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手を繋ごう  作者: 夕月 星夜
貴方への恋を
2/6

親指からはじめよう 2


「それってさ、恋なんじゃない?」


昼休み。こんな気持ち変だよねって言ったら、美咲にそう言われて頭が真っ白になった。


「うん、恋だよね」


おまけに彩まで頷くから、硬直。

手の中からフォークが落っこちそうになる。


「なに? 自覚なかったの?」

「な、かった」

「えー、話聞くだけでもわかるよー?」


え、でも。だって。


「ネット、だよ?」

「そうね」

「顔も知らないよ?」

「ネットだしね」

「声も聞いた事、ないのに」

「……それ言ったら、世の中一目惚れって成り立たないじゃない」


大学構内の中庭。

日当たりのいいそこにいるのに、寒く感じる。

だって、だっておかしい。


「おかしい、よ」

「なんで?」

「だって、私、そんなつもり」


そんなつもりだった訳じゃないのに。

酷く自分が醜いものに思えてきて、食欲がなくなる。


「……アンタが何を気に病んでるのかわかんないけどさぁ」


箸を私に突きつけて、美咲がどこか怒ったように言う。


「年上だろうと顔を知らなかろうと、恋ってのはしようと思ってするもんじゃないからね」

「……そう、なの?」

「そうよー、気づいたらしちゃってるの」

「恋におちるって言葉もあるじゃない?」


サンドイッチを食べていた彩も頷く。


「気付いたら、その人で頭がいっぱいなの。何してるかな、とか考えちゃったり。メールが来るの、待ち遠しかったり。どきどきするんでしょ?」

「す、る。でも、変じゃない?」

「全然。ていうか、アタシにしたら自覚がなかったってアンタの方が心配になるわー」


そう言って、美咲が頭を撫でて来る。彩も笑っていた。

明るくて頼れる美咲。優しくてしっかり者の彩。

こんな素敵な友達に出逢えたのも、拓斗さんがいてくれたから。


ずっとずっと、臆病な私を励ましてくれて。

時には叱ってくれて。

そうして支えてくれたから、今こうして二人と一緒にいられて。


「もしも、恋なら。いつから、かなぁ」

「さぁね。きっかけなんてそんなに分かるものじゃないし、自然と気づいたらってのも多いでしょ」

「うん、あんまり難しく考えなくていいんだよ。ただ、自分の気持ちに素直になればいいの」


素直に。

メールがくると嬉しい。こないと、さみしい。

すぐに拓斗さんってわかりたくて、イルミネーションを変えて。

メールのやり取りがすごく幸せで。


「これが、恋?」

「そうだと思うよー?」

「ねぇ、考えてみて」


不意に、彩がそう言った。


「メール楽しいんでしょ?」

「うん、すごく楽しい」

「じゃあ、電話してみたいなって、思う?」


電話。声。聞いて。


「難しく考えないでね。声、聞いてみたい?」

「……み、たい。声、聞いてみたい」


そう頷けば、美咲も彩も笑った。


「うん、やっぱり恋だね」

「そうだね、恋だね」

「えっ、そうなの?」

「うん。恋はね、完結しないから」

「どういう事?」

「声聞きたいって事は、メールじゃ足りないんでしょ? もっと拓斗さんを知りたいんでしょ?」

「……うん」

「それ、恋をすると当たり前の感情なんだよ。もっともっとって、欲張りになるの」

「そうなんだ……」


もっと、知りたい。拓斗さんの事。そう思って、いいんだ。


「ねぇ、今なら拓斗さんも昼休みなんじゃない?」

「え? あ、うん。多分?」


時間は十二時四十五分。多分だけど、拓斗さんも昼休み、の、はず。


「じゃあさ、今メールしちゃいなよ。電話してみたいですって」

「えっ!?」

「そうね、私達がいる時の方が、勇気出るんじゃない?」


勇気って、だって、そんな。

おろおろしてるとガシっと肩を掴まれる。


「いいからメールしちゃいなさい!!」

「だって、断られたら」


断られたら。ふしだらな女の子って、思われたら。

じわりと涙が浮かぶ。

そしたら、馬鹿ねと美咲が笑った。


「そしたら、アタシ達が慰めてあげるわよ」

「そうそう、だって友達でしょ?」


声、聞いてみたいんでしょう?

二人がそうやって笑ってくれる。


……そうか。

二人は、臆病な私を応援してくれてるんだ。

こんな私でも、いいって。


「……ん。じゃ、じゃあ、一緒にいてね」

「もちろん」

「当たり前だよ」


あと十分で一時になっちゃうから、あんまり悩まないで。

その方が、かえって良かったかもしれない。


【今、友達とお昼食べてます。メールばかりじゃなくて、声聞いてみたらって。だから今度タックンさんと、電話してみたいです】


……送信。

してから、妙な文章だって気付いたけど。

もう送信しちゃったし。


「送った?」

「う、うん、変な文章だったけど」

「あはは」


頑張ったねって二人に撫でられて、ちょっと照れる。

今日は三人とも次の講義がないから、のんびりお昼が食べれるし。


なんだかすっきりした気持ちでフォークを持ち直したら。


「あ、ケータイ光ってるよ」

「えっ」


携帯に、ピンクの光。


慌てて開けば、もちろん返信は拓斗さんからで。


【いきなりでビックリしたw でも、俺も声聞いてみたかったから、もちろんいいよ。俺からかけるから、番号教えて。あと、暇な時間も】


……嘘。


「あ、なに、もう返信?」

「う、うん、しかも番号教えてって、拓斗さんも声聞いてみたかったって」

「やったじゃん!!」


良かったねって二人が笑ってくれる。

夢じゃないんだ。嬉しい。


そうして番号と今夜空いてる事を伝えれば、じゃあ今夜ねって返信がきて。

どきどきが止まらなかった。




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