表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
常闇の魔銃士  作者: 鳥居なごむ
序章
3/28

003

 人生。

 神が創造した多人数同時参加型の世界。


 もし人生をMMOに例えるなら、次のような長所が挙げられるだろう。


 一つ、すべての登場人物が深い人間性を持っている。

 一つ、グラフィックが綺麗でBGMも無限大。

 一つ、信じられないくらい複雑で洗練された物語。


 しかし人生にはゲームとして致命的な欠陥があった。


 一つ、性別を選択できない。

 一つ、容姿の選択あるいは造形ができない。

 一つ、初期状態に圧倒的な差がある。


 かなり極端な例を挙げれば、働かなくても暮らせる国と、四秒に一人死んでしまう国が存在する。どこに割り振られるかは無作為で選択の余地はない。くだらない理由でくだらない差別が発生し、搾取する側と搾取される側が明確に分けられた世界だ。


 だからこそ「人」が「生きる」だけで物語が成立するのかもしれない。


「それでさ、次、どれにする?」


 ふわふわと思考の波を漂う俺に神と名乗る声が再び問いかけてきた。なにも存在しない真っ暗で穏やかな空間。知覚とは異なる感覚が脳に直接情報を送り込んでくる。様々な世界の設定や参加人数。その中に『人生』も含まれていて、俺は拍子抜けを通り越した虚無感に苛まれていた。


「あの、一つ質問してもいいですか?」


 俺は姿を確認することもできない神に声をかける。


「構わんよ」

「俺と一緒に死んだ『桐原彩奈』という女性はどの世界を選択したんですか?」


 数瞬の沈黙。やがて神の声は世界の名称を告げた。


「どうやら『グランシエル』を選んだようだな」


 曰く科学ではなく魔術と魔導の発展した世界。エルフ族が栄える神聖イージス王国、人族と猫系獣人族が共存するアラバスタ共和国、大柄な熊系獣人族と妖精族が築いたアルマダ連邦、三国は覇権を争いながらも世界平和のために同盟を結んでいる。なぜならそこは魔物が跋扈する混沌とした世界だからだ。


 魔術には土・水・風・火・氷・雷・光・闇と八つの種類が存在し、それぞれの頂点に属性を極めた英傑と呼ばれる魔王が君臨しているらしい。八英傑の持つ魔石をすべて集めた者はどんな願い事でも三つだけ叶えてもらえるという。


 うーん、どうして彩奈は『グランシエル』を選択したのだろうか? 剣と魔法のファンタジーに興味があるとは思えないし、おそらく「どんな願い事でも叶う」という文言が肝なのだろう。


 しかしまあ、そんなことはどうでもいい。彩奈が選択した世界に転生する。この点に関して俺の辞書に躊躇の二文字は存在しない。それに『人生』と比べれば『グランシエル』は目的達成が明確だ。八つの魔石を集めて世界を救済し、生まれ変わった彩奈と幸せに暮らす。三つも願い事が叶えられるのだから、それまでに出会っていなくても大丈夫だろう。


「俺もその『グランシエル』にします」

「ふむ。先に言っておくが『人生』の記憶は初期化されるぞ?」


 いきなり出鼻を挫かれた。とはいえ考えるまでもない。


「それでも行き先に変更はありません」

「承知した。必要事項に記入を済ませれば新しい世界の始まりだ」


 頭の中に質問と選択肢が表示される。どうやら動作する必要はなく、思考するだけで選択肢が消えていく。このグランシエルという世界は、人生に比べると初期設定が自由だった。まず性別と種族に所属する国家を選び、その結果を受けて基礎能力値が決定、そこから伸ばしたい分野に与えられた数値を割り振る。俺は迷うことなく「知能」に全数値を放り込んだ。勉強ができるかどうかは別として、やはり根本的な知能は高いほうが望ましい。


 最後に現れたのは能力を選択してくださいという指示だった。


 ゆらゆらと思考の波を回遊しながら俺は一覧表に目を通していく。なにやら「特技」と「特性」の二種類があって、前者は「使用」するもので後者は「常時発動」らしい。とりあえず頭の中に流れている膨大な情報から一つを選んで閲覧した。


 特技<川越スマイル>。

 キメ顔を作ると料理の味以前に美味しいと言わざるを得ない雰囲気を醸し出すことができる。


「料理は上手くならないのかよ!」

 ついつい突っ込んでしまう俺がいた。というかこれ訴えられても文句を言えない能力名と効果だぞ。とはいえ損する要素はないから候補の一つだな。


 特性<修造スタイル>。

 攻撃力と俊敏性が大幅に上昇する。ただし周りが引くほど熱い漢になってしまう。


 おお、この能力は悪くないな。しかし固有名詞使い過ぎだろ。どんだけ俗世に塗れた神だよ。


「配慮したつもりなんだがな。意味のわからない言葉で説明されるより『人生』で親しみのある単語を用いたほうが理解しやすいだろ?」

「心の声が聞こえている!」

「まあ、ここは我の世界だからな」


 ふむ。そう言われると納得するしかない。


 しかも冷静に考えれば確かに気の利いた配慮である。能力名だけである程度の予測が可能だし、なにより映像として瞬時に想像できるからな。俺は思考の海に潜り情報を取捨選択していく。もっとこう、はっきり使い勝手のいい能力はないものだろうか?


 特性<テンプテーション>。

 不思議な香りを発して同性を虜にすることができる。


「頼むから異性を魅了してくれ! 残念過ぎる!」


 特技<アンリミテッド>。

 発動することで限界突破の力を得られる。ボルトよりも速く走れるし、ブブカよりも棒なしで高く飛べる。


「おおーっ、この能力使えるな」


 *ただし使用する度に正気度が下がる。


「いきなり使えなくなったーっ!」


 叫ばずにはいられなかった。


「静かに選べないのか?」と神に怒られる。

「……すいません」

「反省すればそれでいい。あと悩むのは一向に構わないが、どんな能力を選んだかは記憶に残らないからな。才能を無駄にする可能性は『グランシエル』も『人生』も一緒だ」


 確かに趣味や目指したものが才能と一致する確率は天文学的な数値だろう。


 それにしても前回の俺はなぜ『人生』なんて過酷な世界を選択したのだろう? ほかに楽しめそうな世界なんていくらでもある。もし回答を得られる機会があるというのなら、それはそれで大きな変化の一つになるのかもしれないな。


 さてと閑話休題。


 俺には大学進学を機に同棲を始めた、高校二年から丸三年付き合っている彼女がいた。しかし順風満帆に進んでいた日々は唐突に終止符を打たれる。事件はあの日、俺が冷蔵庫の中にある焼きプリンを食べたことで発生した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ