廊下で待つ
三題噺もどき―きゅうひゃくさんじゅういち。
外は激しい雨が降っている。
昨日の夜から怪しい天気だったが。
ここまで大降りになったのは久しぶりな気もする。
「……」
雨のおかげか、廊下は少しヒンヤリとしている。
夏の正装はどうしても半袖になるが……今日は上着を羽織りたいくらいには冷えている。
このまま気温は下がって、待ちに待った秋が来るんだろうか。
「……」
隣では同じクラスの生徒数名がひそひそと話しながら待っている。
時計の針は、まだ授業の終了は告げていない。……たまたま、教科担任がこの後の予定があるとかで早めに切り上げたのだ。出張でもあるんだろうか。高校教師に?
「……」
だから、廊下に居るのは私と同じクラスのこの数名のみ。
この学校だけかは分からないが……教科によって何個かのグループに分けられて授業を受けることがある。これはまぁ、なんとなく振り分けの仕方は分かりそうだが。
進捗というかその授業の理解度によってそれぞれ振り分けられ、教室を移動し、授業を受けるのだ。
「……」
今回は数学。
私はもちろん数学は嫌いなので、一番下……というと他の同じクラスで受けている生徒に失礼かもしれないが……のクラスで授業を受けている。
ゆっくりと、のんびりと、授業を進めてくれるので、その点ありがたくはあるが。
なんというか、それでも追いつけそうにない私はもう数学は捨てなくてはいけないな。
「……」
まぁ、別に。
推薦で大学を受けられることは決まっているし、そこは文学系の学校なので……。
それに、そもそもやることは小論文と面接くらいだ。
それもまぁまぁ大詰めに入りつつあるので、授業どころではなかったりする。
「……」
教室の中では、数学の得意な生徒たちが授業を受けている。
黒板には見ても分からない数式が並んでいる。
同じ授業を受けているはずなのに、理解が出来ないのは、単に私が愚かなだけだろう。
数学ができる人間を見るくらいで、嫉妬をすることなんてない。
だから何だろうとしか思わない……と思っているつもりだが、これも嫉妬から来るんだろうか。
「……」
雨がまた激しく降り出した。
「……」
おかげで、今日は朝から頭痛に悩まされている。
表面上、平気な顔をしている……つもり、だが。
ズキズキとするのではなく、じわじわと、何だろうか……耐えられそうでもあるけれど、確実に締め付けられているというか。
「……」
軽度の痛みではあるのだけど、これが続くと。
まぁ、それなりにしんどいわけで。
薬を飲んでもあまり効果が期待できず。
「……」
授業中は、集中していれば忘れていられるのだけど。
それすらも妨害してくるのだから、救いようがなくて。
ただひたすらに痛みに耐えながら、時間が溶けるのを待っていると言うか。
「……」
今だって、さっさと座って落ち着きたいのだけど。
そういうわけにもいかないから、廊下の窓際に何とか寄りかかっているのであって。
じわじわと痛み続ける頭が、少しずつ限界を迎え始めて、悲鳴をあげそうになっていて。
「……」
でもこれ以上の頭痛に悩まされる人だっているんだと思うと。
私ごときの、この程度の、耐えられるほどの痛み程度で。
騒ぐのも違うと言うか、保健室に行くほどの事でもないと言うか。
それで変に注目を集めそうになるのも嫌だと言うか。
「……、」
それでもまぁ、痛いことに変わりはなくて。
「……、」
でも、どうしようもなくて。
「……、」
「……、」
「……、」
「――?」
痛みだけに、思考が集中し始めたとき。
すぐそばで、小さく声が聞こえた。
「……」
「……だいじょぶ?」
いつの間にか俯いていたようで。
いつも以上に重たいような頭を持ち上げると。
そこには見慣れた顔があって。
聞き慣れた声で。
「……大丈夫」
「ではなさそうですけれど?」
よく見れば、美術の教材らしきものを持っていた。
この子も、移動教室だったのか。
その授業が終わって、教室に戻る途中に通りがかったのだろう。
「いや、ほんとに」
「……、」
嘘をつくなと目が語っている。しかし、これがほんとに。
痛みがなくなったわけではないし、まだまだ痛くはあるのだけど。
気持ち的にと言うか……。
「……早く教室来てね」
「ん」
そう。
この後はもう昼休みがやってくる。
私の好きな時間。
「……」
あまり心配をかけないようにしなくては。
私と違って、あの子にはたくさん友達がいるんだし。
お題:嫉妬・溶ける・正装




