまった。


乗せられたような気はする。

きっと後悔もする。

でも、それでも。


会って、みたくて。


会う為の口実が。

会う為の理由が。

そして、引き返せないだけの、目的が。


今、手の中にあるから。



夜。

電話をかける。

冷たい呼び出し音が耳に痛い。


出て。

出ないで。

心臓がうるさい。


『――はい。拓斗です』

「あ、ち、知世、です」


5コールで出た拓斗さんの声は、いつものように優しい。


『ちぃから電話って、珍しいね』

「あ、ごめんなさい……」

『なんで謝るの、俺、嬉しいのに』


本当に嬉しいのかな。

少し弾んだ声。

本当なら、私も嬉しい。


好きだなぁ。

やっぱり、好きだよ。

拓斗さん。


『それで、どうした? なんかあったか?』

「あ、えっと……」

『ゆっくりでいいから』


いつだって、私を待っててくれる。

こうやって。

優しい、人。


「あ、あのね。拓斗さん、今度のお休みって、予定、空いてますか?」

『今度の? ああ、特に予定はないけど』

「友達が、MIMIの展覧会、チケットくれて」


言える?

うん。

言えるよね。


「ぺ、ペアチケット、なんです。だから」


一緒に、行って、くれませんか。

そう言おうと思ったのに。


『……それって、さ』

「ははははい!!」

『……俺と一緒に行ってくれるって、誘ってくれてるって。自惚れても、いい?』


言う前に、言われてしまった。


「そ、う、です。あの、一緒に、行ってくれます、か?」

『喜んで。一緒に、行こう』


照れたような甘くて優しい声。

日にちと待ち合わせ時間と場所を決めて電話を切る。


会えるんだ。

嬉しい。それだけで、泣きそうなくらい。


告白して、フラれるとか。

今は考えないでいよう。


でも。


出来れば、どうか。




「拓斗さん……好き、です」




親指からはじまったこの恋が。


拓斗さんに届きますように。




.



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