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常闇の魔銃士  作者: 鳥居なごむ
第三章
25/28

023

 俺は潜在能力を解放して自動式魔弾銃の弾倉を光属性に交換する。回転式魔弾銃のように回転式弾倉シリンダーを回すだけで魔術属性を切り替えられるような汎用性には欠けるが、同系統の魔術属性を連発する場合は弾数が多く撃鉄を起こす必要のない自動式魔弾銃のほうが遥かに優れているからだ。次いで負傷した奴隷少女に治癒系魔弾を連続発砲。音速を超える弾丸さえ今の俺なら軌道を正確に捉えられる。数瞬後には術式が展開して止血を終わらせていることだろう。損傷した部位の蘇生はあとで専門家に任せるとして、現実問題この状況を俺一人の力で切り抜けることは難しい。なぜなら武器を持たない少女が無事に安全な場所まで移動できるとは考えられないからだ。仮にこの場を逃げ仰せたとしても、魔物に襲われるのが目に見えている。


「無理にでも協力してもらうしかないよな」


 俺は傍らで驚きの表情を浮かべている白銀髪の少女の腰に手を回して跳躍。まずは逃げる少女たちの進行方向にサクヤを待機させる。それから背中に担いだ地獄の業火ヘルファイアを手に取り第五式魔弾を詰め込む。即時発砲。一連の流れをこなしたところで俺の心臓が悲鳴を上げて世界が元に戻る。着弾した悪魔は予想外の不意打ちによろめく。視線を移すと奴隷少女の止血も無事に完了していた。


 俺は空薬莢を排出して素早く次弾を装填。先行展開している高位風属性魔術に高位火属性魔弾を撃ち込む。虚を突いた連続攻撃は見事に成功して<爆炎轟裂衝覇バーソロミュー>に匹敵する爆裂系魔術反応を引き起こした。強襲用狙撃魔弾銃アサルトレイターでは考えられない次元で漆黒の魔弾銃は高位魔弾を制御している。しかしこの魔術反応が標的に対して有効と判断したわけではない。


「もう一発」


 俺は新たに装填した第六式魔弾を撃ち込む。緊急展開させた術式が爆裂系魔術反応に絡み多重魔術反応を引き起こす。揮発性の低い琥珀色をした油状の液体を練成。無味無臭であるそれは猛毒の霧へと変化する。呼吸器官だけでなく皮膚からも吸収されるため、防衛手段として口を塞いでも効力を期待できない代物だ。また親油性が高く完全に取り除くには専用の魔術洗浄が必要となる。悪魔の遺産と呼ばれる魔弾銃でなければ制御し切れない危険な魔術反応だ。


 しかし試すだけの価値はあったらしく、漆黒の悪魔はこれまでにない苦悶の表情を浮かべる。表面的な強度に特化しているなら内部破壊しかないという判断は以外にも正解だったらしい。俺は次の攻撃に移る前に白銀髪の少女へ呼びかけた。


「サクヤ、その子たちを頼む」


 すでに奴隷少女を支配下に置いている退魔刀士を一瞥し、それから状況を飲み込めていない熊系獣人族の指揮官へ視線を向けた。怪訝な表情を浮かべているが戦意を喪失したわけではないだろう。俺は右手を掲げて甲に刻まれた闇の紋様を見せる。


「助太刀してやる。だから少しは協力しろ」


 最悪邪魔さえしなければいいのだが、それを確実にするためにも声をかけておく。闇の紋様を確認した黒鉄鎧姿の熊系獣人は「常闇の魔銃士カルナバルが参戦してくれるんだな」と呟き瞳に復讐の炎を宿した。


 次の瞬間、悪魔はこちらへ向けて口を開き赤色の光線を発する。俺は右手で回転式魔弾銃を引き抜いて土属性魔弾を発砲。鋼鉄の盾を生成して悪魔の特殊技を凌ぐ。その間に漆黒の魔弾銃から空薬莢を排出して第五式魔弾を詰め込む。神経系を蝕む毒霧が有効とわかった以上、とことんそこを突いていくのが常套手段である。


 しかし標準を合わせるより先に漆黒の悪魔は動き始めていた。俺は再び潜在能力を最大限まで解放する。心臓への負担は懸念すべき材料だが、長期戦でじっくり削り切れる敵とは思えない。ともかく最大火力(今回は猛毒系)で一気に畳みかけて、それで倒す算段が立たなければ退避方法を捻出する。戦術と呼ぶには短絡的だが、直感に逆らうべきではないだろう。


 中空へ飛び上がり最短で距離を詰めてくる悪魔に俺は第五式魔弾を放つ。それから背後へ回るように移動しながら次弾を装填。発砲して爆裂系魔術反応を誘引。空薬莢を排出して多重魔術反応に備える。しかし漆黒の魔弾銃を構えようとしたとき心臓の軋みに堪えられなくなった。胸を押さえて地面に片膝を突いてしまう。その一瞬の不備が死を招く大きな隙となる。


 刹那――爆炎の中から赤い閃光がこちらへ向けて放たれる。俺が回転式魔弾銃の引き金を絞るより先に土属性魔術<鋼鉄楯シード>の術式が展開。黄土色の魔術組成式から具現化された鋼鉄の盾が灼熱の閃光を防いだ。


「さっさと立ちやがれ」

「すまない」


 熊系獣人族の指揮官に促されて俺は立ち上がる。


「こいつは一体何者なんだ? お前が苦戦するような魔物なのか?」

「正体不明の怪物だ。高位の多重魔術反応で生きているくらいだからな」


 言いながら俺は地獄の業火の引き金を絞る。多重魔術反応が神経系の猛毒を練成した刹那、地面が歪み斜円錐となった土の刃が四方八方から襲撃してくる。俺は反射的に風属性魔弾を地面に撃ち込んで上空へ避難。熊系獣人族の指揮官は全方位を鋼鉄の盾で塞いで防御。サクヤは一方向の刃を斬魔刀で切り捨て難を逃れていた。左脇には傍らにいたのであろう黒髪の奴隷少女が抱えられている。


 俺は一抹の不安を抱きながら他所へ視線を移した。三人の少女が腹や胸を貫かれて文字通り串刺し状態になっている。俺は漆黒の魔弾銃に高位の光属性魔弾を詰め込んで発砲。即時に治癒系魔術を展開するものの効果がない。着地した俺は少女たちのところへ駆け寄る。すでに土の刃が消失しているため、血と涙に濡れた少女の身体は地面に転がっていた。次弾を装填しようとする俺に白銀髪の少女が告げる。


「無駄だ。すでに死んでいる」


 どんな魔術を用いても死者を蘇らせることはできない。科学にも魔術にも不可能は存在する。だからこそ俺は無力な者に向けられた不必要な攻撃が許せない。


「貴様ぁああああああああああーっ!」


 振り返る俺の眼前に巨大な体躯。腹部を貫いた斜円錐の刃は背中へ抜けている。黒鉄鎧の隙間から大量の血液が滴り落ちていた。


「油断するな常闇の魔銃士、その甘さに付け込まれるぞ」


 治癒系魔弾を放とうとする俺を瀕死の熊系獣人は首を左右に振り制した。その表情には因果応報を覚悟するような深い哀しみが含まれている。


「どうして奴隷売買になんか関わっていた? あんたらくらいの能力があれば真っ当な仕事なんていくらでもあっただろ!」

「それは今だから言えることだ。いつ餓死してもおかしくなかった幼少の俺に食事と住む場所を与えてくれた連中の誘いをどうして断れよう」


 熊系獣人族の指揮官は少し遠い目をしてそれから地面に崩れ落ちる。不幸が不幸を呼ぶ負の螺旋だ。俺は決意表明として傍らに立つ白銀髪の少女に告げる。


「俺は――この世界を救いたい」


 それが叶わぬ願いだとわかっているからサクヤは曖昧に微笑むだけだった。


 二度に渡る猛毒攻撃を受けた悪魔は酷い形相でこちらを睨み付ける。俺は潜在能力を解放して漆黒の魔弾銃を構えた。こいつだけは今ここで仕留めなければならない。

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