表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手を繋ごう  作者: 夕月 星夜
貴方への恋を
4/6

親指からはじめよう 4


「電話出来たの?」

「うん!!」

「よかったじゃ~ん!!」


翌日、顔を合わせるなり二人とも喜んでくれて。

嬉しくて笑って。


二人に応援されるまま、メールしたり、電話したり。

私は携帯以外のネット環境をもってなかったから、契約を付け加えて。

かけ放題にしたけど、だからって毎日かける訳じゃない。


でも、着信履歴も、発信履歴も、拓斗さんでいっぱいなのが、嬉しい。


もう、ちゃんとわかってる。

この気持ちの名前。


私は、拓斗さんが好きなんだって。


そうしているうちに、いつの間にか季節は巡って、もう夏になる。

もうすぐ夏休み。


今はいっぱい知ってる。好きな音楽も、写メの猫の名前も。

どんなお仕事してるのかも。


拓斗さんが、どこに住んでるのかも。


会いに行けない距離じゃない。

電車で一時間もかからない。


だけど。


勇気が、なくて。


『……なぁ、ちぃ』

「なに?」

『最近、元気ないけど。どうした?』

「元気だよ?」

『嘘。俺、ちぃの事ならわかっちゃうんだ。なんか考え込んで悩んでるだろ』


電話越しに聞こえる声に、どうしよう、気持ちがどんどん膨らんでく。

もっと、もっとって。欲しくなる。

いっぱい、拓斗さんが、欲しい。


心の全部、拓斗さんで埋めちゃいたい。


なんか、これって、変だよね。

恋人でも、ないのに。


『ちぃ。俺達の間で隠し事はなしだ』

「あ……ごめ、なさい」


ぼうっとしてたら怒られちゃった。

せっかくの電話なのに。


『ホント、何に悩んでるんだ? ほら、言ってごらん』

「うーん……内緒」

『えー?』


だって、言える訳、ないから。

好き、なんて。


『恋の悩みでも、してるのか?』


どきん。心臓が、跳ねた。

ああもう、どうして、拓斗さんは鋭いんだろう。

私の事、わかっちゃうんだろう。


『……やっぱり、恋の悩みなんだな』

「う、ちが」

『そうやって言葉に詰まるの、嘘つくの下手だからすぐにわかるよ』


呆れたような笑った声。

どうしよう。バレちゃう。

好きだって、気づかれたら。


もう、こうして、話せない?


「違うったら!!」

『……ちぃ?』

「違う、の。ほんとに。違う……」


好きだけど。でも。

こうしている時間がなくなるなら。

言わない。


ぶわって涙が出て、思わずしゃくり上げてしまう。

苦しい。苦しい。

拓斗さん。


『……変な事、言って、ごめんな。ちぃが恋してるのかなって思ったらさ。妹を取られたみたいで、寂しくなったんだ』




その瞬間、息が、止まった。




今。なんて。


『ほら、今まで色々と相談のったりしただろう? だから、なんか妹みたいに思えてさ』


ふわり。電話の向こうで笑ってるのが伝わる。

けど。

……妹?


ああ、矛盾してる。

言わないって、決めたばかりなのに。


妹って言われて。

傷ついてる。

対象外って、そんな。


「……妹、なの?」


ねぇ、付き合いたいとか、そんな高望みはしないから。

女の子って見てくれないかな。

釣り合わないの、わかってるから。


だから。


『……うん』

「……そっか」


残酷な、言葉。

もう、言わない、じゃない。


言えない。


「そう、いう、拓斗さん、は」

『え?』

「恋、してるの?」


ああ、どうしてだろう。

口が勝手に動く。

聞きたくもないのに。


『……び、みょう?』

「……なにそれ」


あ、私ホッとしてる。

恋してるって言われなくて。

拓斗さんに、好きな人がいなくて。


『気になってる子は、いる。でも、恋かは、わからない』

「そう、なんだ」


誰だろう。

会社の人かな。

きっと大人の女性なんだろうな。


あ。

胸が、ちくんって。

痛い。


「前に、ね」

『うん』

「教えて、貰ったの」

『うん』


口が動くの、止められない。

でも、これでいいのかもしれない。


中途半端な期待は、余計につらいから。


「その人の事、考えてね。もっとって思ったら、それは恋だって」

『もっとって?』

「たとえば、声が聞きたいとか。もっと知りたいとか。そう思ったら、満足しなかったら、それは恋なんだって」

『……ちぃも、そんな風に思った事、あるの?』

「……あった、よ」


ぽろり。涙が、零れた。

好き。

拓斗さん、好き。


「でも、もう思わない。知りたいって、思わない」

『……どうして?』


そんなの、決まってる。

知りたくないの。

拓斗さんが、誰かに恋してるって。


それが私じゃないって、知りたくないの。


「内緒」

『なんだよ。そこまで言うなら、話せよ』

「い・や・で・す」


笑える?

うん、大丈夫。

私、まだ笑える。


言わない。

言わないから。

だから。


どうかこうして話す事は、許して。




この思いが、消えるまで。




.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=9019861&siz
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ